王と妃 117話 睿宗倒れる
あらすじ
睿宗即位年の11月24日。
実録によると世祖の遺体は丑の刻に出棺されました。
世宗大王の次男に生まれた世祖は幼い甥から王位を奪い取り歴史に汚名を残しました。そして首陽大君はついに王宮から姿を消しました。朝鮮王朝第七代王として太宗と並び強権を振るった君主でした。王位簒奪をしたが朝鮮王朝五百年の礎を築いた人物でした。権不十年との言葉通りでした。世祖は強力な王権を確立しましたが早くも次の代で勲旧大臣らに権力を握られ世祖の努力は無駄になりました。世祖の王権強化は虚しい試みだったのかもしれません。だが強い君主とはいかなるものか。君主が絶対的な権力を持つと独裁の弊害が生じますが一方で道理にかなっているといえましょう。なぜならば政権が勲旧大臣らの手中に落ちた世祖以降の朝鮮王国は両班階級による収奪の歴史だったからでした。絶対王権の確立を目指した首陽大君の政治はある意味正しかったのでした。
(ナレーション終わり)
ハン・ミョンフェの側女のヒャンイに呼ばれ大殿の御医のキムは屋敷に訪れました。
「私はこう見えても権勢を誇る上党君大監の妾よ。」
ヒャンイは言うと金銭を投げました。
「孫の代まで贅沢に暮らせる金銀財宝が入ってるわ。受け取って。命をかけても惜しくないほどの額よ。いくつかの質問に答えるだけでいいの。」
「いいでしょう。殺されればそれまでだ。何が知りたくてこんな財物を私にくださるのですか。質問とやらをしてください。」
「近頃、殿下のご様子は?先月は政務もお休みになっていたとか。」
「私が政務のことなど知るよしもありません。」
「大殿の御医なのに知らないの?」
「そ・・・それは・・・その・・・。」
「殿下はお加減がすぐれないのね。」
キムは受け取った財宝を懐から出し返しました。
「私はこれで失礼します。」
「どうせ無事では済まないわ。殿下のご病状を知りたがっているお方が激怒なされますわ。」
「上党君の命令ですか?」
「もっとお偉い方よ。」
「どなたが殿下のご病状を知りたいというのだ?」
ハン・チヒョンは王大妃ユン氏と粋嬪ハン氏の仲がよい様子を見て安心しました。
王大妃ユン氏は王妃の生んだ赤ん坊を抱いて「今度は健康に育てなければ」と言うと粋嬪は冷たい目を赤子に向けました。
ヒャンイは御医のキムに酒と食事を振る舞いました。キムはすっかり酔っぱらってしまいました。
「こうなったらすべて申します。殿下の足の発疹は世子時代に発病したものです。」
「そのことは知っていますわ。」
「膝のところまで壊疽しています。発疹がしだいにひどくなり上に上がったのです。経穴が止まり血の流れが悪いのです。近頃は見るに堪えずおいたわしい限りです。」
王妃ハン氏は長男に粋嬪に挨拶されました。
「斉安大君(チェアンテグン)は本当に堂々としておられますわ。」
粋嬪ハン氏は王妃ハン氏に言い涙を流しました。
「どうして泣いておられるのでうか。理由をおっしゃってください。」
「懿敬世子を思い出して・・・。」
「懿敬世子様がご存命なら王妃になられていたはずです。そのことを思うと申訳ない限りです。」
「そんな意味ではありません。」
「王妃の座は私には分不相応かと。」
「懿敬世子様が哀れで泣いたのです。墓守がおらぬせいで草木が生え盛り土が崩れていました。お墓を守る月令官(ウォルリョングァン)を廃止したからです。」
「誰が墓守を廃止されたのでしょう。」
「殿下が墓守を廃止されたのでは?」
「まさか殿下が・・・直接殿下に申し上げてみては?殿下はその件はご存知ないはずです。昌徳宮に行ってみてください。近頃はそちらにおいでです。会ってくださいますとも。」
粋嬪ハン氏は昌徳宮に行きました。
「あの・・・どうなりましたか・・・。(殿下の病気を)よく見てきてください。」
ハン・チヒョンは笑いました。
「逆賊の妻子や側室は奴婢として功臣に与えるのが慣例ではないか。それなのにその奴婢を返せだと?それではこの国の綱紀が乱れてしまう。一体誰がそう言ったのだ。見つけたらただではおかんぞ。」
ヨン・ユンソンは威張りました。
「左相(チャサン、左議政)大監。」
「ハン殿ではないか。」
「左相(チャサン、左議政)就任をお祝い申し上げます。」
「別に左相(チャサン、左議政)など珍しくもない。上党君は二回も領相(ヨンサン、領議政)になったのですぞ。」
「次はきっと領相(ヨンサン、領議政)になられますよ。」
「あの人が領議政の座を譲ってくれるのか?」
「上党君は領相(ヨンサン、領議政)の座を辞職するそうです。」
「あの貪欲な人が?墓の中まで領議政の椅子を持っていくだろうよ。」
「はっはっはっは。私より長生きするつもりなのだな。いっひっひっひ。とんでもない。私と違いホン・ユンソンは六十になる前に死ぬだろうな。酒と女に溺れているからな。」
ハン・チヒョンの報告を受けてハン・ミョンフェは笑いました。ハン・ミョンフェは粋嬪様にも都合が悪いのでいったん領議政を辞職すると言いました。
「ユ・ジャグァンは主人にも噛みつく犬だ。近しくしてはいかん。」
「粋嬪様もご存知です。猛犬は痛めつけてやらねばな。はっはっはっはっはっは。」
昌徳宮。
粋嬪ハン氏は睿宗に会いました。ユ・ジャグァンも部屋に同席していました。粋嬪ハン氏は誰が墓守を廃止したのかと言うと礼曹判書が慣例に沿い王族の墓には墓守は置かぬのでそう決めたのだとユ・ジャグァンは言いました。睿宗はユ・ジャグァンは人情的に間違っていると言いました。粋嬪ハン氏はもう結構ですと言いました。ユ・ジャグァンは特別に王命を下しては?と睿宗に言うと睿宗は懿敬世子の墓に墓守を置く命令を下しました。粋嬪ハン氏は大妃殿にもなぜお行きにならないのかと睿宗に尋ねるといろいろあってなと睿宗は病気を隠しました。
「挨拶には伺うべきですわ。」
粋嬪ハン氏は睿宗に言いました。粋嬪ハン氏はホン内官を睨むとホン内官は視線をそらしました。
「私の許可なく誰も通すなと言ったのに。」
ユ・ジャグァンはホン内官を叱りました。粋嬪ハン氏は別の配下の内官を見ましたが彼もまた粋嬪から目をそらしました。睿宗は元気な振りをするのに疲れて倒れこんでしまいました。
「今日は・・・死ぬ思いをした。」
睿宗は言いました。
「粋嬪様が長居されたので疲れたのでしょう。」
「私が義姉上を騙し大妃媽媽をだまし続けるのがつらいのだ。」
「殿下。必ずご回復なさり政務に復帰できます。それまではご病状を悟られてはなりません。」
「亀城君に会いたい。亀城君を呼んでもよいか?」
「殿下。殿下のご病状が外に漏れれば何が起きるかわかりません。」
「そなたを信じてよいのだな。私はそなたを信じて間違いないのだな。」
「私は忠誠を尽くすにみでございます。」
「だからナム・イを告発したのか。」
「そうでございます殿下。昨日まで粋嬪と上党君が手を組んでいても今日には敵となりうるもの。殿下のためならなんでもいたします。」
「父上は・・・困ったことがあれば亀城君やナム・イやユ・ジャグァンに相談せよとおっしゃった。だがナム・イは死に亀城君は功臣たちに弾劾され謹慎している。」
睿宗は涙を流しました。
「私がいるではありませんか。」
「そなたが私を守ってくれるのか?」
「私は殿下を害そうとする者がいれば誰であろうと始末いたします。殿下をお守りするためならいかなる残虐な行為も厭いません。殿下。私を信じてください。」
どこかの寺のお堂の中。
粋嬪ハン氏はハン・ミョンフェと会いました。
「注意深く観察しましたが殿下は病人には見えませんでした。大殿の御医によると足は壊疽を起こしているそうですがそんな人が長時間座っていられるでしょうか。痛みを我慢していたのなら殿下は並の人間ではありません。おとうさま(世祖)が言っていた獣のような心境で王位を欲しているというその気持ちが今わかりました。私は人の革をかぶった獣の目で殿下を見ていました。私の目の前で倒れろ。殿下も感づかれたはずです。私の呪いに満ちた視線に気づかぬはずがない。私もそれを隠そうとはしなかった。私が獣のように思えます。私を大妃にしてください。息子が王位に就いたら上党君に王に劣らぬ力を与えましょう。約束します。私を大妃にし息子を王にしてくだされば望むものは何でも差し上げます。約束します。はあ。はあ。はあ。」
粋嬪ハン氏は大日如来に手を合わせ何度も床に平伏しました。
「ゆっくり食べなさい。こき使われていたのね。」
ハン・ミョンフェの妻ミン氏は奴婢の少女に食事を与えていました。
「奴婢を部屋に入れるなんて。」
ヒャンイは言いました。
「この子が奴婢に見えるというの?」
「私には奴婢にしか見えません。」
「クォン・ラムの娘婿の子よ。」
「父親の罪で逆賊の娘に成り下がった奴婢ですわ。」
「大丈夫よ。気にせず食べなさい。」
ヒャンイが部屋を出るとナム・イの妻が泣く泣く床を拭いていました。
「これからは私が面倒を見てあげるわ。」
ミン氏は幼い娘に言いました。
「恐ろしい方だ。今日会って改めて恐ろしい方だと思った。私など粋嬪様に比べれば無力な赤子も同然だ。」
ハン・ミョンフェはヒャンイに言いました。ヒャンイは睿宗が粋嬪と会った後病床に就いたと報告しました。
睿宗は元気よく歩いて王大妃の部屋を訪問しました。睿宗は足は治ったと元気そうに言いました。王大妃が心配すると挨拶に来ず申訳なかったと睿宗は母に言いました。
「会わぬ間にずいぶんやつれましたね。」
亀城君は家で酒を飲んでいました。ユ・ジャグァンは「私を恨んでいるか」と亀城君に尋ねました。亀城君はおかげで重責から解放されたと言いました。ユ・ジャグァンは睿宗が亀城君に会いたがっていると言いました。
「そなたのねつ造であろう。ナム・イが謀反をたくらむものか。」
「殿下はかなり前から病に伏しておられます。もって一年かと。」
「何が言いたい。」
「もっと早いかもしれません。」
「イノミ!」
「万が一殿下が亡くなれば誰が後を継ぐのでしょう。」
「イノミ!」
「斉安大君(チェアンテグン)様は幼く世子ではありません。粋嬪の子ではありませぬか。」
「それはならぬ。」
「世祖は世宗大王のご子息であり文宗大王もまたご子息でした。場合によっては臨灜大君も王になりえたのです。」
「黙って聞いていれば貴様は私を地獄に落とすつもりか。」
「亀城君様は臨灜大君様のご子息であり世宗大王の孫の中で最も優秀な・・・。」
「ネイノン!」
亀城君はユ・ジャグァンの顔に酒をかけました。
「貴様は謀反をでっちあげてナム・イを殺し今度は私を殺す気か。今すぐ私の前から失せろ!」
「亀城君様。はじめて亀城君大監にお会いしたとき私はこの方だと思いました。臨灜大君様が王位に就いたなら臨灜大君様も王になる資格があったはず。首陽大君の子の代わりに臨灜大君様の子が君主になられても・・・。」
「貴様!」
亀城君はお膳をひっくり返して怒りユ・ジャグァンを追い出しました。
ユ・ジャグァンは汚れた服をぬぐい帰りました。
亀城君は臨灜大君の臨終の床を思い出していました。
「欲は捨てろ。私は一生身を低くして生きてきた。私のすぐ上の兄上である安平大君は身を低くすることを知らないせいで無残な最期を遂げられた。ジュンよ。肝に銘じなさい。お前はとても優れている。だから安心して私は死んで逝くことができない。兄上はお前を重用なさっていた。私はお前が殺されるのではないかと心配している。幸いお前は領議政を任された。自重しなさい。私よりももっと身を低くして生きなさい。そうすればわが家門は滅びることはないだろう。分かったか?私が死んだら葬儀は静かに執り行いなさい。もし私の葬儀を盛大に行えばお前が野心を抱いていると誤解されるだろう。お前が今味わっている屈辱をありがたく思いなさい。お前は王族だ。屈辱に感じることがあっても自分の身を守るためと甘受しなさい。上党君と対立するな。粋嬪とも対立するな。そなたの知恵と力では彼らには太刀打ちできぬ。彼らと対立すればわが家門は必ず滅びてしまう。今以上に身を低くしなさい。世祖は言っておられた。死んだら木に生まれ変わりたいと。私は道端の物乞いに生まれ変わっても構わぬ。王室・・・王室にだけは・・・二度と生まれたくない・・・。」
「ふっはっはっは。首陽叔父上は幼い甥を殺して王位に就かれました。どうして私では駄目なのですか。はっはっはっは。はっはっはっは。」
亀城君は悔しそうに笑いました。
粋嬪ハン氏の部屋。
「私は物乞いに生まれ変わりたいです。落ちぶれた王族が生き残れぬとか。来世は物乞いに生まれて気楽に生きたいです。」
月山君は粋嬪に言いました。
「人に施しを受けるなら死ぬほうがマシよ。」
粋嬪は息子に言いました。
「乽山君も兄上と同じ考えなの?」
「私は生まれ変わっても母上の息子に生まれたいです。」
「謀反人の息子だとしても?」
「それでも構いません。母上の望みを叶えられるなら私はいっこうに構いません。」
「死ぬことになっても私を恨まないの?」
「恨みません。」
「約束できるわね。死んでも私を恨まぬと。」
「はい母上。ご安心ください母上。私が必ず王位に就いて母上の望みをすべて叶えて差し上げます。」
部屋の外で聞いていた従者たちは泣きました。
夜の王宮。
パク内官は大妃殿まで走り王大妃に睿宗が祈祷中に気を失ったと言いました。王大妃が睿宗の部屋に行くと睿宗はチョン内官に支えられ苦しそうに座っていました。
「母上。父上は座って亡くなられたのに私が横になることはできません。
「主上!」
感想
睿宗はほんとに苦しそう!演技がうまいのかとても苦しそうで・・・・。そして乽山君は早くも悪に染まり・・・悪の道を進む決意でいるとはなんて悪い子なのでしょう(笑)亀城君にもチャンスがあったのに、立場的に領議政になった首陽大君と同じですよね。もし亀城君が兵曹判書のナム・イと手を組んで同時に立ち上がっていたら世祖とほとんど同じ手法を使い睿宗亡き後に王になれたでしょう。亀城君にも王位簒奪の機会があった。しかし亀城君にはハン・ミョンフェのような手下がおらず、早くも手下であるナム・イを殺されてしまいましたから粋嬪ハン氏たちが亀城君を警戒していたことは明らかですね。亀城君の悔しさを知っているかのように臨灜大君の臨終のお言葉。ナム・イを殺されたことで亀城君には機会がなくなってしまったわけなのですね。ユ・ジャグァンはろくでもないやつだとハン・ミョンフェたちからも思われています。