刑事フォイル(シーズン1)第20話 癒えない傷(後編)
ENEMY FIRE プロローグ
1941年2月。イギリスでは重度の火傷を負った兵隊に皮膚移植などを行う形成外科の名医が活躍していました。負傷兵を受け入れる病院として空軍が接収したディグビー館では不信な事故が相次いでいました。また飛行隊では不時着した機体の風防が開かずパイロットが脱出できずに重症を負いました。整備兵のゴードン・ドレークが修理を怠っていたのでした。そのドレークがある晩誰かに襲われました。本編あらすじ
ドレークの殺害現場。ドレークは水汲み場の近くで頭から血を流して仰向けで死んでいました。そばには自転車が落ちていました。フォイルとミルナーは現場を検証しました。
「発見者は?」
フォイルはミルナーに言いました。
「夫人です。今は家の中に。」
ミルナーは答えました。
「あ~取り乱しているか?」
「いいえあまり。あの顔の傷では。」
「夫人の犯行だと思うか?」
「ありえなくはない。」
「なら話を聞こう。」
「でも一つ奇妙なことがあります。警察医はドレークの死因は溺死だと言ってます。」
ドレークの家。
「彼が死んで悲しいとは思いません。こんなこと言ってひどい妻でしょう?」
妻のベリルはフォイルに言いました。
「顔の傷はほんとに転んだ傷ですか?」
「違います。夫に殴られたんです。ひとい人でした。出会ってしばらく優しかったのは私にお金があったから。父が少し残してくれたんです。この町の既婚男性の半分、サー・マイケルもドレークを恨んでいたと思います。金をせびってただで家を借りて。」
ベリルはドレークの父が当番兵でサー・マイケルの世話をしていたと言いました。
「どなたか頼れる人はいますか?」
「ピップに電話してみます。兄のピップです。今はロンドンにいます。しばらく会っていませんけど来てくれると思います。」
「夫人だと思います?」
ミルナーはフォイルに話しかけました。
「君はどう思う?」
「いいえ。殺す動機はありますけど女性を殴るなんて最低だ。」
二人は車に着くとサムはドレークが空軍基地に勤めているを知っていてアン・ボルトンがウッズと付き合っていてドレークが修理を怠ったと言いました。
フォイルはジェイミソン医師に会いましたがジェイミソンは忙しいと言いました。フォイルはドレークが低級な男だからといって殺されていいとは言えないと言いました。ミルナー巡査部長はレン医師から話を聴いていました。レンは外の空気が吸いたくて外を何分か散歩しただけだ、泥は転んだときに付いたと言いました。レンは外に出た時に二十歳くらいの若い女性を見たとミルナーに言いました。
フォイルはサムにアンドリューとも会っているだろうと言い当て「ました。サムは動揺して「1~2回」と言うと「そんなに付き合いが広いとは知らなかった」とフォイルは言いました。
フォイルは防空監視員のピーター・プレストンからレンの妻メアリーがドレークと会っていたことを聞き出しました。メアリーは夫には人を殺す度胸がないとフォイルに言いました。
「彼といると満たされました。夫は留守なのに。」
ターナー中佐はアンドリュー・フォイルを待っていましたがアンドリューは出勤してきませんでした。
看護婦長はモルヒネが亡くなったことを見つけ、スマイズ大佐とジェイミソンに報告しました。看護婦長は今夜投与するモルヒネがないので至急入手しなければと言いました。
「大失態だ。」
スマイズ大佐は言いました。
サムの家。
アンドリューは精神が参っていました。
「軍が探しに来るわ。何があったの。」
「すごく疲れた。もう何週間も眠れないし食べられないし気持が悪い。時々すごく君に会いたくなったり時にはもう会えなくてもいいやと思ったり自分でなんてひどいことを言っているんだって思うけど君が存在してないみたいに思える。知らない人みたいに。ウッズを見たとき・・・病院のみんなを見たとき・・・いずれ僕だってああなる。僕が出撃していれば僕がああなるはずだったんだ。」
「戻らなきゃダメ。」
「無理だよ。追い出さないでくれ。戻るなんて無理だ。」
アンドリューは泣きました。サムはアンドリューを抱きしめました。
川。
フォイルはフライフィッシングをしていました。すると上流から死んだ魚が流れてきました。フォイルは魚を拾うとヘイスティングズ警察署の警察医に見てもらいました。
レンは警察署に来ていました。レンはドレークに会ったことは一度もないので殺していないと言いました。
「コンサートの夜にあなたが来ていたシャツです。袖に血がついている。なぜですか。」
ミルナーはレンの服を見せました。レンは仕事で血に触れるのは当たり前だと反論しました。ミルナーはレンが犯人じゃないと言いました。
「レン先生は怪我を治してくれただけじゃなく僕が警察に復帰するのを後押ししてくれた。」
リバースはフォイルに魚の調査結果を提出し警察医が「こんなやり方で魚を捕ってはいけない」と言っていたことを伝えました。
ディグビー館。
フォイルとスマイズ大佐とジェイミソンは盗まれた薬剤について話していました。当時はロウカッスル夫人が外にいて、最初に気づいたのはペトリー婦長だと言いました。ペトリー婦長はブリッジズ大尉の退院を見送っていました。
「会えないと思うけど寂しいとは思わないわ。」
「婦長さんは独裁者みたいでしたからね。」
「お互いよくわかっているわ。」
「最初からね。」
空軍基地。
ミルナーはアンに尋ねていました。
「私は殺してません。館へは行きました。着いたのは夜の九時ごろで病院の中からは音楽が聞こえました。でも何も見ていません。何も知りません。・・・サムが事故を知らせてくれて会いに行けって言われました。でも私会いに行く気になれなかったのです。ひどいことを言うってお思いになる?でも無理なんです。彼に会いたくない。私が結婚したいって思ってたのは以前の彼なんです。でも会いに行かなきゃって思いあの夜館に行きました。でもどうしても勇気が出なくて。私を軽蔑する?」
アンはミルナーに言いました。
「いいえ。余計なおせっかいですけど聞いてください。こっちの足は義足です。去年のノルウェー作戦で左足のほとんどを失って帰国しました。僕は以前のままです。中身は変わっていません。あなたがいれば立ち直れます。」
ミルナーはアンを励ましました。
コテージ。
フォイルはサー・マイケルが妨害の罪で牢屋に入れられると言うと、ロウカッスル夫人が妨害は自分がやったと言いました。
「あのひとたちを追い出したくて。旦那様が館から追い出されてつらそうにしているのを見てこのままじゃいけないと思ったんです。拳銃を出してたでしょ?自殺するつもりだったんです。」
ロウカッスル夫人は白状しました。
「ロウカッスルさん誤解だ。そんなつもりはなかった。」
サー・マイケルは言いました。ロウカッスル夫人は警察に連行されました。
「時々命を絶とうと思ってた。自分は偽善者だと知りつつ生きるのはつらい。1917年のベルギーのメシヌ高地。イープルの戦い。私は指揮官として戦場にいた。私の当番兵はゴードンの父親マーティンだった。まさに地獄だった。機銃掃射を受けガス弾がうなりをあげて飛んで行った。毒ガスに爆弾に砲弾。泥まみれ血まみれだ。ライフルに機関銃に大砲のすざまじい音。無限に続くかと思われた。終わるのは体がばらばらになって死ぬときだと思った。部下には腸がはみだしている者もいた。私は限界だった。銃を取り出し自分の脚を撃った。この地獄から逃げ出したい。それだけだった。見ていたマーティンは私を病院に運んで生涯秘密を守ってくれたがそのことを手紙に書き残した。息子は手紙を持ってきて私に金をせびった。それ以来ずっとだ。あのままいけはすべて奪われただろう。私の自尊心以外はすべて。自尊心はとっくに失っている。」
「病院の仕事を手伝われたらどうですか?」
フォイルはサー・マイケルに言いました。
「あそこの患者は皆勇者だ。わが国はこれほど多くの勇者を生むなんてどれほど想像できただろう。」
「息子もパイロットです。」
「ならば君は幸運な男だ。」
ディグビー館。
「来てくれないかと思った。」
ウッズはアンに言いました。
「来たでしょ。ずっとそばにいるわ。こなくてごめんね。勇気が出なかったの。怖くて。」
ウッズは目の包帯が外れると・・・
「君が見える。会いに来てくれて嬉しい。」
フォイルはディグビー館の現場の水汲み場に来ていました。
ヘイスティングズ警察署。
ターナー中佐がフォイルに会いに来てアンドリューが無断外出をして四十八時間になり報告しなければいけないがとフォイルに言いました。
「出撃の回数や睡眠不足だけじゃない。ストレスが心をむしばむ。最近は戦争神経症と呼ばれるようになったが理解が進んでいません。本当は報告しなければならないが午後二時までに戻らなければ息子さんを処罰します。」
フォイルはサムの家に行きアンドリューをパブに連れていきました。フォイルはアンドリューにスコッチを買ってやりました。
「知ってたんだ。サムとのこと。ごめん。父さんの運転手だ。」
「魅力的だから惹かれて当然だ。中佐が会いに来た。戻ってこいって。二時までに戻れば。先日先の大戦に出征した人と会った。逃げたくて自分の足を撃ったと。当時なら銃殺ものだっただろう。だがターナー中佐のようにお前のことを理解している人もいる。お前のような症状を戦争神経症と言っていた。体がやけどをするのと同じ心の火傷だ。サムと中佐、私たち三人はお前の最善を願っている。」
「僕はドレークを殺した犯人を知っている。ウッズはドレークのせいだ。殺してやりたかった。」
アンドリューはレン医師がドレークを殴ったところを見ていました。
「ドレーク、人の妻に手を出すな。」
レンはドレークを殴りました。
スマイズ大佐はロンドンに帰るとジェイミソンに言いました。
「報告書はもう出した。ジェイミソンは傲慢なうえ規律を守らず病院運営には自己流を貫いている。しかし結果を出し患者たちから深く感謝されていると。だからこれからも安心して治療を続けてくれたまえ。もう私のような邪魔者が口を出すことはないだろう。幸運を祈る。」
「感謝します。」
スマイズ大佐は出発しました。
ヘイスティングズ警察署。
フォイルはピーター・プレストンが書いた住民登録の報告ををくれるようにリバースに言いました。
フォイルとミルナーはレンに真実を話すように促しました。
「私がドレークを殺しました。でも最初から殺すつもりじゃなかったんです。彼は妻と浮気していた。人間として最低です。私はコンサートを抜け出し問い詰めようと思っていました。でも顔を見たらかっとなり抑えきれず石を拾ってしまった。でも殺すつもりはなくて痛い目に遭わせるだけだった。彼はまだそのとき息をしていました。情けなくなって走って逃げました。」
「話してくださってよかった。実は先生は見られてたんです。どうやらドレークは町の半分の人間から命を狙われていましてね。たまたま先生が先についたんです。」
「申訳ありませんでした。自分でも何が何だか。どうかしてました。」
レンは泣きました。
「死因は何だと思います?」
「たぶん頭蓋骨が折れたんじゃ。」
「おぼれたんです。」
「頭の傷は致命傷ではありませんでした。肺に水がたまっていたんです。」
ミルナーはレンに言いました。
「ドレークを殴ったのは水場じゃなかった。なら・・・」
「容疑者から外れます。せいぜい暴行罪か・・・殺人未遂か。レン先生には借りがありますからね。レン先生がいねければミルナーは今ここにはいないでしょうから。先生を御見送りしろ。」
「帰っていいんですか?」
「わかりました。喜んで。」
フォイルは部屋を出ました。
空軍基地。
ターナー中佐はアンドリューを呼びました。
「待ちわびたぞ。フォイル。今朝ウッズと話をしてきた。快方に向かっている。失明は免れた。皮膚は移植手術を受ける。婚約者がついているのも心強い。しかし君は、そろそろ潮時だ。将校訓練部隊に移り若手の指導をしてくれ。この人事は前から決めていたんだ。君が勝手に休暇を取る前から。もう出撃しなくていい。今までよくやってくれた。君の成長をほんとに嬉しく思っている。ここに来たときの生意気な若者が今や優秀なパイロットだ。精神的にも強くなり素晴らしい戦果を挙げた。寂しくなるよ。君がいなくなると思うと。明朝デブデン基地の第605中隊へ。同時に進級して大尉になる。幸運を祈る。」
「はい。」
アンドリューは帽子をかぶるとターナー中佐に敬礼しました。
ヘイスティングズ警察署。
フォイルとミルナーはピーター・プレストンを呼びました。
「話というのは君の殺害への関与だ。ドレークを殺したのは君だろ。動機は何だ?よく知ってるだろ。」
フォイルはプレストンに言いました。
「は?会ったことはない。」
プレストンはとぼけました。
「義理の弟だろ。君がピップだね。ピーター・イアン・プレストン。イニシャルを取ればPIPだ。君はお父さんに瓜二つだ。妹さんはたれこんではいないよ。少なくとも意図的には。」
「確かに。私の実の妹です。コンサートの夜、妹に会いに行きました。やつはいないと思った。」
その夜ドレークは水場の前でもがいていました。
「まさに願ったり叶ったりだ。君はドレークの頭を水に突っ込むだけでよかった。容疑はレン先生にかかるから。」
ミルナーはプレストンに言いました。
「妹は虐待されていた。殺さざるを得なかったのです。妹のために。私はどうなっても構いません。よかったです。あいつが死んで。」
プレストンは白状しました。
空軍基地。
「手紙を書くよ。金はあるか。今の気持ちは?」
フォイルはアンドリューに言いました。
「もう終わり。僕の人生であんな体験はもうできないだろう。」
「でもお前の人生は続く。お別れの順番待ちがいるぞ。」
「じゃあ行ってくる。」
「さよならは嫌い。」
飛行機の下でサムはアンドリューに言いました。
「デブデンに行くだけだよ。そう遠くはない。手紙書くよ。週末もあるし。」
「元気づけようとしないでアンドリュー。」
「じゃあ。父さんを頼む。」
「支えあってがんばる。」
「幸運を祈る。」
「あなたにも。」
サムとアンドリューは口づけをしました。
フォイルとサムの会話。
「大丈夫?」
「大丈夫です。すべて問題ありません。」
「寂しくなる。君は?」
「寂しいです。すみません。こうなるつもりはほんとになかったのに。」
「わかるよ。私に似ていい男だからね。」
「おっしゃる通りです。」
アンドリューはスピットファイアに乗り飛び立ちました。
感想
とうとうサムとアンドリューの恋がフォイルにばれてしまいました。殺されたドレークは屑で犯罪者で死んで当然と思われていました。ミルナーがレンに脚を治してもらったというエピソードは今回はじめてですね。アンドリューはターナー中佐にかわいがられていたおかげでPTSDが重症化せずにころりと治ってしまいました。ああなったらそんなに簡単に治るはずがないのですが・・・ドラマですからね!ストレスや騒音、緊張にさらされると短期間でも脳神経が炎症を起こすことは70年後のいまでも知らない人も多いみたいですね。いつになったら世の中がよくなるのでしょうか、人類の精神的な進歩はかなり遅いようです。