「王と妃」 第80話 世祖の不安 とあらすじネタバレ感想
80話 世祖の不安 あらすじ
ソン・サンムンらによる端宗復位計画は失敗に終わった。朝鮮王朝実録によると、首陽大君は大勢の役人たちを集め道に輪を作らせた後、彼らの前で八つ裂きの刑を行った。そして三日間町中で晒首を行ったとある。だが殺戮は終わらなかった。六臣に続き、キム・ムンギ、ソン・スンらが処刑され、端宗の叔父クォン・ジャシンは晒首にされた。そして追従した者たちも大々的に粛清された。さらに残酷なのは罪人の妻や娘たちが官僚の奴婢となったことだ。パク・ペンニョンの妻とキム・スンギュの妻などは領議政チョン・インジに与えられた。ソン・サンムンの妻と娘のヒョオクは雲城府院君パク・チョンウに与えられた。クォン・ジャシンの妻と娘のクドクは中枢院使クォン・ジュンに与えられソン・スンの妻はイ・フンサンのものにされた。さらに癸酉靖難の罪人までが処罰の対象とされた。ミン・シンやイ・ヒョルロの妻や側女が功臣たちに分け与えられた。一族根絶やしとはいかぬまでもこの上ない辱めを受けた。
「ホン・ダルソンを兵曹判書に任命する。ホン・ユンソンは兵曹参判に、ファン・ヒョウォンは吏曹参議に任命する。」
「ありがたき幸せでございます。」
世祖(首陽大君)が新たな人事を発表すると臣下たちは世祖に感謝しました。
「・・・そなたは右賛成の娘婿だったな。」
世祖は怯えておろおろする裏切者のキム・ジルに言いました。
「さようでございます殿下。」
「近くに来い。もっと近くへ。」
キム・ジルは世祖に平伏しました。
「そなたのおかげで助かった。そなたはソン・サンムンの友であった。世間はそなたを裏切者とののしるだろう。それがつらいか?」
「めっそうもございません殿下。」
「つらいはずだ。私は国を守るために身内の命まで奪った。そなたも友を捨てるという苦渋の決断をした。我々は同じ苦しみを抱えている。よくやった。そなたは立派だ。そなたを判軍器監事に任命する。」
「ありがたき幸せでございます殿下。」
「私が功臣たちを冷遇した隙を突き集賢殿の者たちが謀反を企てたのだ。私は儒生たちを信頼し目をかけたのに彼らは恩を仇で返そうとした。皆は私の周囲に目を光らせ乱臣どもを一人残らず始末するのだ。」
「仰せの通りにいたします。」
「都承旨は書止めよ。集賢殿は廃止する。集賢殿は逆臣の温床だ。集賢殿の書籍は芸文館で管理する。」
兵士たちは両班の女たちを連れ去りました。
「殿下、腹立たしいですか。もうお怒りをお静めください。」
孝寧大君は世祖に言いました。
「王の殺害を企てたのですぞ。前王を復位させるため私を殺そうとしたのです。そんなことが許されるのですか!」
世祖は腹を立てました。
「純真な学者の犯した過ちです。」
「だから腹が立つのです。官僚の企てた謀反だったら権力に欲が出たのだと解釈します。ですが学者は王を殺そうとしたのです。彼らは剣を振る武人ですか?違います。美しい精神世界を追求し書物を手にする者たちです。集賢殿の書物には人を殺せと書いてあるのですか?私は彼らを誰よりも大事にしてきました。彼らの知識ではなく純粋な心を評価したのです。無欲で公平で道徳的な精神をです。もう何も言わないでください。」
「殿下、彼らを罰したことを責めているのではありません。もう十分です。これ以上先に進んではなりません。今までの業績はごりっぱです。癸酉靖難は王室だけでなく国の存続のためにも必要なことでした。弱まっていた王権も殿下が復活させたのであの粛清をとやかく言う者はいないはずです。上王様が殿下に譲位し昌徳宮に退いたこともやむを得ないことでした。あれは王室の問題でした。お二人とも世宗の血筋。血統は正しいのですから官僚は文句を言えないでしょう。ですが、これ以上はいけません。耐えるのです。」
「ソン・サンムンとクォン・ジャシンは上王様に謀反の許可を得ていたのです。上王様が裏で糸を引いたに違いません。」
「殿下、これ以上はいけないのです。ご辛抱ください。もうなりませぬ。私はこれで失礼いたします。」
孝寧大君は世祖に拝礼して帰りました。
「上王は精一杯信頼を示してきた私を信じなかった!これが血を分けた甥の仕打ちですかー!」
世祖は部屋の外に出た孝寧大君に聞こえるように大声を張り上げました。
夜、端宗は寝込んでいました。
「叔父上、どうか(私を殺さないでください)・・・父上・・・父上・・・・・・。父上、お助けください。」
この日、激しい雷鳴がとどろき建春門の門衛が雷にうたれたと実録にある。
チョン内官は門番のキム・ジャンスが雷に打たれて死んだことを都承旨のパク・ウォニョンに知らせました。
「騒ぎ立てず処理するのだ。」
パク・ウォニョンと内官たちは密かに門番の遺体を運び出しました。その噂はハン・ミョンフェの側室のヒャンイにも届きました。
「罪人たちも民から見れば忠臣でした。」
「門衛がかわりに天罰を受けて死ぬとはな。」
左承旨のハン・ミョンフェは笑いました。
ハン・ミョンフェは世祖に呼ばれました。
「袖振り合うのも多少の縁というのにそなたはずいぶんと薄情だな。そなたが大慈庵で殺生について私に語って見せたときに我々は固い絆で結ばれていたはずだ。そなたが私の参謀になれば将来私が天下を取ったとしても、私は劉邦のように功臣は殺さないと誓った。それなのにそなたは私に一時冷遇されたのを恨み私を信じなかった。挙句の果てには謀反を知りながらそなたは黙って傍観していた。私が集賢殿の学士を処刑している間そなたは私の手が血に染まるのを見ていたか。」「殿下・・・」
「座れ。私は釈迦の手のひらの孫悟空か。」
「殿下。私が正しくお仕えできなかったゆえ殿下の身を危険にさらしました。決して傍観などしておりません。」
「憎らしい奴め。まるで頼りにならん。はっは。はっはっはっはっはっは。はっはっはっはっはっは。・・・・・・・はー・・・・私を恨んだか?私を恨んでいるなら許してくれ。」
「殿下。私が仕えるのは殿下だけでございます。殿下との出会いが今の私を作ったのです。殿下と出会わなかったら今も私は宮直に過ぎなかったでしょう。殿下を恨んでいるなど誤解でございます。」
「そなたが都承旨をせよ。片時も私の傍を離れるな。気持ちの浮き沈みが激しく不安でならない。そなたが私を守ってくれ。」
「殿下をお守りするという大役を仰せつかり感無量でございます。たとえこの身が砕けようとも殿下のためなら喜んで身を捧げましょう殿下ー。」
ハン・ミョンフェが都承旨となった。ただの臣下ではなく王と生死を共にした臣下である。
賓庁。
「殿下、逆臣たちの計略を初めて耳にしたときはさほど心配しませんでした。ですが詳細を知ったときは恐怖に震えました。」
右議政のイ・サチョルは世祖のご機嫌を取りました。
「逆臣は昔から存在したが今回ほど身勝手な理屈はない。しかも君主を殺そうとした謀反は中国においてもあまり例はない。中国の(殷の時代の)白夷と叔斉は王を認めずに山にこもったがサンムンたちは王を殺した。それが忠臣といえるのか。実に情けないことだ。」
「誠に遺憾でございます。」
「天のお守りによって計略は未遂に終わったがこれは国の基盤が揺らいでいる証拠だ。これ以上誰も罪に問わぬ。だがここにいる重臣たちの中にも彼らと同じ気持ちだった者がいないとも限らん。」
「殿下、私は府院君でありながら上王様と王大妃様に正しくお仕えしませんでした。私を罰してください殿下。」
ソン・ヒョンスは世祖に許しを乞いました。
「そなたを罪に問わぬとすでに決めたのだ。そなたも一味だという者もいるが私は聞き入れなかった。上王は私の甥であり甥が叔父を殺そうとするなどあり得ぬと思うからだ。」
「誠に感謝いたします殿下。」
「そして逆臣イ・ゲの叔父イ・ゲジョンも疑わざるを得ん。だが、イ・ゲジョンの潔白と主張を認めこれ以上は追及せぬと決めた。」
「恐縮でございます殿下。」
イ・ゲジョンは肝を冷やしました。
「チョン・チャンソンを佐翼功臣の三等から二等に、判軍器監事キム・ジルを佐翼功臣の三等とする。」
「ありがたき幸せでございます殿下。」
「ソン・サンムンとクォン・ジャシンの話では上王様も謀反の計画を知っていたらしい。この自白でソン・サンムンとクォン・ジャシンは自分たちの罪を少しでも軽くしたかったのだろう。私は王座を引き継いで以来、昼も夜も恐怖心に駆られ心落ち着く暇もなかった。先日は建春門に雷が落ち天も私を叱責している証だろう。だがいくら考えてもその理由がわからぬ。それでも私は考えすべては私の不徳の致すところと結論付けた。言路が開かれず下の意見が上に届かない。そんな不満を民が抱いているのだろう。反逆者の仲間に処刑や流刑の罰を与えた際に寛大な裁きを下したつもりだが冤罪だった者がいないか調べる必要があるだろう。高官たちは皆信念に基づいて行動せよ。私の目の届かぬ部分を支えてほしい。」
「恐れ多きお言葉でございます。」
官僚たちは世祖に平伏しました。
右議政イ・サチョルが祝賀文を読み反逆者の処刑を称賛することで端宗の復位運動は一応の決着を見た。王はソン・ヒョンスを潔白と認める一方で端宗とソン・サンムンらの内通は追及する姿勢を見せた。そして雷は自らの不徳が原因とし善政を行うことで恐怖に震える官僚たちの不安を払拭した。その一方で忠誠を誓わせることで謀反の綻を縫った。だが幼い王の王位を奪ったという首陽大君の不道徳さは何を持っても縫えぬ綻びだった。この時首陽大君は端宗の死を早めるための罠を張っていた。
ソン・ヒョンスは昌徳宮の門に行くと、兵士たちは府院君を通しませんでした。ハン・ミョンフェはソン・ヒョンスに帰るように言いました。
「殿下の命令ではありません。承政院の判断でそうしているのです。お帰りください。」
「虫一匹たりとも通す出ない。」
ハン・ミョンフェは昌徳宮を兵士で取り囲みました。
「上王様の身に危険が及ばぬよう殿下より仰せつかりました。」
ハン・ミョンフェは端宗に言いました。王大妃は上王様はまるで牢獄にいるのと同じだとミョンフェに言いました。
「謀反の際ソン・サンムンとクォン・ジャシンが昌徳宮に出入りしたと自白したのでございます。」
ハン・ミョンフェと王大妃は言い争いました。
「上王殿下。殿下は上王殿下のご健康を願っておられます。上王殿下が長生きできるよう支えることが叔父の務めだとお思いなのでございます。どうかご自愛くださいませ。では私はこれで。」
ハン・ミョンフェは端宗に言い下がりました。
「あれが上王殿下と王大妃への態度なの!都承旨ごときが拝礼もせず部屋を去るなんて。上王様は囚人も同然よ。これでは死んでいるも同然だわ。」
「ご辛抱ください。」
パク尚宮は王大妃を慰めました。
「耐えるのだ。私なら平気だ。今の暮らしに不便はない。耐えて生きよう。私は平気だ。」
端宗も静かに言いました。
「お話しください。遠慮などなさらず府院君ではありませんか。大監は身内なのですしなんでもご相談を。チェ尚宮は外して。」
王妃は話ずらそうにしているソン・ヒョンスに言いました。
チェ尚宮は扉の向こうで聞き耳を立てました。
「なんとうことなの。それは王命なの?」
「お声を小さくお願いします。違います。承政院の判断だとのことでした。」
「承政院ということは、あの者の指示ですわね。」
「媽媽、まだ殿下には申し上げぬほうがよいかと。ただ、そのうち時期を見ていただき・・・」
「ご安心ください。すぐにでも殿下に申し上げます。」
「時期を見ながらゆっくりで結構です。」
「ハン・ミョンフェの仕業でしょう。殿下の意志ではないはずです。上王殿下を幽閉しても何も得しません。ひどい話だこと。南無観世音菩薩・・・・・・。」
ヒャンイは東宮に来ていました。
「これはハン・ミョンフェ殿、東宮へは何の御用で?」
ヒャンイは他人行儀に主人のミョンフェに言いました。
ヒャンイは他人行儀に主人のミョンフェに言いました。
「都承旨になったご挨拶を兼ねて嬪宮媽媽にお見舞いに。」
「お帰りください。」
「嬪宮媽媽にお話しがあるのだ。」
「なら私がお伝えします。都承旨らしく謹んでは?伝言がないのでしたら私は失礼します。」
「待て。」
「今夜は本家にお帰りください。もう一月も帰っておられません。糟糠の妻にも失礼ですわ。」
「またぬか。」
ヒャンイは嬪宮ハン氏(インス大妃、世子妃)にハン・ミョンフェに伝言を伝えました。桂陽君夫人は宮中のしきたりに通じているヒャンイを褒めました。ハン氏は世子の具合がよくないことを心配していました。
懿敬世子は咳がするたびに血を吐いていました。世子は昌徳宮に行くと母に言いました。チェ尚宮はソン・ヒョンスが王妃と話していた会話をハン・ミョンフェに伝えました。
首陽大君の使用人はハン・ミョンフェに仕え自分が追い払う役をしますと言いました。
「都承旨さまのお通りだー。」
ミョンフェの輿を先導する使用人は民に道を開けるように言うとハン・ミョンフェに石が投げつけられました。
「屋敷へ向かう道と違うではないか。私をからかうつもりか?」
ハン・ミョンフェが降ろされたところは立派な瓦屋根の屋敷でした。
「都承旨様のお帰りだぞー。門を開けろー。」
「父上。」
「私の息子ではないか。はっはっはっは。」
ハン・ミョンフェに立派な屋敷と首陽大君の使用人が与えられました。
「妻の顔をお忘れになったの?」
「垢にまみれていた女房が広い屋敷に座っているのを見ると自分の家とは思えんな。はっはっはっは。」
「夫には苦労をさせられましたが側女のおかげで楽をしておりますわ。」
ミン夫人は夫に皮肉を言いました。
「夫人。今の私は都承旨だ。この甲斐性なしといわれた私がな。見ておれ。宮直といわれた私が成り上がり領議政になってみせる。ふっはっはっはっはっは。」
誥命謝恩使の命を受けたハン・ファクが帰京の途中で病気になった。これは首陽大君一家に降りかかる不幸の始まりだった。
「左議政が病気になっただと?左議政は今どこだ?」
世祖は内官から報告を受けました。
「七家嶺(チルガリョン)の辺りでご病気になり今は沙河鋪(サハポ)に留まっておられるようでございます。」
「御医とともに左相(チャサン、左議政)大監のもとへ行け。」
嬪宮ハン氏はハン・チヒョン(ハン氏の従兄)を呼びました。
「及びでしょうか世子妃様。」
「急ぎの要件なので立ったままで。お父様はチヒョン殿を信頼しており困った時にはなんでも相談せよとおっしゃっていました。どうか御医らより先にお父様に。もし命が危ないようならお父様の遺言を聞いてほしいのです。」
ハン・チヒョン。粋嬪ハン氏の従妹である。のちにハン氏に協力し、大業をなす一翼を担った人物である。性格は落ち着いていて口数が少なかったため周囲に敵のいない人物であった。
譲寧大君は世祖に会っていました。
「自らの不徳が原因だと。殿下は何をおっしゃいますか。」
「元気だった左議政まで病にかかったと。万一亡くなったら息子の妻に合わせる顔がない。六臣たちの顔が次々と浮かんできます。集賢殿の学士たちのことです。」
「六臣とは・・・彼らは謀反者ではありませんか殿下。彼らは皆乱臣どもです。」
「今はそうでしょう。今は乱臣でしょうがのtに忠臣と呼ばれるのでしょう。」
「何を言い出すのです殿下。王の殺害を企てた者が忠臣だと?」
「上王に忠義を示したのですから、彼らもまた忠臣ではありませんか。ふっふっふっふ。はっはっはっは。ふっはっはっはっはっは。」
感想
端宗復位事件のあとも首陽大君は端宗を殺すための罠をはっていたそうで、口先では端宗の長寿を願うと正反対のことお言っておりなんとも恐ろしい人ですね。このような悪人が国の頂点に立つとはそれは善良な人たちにとっては高潔な精神を踏みにじり泥で汚される不幸なことであり、悪人にとっては大義名分を捏造さえすればどんな悪いことでも許される天国で喜ばしいことを意味しています。この世には人類にとって不変の善悪の法則があります。それは親兄弟を殺すことはたとえようのない極悪であるということです。罪のない人を殺すことは悪いこと、親の相続に関する遺言に逆らうことは悪いことである。悪行の正当化はさらに悪いことである。大義名分を傘に着て人殺しをして本来の目的である欲望を満たすことは悪である。これは人類不変の価値観です。首陽大君と功臣たちはまさに人類普変の悪いことをしました。だからどんなにきれいな言葉で事の本質を隠そうとしても己の欲望のために人殺しをしたことは隠せませんでした。自分の欲望のために人殺しをすれば、それは庶民や奴隷、力のない貴族の単独行動であれば犯罪として罰せられた時代です。それを貴族が一致団結してやれば無罪ということにできるのですから犯罪と本質的に違いはないでしょう。首陽大君と功臣たちは人殺しで富貴栄華を得られたのですから。彼ら以上に力を持つ法の番人がいなくて罰することができないとしても罪が永遠に消えることはありません。誰もが首陽大君のように好き放題することが許されるならこの世は常に乱世となるでしょう。従順に生きている他人をだまして出し抜いて法に逆らい富と権力を得たのですから人間とはほんとうに罪深い生き物ですね。一部の人たちが法を破ったほうがおいしい思いをしているとしたら、法律は無意味なもの、人をだますための嘘ということになってしまいます。まじめな話はさておき、首陽大君は王族殺しというとんでもなく汚いことを部下にさせようとするときに、またハン・ミョンフェを呼んで使いましたね。