王と妃 113話 ユ・ジャグァンの計略
あらすじ
粋嬪ハン氏は王大妃ユン氏の前で涙を泣いて世祖への焼香の許しに感謝しました。
「大上王殿下と王大妃媽媽から受けた御恩の深さも忘れ身勝手なことをしてしまいました。」
粋嬪ハン氏は泣きました。
「確かに腹の立つこともたくさんあったわ。そなたの言い分を聞いていると私がまるで懿敬世子の継母のように聞こえた。懿敬世子の死を悲しんでいたのはあなただけではないのよ。人にとって最も悲しいことはわが子に先立たれることなの。そなたは子を失いはせぬかと不安なのでしょうが私は実際に子を亡くしたわ。そのうえ世孫も二人亡くした。」
「媽媽。媽媽の悲しみは私にもわかります。ですが子を亡くされたからこそ私の無礼もお許しくださると思っておりました。夫を失った悲しみには耐えることができます。ですが子を失う悲しみには耐えられそうにありません。だから私は媽媽を尊敬してまいりました。息子の死をしっかり受け止められましたもの。きっと媽媽のお心には慈悲の大海があるのでしょう。」
「もうおやめなさい。すべて水に流しましょう。そなたも私も夫を亡くした寂しい身なのに反目しあってもよいことはないわ。今後は互いに支えあいましょう。」
「お義母さま・・・。」
「近くへ来なさい。さあ。手を握らせてちょうだい。」
「お義母さま・・・。」
王大妃ユン氏と粋嬪ハン氏は手を取り合いました。
「おかあさま。早くこうなっていたら渡しも寂しい思いをせずに済みました。媽媽に近づこうとするたびに私には媽媽が越えられぬ山に思えたものでした。」
「そうね。早くこうすればよかった。」
「おかあさま・・・・・・。」
「娘よ。泣くのはおやめなさい。」
「娘と言ってくれたのですか。」
「先王様もそういってたじゃないの。」
「おかあさま・・・・・・。」
海陽大君は母に会いに来ましたが部屋の中からハン氏の声が聞こえたので立ち聞きしていました。
「誰にも私とおかあさまの仲を裂くことはできません。悪鬼が引き裂こうとしても私はおかあさまだけについてゆきます。」
「誰も私たちの仲を引き裂いたりしないわ。」
「月山君と乽山君をお母さまにお任せします。どうかお守りください。月山君と乽山君にはすべて媽媽に従うよう言い聞かせます。私は頭を丸めて部屋に入り仏の道を進もうと思います。」
「何を言うの。誤解も解けたことだし幸せが待っているわ。」
「今までの行いを思えば私など天罰がくだってもよいくらいです。
海陽大君(睿宗)は感動して立ち去りました。しかしその足は腐っており杖をついていました。
「私にも落ち度があります。私にも反省すべき点がたくさんあります。」
王大妃ユン氏は粋嬪ハン氏に言いました。
「ご自分を責めるのはおやめください。いっそ厳しくしてくださるほうが気が楽です。だからおかあさまに近寄りがたかったのです。」
「私もあなたに近寄りがたかったわ。あなたは賢すぎていい気分ではなかったわ。私は四書どころか文字もろくに書けないわ。世宗大王の訓民正音が少し読める程度よ。」
「おかあさま。女に四書が読めても何になりましょう。実家の父は私が本を手にするたびに感心だとほめてくださったので知らずに本が読めるようになったのです。」
「娘や。私に力を貸して。何事も私に相談をという朝廷からの助言に従い殿下は私に様々な問題の内旨を求めるでしょう。そなたは文字が読めるもの。私よりも的確な判断ができるわ。それに眠れぬ日々が続いているの。」
粋嬪ハン氏が部屋を出るとハン氏は厳しい顔つきになりイム尚宮に目配せをしました。粋嬪ハン氏はすでに大妃になったつもりで内官を見下していました。粋嬪ハン氏が殯宮に行くと睿宗は朝も夜も哭泣しているというのでした。粋嬪ハン氏は睿宗の足が悪いことに気が付きました。王大妃の部屋の前には粋嬪ハン氏の手下の尚宮が常に見張っておりユン氏と側近の言動は筒抜けになりました。
粋嬪ハン氏の邸宅には高官の妻たちが祝いに集まっていました。
ハン・ミョンフェの妻ミン氏は夫になぜ粋嬪ハン氏と再び親しくするのか尋ねました。
ヒャンイはユ・ジャグァンが亀城君とナム・イを憎んでいると粋嬪ハン氏に報告しました。粋嬪ハン氏はユ・ジャグァンの卑しい身分を問題視していました。
粋嬪ハン氏はユ・ジャグァンと寺で密かに会いました。
「私はひねくれた人間でございます。」
ユ・ジャグァンは粋嬪ハン氏に言いました。
「お義父様(世祖)は粛清を行うに当たりハン・ミョンフェをこの寺に呼んだわ。」
「上党君が寺で殺生を論じたという逸話は私も伝え聞いております。」
「そなたも殺生を論じると?」
「私はこの世が覆る様を見たいのでございます。まずは官職を斡旋している高官をお調べください。出世を狙う者どもが財物を持参し高官の部屋を訪ねています。斡旋の事実をつかめば弱みを握れますので皆粋嬪様に協力するはずです。その後で私がもう一度世間を覆します。」
粋嬪ハン氏は仏に拝礼しました。その目つきは鋭いものでした。
「そなたが首陽大君の供をしてキム・ジョンソの頭をかちわった者か。大した度胸だ。」
ユ・ジャグァンは元奴婢で首陽大君の使用人だったイム・ウンに言いました。イムは懐に手を当て武器を抜こうとしました。
「心配するな。そなたが怖くて粋嬪様を裏切ることなどできぬ。はっはっはっは。」
ユ・ジャグァンは笑って寺を出ましたがその額は冷や汗でにじんでいました。
「はっはっはっは。怖いのも無理はなかろう。あのキム・ジョンソを殺した男だ。彼の手にかかればそなたもひとたまりない。」
ハン・ミョンフェはユ・ジャグァンの話を聞いて国法で禁止されている酒を飲みながら笑いました。
「私も武術の自信はございます。」
ユ・ジャグァンはハン・ミョンフェに言いました。
「わかっておるとも。先王様の目の前で宮殿の屋根に飛び乗ったとの噂もある。」
「腕に覚えのあるこの私でさえあの男の眼光には背筋が凍りました。」
「情けないことを。はっはっは。そなたが望むので粋嬪様を紹介してやったが肝に銘じておけ。そなたが掴んだのは栄光への道でなく虎のしっぽだとな。」
乽山君は殯宮の前で睿宗に会いました。
「殿下。今日からは殿下のお傍につかせてください。苦労だとは思いません。」
粋嬪ハン氏は奔業(プンギョン。官職を得るために権力者の屋敷を訪ね歩くこと。)の禁止を王大妃ユン氏に話しました。
「殿下の威厳を示すときです。」
「そうしましょう。」
粋嬪ハン氏は乽山君が睿宗にうまく取り入っていることに感心しました。
睿宗は足がとても痛そうでした。
ハン・チヒョンはユ・ジャグァンは信用ならぬことだと粋嬪ハン氏に言いました。粋嬪ハン氏はユ・ジャグァンの歪んだ復讐心に気が付いていました。
王族は奔業(プンギョン)が許されたが高官は官職の斡旋を禁止していました。
亀城君のもとにも身分を開放してほしいとわいろを持ってきた男がいましたが亀城君は義禁府に連れていけと命じました。臨灜大君は開放してやれというと亀城君は今日だけは許してやると言いました。亀城君の家を追い出された奴婢は義禁府の役所に連行されると亀城君は焦りました。
奔業(プンギョン)を行う奴婢などは摘発されました。斡旋していたキム・ジルはハン・ミョンフェに助けを求めました。
「なんてことだ。しまったぞ。シン・スクチュは王命を知らん。」
ハン・ミョンフェがシン・スクチュに会うと「実に面目ない」とスクチュが漏らしました。
「恩を受けた功臣が私腹を肥やすなど言語道断です。」
王大妃ユン氏は厳しく睿宗に言いました。
感想
ユ・ジャグァンは何がしたいのかな。ナム・イを陥れることがどうしてユ・ジャグァンの利益になるというのでしょう。結局汚い者同士が群れて権勢を得たいだけではないでしょうか。粋嬪ハン氏は王大妃と睿宗への親しみのかけらもないし、本能剥き出しの獣です。悪人であるほどおいしい思いができる世の中なので、治安は悪そうですね。