刑事フォイル第13話 軍事演習(前編)
刑事フォイル13話あらすじ プロローグ
ウォーカーは車からドアマンに手伝ってもらい降り、建物の18階に行きました。18階のエレベーターの前でフィービーがウォーカーを出迎えました。「おはようございます。実は・・・。」
フィービーは言葉を遮られました。
「あとにしろフィービー。」
「全員揃っているか。」
「はいお揃いです。」
アグネスはウォーカーに言いました。
「サイモンは?」
「先ほど空港にお着きになりました。」
「よし。今すぐサイモンに会いたい。」
「お部屋におられます。」
「そうか。(アグネス・)ブラウン君。今朝の会議の議事録は君にとってもらいたい。」
「かしこまりました。」
朝の会議。
「この会議の記録は最小限にとどめる。備忘録は社の弁護士に預けるつもりだ。できれば記録は残したくない。しかし戦争が終わったあとわが社のヨーロッパ戦略は役員の総意だったと示す必要があるかもしれない。だから全員一致を記録に残す。よって今日の出席者は注意深く選んだ。中には違う意見の者もいたからね。言わなくてもわかっているだろうが今日話し合われることは他言無用だ。いつも言っているが絶対にもらすな。では息子のサイモンが説明する。サイモンは今朝スイスから戻った。近頃は行き来も難儀だ。」
ウォーカーはサイモンに説明させました。
「書簡を持ち帰った。チェンバレンがミョンヘンから持ち帰った書簡と違ってこの書簡にはちゃんと価値がある。簡単にいうと今回の合意によって我がエンパイアアンドヨーロピアン食品はヨーロッパ最大の油脂加工会社になれる。戦時中も戦後もだ。どっちが勝っても関係ない。わが社の負けはなくなった。」
会議の出席者はサイモンの発言に拍手をしました。
アグネスは席を立ちました。
「ヘイスティング1456番号を。アグネスです。手短に言います。彼が今朝スイスから帰国。あなたの言った通り書簡を持ち帰りました。手に入れられると思いますけど急がないと。今夜。八時に。いつもの場所で。」
アグネスの後ろから何者かが迫ってきました。
「キャアアアアアーーーーーーーーーーーーッ!」
ビルからアグネス・ブラウンが転落して死にました。
本編あらすじ
裁判所。
「ミルナー巡査部長。逮捕したのはあなたですか。」
弁護士はミルナーに質問しました。
「はいそうです。」
「発見したときの遺体の状況は?」
「二人が働いていた窯元の更衣室の床に倒れていました。首をベルトで占められて殺されたんです。」
「私の依頼人を逮捕した根拠を手短にお聞かせ願いませんか。」
「被害者と激しく言い争って脅していたからです。」
「それは根拠として弱くありませんか。ではベルトを見せていただけますか。」
ミルナーはベルトを差し出しました。
「これが、使われたベルトですか。あなたはもちろん指紋を調べましたよね。でも依頼人の指紋はひとつもなかった。私に言わせてみれば殺人事件などではありません。男性は自分で椅子に上ってベルトで首を吊ったのです。更衣室にあったベルトならどのベルトでもよかった。椅子から飛び降りた拍子に椅子も倒れた。」
「指の皮がすりむけていました。」
「三日後に遺体が発見されたときにはねずみがたかっていたとおっしゃいましたね。では手の傷はねずみによるものじゃないですか?ミルナー巡査部長。」
「いいえ。そんな傷ではありません。」
「あなたは医師の資格を持ってらっしゃるのですか?」
「いいえ。」
「質問は以上です。」
裁判所の階段。
「いいようにやられました。」
ミルナーはフォイルに言いました。
「君はやれることをやったと思うよ。」
フォイルは階段を降りながらミルナーを慰めました。
「奴はクロです。」
「陪審員はわかってくれるよ。」
「あの弁護士をこらしめてやりたい。」
「ほら。チャンスが来た。」
「ああ、クリストファー。」
先ほどの弁護士が親しげにフォイルに声をかけました。
「スティーブン。衰えていないな。」
「ほめ言葉として受け取るよ。」
「紹介はもうしなくていいな。」
フォイルはミルナーに言いました。
「恨まないでくれよ。」
白いカールのかつらをかぶったスティーブンはミルナーに言いました。
「評決を待ちましょう。」
「ああ。まあね。今週末は釣りに行けるか。」
「店に魚はほとんどないし。」
「自分たちで釣りに行かないと。」
「そうだな。じゃあ。」
「お知り合いですか?」
ミルナーはフォイルに尋ねました。
「実はそうなんだ。言わなくて悪かった。」
警察署にフォイルとミルナーは帰ってきました。
「ほら、いらっしゃったぞ。自分で聞け。」
受付の壮年の警察官は四人の小さな子供たちに言いました。
「こんにちは。フォイルさん。」
男の子はフォイルに挨拶をしました。
「やあ。ブライアン。あーごめん。また忘れてた。」
「封筒一枚で薬莢の部品50個を作れるんだ。」
ブライアンはフォイルに言いました。
「ああ。知ってるよ。ブライアン。」
フォイルはブライアンに言いました。
「これもいい?」
ティムは非常用のバケツを持っていこうとしました。
「ティム。それはダメ。」
サムは言いました。
「でもアルミはね。ファイアに使われるんだ。」
「バケツを持っていったら署が火事になったらどうする。」
受付の警察官はブライアンに言いました。
「たくさん集めて優勝すればチョコがもらえるんだ。」
ティムは言いました。
「お国のためにもなるし。」
ブライアンは言いました。
「また明日いらっしゃい。明日までに紙を集めてくるから。」
サムは子供たちに言いました。
「朝ごはんのあとの十時でいい?」
「待ってる。」
「やった。」
「じゃあな。またな。」
フォイルとミルナーと受付の警察官は子供たちに言いました。
「さよならフォイルさん。」
「忘れてたのはこれで二度目だ。非国民と言われるな。」
「警視正にお手紙です。国防市民軍連絡委員会のハーポート准将からです。」
先ほどの警察の事務官がフォイルに手紙を渡しました。
「演習に引っ張りこまれてしまった。」
「軍事演習?」
サムは言いました。
「正規軍も参加する。ヘイスティングズ近辺の森で数百人が撃ち合うようだ。」
「警視正もですか?」
「いいや。私は審判。法廷に明日は行けなくなった。」
「大丈夫です。」
ミルナーはフォイルに言いました。
「君ならやれる。」
どこかの脳か。
若い女性は前庭でミツバチの巣箱を開けていました。
「ルーシー。」
家の中から青年がルーシーを呼びました。
「待って今行く。」
ルーシーは部屋の中にいる兄のところに行きました。
夫はテーブルで紙切れを読んでいました。
「我慢してはちみつで食べて。」
ルーシーは兄に言いました。
「また銀行からだ。」
「ほかのと一緒に置いといて。」
「無視するつもりか。」
「だってどうしようもないじゃないの。こんな小さな農場に誰も取り立てに来ないわ。」
「CWAEC戦時農業委員会からの命令。上の農場をちゃんと耕せって。」
「なにそれ。この前注意されたの。」
「こんなきつい暮らし、おやじのせいだ。」
「やめて。そんなに悪くない。」
「もっと楽な稼ぎ方あるだろ。」
「悪い仲間に戻る気?」
「そんな意味で言ったんじゃない。」
「兄さんの考えていることくらいわかる。父さんが死んだのは兄さんのせいだから。」
「おやじが死んだのは肺炎だったろ。冬の記録的な寒さの中、朝六時から畑に行ったからだろう。こんな暮らしを続けたら俺たちだってきっとそうなる。」
「なんとかなるから大丈夫。」
軍の演習会議。フォイルも会議に参加していました。
「演習の目的は我々国防市民軍ができるかぎり敵の進軍を食い止めることにある。敵が海岸に上陸したと仮定して行う。それがどこかは演習がはじまるまで秘密だ。敵の色はそうだな、赤にする。青が我々市民軍。当日はそれぞれの色の腕章をつける。君は白だ。フォイル君。敵は正規軍だ。相手にとって不足はない。じき向こうの指揮官もくる。」
国防市民軍のハーコートは演習について説明しました。
「敵の上陸拠点がどこかわかったら、攻撃してもいいですか?」
「いいやフィルビー。我々の任務は妨害だからだ。こちらのフィルビーが副指揮官を務める。サー・レジナルト・ウォーカーとの連絡も担当する。」
「演習でウォーカーさんの土地を使わせていただくので。」
「なるほど。」
フォイルはうなずきました。
「フィルビーは彼と近しいんだよ。」
「エンパイアアンドヨーロピアンの役員なんです。」
「そうですか。ではゲームは少数の敵を相手にいわゆる上陸拠点から開始されるんですね。」
フォイルがハーコートに言いました。
「これはゲームではない。」
「でもルールを明確にしておかないと。もし道路は橋を敵に渡してしまう事態が起きたら憲兵隊が出てくるんですよね。」
「ええ。話はしてあります。」
「実弾を使うんですか?」
「限られた一部の地域だけであとは空砲を使う。」
「では憲兵隊を巡回させないと。みんなの安全のために。」
「いや大丈夫だ。地図に示してあるから問題など起こらない。私がいやなのは国防市民軍の動きが不必要に妨げられることだ。一般の車に道をふさがれるとか。」
「侵略を想定にした演習なら一般車両を排除して行っても意味がありません。実際にはヘイスティングズの北は避難民であふれるでしょう。その中で戦わなければならないのです。」
「君は審判なんだろう。フォイル君。作戦を立てるならわたしに任せろ。」
「あ。なるほど。」
「正規軍の到着だ。もっと早く来るはずだったが。こちらデブリン大尉だ。」
部屋の扉が開き、デブリンが入ってきました。
「デブリン。元気か。」
フォイルはデブリンに言いました。
「お久しぶりです。」
「こちらこそ。」
フォイルとデブリンは握手しました。
「知り合いだったのか。」
ハーコートは言いました。
「ええ。まあ。」
「近くに配置されたか。」
フォイルはデブリンに言いました。
「フランスから戻って以来、事務の仕事ばかりです。敵の砲撃でやられて。でもご心配なく。治りましたから。もうすぐ前線に復帰するはずです。」
デブリンはフォイルに言いました。
「よかった。」
「まさか演習でお会いするなんて。」
「私も、驚いた。」
「私の後任は来ましたか。」
「ああ来たよ。いいやつだ。」
「アンドリューは?」
「元気だ。今南部沿岸の飛行隊にいる。」
「ああ。素晴らしい。イズメイ将軍の直属になられる噂を聞きましたけど。」
「その話は消えた。」
「刑事として優秀だからですよ。」
「じゃあなぜ審判なんかしてるんだ。」
「それじゃあ準備がありますんで、戦闘の。」
「ああ。」
フォイルとデブリンは別れました。
農家。
サングラスをした男が農家の小屋に来ました。
ハリーは干し草を整理していました。
「マーカー。」
「ベックさん。」
「君にちょっと話があるんだ。」
「じゃあ家で。」
農家の家の中。
「そんなことをやれっていうなんて。しかもあなたが。何もなく二か月過ぎたのに。」
「二か月前に出所できたのは俺のおかげだろ。」
「わかってる。借りはあるけど。」
「大事なことだから頼みに来たんだハリー。」
「大事なこと?」
「これ以上はないぐらいのな。」
「まいったな。どうかしてるよ。俺にそんなことを頼むなんて。」
「世の中がおかしいんだ。それに合わせるしかない。」
「警察に話せば?サー・レジナルド・ウォーカー。うちの地主なの。知ってるだろう。」
「いや。それは知らなかった。」
「おやじが土地を借りて、ばかなことに作物をやめて酪農をはじめた。今は小麦は8ブッシュ45シリングが保証されてるけど牛乳は・・・・・・。俺が服役中に死んだ。」
「お気の毒に。」
「ルーシーは俺のせいだって。服役を恥じてたっていうけどそれは違う。働きづめだったせいだ。」
「やってくれるな。」
「金庫だって。」
「大型の、アメリカ製だ。」
「俺だってバレちまう。」
「安心しろ。警察に通報されることはない。」
「どうして?」
「私を信じろ。」
「考えさせてくれ。」
「時間がない。もうじき私はイギリスを出るんでね。」
「どこへ行くんだ。」
「どこでもいいだろ。私の電話番号だ。ここにかけてくれ。サー・レジナルド・ウォーカーは金持ちだ。ここみたいな農場をたくさん持っていて人に貸す。君らが必死に働いてもらう賃料でやつらは肥え太る。そんな社会のしくみもおかしい。待ってるぞ。」
男は車で去りました。
ルーシーは不審な車を見ました。
「配給手帳を忘れて。今のは誰?」
「迷ってるところで道を聞かれた。」
豪華な家。
「サイモン?」
「アリス。」
「何してるの。」
「ワインのチェックをね。」
「じゃあなぜカギをかけるの?」
「二十ポンドをするものを買ったんでね。注意するのにこしたことはないでしょう。さあ行こう。」
アリスとサイモンはリビングに行きました。
「ああ、やっと来たのか。」
レジナルドはアリスとサイモンに言いました。
「レジナルド。食堂のことなんだけど改装してみてはどうかしら。食堂の壁紙が古臭いから新しいのにしなきゃ。カーテンもあたらしくしたい。」
アリスはレジナルドに言いました。
「母は気に入ってたけどね。」
「サイモン。」
「アリス。ここはもう君の家だ。好きなようにしていい。人をよんでおこう。」
「いいえ。大丈夫。自分でやるから。忙しいでしょう。」
「ただし演習が終わるまであとに三日待ちなさい。」
「ええ。市民軍のね。」
「やつらと一緒になってうちの領地をのし歩かないでください。」
サイモンはアリスに言いました。
「二十四時間だけだ。とにかくアリス、その間は家にいろ。使用人には森に入らないよう言っておけ。実弾を使うらしい。」
「言う通りにします。」
「誰かに当たったらたいへんだ。」
夜のレジナルド家。
アリスとレジナルドは同じベッドで眠っていました。
ハリーは犬を眠らせて屋敷のカギを開けて忍び込みました。
アリスは扉が開く音に気が付きました。
ハリーはレジナルドの部屋を探して金庫を開けました。
「カチャッ」
アリスは声をあげそうになり口を押えました。
「あなた。」
「なんだアリス。」
「下に誰かいるみたい。」
ハリーは金庫の中から金の小箱を取り出しました。
物音がしたのでハリーは逃げました。
「父さん。」
「ああ泥棒だ。」
屋敷の庭。
「待て、泥棒!」
サイモンはライフル銃を撃ちました。
「しとめたか。」
「かすりはした。」
車のクラクションが鳴りました。
サムの運転する車の中。
「サー・レジナルド・ウォーカーってエンパイアアンドヨーロピアン食品の会長の?」
ミルナーはフォイルに言いました。
「そうだ。今回の軍事演習は彼の所有地で行われる。」
「通報者は家に帰る途中の防空監視員。銃声がしたと思ったら男が出てきた。でもウォーカーさんご本人の通報はなかったんです。こっちから連絡して・・・・・・。」
「それは妙だ。」
レジナルド家。
「今は大変な時だしそれでなくても忙しい警察の手を煩わせたくなかった。」
レジナルドは言いました。
サイモンは金庫が破られていたがすぐに駆け付けたので何も盗まれなかったとフォイルとミルナーに言いました。
「どっちにしろ盗るものはなかったろう。仕事の書類しか入れてない。」
「ええ。宝石は二階なんです。」
アリスは言いました。
「この金庫はアメリカ製だ。最新のタイプでレバータンブラー錠を採用。コンビネーションは一千万以上。」
レジナルドは言いました。
「となると犯人は金庫破りのプロでしょうね。思い当たるやつはいますか。この手の前科があるやつは?」
サイモンはフォイルに尋ねました。
「おっしゃるとおりでしょうね。入られたのは窓から?」
「ああ。番犬を薬で眠らせて。」
「犯人が逃げるところを撃ったんですね。」
「いえ。息子は空に向けて撃ったんです。」
「威嚇でね。当たったら嫌だし。」
「今にして思えば通報すべきだったと思う。盗られた物もないしけが人もいない。これ以上時間を無駄にするのはやめよう。」
「ふーん。では。」
「盗みに入られたのに陽気すぎる。」
フォイルはミルナーに言いました。
「ええ。威嚇なんて言ってましたけど逃げる相手に威嚇なんてしませんよ。」
「この辺であの手の金庫を開けられるのはハリー・マーカムだけだ。」
「でも何も盗まなかった。」
「ああ。出所は二か月前。デブリンが軍に入る前最後に逮捕した男だ。」
「マーカム。」
「ああ。君が来る前だ。一度会いに行ってみろ。」
「取り戻さないと。」
レジナルドはサイモンに言いました。
「そりゃ取り戻したいよな。高価なものだから。」
「あれの価値は値段だけじゃないのがわからないのかサイモン。もっと広い視野で物事を見ろサイモン。」
「犯人はあれを売ろうとするだろう。」
「さっきもフォイルは言ってた。金庫破りのプロの仕事だからプロを探すって。警察につてがあるだろう。警部はどうだ。ロンドン警視庁の。」
「あたってみる。」
「不愉快な思いをさせて悪かったな。」
レジナルドはアリスに言いました。
「それにしてもどうして通報しなかったの?」
「しなくたって向こうから来たじゃないか。」
「何か盗られたの?」
「盗られてない。私は嘘はつかん。心配するな。もう終わったことだ。さあ。昼食にしよう。」
農家。
「どういうことか説明してよ兄さん。足を洗ったんじゃなかったの?」
ルーシーは兄を問い詰めました。
「洗ったよ。」
「じゃあ昨日の夜はどこで何をしていたの?」
「ルーシー頼む。ああ。」
「ケガしてるの?見せて。」
「大丈夫だよ。たいしたことない。」
「兄さん。なんなのこれ。」
「遠かったから助かった。」
「座って。」
「え。でも。」
「だってお医者さんを呼べないでしょ。」
「なあ。友達から頼まれたんだよ。失敗したんだよ。」
「泥棒に入ったの?」
「盗む気なんてなかった。なかったけどあれがあればこんな暮らしから抜け出せるかもしれない。売った金で人生やり直そう。」
「私はここでいい。」
「よくないよ。」
「早く座って。はあ。兄さんなにこの傷。ひどい。それで何を見つけたの。」
ハリーの背中の左肩には散弾が刺さっていました。
「それは言えない。」
「どこなの。」
「友達にあずかってもらってる。」
「どんな友達?」
「それは言えない。働き者で、信用できるやつらだ。」
「また適当なことをいって。また盗み始めたらこの家から放り出すから。謝ったってだめ。」
「ああっ。」
ルーシーが針で散弾を取り出そうとするとハリーは痛がり声をあげました。
「しーっ。」
川。
「ミルナー君は私を許してくれたかな。」
スティーブンはリールを巻きながらフォイルに言いました。
「彼を過小評価なんかしないほうがいい。」
フォイルはスティーブに言いました。
「過小評価なんかしていない。」
「この前デブリンに会った。」
「もと部下の?」
「今は大尉だ。第七機構師団の。」
「デブリンならよく覚えている。興味深い青年だったからな。」
「全然かからない。」
「いやぁそのほうがいい時がある。魚がかかったら何とかしないとならないからな。」
「何を使ってる?」
「ミディアム・オリーブニンフ。」
「本で読んだんだな。」
「毛ばりを使っている。毛ばりに対するマスの行動。妻が買ってくれた。はじめての結婚記念日に。」
「まだドイツにいたころ?」
「そうだ。ロンドンから取り寄せてね。国を出たのは35年だった。きな臭くなってきてね。釣りはいいね。でも人類が発明した中では最高の時間の無駄遣いだな。」
「言えてるね。ビール。」
「ビール。魚釣り。夕暮れの光。イギリスを離れる時が来たらこの三つは恋しいだろうな。」
裁判所の階段。
「ベックさん。」
ハリーは神妙な面持ちでスティーブン・ベックを見上げました。
「ハリー。ここはまずい。裏の階段で三十分後に。」
三十分後。どこかの階段の踊り場。
「手に入れたか。」
「いいえ。すみません。しくじりました。」
「どうしてだ。」
「忍び込んだんですけど。眠りの浅いやつらで。起きだしてきたんで、逃げてきました。」
「何も盗らずにか。」
「金庫を開ける暇もなかったんです。すみません。がっかりさせてしまって。」
「そんなこと嘘だ。」
「本当です。」
「私は三十年弁護士をやってきた。嘘をつかれたらちゃんとわかる。」
「ほんとですよ。撃たれたし。」
「でも何か盗ってきただろう。」
「何も盗っていません。」
「ハリーひとつ言っておこう。君は私のことは何一つ知らない。どんな人たちが後ろについているかも。」
「ベックさん本当です。俺は何も。」
「嘘だ。君は書斎に入った。そして金庫を開けた。中から何を盗んだ。しばらく時間をあげよう。また会いに行くからよく考えておけ。私だったら慎重に考えるぞ。」
警察署。
「フォイル警視正。また不法侵入事件です。犯人は捕まえました。外にいます。取り調べをお願いします。」
サムはフォイルに報告しました。
フォイルとサムは警察署の受付に行きました。
「おや。言い訳を聞こうか。」
ブライアンとティムがフォイルを待っていました。
フォイルは子供たち二人に言いました。
「任務を遂行したんだ。」
ブライアンは言いました。
「ラジオで女のひとがそうしなさいって。」
ティムも言いました。
「呼びかけです。婦人義勇軍の。」
サムが説明しました。
「それで学校に忍び込んだのか。何が欲しくて?」
「資源です。」
「例えば?」
「紙とか。」
「片手鍋。」
「フライパンとか。」
「ハンガーとか。」
「石鹸の箱。」
「靴の木型。」
「掃除機の管。」
「全部使えるってラジオで言ってた。」
「ポークチョップの骨一本から弾丸二発分の火薬ができるんだよ。」
「なるほど。学校から逃げ出すならともかく、押し入るとはな。柵を越えて入ったのか?」
「ううん。柵はもう盗られてた。」
「勝手に建物に入っちゃだめだろう。」
「ぶち込みましょうか。パンと水だけで半年間強制労働。さすがに懲りるでしょう。」
「今回だけは大目に見てやる。でもいいか。これからは紙だけにしろ。君たちには指揮官が必要だな。スチュワート大尉。今から君が隊長だ。」
「それでは諸君。速足進め。手はポケットから出す。」
農場。
ミルナーはルーシー・マーカムに会いました。
「ヘイスティングズ署のミルナーです。お兄さんは?」
「汚れ仕事に今度はあなたを派遣したわけだ。あなたからフォイルさんに伝えて。兄は何もしていません。今は兄は市民軍に参加するの。今日は兄を見ていない。」
「それでは一度会いたいとお話しをお伝えください。・・・・・・お怪我でも?」
ミルナーはゴミ箱に血の付いたシャツが捨てられてあるのを見つけました。
「あ・・・ハリーが柵でちょっと手を切ったんです。」
「いい妹がいて幸せだ。」
喫茶店。
「やっぱりここか。」
クラークはビールを飲んでいるコナーに言いました。
「サーレジナルドの屋敷に何者かが押し入ったらしい。金庫が破られたそうだ。大型金庫。アメリカ製だ。ハリーがやったんだ。間違いない。」
「足を洗ったんじゃないのか?」
「洗うといっといて一人でやったんだ。裏切りやがって。」
「俺たちのシマで。」
「家に押し掛けるか?」
「必要ないだろう。明日の演習で会えるだろうし。一人のときを狙おう。森の中で。」
クラークとコナーは新聞のニュースを見てハリーの犯行を知りました。
「こりゃ・・・ハリーだな!」
レジナルドの屋敷。
ハリーが犯人であることをサイモンは連絡を受けて父に教えました。
「どうすればいい?」
「慌てるなサイモン。何をするにも焦るのはよせ。よく考えてからだ。」
小さな教会。
スティーブは教会で「主よ、人の望みの喜びを」の曲をオルガンを弾いていました。
「あなただと思いました。」
牧師はスティーブに言いました。
「弾いてもかまいませんか。」
「急にどうしたんです。いつも弾いているのに。」
「いまだに驚きですよ。こんなに素晴らしいオルガンがあるなんて。こんな小さな教会に。」
「弾く人もすばらしい。どうぞ弾いていてください。」
女性が杖をついてやってきました。
「こんにちは。」
牧師は女性に挨拶すると教会を出ました。
オルガンの鏡に女性の顔が映りました。
「ドイツの音楽。」
女性はスティーブに言いました。
「世界で一番素晴らしい音楽だよ。」
教会のお墓。
「もうイギリスを出ないと。」
女性はスティーブに言いました。
「もうか?」
「準備はしてある?」
「できてる。いつ?」
「三日後には。」
「いくらなんでも急すぎる。」
「あら。文句があるなら戦争に言ってちょうだい。」
「ごもっとも。今はまだやっていることがある。」
「あきらめなさい。」
「それはまだ無理だ。」
「何をやってるの?」
「言わなくても先刻ご承知だろう。」
「彼女は三十六歳で未婚だった。父上はあなたの知人でここヘイスティングズで働き本名はエンパイアアンドヨーロピアンの個人秘書。名前はアグネス・ブラウン。責任を感じているのね。」
「さすがに優秀だなピアースさん。そのとおりだ。イギリスを出ていくのはそれのかたをつけてからじゃないと。」
「命令に逆らうつもり?」
「逆らってもそちらにはどうしようもあるまい。」
「気を付けてねベックさん。」
「君のために用心するとしよう。ピアースさん。」
子供たちとサム。
「左、右、左、右。」
「ヒットラーなんかに負けないぞ。たっくさんあっつめって資源にしっよう。」
「よし。一同気を付け。よろしい。資源回収作業は国防市民軍と同じ重労働だ。」
「こっちのほうがきつい。」
「その通りである。ゆえにパンとレモネードを支給する。一同。解散。」
子供たちはジュースとパンにありつきました。
警察署のフォイルの部屋。
ミルナーはフォイルにルーシーと会った様子を報告していました。
二人は部屋を出ました。
「ああ。フォイル警視正。ハーコート准将が運転手をよこしました。」
「サムはどうした。」
「かわいい資源回収隊の指揮をしています。」
事務官はフォイルに言いました。
「ああ、デブリン。」
「君が僕の後任か。懐かしい。准将に言われてお迎えに来ました。相変わらず運転しない?」
「ああ。」
フォイルはデブリンの車に乗りました。フォイルはハリーマーカムの刑期が三か月なんて短すぎるといいました。
「あの事件のせいで警視正も私も赤っ恥だ。」
率直なデブリンはフォイルに言いました。
「野戦病院で包帯を巻かれて失明の恐怖におびえているとやっぱり思うんです。あんなやつ、銃殺でいって。」
フォイルは演習の部屋に入りました。そこには銃を持った兵士が忙しそうにしておりサイモンもいました。サイモンは何も盗られていないとフォイルに念押ししました。
ハリーのところにコナーとクラークが現れました。コナーとクラークはハリーがウォーカー邸に入っただろうといいました。ハリーはとぼけました。ハリーは自分だけが捕まったのでもうやらねぇと言っただろと言いましたがコナーとクラークは許しませんでした。
「嘘をつくのが下手だな。」
クラークはハリーを羽交い絞めにしてコナーは暴力をふるいました。そこにフィルビーが現れ「何をしているんだ」と暴力をやめさせました。クラークはハリーに「森の中は気を付けたほうがいい。実弾が飛び交っているんでな」と脅迫しました。
レジナルト家。
アリスは花を花瓶に生けていました。レジナルドは演習の様子を見に行くといいました。
「何か隠してない?サイモンがスイスから帰って来て以来あなた様子がおかしい。仕事はあなたのすべて。それに関われなかった私ってあなたの何?それに前の奥さんは・・・」
「ジョイスの話はするな。」
「ここはもういや。ジョイスの影の中で生きているみたい。ロンドンへ戻りましょうよ。前の家へ。幸せだったあのころへ。」
「今は試練のときなんだよジョイス。今は楽しめ。じゃあ。でかけてくる。」
演習場。コナーとクラークは武器を持ったまま演習を抜け出しました。フィルビーが部隊に命令していると、草むらからデブリンの陽気で率直な声がしてきました。デブリンとその舞台がフィルビーの前にあらわれました。
「来ないんじゃないかと思いましたよ。なんていったらいいのかな。バーンか。手を挙げろか。さて、服を抜いてもらいましょうか。」
フィルビーの部隊は何かする前に服を脱がされて集められました。
演習の事務所。市民軍の部下は無線機を治させていました。
「まだダメか。いい加減にしてくれ。これじゃどうしようもない。師団司令部に連絡をしたいのだが名案はないかフォイル君。」
ハーコートは通信網が絶たれていました。
「ああ、私はただの審判ですから。」
「いつまで私らをここに置いておくんですか。国防市民軍の隊長に対してそんな・・・・・・。」
シャツとパンツ一丁にされたフィルビーの部隊はデブリンの舞台に見張られていました。
演習の事務所。
「無線の次は車か。どうしてこう故障ばかりなんだ。ぐずぐずしている間に演習が終わってしまう。師団司令部に行かないと。」
ハーコートは部下に車を治させていましたが治りませんでした。
「乗っていきます?」
フォイルはハーコートに言いました。
「車があるのか?」
「どうぞ。」
フォイルは審判なので車に被害はありませんでした。
ハリーは演習でどこかの小屋を警備していましたが、銃を置いてどこかに行きました。
ハーコートはフォイルとサムの運転する車に乗せてもらっていました。
「使えない装備ばかりだ。弾薬も足りない。夕暮れから夜明けまでの巡回に十二発弾をもらえたらいいほうだ。」
「ついたようです。」
「なんだこれは。いや素晴らしい万全の警備だ。この抜かりなさ。どこの部隊だ?」
「申訳ありませんが今から捕虜になっていただきます。」
ハーコートはデブリンに捕まりました。
「なぜ君たちが我々市民軍の服を着ている。勝手なことをされては困る。計画にはないだろう。」
ハーコートは怒りました。
「ドイツ軍が我々の計画通り動いてくれますかね。」
デブリンはハーコートに言いました。
「演習の意味はルールに従って行うことだ。」
「いいえ。敵に対応できるようになることです。教訓その一。みたままを信じない。」
「君の部下はわかっているのか。敵の軍服を着ることだって戦場なら撃ち殺される。」
「教訓その二。誰を撃つかは勝ったほうが決めます。」
「おい審判、こいつに何とかいってくれ。」
「今となってはもう遅い。」
「短い捕虜期間を快適にお過ごしください。酒でもビールでも。」
「おい待ってくれ。」
「逮捕しますよ。酒を提供できる時間はもう過ぎている。」
フォイルはサムの車に乗って去りました。
「准将を中にお連れして世話をしてくれ。すぐ戻る。」
デブリンは部下に命令しました。
ハリーは銃をおいて道路のところでタバコを吸って休憩していました。
フィルビーと彼の部隊はまだ見張られていました。するとどこからか銃声がしました。
「君の名前は?」
フィルビーは見張りの兵士に尋ねました。
「プレンティスです。」
「今のは聞いたか。」
「銃声だ。」
「ここで撃つのは禁止なのに。」
また銃声がしました。
「もういいだろプレンティス。デブリン大尉の作戦が何であれもう調べに行かないと。ゲームは終わりだもう解放しろ。」
三発目の銃声がして、ハリーの血が流れました。
感想
あらあら、また一筋縄ではいかない怪しい人たちがでてきましたね。泥棒と政治がらみの怪しい人、そして商売と戦争がらみの怪しい貴族。このドラマでは底辺から貴族まで必ず登場してきます。ハリーの弁護士をしていたスティーブンもドイツが好きなのか、怪しいですねー。そして演習にまぎれての殺人、ひえーっ。このドラマでは何種類もの事件が起きてますね。ルーシーの家はまるで油絵に出てくるみたいに古くて趣がありますね。サムよりルーシーのほうが美人で優しい子です。そしてそんな貧乏な家なのになぜか金庫破りのプロ(笑)ハリーはろくに学校にも行ってないみたいなのにどこでそんな技術を習得したのか天才のようですね。スイスから帰ってきたというサイモンもとても怪しいです。サイモンはきっとドイツとつながってるんじゃないかと予想します。