王と妃 111話 世祖崩御
あらすじ
夜の宮殿。世祖は端宗が墓の中から手招きしている幻覚を見ていました。
「もう少しだからな。私が出してやる。もうすぐだ。待っておれ。私がそなたを助けてやるからな。」
世祖は端宗の墓の土を手で掘り甥を救い出そうとしました。そうすると端宗と大妃が楽しく過ごしている様子が見えて世祖は川に逃げました。
(ひえ~っw)
川に端宗と大妃が一緒に入っていき、端宗は世祖を手招きしました。
世祖は招かれる通りに川の中に入っていき溺れていました。
(ひ~っw)
チョン内官は「殿下、殿下」と声をかけると世祖は我に返りました。
「魯山君に会った。」
「殿下・・・・・・。」
「暗くてじめじめした土の中に埋められていた。」
「御医を呼んでまいります。」
「呼んではならぬ。」
「殿下。お身体が汗びっしょりでございます。」
「魯山君を先に埋葬してやろう。それから御医を呼んでも遅くはない。どれほど私を恨んでいるだろうか。墓ひとつ作ってやらなかった。今でも魂がこの世をさまよっているに違いない。チョン・ギュンや。」
「はい上王様。」
「私を起こしてくれ。」
「殿下。」
「ああ。私は横たわって死ぬ資格などない人間だ。資格などあるはずがない。私は悪鬼だからな。土の中で千年の眠りについていた悪鬼だからな。私は死んでも土の中には入らぬぞ。」
世祖は朦朧としていました。
「誰かおらぬか。」
「呼んではならぬ。私・・・私は老いた内官にもたれて死ねるだけでも十分だ。」
「なぜ返事がない。上王様のお命が危ない。」
「そなた一人で十分だと言ったであろう。」
「およびですか?」
「上王様が危篤だと大妃様にお知らせしろ。」
チョン内官は部下に命じると大妃がすぐに駆け付けました。
「今上をお呼びして。」
大妃は睿宗を呼びました。
大妃はチョン内官に世祖を横にするように命じると、世祖は座って死にたいと大妃に言いました。
「孫たちに会いたい。粋嬪にも会いたい。」
大妃は粋嬪と月山君と乽山君を呼びました。
「父上!父上!」
睿宗は世祖の寝所に駆け付けました。
亀城君はユ・ジャグァンにどうすればいいか尋ねました。ユ・ジャグァンは五衛都摠府の兵士に都城と宮殿の内外を警備させ上党君(サンダングン、ハン・ミョンフェ)と高霊君(コリョングン、シン・スクチュ)ら功臣を家に軟禁するべきだと言いました。
「上王様の功臣を軟禁したら私が謀反を起こしたと思われる。」
「領相(ヨンサン、領議政)大監。上党君と高霊君らを殺さねば殿下が危うい立場になります。この機会を逃したら後悔なさいますよ。」
「今は大殿に行かねばならぬ。」
「領相(ヨンサン、領議政)大監。もし上王殿下が亡くなられても官僚には知らせぬように。」
亀城君はハン・ミョンフェらを軟禁しないまま世祖の寝所に行きました。
兵曹判書のナム・イは亀城君に功臣を殺す命令をくださいと言いました。亀城君は「勝手に兵を動かしてはならぬ」と海陽大君を守るための策に反対しました。
世祖の寝所の前。臨灜大君は息子の亀城君に会いました。
「父上。どうしたらよいのかわかりません。」
「道理に従いなさい。」
孝寧大君も現れました。
「私は孫と粋嬪に会うまでは死んだりせぬ。」
世祖はつぶやきました。
粋嬪ハン氏のもとに世祖からお呼びがかかったという知らせが届きました。
「呼んでくださったのですか。」
粋嬪ハン氏は涙を流し、宮殿に息子を連れて向かいました。
「臨灜は泣いているのか。見てくれ臨灜よ。全身に出ていた発疹が春の雪のごとく消えていった。不思議ではないか。仏さまに何度となく祈り効き目があるという薬を残らず試してみた。それでもいっこうに消えなかった発疹だ。有名な温泉もすべて行ってみたが治らなかった。それなのに一夜にしてこうしてきれいになった。ああ。顔にできた発疹もずいぶんよくなった。跡は残っているがかゆくない。伯父上。昔の言葉というのはうなずけるものばかりです。肉体の病は心の病という言葉があります。先に心が病んでからその病が肉体をもむしばむという意味です。私の心を包んでいた欲はどこへ行ったのでしょう。すべて捨てたらこんなに心が軽くなるのにいつまでも抱えて生きていました。」
世祖は言いました。
「南無観世音菩薩。」
孝寧大君は言いました。
「伯父上。私が死んでも石室に入れるなと命じました。さもなくばこの醜い肉体がなかなか腐りませんから。私は一日も早く空に吹く風のように軽くなりたいのです。」
「兄上。」
「南無観世音菩薩。」
「チョン・ギュンや。どこにいるのだ。」
「はい殿下。上王様の後ろにおります。」
「私を抱いているのはそなたか。目が見えなくなった。」
「殿下。」
「私をしっかり抱いているのは年寄りにはさぞかし大変なことだろう。粋嬪はまだ来ぬのか。遅いな。」
「もう少しお待ちください。」
「私は待ちたいが、甥が待ってくれぬのだ。」
端宗と先の大妃は川で手招きしていました。
「今行くからな。はっはっはっは。はっはっはっは。私がそこに行くと言っているだろう。」
「兄上。お気を確かに。」
「大妃!」
「上王様!」
「祈ってくれ!生まれ変わるなら木に生まれるようにと祈ってくれ。私は千年もの間土の中で眠っていた悪鬼だった。ゆえに木に生まれるよう祈ってほしい!」
「殿下ーーーーーー!」
「兄上ーーー!」
「上王様ーーー!」
「殿下ーーーー。」
「父上ーーーーーーーーーー。」
粋嬪が世祖の寝所に着くと部屋の中から泣き声が聞こえてきました。
「殿下ーーー。」
「父上ーーー。」
「殿下ーーー。」
「私に借りを返さぬまま旅立たれるのですか。借りを返してください。」
粋嬪ハン氏は気を失ったふりをしました。
「上王様ーお戻りくださいー。」
チョン・ギュンは屋根の上に上り白い布を振りながら泣きました。
ナレーション。
首陽大君。首陽大君は(韓国の?)歴史書に王位簒奪者と書かれています。だが世宗の嫡子の中で最も優秀だったのが首陽大君だったことは否定できません。朝鮮は開国以来王位をめぐる王子の乱が頻発しました。そのため世宗大王は嫡子継承の原則を立て長男の文宗を王位に継がせました。文宗王は世宗大王の喪が明けた直後に亡くなりました。そのあとを継ぎ長男の端宗は十二歳で王になりましたがキム・ジョンソら勲旧派と王族との間で勢力争いが起きました。王権を守るためという名分を立てた首陽大君は癸酉靖難によりキム・ジョンソやファンボ・イン、安平大君を死に追いやりました。そして首陽大君は端宗の世話役として権力を握りました。このころから首陽大君は王権に対して野心を見せ始めていました。幼い甥から王権を簒奪した首陽大君。王室の側から見れば幼い端宗より実力のある首陽大君のほうが王としては適任だったかもしれない。だが首陽大君は王位簒奪という道徳的な非を数多くの治績でも消すことはできませんでした。首陽大君は背徳者として歴史に記されたのでした。王としての首陽大君は優れた治績を残しました。首陽大君は即位するやいなや国王中心の政治を行うため議政府署事制を廃止し六曹直啓制を実施しました。中央と地方の政治と軍事制度を改編し政治体制を大々的に整備しました。そして開国時からある雑多な条約をまとめ法典を編纂して統治の根幹としました。これが「経国大典」です。徴兵制度を改め軍力を増強し女真族を征服して北方地域を平定しました。鎮管(チングァン)体制を敷き全国的な防御組織を築きました。世祖はこのため号牌制度を敷き戸籍と軍籍から抜けている者を探し出して軍役と労役を平等に課しました。世祖は開国時からあった科田法を改め現職の官吏にのみ田を与える職田法を定めました。農業生産を増やし民の生活を安定させる数多くの政策を立てました。一方で端宗や学者らを殺したため儒教を信奉できなくなった世祖は仏教に目を向けました。そのため世祖の代は仏教が盛んになりました。円覚寺(ウォンガクサ)の建立や仏典を刊行する臨時官庁である刊経都監(カンギョントガム)の設置も世祖の時代に行われました。世祖四年には「東国通鑑(トングクトンガム)」の編纂が始まりました。同書が編まれましたのは朝鮮が中国と対等な国であり悠久の歴史があることを示すことが目的でした。それは民族の誇りを持つための大事業でありました。朝鮮王朝の第七代国王だった世祖。王としての世祖は朝鮮王朝の君主の中では指折りの名君でした。ですが甥の王位簒奪という悪徳を犯したため世祖は最後につらく苦悩に満ちた死を迎えることになりました。世祖は1468年戊子9月8日に大殿にて死去しました。享年52歳。在位期間は十四年でした。
(ナレーション長っw)
同じ夜。
礼曹判書のイム・ウォンジュンは世祖の寝所の前でホン内官を呼びとめました。
「上王様が亡くなったと聞いて駆け付けた。でまかせだったのか?」
「なっなっ・・・亡くなったのは事実です。」
「なぜ皆に知らせないのだ。」
「領相(ヨンサン、領議政)様の命令がないもので・・・。」
「何だと。上王様が亡くなったのだぞ。命令を待つまでもなかろう。一刻も早く皆に知らせるのが道理ではないか。」
「事情は領相(ヨンサン、領議政)大監にお尋ねください。」
ホン内官は逃げました。
「上王様の死を朝まで公表しないのですか?」
大妃ユン氏は息子の海陽大君に言いました。
「王族と亀城君が相談中です。お待ちください。」
「隠すべき理由などないわ。とんでもないわ。いくら殿下でももってのほかです。」
亀城君と臨灜大君と孝寧大君は話し合っていました。亀城君は夜に知らせたら騒ぎが起こるかもしれないと父に言いました。父は大上王の死を隠すのは不忠なので息子を叱ってくださいと孝寧大君に頼みました。亀城君は上党君と高霊君らが顧命を受けようと企んでいたと二人に言いました。
「ただちに上王様の死去を公表しなさい。明日まで伸ばしてもどうせ功臣たちは騒ぐでしょう。」
孝寧大君は亀城君に言いました。
ユ・ジャグァンは「機会は二度と来ないのでお考えください」と亀城君に功臣を殺すよう助言しました。
既に重臣たちは噂を聞きつけ宮殿に集まっていました。ホン・ユンソンは確かめに行こうと騒ぎました。ユン・ピルサンは連絡もないのに行くのは不忠だと言いました。
「不忠でなければ何だと言うのだ。」
チョン・チャンソンは「このまま座っているのですか。このままでは足をすくわれますよ」とク・チグァンに行動を促しました。ハン・ミョンフェは黙って目を閉じていました。
「亀城君は女は殯宮に入れぬといって追い返したのです。」
粋嬪ハン氏は亀城君が功臣と老臣を排除し王の後見になろうとしていると従兄のハン・チヒョンに言いました。ハン・チヒョンはそのようなことはすんなりとはいかないだろうと粋嬪ハン氏に言いました。
「功臣を殺すなら挙兵しなければなりませんが都城は静かです。」
「上党君に言って阻止してもらわねば。」
「むしろ好都合なのでは?亀城君が上党君と対決するならそれは好都合です。媽媽。」
「今日のことは忘れません。」
粋嬪は寝所の周囲から追い出されるときに亀城君が笑っていたことを思い出しました。
「もう手の打ちようがございません。」
ユ・ジャグァンは決断しなかった亀城君に言いました。
重臣たちに世祖の死が知らされました。重臣たちは寿康宮に行きました。
「殿下。殿下・・・。」
高霊君(コリョングン、シン・スクチュ)は地面にひれ伏して泣きました。
「今日は星がひとつもでておらんな。はっはっはっは。」
ハン・ミョンフェは笑いました。
ハン・ミョンフェとシン・スクチュは寿康宮にはいかずに門の石段に腰かけていました。
「殿下は私と一緒に冥途へ行こうとおっしゃったがどうやら私を置いて一人で行かれたようだな。はっはっはっは。うっはっはっはっはっは。」
ハン・ミョンフェは笑いました。
感想
亀城君はタイミングを逃し、ハン・ミョンフェには大きな機会が再び訪れようとしています。世祖はやっとこの世を去りました。長かったですねぇ。あのバカみたいな演技が嫌いだという人も多いのではないでしょうか。世祖の名君だったという姿を否定している演出はどうかな!?あまりよくなかったのではないかと思います。ハンセン病だったとしたらつらい最期を迎えたようですね。世宗も失明したみたいで、王様って幸せとはいえない人生を送っているようですが・・・この時代は皆が不幸だったのかもしれませんね。