「薯童謠(ソドンヨ)」(全55話)第50話 現実と理想の壁 のあらすじとネタバレ感想
50話 現実と理想の壁 あらすじ
「公主様、戻るのです。」
ソチュンは公主を案じました。
「ソチュン。ソドン公とウヨン公主が一緒にいるのです。一緒にいるの。鉄なんかじゃない。ソチュン、私の心は鉄じゃないわ。なりたくもない。私はただの女、愛し愛される女でいたいのです。」
「お嬢様、どうか信じて。信じるのです・・・・・・。」
ソンファ公主は嫉妬と不安で泣き崩れました。
チャンは兵士にムチ打たれながら岩ぞ金づちで壊し強制労働させられていました。
「あれを見ろー!」
奴隷が岩の下敷きになりました。
「ボケっとしているからだ。ブッ飛ばすぞ。まったく気を付けろ。お前らも石の下敷きになりたいか?気を引き締めろ!」
トゥウィルは仲間を助けました。
「おい、トウィルや。新人だ。教えてやれ。」
兵士はチャンをトウィルに紹介しました。
「使えるやつをくれ。」
トウィルはチャンを無視しました。
夜になりました。
握り飯と見ずが一杯配給されました。奴隷の親分肌のトウィルには2個の握り飯が与えられました。
「腕はどうだ?」
「私は大丈夫ですが博士はこんな食事を・・・・・・。」
奴隷はモンナス博士の握り飯を奪いました。
「何をする。」
「働いてない奴は食うな。そうでしょ?」
奴隷はトウィルを見ました。トウィルは何も言いませんでした。
「私は大丈夫です。博士はどうぞ。」
「いいから食べろ。私は腹いっぱいだ。」
チャンとモンナス博士はひとつの握り飯を譲り合いました。その様子をウヨン公主は見ていました。
「耐えるのだ。耐えて貯水池を完成させ宮殿に戻ろ位。今はその方法しかない。」
ウヨン公主は心の中でチャンに言いました。
「そんな奴、簡単につぶせます。」
「誰の仕業かわからないようにやれ。」
「ご心配なく。トウィルがうまくやります。」
「うまくいったら奴隷から平民に戻してやる。」
「ありがとうございます。かならず始末します。」
役人は奴隷に命令を下しました。
チャンが小屋に入ると奴隷たちは藁のむしろを奪い合っていました。
「お前らまたケンカか。」
トウィルが一喝すると奴隷はおとなしくなりました。
「よこせ。お前か、かけろ。」
トウィルは莚を奴隷に分配しました。
「まったくトロいヤツだな。雰囲気を察して自己紹介でもしろよ。こんな照れ屋の奴隷ははじめてだ。」
「はっはっはっは。」
奴隷たちは笑いました。
「ほらよ!」
奴隷はチャンに莚を渡しました。
「クッシクなんのまねだ。」
「どういうわけか武督の公主様がこいつにやれと。」
「公主様が武督として来てる?なぜだ」
クッシクはトウィルに耳打ちしました。
「寝よう。」
「え?」
「寝ようと言っているんだ!」
「はい。」
トウィルの一言で奴隷たちはおとなしく眠りにつきました。
「何をする?私が何をしたというんです。」
チャンはトウィルたちに逆さに吊り下げられました。
「わかってないらしいな。」
「教えてください。私が何を?」
「なら教えてやろうか。」
「痛めつけるほうが先ですよ。」
「話の分かるヤツかどうか確かめよう。」
「そうだ。まずは話をしよう。降ろせ。」
「貯水池の建設案はお前が考えたそうだな。どうなんだよ。返事くらいしたらどうなんだ。だったらおとなしくウヨン公主のところへ行け。私が間違っていたと言って建設を中止させろ。そうすれば俺たちは仲良くやれる。どこから来た。」
「サビ城です。サビ城がお前の家なのか?中なのか外なのかどっちだよ。」
「宮中の太学舎です。いいところだったろうな。お前の態度次第でここが太学舎にもなるし地獄にもなる。用はそれだけだ。ゆっくり休め。腕も痛そうだしな。」
トウィルはチャンの腕をつかみました。
「ああっ!」
「そうそう、静かに。」
奴隷はチャンの口をふさぎました。
「彼らにいじめられているのか?」
ウヨン(優永)公主はチャンに尋ねました。
「私が何とかいたします。ご心配なく。」
「なぜ国策案を?」
「貯水池を造る目的や建て方を現場監督の奈率も監視役の兵士も理解していない。奴隷たちはなおさらです。これでは能率が上がりません。いろいろと検討すべき点があります。」
「検討してみなさい。必ず期日内に完成しなければ。」
「はい。」
チャンは石を背負いながら帳面をめくって思案していました。
「何をしている!」
「あの石垣ではすぐに壊れて事故が起きます。事故が起きなくても洪水になったら崩れます。そうなると田んぼが水浸しになります。造っても意味がありません。」
「奴隷の分際で生意気な!」
兵士はチャンを鞭で打ちました。
チャンは奈率の部屋に行きました。
「奈率様、私の話を聞いてください。私は貯水池の建設案を考えた者です。こんな造り方を続ければ石垣が崩れ大惨事に。修正をお願いします。」
「惨事だと?いい加減なことを言うな。お前はもう恩卒ではない。余計な事に口出しするな。」
「それは誤った考えです。奈率様は国の禄をはむお方。工事を正しく導かねば。」
「おい!誰かいるか。こいつの身分を思い知らせてやれ。」
兵士はチャンを連れていき縄で縛り鞭で何度も叩きました。
「私は負けません。」
チャンは必死に耐えました。
来る日も来る日も軟弱な堤防が造られていました。
「これではいけない。この積み方ではいけない。やり直しましょう。このままでは崩れます。水害が起こります。」
チャンは必死に訴えました。
「仕事の邪魔をするな!」
「向こうへ行ってろ。こいつ、どうかしてますよ。何とかしてください。」
「俺を怒らせたいようだな。教育します。」
トウィルは奴隷に指示しました。
「これでは崩れるんです。」
「話が通じない。痛めつけろ。」
奴隷たちはチャンを踏みつけました。
「何をしている!やめなさい。」
ウヨン公主はチャンを助けました。
「説明しろ。」
「こいつが工事をやり直せとしつこく言うのです。」
兵士がウヨン公主に言いました。
「奈率が方針を改めないのか?」
「それでは春までに完成しません。」
「言い訳するな。」
ウヨン公主は奈率を叱りました。
「つまり私に王様の目をごまかして役に立たない貯水池を造れと?やり直しなさい!」
「では増やせばいい。」
「奴婢たちが不満を・・・」
「奴婢の不満を恐れて手抜きをする気か?」
「ならば公主様の命令と伝えます。」
「誰の命令でもいい。だがチャンに妙な恨みを抱く者は打ち首にする。」
奈率は狙い通りになったと笑いました。
奈率は奴婢たちに工事のやり直しを伝えました。
「工事に問題があるとチャンが指摘した。よって明日から工事をやり直す。」
「無茶だ。勘弁してくれ。」
「だが工期を遅らせるわけにはいかない。皆睡眠時間を削れとの公主様のご命令だ。」
モンナス博士はその様子を見ていました。
「チャンに妙な恨みを抱いたら公主様が奴婢を打ち首にするそうだ。そのつもりで仕事をしろ!」
奴婢たちはチャンを恨みました。
「ひざまずけ。ずる賢い奴だな。」
奴婢はチャンをいじめました。
「公主様を利用して俺たちを殺す気だ。」
「悪党め。」
「違います。違うんです。」
「こいつを殺して俺も死んじまいたい気分だ。」
トウィルも言いました。
「聞いてください。工事が成功すれば収穫量が増えます。それがやがて百済の富強につながり生活も豊かになるのです。希望をもつのです。」
チャンは奴婢を説得しました。
「バカなやつめ。その前に俺たちが死んじまう。この手をよく見てみろ。凍える寒さの中で働いててが凍傷になり石につぶされるか飢えて死ぬ。なのに寝る時間まで削れ?なんのためにだ?太学舎のやつらは毎年いろんな知恵を出してくる。でも収穫が増えたって俺たちは植えたまま。国が豊かになるはずだから希望を持てと?希望って何だよ。きれいごとばかり並べやがって。俺がなぜ兄貴分なのかわかるか?石の下敷きになったやつらを腕力で助けるからだ。それが希望なのさ。石にも潰されない凍え死にしない殴り殺されないのが希望なんだ。なのにお前が希望をひとつ奪った。眠るという希望をお前が奪っちまった。ここで生き抜くには睡眠が必要なのだ。明日からたっぷり思い知らせてやる。お前が何をしたのかを!」
トウィルは怒りました。
「兄貴言っても無駄ですよ。ヤッちまいましょう。」
「どいてくれ。寝るぞ。」
「おい、寝るぜ。」
奴隷たちは兄貴に従いました。
チャンは悩みました。
翌日、チャンは石を運んで奴隷を観察していました。奴婢たちは手袋もせずに素手で作業をしていました。
奴婢が怪我をして倒れました。
「大丈夫ですか?」
チャンは怪我をした奴婢に駆け寄りました。
「人が埋まったぞー!兄貴、何とかしてください。」
「おい、しっかりしろ!」
奴婢は死んでしまいました。
「死んじまった。」
トウィルはチャンを睨みました。
モンナス博士はチャンを気遣いました。
「博士。」
「私に天命が下されたと言いましたね。」
「違います。もうどうでもいい。私の国策案に民の希望などなかった。あれは私の希望でした。これからどうすれば・・・・・。」
奴隷たちがウヨン公主の部屋に向かいました。
「いけません。公主様の部屋に何をするつもりですか。」
「こいつも片づけましょう。」
「俺たちの命をなんだと思ってる。お前らには貯水池のほうが大事だ。どうせ死ぬならお前らも道連れだ。」
「この野郎。何だ弱いくせに。」
「私が責任を持ちます。こんなこと誰の特にならない。私の案ですから私に任せてください。」
「お前が仕事を増やしたくせに。」
「私の考えが甘かったのです。考え直します。」
「兄貴が黙っているなら私がやります。」
「何を騒いでいる。小屋に戻れ!」
兵士が気づきました。
「やるなら今しかない。」
「戻るぞ。」
トウィルはチャンを小屋に連れて帰り寝たふりをしました。
兵士が去ると奴婢はチャンを囲みました。
「こっちが打ち首になる。さっさと殺しましょう。」
「時間をやろう。お前の解決策を見てから殺しても遅くはない。だがヘタなまねをしたら容赦はないからな!」
トウィルはチャンに機会を与えました。
「どうなった?」
「第一次作戦は失敗したようです。奴婢を説得したようです。ウヨン公主は王宮に戻ろうと工期を急ぐはずです。」
サテッキルに部下が報告しました。
「各地でチン・ガギョン商団を調査した報告です。内密に鉱山を開発しているとのうわさが。ビョクチュン鉱山の日記がここに。ノサジやメロにも怪しい場所があります。」
「もっと詳しく調べてみろ。」
メクトスはモジンに言いました。
「追えば間に合うはずです。博士に渡す物があるなら・・・・・。」
「博士の話をするならもう来ないでください。」
「ひどすぎます。本当に冷たい人だ。元からの性格ですか?冷たい(モジン)という名前だから?愛はそんなに簡単に冷めるのですか?一夜で忘れてしまえるものですか。いつかは博士への思いを振り切って私に振り向いてくれると信じていました。だけどなんて冷たい。百年の恋も・・・冷めない自分がなんとも情けない限りです。」
チャンの握り飯は奴婢にまた盗まれました。チャンは何も食べていませんでした。モンナス博士は自分の握り飯をチャンにあげました。
「何があった。」
「博士。」
「なんだ。」
「宮殿に戻る方法が。貯水池を完成させれば戻れると。早く完成させれば機会が早く来るのでは?宮殿に戻ることができるのであれば何でもすべきです。我々の野望を果たしてから民の希望を叶えましょう。我々の目標を果たすまでは民の希望を忘れたほうが・・・・・。」
「若いの、お客だぞ。」
ウンジンとポムノが悲壮な顔つきで来ました。
「母が届けろと。」
ウンジンはおいしそうな菓子をチャンとモンナスに食べさせました。
「嘘はつかなくていい。皆は無事なのか?」
モンナス博士はウンジンに言いました。
「実は衛士部がチン商団を調べているの。」
「お嬢様は無事なのか?」
「今は無事よ。でもサテッキルが細かく調べてるみたい。」
「連日話し合ってるから対策は立つはずだ。」
「ウヨン公主は何をしているの?好きな人をこんな目に遭わせて見ていて胸が痛むわ。」
「愛するチン・ガギョンが危ないのよ。守ってあげて。」
「早く戻れる方法だけを考えるんだ。」
「必ず戻るとお嬢様に伝えてくれ。無事でいてくれと。」
チャンは二人に頼みました。
「公主様、私のせいで・・・・・・。なぜ私と同じ道に立とうとするのです。私のせいで公主様の身に何か起きれば私はどうすれば?会いたい。死ぬほど会いたい。」
チャンは労役させられながらもソンファ公主を思っていました。
「解決してみろ。俺は気が短いんだ。早くやれ。」
トウィルはしびれを切らしていました。
「よく考えとけ。え?」
ウヨン公主はチャンを見ていました。
「なぜだ?なぜ言い返さない。」
「大きな工事に犠牲はつきもの。奴婢は死を覚悟すべきだ。彼らには最初から希望など存在しない。だからお前を殺すと脅した者の名前を言え。工事を成功させて堂々と宮殿に戻ろう。誰なのか教えなさい。教えないのなら・・・戻る気がないのなら私もお前をあきらめる。兄上にひざまずけば私は許してもらえる。そして母上と息をひそめて生きる。でも私が捨てたらお前たちは誰にも守ってもらえない。そしたらこんなところで生き延びられると思うのか?誰がお前を脅したか言いなさい。その者を罰して工事を強行する。私と同じ結論だろうから。」
「・・・・・・。」
ウヨン公主はチャンを守ろうとしていました。
「公主様、公主様・・・・・。」
チャンはソンファ公主を想っていました。
ソンファ公主は元気がありませんでした。
「お前もすぐに逃げられるように荷造りを。」
ソンファ公主は侍女に言いました。侍女はウンジンとポムノがチャンに会ったことを報告しました。
「渡す物はないかと言っていました。」
「せめてこの手袋を渡してくれれば・・・。」
「あるなんて知らなくて・・・」
「渡したかったのに。」
「知らなくて。」
「なんでもよかったのに。」
「すみませんでした。」
「とても寒いだろうに・・・・・本当に寒いはず。」
ソンファ公主は部屋を飛び出しました。
「お嬢様!」
「渡したらすぐ戻ってくる。えいやっ!」
「お嬢様!」
「どちらへ?」
「どうしても会いたいのか籍田に行きました。」
ソチュンはすぐにソンファ公主を追いました。
「会いたい。今すぐに。」
「チャンという奴隷に合わせてください。」
ソンファ公主は兵士に金を渡しました。
「明日の朝来てくれ。」
「今晩帰らなければだめなんです。」
「夜に連れだしたら俺の首が飛ぶ。」
「一目だけでも会わせてください。」
チャンは奴婢に殴られていました。
「解決しろと言ったはずだぞ。」
「待ってやる必要なんかないです。殺して逃げましょう。」
「ちょっと待て、一言だけでも。ふざけやがって俺たちをバカに・・・・・・。」
チャンは走り出しました。
「捕まえろ。」
「どこに?あの方です。どこへ?」
「帰った。知るか。これを渡せだとさ。」
兵士はチャンに手袋を投げつけました。
「逃げるな。」
チャンは奴隷に蹴られました。
「この野郎。」
ソンファ公主の手袋もむしり取られて足で踏みにじられました。
「軽率だな。私はまだ計画をあきらめていない。だからお前が目立たぬよう努力したのに。」
ソンファ公主をウヨン公主は叱りました。
「わかります。」
「なのになぜこんな行動を?陛下に悟られる。」
「体が・・・・・・勝手に・・・・・。」
「だけど・・・・・。」
「理解できないなら公主様が恋を知らないのです。ですが耐えて見せます。恋しさも、恐ろしさも、一人で背負います。ソドン公のことはしばらく公主様にまかせて私は彼のために自分の仕事をします。そうお伝えを。」
チャンは手袋を胸に抱きました。手袋の中には手紙が入っていました。
「会いたくはありません。ほんとうです。私とつなぐ手が冷えないようこの手袋を贈ります。」
チャンは手袋をいっそう強く抱きしめました。
「チャン、どうした。チャン・・・・。」
「博士。お嬢様が来ました。博士。このまま続けます。たとえ彼らが正しい工事をしなくても惨事が起ころうともこのまま続けます。民とはそういうものです。なんの希望も利益もなく働いて従うのた民なのです。私も昔はそうでした。工事で人が死ぬのは当たり前。利益は常に王室と貴族のもの。国策に民の希望を込めるのが誤りだったのです。そんなものありえないのです。考えるだけ無駄だ。死ぬほど会いたい。一刻も早く彼女のもとに戻りたい。民の希望なんてどうでもいい。成果をあげて帰るのです。そのほうがいいと、それが正しいと言ってください。」
チャンはつらくて泣きました。
モンナス博士が向けた視線の先にはウヨン公主がチャンを見守っていました。
「チャン、ウヨン公主様が来ている。思う通り言え。」
感想
チャンはまたもやどん底に。太学舎よりも下の奴婢という最底辺の身分ですから、最どん底といったところでしょうか。あと5話でどうやって復活するのでしょうか。そしてウヨン公主とチャンの関係はどうなるの?続きが楽しみです。