「薯童謠(ソドンヨ)」(全66話)第62話 念願の国王即位 のあらすじとネタバレ感想
第62話 念願の国王即位 あらすじ
「工房は整理したか?」
橙色に花の刺繍、白地の帯に唐草の豪華な刺繍を施した衣を羽織った王女、ウヨン公主は自分に頭を下げてかしこまっているポムノとウンジンとウスに言いました。
「そうか。お前たちも陛下に協力したと聞いている。」
ウヨン公主は微笑みました。
「陛下に協力するのは当然のことですよぉ。」
ウンジンは照れ笑いしながら王女に言いました。
「ところで、チン大人を見かけないが・・・・・・。」
「えっ?」
ポムノは縮こまりました。
「なぜチン大人は姿を見せないのだ?」
「モっ・・・モジン様よ。」
「モジン様です。」
ウスとポムノはモジンが通りがかるのを見て言いました。
「お母さん!お母さん!」
ウンジンたち三人はウヨン公主を置いてモジンの後を追いました。
太学舎の登り窯。
「知っているかい?」
にやにやしながら初老の男メクトスは中年の男性技術士に言いました。
「何をですか?」
技術士は尋ね返しました。
「陛下は幼い頃から私を父親のように慕っていた。」
メクトスは技術士に自慢を始めました。
「アイゴー。そうなんですか。」
「ふふふ。言葉では説明できない。親子同然だった。ひひひひひ。」
「ああ・・・・・・。」
かつてメクトスに意地悪をしていた技術士はメクトスに不遜な態度はできませんでした。
「あれも知っているか?」
「何をですか?」
「私は一等功臣になるかもしれない。陛下の入城に命がけで協力したんだ。一つ教えると・・・・・。」
「メクトス殿。」
背後から彼を呼びかける愛しい声にメクトスははっとしました。
「モジン様・・・・・・。」
メクトスは振り返りました。
「相変わらず陛下に迷惑をかけているのですか?」
「モジン様!やっとお戻りになったのですね。」
メクトスは窯から降りて嬉しそうにモジンに駆け寄りました。
「お母さん!」
ウンジンは喜び母に駆け寄りました。ポムノとウスもモジンの帰還を喜びました。
「会いたかったぁ。」
ウンジンは母に抱き着きました。
「ようやく生きた心地がする。これで太学舎らしくなりますー。」
メクトスにも精気が漲ってきました。ポムノとウスと技術士は笑いました。
便殿(ピョンジョン、王と貴族の会議室)。
赤い官服を来た官僚は、紫色の刺繍の衣を纏った親衛隊長のワング将軍に盆の上にウス水色の絹を敷き、そのうえに乗せた文書を渡しました。ワング将軍は盆ごとチャン(武王)の卓上に文書を置きました。
「モジン技術士たちが完成した国策案でございます。博士から陛下は最も重点を置いていることは民に所有権を与えることだと聞きました。」
赤い服に黒の烏帽子を被ったの官僚はチャンに言いました。チャンは黒の烏帽子に黄金の冠をかぶり、豪華な刺繍が施された朱鷺色の絹を纏っていました。
「方法は考えたか?」
まだ若者ともいえる年頃の武王は官僚に尋ねました。
「土地制度の改革です。」
官僚はチャンの目をしっかりと見て言いました。
「奴隷制度を廃止し農民に土地を与えるのでございます。」
「土地改革か。」
「はい。」
「新に開拓するのでは農地が足りないので、均田という既存の土地を分けるのです。」
先ほど回答した官僚の隣にいる、二番目に控えていた官僚が武王に答えました。
「問題は貴族の抵抗だな。」
チャンは言いました。
「はい。土地兼併(とちけんぺい、貴族による大土地所有)を抑制せねばなりません。」
「結局のところ、すべての制度改革は貴族との戦いだな。」
「はい陛下。」
「皆ご苦労だった。国策案をよく読みまたお前たちを呼ぶことにする。お前たちには太学舎でのしかるべき機関で多く仕事を任せようと思う。理論でも実務でも力のある人材を集めろ。」
「はい。陛下。」
王の右側に侍っている三人の官僚と、ワング将軍は武王に頭を下げました。女官たちは武王の左側に二人控えており、話の最中も頭を下げ背中を丸めたまま微動だにもしませんでした。
「陛下。寝所へ行きおくつろいでお読みください。」
ワング将軍は武王に言いました。
「博士が命をかけた案だ。気楽には読めない。」
ワング将軍は何も言わずに下がりました。
チャンは縛られて元山島に連行されるときのモンナス博士のことを思い出していました。
「助けてくれ。チャン。チャン。助けてくれ。チャン、チャン、チャーン。」
助けを求めるモンナス博士の姿を想像し、チャンは便殿を後にしました。
夜。モジン技術者は太学舎の工房でひとり佇んでいました。
「博士・・・博士・・・・・・。博士・・・・・・。」
チャンが来た事も知らずにモジンは道鏡をさすりすすり泣いていました。
「陛下です。」
モジンが泣いているとワング将軍はチャンの訪問を知らせました。モジンは立ち上がりチャンを迎えました。
「陛下・・・・・・。」
「私が憎くて便殿会議を欠席したのですか?」
「陛下、めっそうもございません。」
モジンは小さな声で言いました。
「すべて済んだら博士を返すとモジン様に約束したのに・・・・・・約束を守れなかった。お許しください。これから元山島へ行きます。行って博士に許しを乞います。いっしょに行きましょう。」
メクトスとポムノとウンジンも部屋に入ってきました。
「陛下。」
メクトスはニヤリと笑いました。ポムノもチャンに白い歯を見せました。
チャンはモジンたちを連れて船で元山島に行きました。チャンたちが船から降りるために足場が掛けられました。
「ここが博士の小屋でした。」
モジンはチャンを案内しました。メクトスは小屋から煙が出ていることに気が付きました。
「あれは・・・煙では?」
小屋から一人のみすぼらしい男が腹を抑えて出てきました。モンナス博士は小屋の前で炊いているせんじ薬の火に息を吹きかけてあおりました。
「人間なら言葉を話し、幽霊なら成仏してください。」
メクトスはモンナス博士に向かって言いました。
「チャン、チャン、チャン!」
「博士!」
モンナス博士とチャンは抱き合いました。
「チャン!」
「博士。生きていたのですね。生きていたのですね。ありがとうございます。感謝します。」
モンナス博士はチャンの頬に手をやりました。
「そうか。ついに・・・!」
「はい。王になられました。」
ワング将軍はモンナス博士に言いました。
「陛下。陛下。」
モンナス博士は地面に正座をして両手を地に付けました。
「博士がいなければこの道は歩めなかった。本当にありがとうございます。感謝します。」
チャンはモンナス博士を立ち上がらせました。
「陛下。独り占めはずるいです。」
ウンジンはチャンに駄々をこねるように言いました。
「忘れていた。すまない。」
「博士。」
「博士!」
チャンの許しが出ると、ウンジンとポムノとメクトスはモンナス博士に駆け寄りました。
「生きているとは知らず葬儀の準備をしていました。」
メクトスはまた冗談を言いました。モンナス博士は笑いました。
モジンは涙を目に一杯ためてモンナス博士を見ていました。
「供え物でも構わん。本土の料理が食べたい。」
「私たちより料理が恋しかったんですか?」
ポムノは笑いました。
「食べ物のことばかり考えていた。」
「二月も島にいて私のように食い意地が出たんです。」
メクトスは博士たちを笑わせました。
モジンは目を伏せると頬に涙が伝わりました。
「みんなひどすぎます。一番会いたがっていたのは私のお母さんなんですよ。それなのに順番が一番最後だなんて。」
ウンジンが言うとモンナス博士は涙を流してモジンを切なそうに見つめました。
モジンは恥じらい目を背けました。
「元気だったか。」
「はい。」
「そんな。そっけない返事がありますか。いっそのこと抱き着いたらどうです。モジン様と来たら頑固な人だ。」
メクトスは正直に言いました。ウンジンは母の手を取りモンナス博士のところに連れて行きました。
モンナス博士とモジンは見つめあいました。
新羅宮。のソンファ公主の部屋。
「キム・ソヌ様が来られました。」
女官は官僚の到来を王女に告げました。ソンファ王女は白い絹に薄桃色の縁取りをした上着と薔薇色の襦を履き椅子に腰かけていました。部屋にはペルシアの紺色の豪華な絨毯が敷かれ、寝室には桃色の花の絵が描かれてありました。新羅の王女の衣は百済と違い、上衣と下衣が分かれていました。
「ご挨拶が遅れました。キム・ソヌと申します。」
小豆色の絹に赤く丸い帽子を乗せた官僚は王女に挨拶をしました。
「それで用件は何だ?」
「公主様がお戻りになられたのを喜んでおりました。ご挨拶しなければと思いました。公主様のお力になるつもりです。お見知りおきを。」
キム・ソヌはソンファ公主に取り入ろうとしました。
ソンファ公主はキム・ソヌから顔を背けました。
「チョンミョン公主です。」
チョンミョン(天明)公主がづかづかと部屋に入ってきました。
「もう機嫌を取りに来たのか!」
チョンミョン公主はキム・ソヌに怒鳴りました。
「とんでもございません。私めはご挨拶に来ただけです。」
キム・ソヌは部屋を出ていきました。
「お掛けください。」
ソンファ公主は姉に席をすすめました。
「今更私と王座を争うつもり?お母さまとお父様に頼まれて復権を許したの。なのに邪魔する気?」
「なんのことですか?」
「百済の王子と知って付き合っていたの?彼の力を借りて新羅の王座を狙う気?」
「そんなことはありません。」
「王座を継ぐのは私です。何をしても無駄よ。憎らしい子。」
チョンミョン公主は妹に憎しみをぶつけて帰りました。
すぐにチョギとボミョンがソンファ公主を慰めに来ました。
「陛下は婚姻同盟の話が出てから公主様が力を持ったのですか?」
チョギはソンファ公主に言いました。
「政治的な力も増すだろうし、チョンミョン公主の夫君より百済の王のほうが力があるわ。」
ボミョンはチョギに説明しました。
ソンファ公主は問題の大きさに悩んでいました。
新羅の第二十六代真平王の便殿。
「どうだだ。同盟に関して和白(ファベク)会議で話し合ったか?」
真平王は二人の貴族に尋ねました。
「いいえ。」
「なぜだ。」
「同盟の件より先に、ソンファ公主の利敵行為を論ずるべきかと思います。」
「公主の利敵行為とは何だ。」
「ソンファ公主様のせいで"百済神技"の入手に失敗しました。ですが時が経ち、若気の至りを考え復権を認めたのです。」
「それで?」
「相手は百済の王です。百済に新羅の軍事機密などを渡したかもしれません。」
二番目に並んでいた貴族が王に言いました。
「何だと。」
「二度の利敵行為は容認できません。」
「ソンファ公主を尋問なさるべきでございます。」
「何だと。尋問?」
「はい陛下。それが和白会議の結論です。」
元山島の海岸の松林。元山島から本土に着いたチャンとモンナス博士は二人きりで話し合っていました。
「新羅の王が兵を送ってきたのか?」
モンナス博士はチャンに事情を聴きました。
「はい。」
チャンはモンナス博士に言いました。
「ならばチン大人は新羅へ帰ったのですね。」
「ええ。博士に秘密にしていたことをお許しください。」
「苦しまれたでしょう。」
「博士・・・・・・。」
「陛下、食事の準備ができました。」
ワング将軍が食事の知らせに来ました。
「さあ、食べに行きましょう。」
モンナス博士はチャンの心配をしました。
元山島の囚人の村。
「ちょっとでいいから。」
「おかあさん。」
ポムノとウンジンはモジンを引っ張っていました。
「こんなことやめなさい。」
「だって望んでいたことでしょう?」
ポムノは嬉しそうにモジンの腕を捕まえました。
「今すぐ放しなさい。」
「どうしたのだ。」
チャンと博士を案内しているワング将軍は三人に言いました。
「博士と母の食事を同じ部屋に用意したんです。」
ウンジンは照れ笑いしながらワング将軍に言いました。
モンナス博士は何とも言えない表情でモジンたちを見ました。
「今すぐ結婚させたいけどここじゃあ無理だし。」
ポムノが笑顔で言うとモジンは顔を横に向けて視線を落とし恥じらいました。
「それもよい考えだ。」
チャンは言いました。
「陛下まで。」
モジンは困惑しました。
「せめてものモジン技術士への罪滅ぼしです。」
「お母さん、結婚する?」
「そうだよ。ここは太学舎にも似ているし陛下も祝ってくださる。」
ポムノは今までに見たこともないような明るい笑顔を見せました。
「そうだ。ポムノの言う通りだ。」
「お母さん。花冠が必要かしら?」
「そうだ。山へ採りに行こう。」
「本当に、みんなひどすぎます。」
モジンは恥ずかしくて隠れてしまいました。
「お母さん!」
チャンは笑いました。
モンナス博士はモジンの手を繋ぎたき火のある場所に連れて行きました。
作業場の机の上からモンナス博士は動物の毛皮に大切に包んでいた赤い靴を取り出しました。
「島に玉虫がたくさんいた。お前の靴だ。」
モンナス博士はモジンに靴を贈りました。そしてモジンが流したモンナス博士の草履を手に持ちました。
「ある日、海に出て、これを見つけた。お前が来たと分かった。草履に結ばれたお前の靴を見て、たとえ死の道だろうと共に歩んでくれたお前のことを思った。」
モンナス博士はモジンを椅子に座らせました。そしてモジンの履いていた靴を脱がせて自分が作った赤い靴を履かせてやりました。モンナス博士はモジンの両手を握ると二人は立ち上がりました。
「これからも。二人で歩んでくれるか?結婚してくれ。」
モジンは涙を流しモンナス博士と抱き合いました。
メクトスは顔を海に向けました。
「切ないわ。」
ウンジンは言いました。
「まったくだよ。俺も切ないよ。そうだろ親父。」
ポムノは言いました。
「切ないどころか胸が張り裂けそうだ。俺はこの愛を手放さなくてはならないのか。」
「親父。得てもいないのに手放すなんて。」
「お前はそれでも息子か。お前め。」
メクトスはポムノの頭に拳を置きました。
「だって親父は振り向いてもらえなかっただろ?」
チャンも二人が抱き合っている様子を見に来ました。
百済の王宮の門。
貴族たちはチャンの帰りを並んで待っていました。
「陛下。モンナス博士の葬儀は終わりましたか?」
サドゥガンはチャンに尋ねました。
「はい。」
チャンは短く返事をしました。
「モっ・・・モンナス博士。」
貴族たちはにやにや笑っているポムノの前を歩くモンナス博士を見つけました。
「博士。」
「あらモンナス博士、どういうことですか?」
ウヨン公主は博士に言いました。
「お元気ですか公主様。」
「博士、一体どういうことですか。」
コモ技術士はモンナス博士の手を握ってゆすりました。
「夢のようです。」
ウスは感激しました。
「元気だったか?」
「はい。」
「捜しに行かなかった罪をお許しください。」
ヨン・ギョンフは博士に言いました。
「私のほうこそ力になれず申し訳ない。」
「博士がいなければ役人たちは死んでいました。」
ヨン・ギョンフは言葉を続けました。武人となったトゥイルも嬉しそうに笑いました。
「ええ博士。それに仕事がたくさん残っています。」
三人の官僚は博士の手を取り喜びました。
「まだ体調がよくありません。戻るなり仕事の話なんて。」
モジンは博士を取られまいと頑張りました。
「すみません。はっはっは。」
「いやいや。私も早く国策が見たい。」
モンナス博士は宮殿に案内されて行きました。
「モンナス博士が生きていたとは。陛下の政策に力が加わってしまいますな。」
サドゥガンは警戒しました。
「国策機構は陛下直属なので、我々には内情がわかりません。」
ペクチャンヒョンは言いました。
「まったくだ。」
武王の部屋。
「核心は土地改革だと結論づけたのですね。問題は貴族です。」
モンナス博士はチャンに言いました。
「サドゥガンとペクチャンヒョンはあっさり陛下に投降しました。」
ヨン・ギョンフは言いました。
「へ氏の土地を民に分けるつもりでしたが大変困ったことが起きています。」
ワング将軍はチャンに報告しました。
「ウヨン公主とヘモヨン大后(テフ)に土地が流れているのです。」
「ヘドジュが、威徳王と阿佐太子の殺害に関与した証拠はないのか?」
チャンは三人に尋ねました。
「はい陛下。武器は提供しましたが、直接の関与はありません。」
ヨン・ギョンフは答えました。
便殿。ワング将軍は人事を読み上げました。
「サドゥガン、上佐平。ペクチャンヒョン、中佐平。衛士佐平、ヨン・ギョンフ。親衛隊長、ワング。太学舎首長、モンナス博士。以上です。」
「国策案を立てた者たちには太学舎に台賢殿(テヒョンジョン)という機構を置き勤務を続けさせる。首長はユリムに任せる。」
「陛下、まだ上佐平ヘドジュの処遇をお決めになっていません。」
サドゥガンが武王に言いました。
「上佐平ヘドジュは職位をはく奪し武装を解除する。いいですね?」
太学舎。
モンナス博士と三人の官僚は仕事をしながら話し合いました。
「ヘドジュへの処遇はあれだけなのでしょうか。」
「ええ。土地を没収して土地改革をしましょう。」
「その通りだがウヨン公主が陛下を救ったのも事実だ。それにヘドジュの財産は没収できても罪を問えない貴族からは何も取れない。」
モンナス博士は三人に言いました。
「ですが、これが貴族から土地を没収できる現実案です。陛下が名分を持っている今を逃したら貴族の圧迫が始まります。」
官僚はモンナス博士に言いました。
「私も同感だ。陛下にもお考えがあるはずだ。」
モンナス博士は同意しました。
宮殿内のをサドゥガンとペクチャンヒョンが一緒に歩いていました。
「結局、陛下も現実を知ったのだ。」
サドゥガンが言いました。
「貴族を無視して政治はできません。」
ペクチャンヒョンは武王を笑いました。
「そうだ。だが王室の直属機関台賢殿の存在が気になる。」
「ウヨン公主を中心に牽制すればよいのです。」
「ああ。ウヨン公主の結婚の話もすすめよう。」
「ウヨン公主が貴族会議に出席なさいます。話し合いましょう。」
「そうだな。」
貴族会議。貴族たちは円卓を囲んでいました。ウヨン公主は会議に招かれました。ウヨン公主は躑躅色の絹を羽織っていました。
「ようこそおいでに。」
サドゥガンはウヨン公主を迎えました。
「大后のかわりに来ました。」
「はい。存じております。」
「それより驚きました。」
ペクチャンヒョンが言いました。
「何がですか?」
「ウヨン公主様は実に度胸がおありになる。」
「命がけで大きな賭けに出られた訳を教えてください。」
「そうです。四男の王子だと気づかれたのはいつですか?」
「かなり前からご存じだったようですが・・・あの危険な場面で恋と偽って命を救うとは。はははははは。」
サドゥガンとペクチャンヒョンはかわるがわるに王女に言いました。
「ええ?」
欲深く無神経な男たちに心の内を尋ねられたウヨン公主は聞き返しました。
「実に見事な策でした。ほかの口実では無理だったでしょう。」
ペクチャンヒョンは言いました。
「公主様の度胸のおかげでヘ氏以外の貴族たちも胸をなで下しました。」
別の貴族が王女をおだてました。
「陛下とウヨン公主様の結婚話を今すぐ進めようと思います。」
ペクチャンヒョンは王女をおだててから本題に入りました。
「王室を安定させるには、何といっても後継者の確保が一番です。」
サドゥガンは結論を言いました。
「明日にでも陛下に申し上げましょう。はははは。」
ペクチャンヒョンは愛想笑いをしました。
ウヨン公主は嬉しくもなく、少し動揺したような面持でした。
サドゥガンはウヨン公主と宮殿の一角で話し合っていました。
「お父上や兄気味を見てきたでしょうから、説明は不要だと思います。法王(ポプワン)が強めた貴族の力を我々は守りたいのです。モンナスら台賢殿の面々を見ると陛下の意思は固そうです。貴族の弱体化を狙っています。媽媽が阻止してください。」
「つまり兄上と同じ役割を私に求めているのですか。」
「はい。相応の見返りもあります。法王の最期はみじめでしたが法王も貴族から見返りは得ていました。」
ウヨン公主は部屋に戻りため息をつきました。
「そうよ。これが私が住む世界。利害と損得だけの場所。恋ですって?これが陛下のためよ。陛下も現実を知るべきだわ。」
チャンは夜になっても部屋で文書を読み政策を考えていました。
太学舎首長のモンナス博士の部屋。
「陛下のお越しです。」
チャンの来訪が伝えられるとモンナス博士は立ち上がりチャンを迎えました。
「夜分にどうなさいましたか。」
「やはり正面から突破しましょう。」
「貴族のことですか。」
「ええ。名分のあるうちの強行します。」
「新羅へ行ってください。」
「新羅へですか?」
「はい。」
新羅の天の峠学者。
「ドハムや!どこへ行くのだ!」
天の峠学者に隠れ住んでいるキム・サフムは剣を持ってどこかへ行こうとするキム・ドハム(サテッキル)を止めようと慌てていました。クソンも主人の心配をしていました。
「目を覚ませ。もう終わった。」
「私もチャンも生きています。何も終わってはいません。けりをつけるのです。」
「ドハムや。私たちは負けたのだ。負けたのだ。」
「いいえ。まだ終わっていません。」
「負けを認めて静かに暮らそう。」
キム・サフムは息子のドハムに哀願しました。
「どこで暮らすのです。新羅には裏切られ百済からは追い出されました。次は高句麗にでも行ってやり直せとでも?」
「そこへでも行こう。我々の失敗を認めどこへでも。」
「嫌です。私の何が悪いのですか。自分の得のために動いたのは間違いですか。チャンだってそうです。チャンも自分の得のために動いている。なぜ私には間違いを認めろというのです。そんなことを認めたら私には何もできません。何もできない。生ける屍です。生ける屍・・・いいや、証明してみせます。」
「ドヤムや。」
「この世は勝者のものです。再び勝利して私が正しいと証明してみせます。チャンを破滅させソンファ公主とも結婚させません。私が得られなかったものはチャンにも与えません。」
「どのみち、ソンファ公主とチャンは結ばれない。ソンファ公主は新羅に戻られたのだ。」
「そうです。陛下が新羅に呼び戻されたのです。」
クソンも言いました。
百済の便殿。
「関山城(クァンサンソン)の戦い(聖明王が殺された戦争)以前の体制の戻す。」
チャンは皆に言いました。
「え?陛下。」
貴族たちは顔を見合わせて話し合いました。
「私も王室や政局の安定のために、民のために資料を検討した。」
「ですが陛下。」
「あなた方は四十年前の関山城の戦い以来、戦争準備の名目で十六回も私兵を増やした。そして租税を増やし無断で土地を私有化した。そして増えた私兵を養うためさらに特別税を民に課した。だから民の暮らしが貧しいままなのだ。違うか?関山城の戦い以来戦争があったのは二度だけだ。当然元に戻すべきです。台賢殿は以前の体制に戻した場合、各貴族が何を処理すべきかまとめよ。衛士佐平は各貴族の受け入れの準備をせよ。」
「はい。」
武王の部屋。
「陛下、あまりにも無茶な措置でございます。」
サドゥガンはチャンに訴えました。
「はい陛下。関山城の戦い以来、高句麗と新羅の脅威に備えていただけです。」
ペクチャンヒョンも言いました。
「だが敵の脅威があった聖明王の頃も百済は栄えていた。戦争中ですら租税は多く得られた。」
「ですが陛下、聖明王の頃は新羅と同盟を結んでいて安定していて・・・・・・。」
「わかっている。何にしろ聖明王時代の体制に戻す。それとも武寧王(ムリョンワン)時代の体制に?威徳王はあなた方にプヨソンの暗殺を命じた。だが誰も陛下に従わなかった。謀反ともいえる行為だ。しかもプヨソンを利用して貴族たちの力を強めようと阿佐太子を倭国に送り威徳王を圧迫した。その結果はどうなった。民の希望である土地を奪い、もしくは租税で奪い民たちが耐えられなくなるほど追い込んだ。すべてお前たちに罪を償わせたいがこれで済ませるのはお前たちに謝罪の機会を与えるためだ。何か反論は?お前たちに名分はあるか?各貴族たちに具体的な処遇を知らせよ。」
「はい。」
チャンはワング親衛隊長に命じました。
太学舎の台賢殿。
「関山城以前の体制とは?」
ヨン・ギョンフ衛士佐平は官僚に尋ねました。
「人口百人あたり私兵は一人です。ヘドジュの私兵を半分の千五百人にできます。」
「サドゥガンも同じです。」
「だが、関山城以前のときも国境付近の貴族は例外的に私兵を多く持った。」
ヨン・ギョンフ衛士佐平は言いました。
「はい。それも調べています。」
「ならば、租税はどうなる?」
「私兵と同じく削減されます。戦時中の特別租税もです。」
衛士部の庭。
ヨン・ギョンフ衛士佐平が来ると、整列していた兵士たちは槍を地面に突き敬意を表しました。
「貴族が反乱を起こすかもしれない。徹底的に警戒しろ。」
「わかりました。」
「厳重に警戒しています。」
偉くなったトウィルは言いました。
「私兵を取り上げたら管理する軍が必要になる。」
「わかりました。」
部下は承知しました。
「今回うまくいったら、奴隷だった俺でも土地がもらえるんですか?」
トウィルはヨン・ギョンフに尋ねました。
「その通りだ。今そのために陛下は努力しておられるのだ。」
「体が壊れるまで頑張ります。土地を持つのが夢でしたから。はっはっはっは。」
トウィルは嬉しそうにしました。
貴族会議。ヨン・ギョンフ衛士佐平は貴族たちに言いました。
「サドゥガン上佐平様の場合、民百人に対し一人の割合なら1684人の私兵を持てます。ペクチャンヒョン中佐平様の場合、1228名です。実行日は租税が調整される一か月後です。これは無断で私有化した土地の資料です。御覧になって手続きしてください。」
ヨン・ギョンフ衛士佐平は説明を終えると部屋を出ていきました。
残った貴族たちは話し合いました。
「このままでいいのですか?」
ペクチャンヒョンは怒りをあらわにしました。
大后の部屋。
「大后媽媽。大后媽媽が一番の被害を受けられます。」
サドゥガンはヘモヨンに力添えを頼みに来ました。
「わかっています。」
「大后媽媽が黙っているおつもりなら私が陛下に対処いたします。」
「ウヨンが陛下を説得中です。待ちましょう。」
武王の部屋。
「陛下のお気持ちはわかります。ですがこれでは貴族を敵に回します。」
ウヨン公主はチャンを説得していました。
「貴族と敵対したいのではなく民を救いたいのです。」
「陛下。陛下はもう国王です。民への情けだけでは国は統治できません。」
「これは情けなのではなく民の希望なのです。私が貴族側に立つほうが統治は楽でしょうが民の君主にはなれません。」
「宮中に存在するのは希望ではなく力です。」
「では私も力をつけなくては。」
「陛下。貴族の抵抗に勝てるとでも思いますか。」
「勝たなくてはなりません。」
「妄想です。」
「夢です。」
「実現できません。不可能です。」
「ウヨン公主様の協力があれば実現できます。だがウヨン公主は貴族側に立ち私を圧迫しています。」
「圧迫ではなく陛下のために言っているのです。力が誰にあるかを考えてください。陛下には貴族の後ろ盾がありません。だから、まずは貴族を味方にして・・・・・。」
「その後の我々には自由がない。貴族の言いなりになって民を圧迫することになる。そんなことはしない。貴族の代弁などしないでください。」
「・・・・・・。」
ウヨン公主は部屋を出ていきました。
「陛下、ウヨン公主が・・・・・・。」
ウヨン公主はチャンの部屋に戻ってきました。
「私とは結婚しないつもりですか。どうなのです。しないのですか。」
「そうです。するわけにはいかない。貴族の言いなりにするために私と結婚したいのでしょう。そんな結婚はしません。」
「そんな結婚?では陛下が夢見る結婚とは何ですか?心の支えである人との結婚?陛下と夢を共にしたい人との結婚?陛下はもう達率ではなく百済の王なのです。愛のためにすべてを捨てるなんて国王となった今は許されません。一国の王たる者が商人と結婚するなど妄想です。しかも新羅の女などと・・・。王室のしきたりがそんなことは許しません。私だけでなく百済王室の者なら皆そう考えます。」
太学舎の庭。
「チン大人はどこにいる。チン大人はどこなのだ。」
焦るウヨン公主は技術士にきつく言いました。
「新羅へ帰りました。」
ウスは正直に答えました。
「ちょっとぉ。」
ウンジンはウスを肘で突きました。
「だって・・・本当のことだもん。」
「これが現実よ。」
ウヨン公主はチャンを想いつぶやきました。
ウヨン公主はチャンを想いつぶやきました。
チャンはウヨン公主のさっきの言葉を思い出して傷ついていました。
「博士、博士だけが頼りです。」
新羅宮。
「通せ。」
真平王はモンナス博士の謁見を許しました。モンナス博士は真平王に恭しくおじぎをしました。
「お前が百済国王の密使、モンナスか?」
「はい陛下。」
「太学舎の首長、モンナスか?国を追われて新羅に住んでいた。」
「はい陛下。」
「話を聞いていたせいか、懐かしくある。」
「私も新羅宮を懐かしく思います。こちらに品物を納品しておりました。それで百済の王とソンファ公主が出会われたのでございます。花郎のキム・ドハムを天の峠学舎に送りましたね。」
「ああそうだ。百済神技がほしかった。そのせいで惜しい男を失った。お前が新羅に来たために百済の王と娘のソンファが出会い私のソンファは様々な苦労をしてきた。ようやく私の娘が新羅に戻ってきたのにそなたの王はなぜ新羅に密使をよこしたのだ。」
「・・・・・・。」
「どういうことだ。」
「陛下は特に理由はおっしゃいませんでした。」
「理由を言わなかっただと?」
「兵を送ってくれたことへの返事だと。」
「兵を送ったことへの返事?」
「はい。戦闘中で返事が遅れましたが和親の提案だというのが百済王の解釈です。」
「なぜそう思うのだ?」
「百済が混乱の中にあっても百済を攻撃せずソンファ公主を連れ去りもせず兵を送ってくれたからでございます。だから私が行けば新羅王から何か言うはずだと。どうぞお話しください。今すぐが難しいなら宿でお待ちします。」
「待っていろ。」
「はい。」
感想
プヨソンがいなくなったと思ったらまた同じことの繰り返しです。王がいなくても私服を肥やす貴族が政治に害を与えて百済の国力を弱体化しているということのようです。百済の貴族は力を持ちすぎて腐りきっているから滅んだということがいいたいのでしょうか。一つの士族に私兵が三千人や五千人というのはまるで一国を代表する大企業のようですよね。しかもしれが小さな国にいくつもあるのですから、彼らは何も生産せずにただ民から富を奪うだけの存在ですから国が不安定になるのも無理はありません。そしてウヨン姫の気持ちはチャンが好きだけど貴族も捨てきれないし、チャンの考えも理解できないという立場にあるようですね。それではチャンがウヨン姫を政治家としても認めるはずがありません。でもウヨン姫はチャンが死ぬほどチン・ガギョンに会いたいと思っていることは政治をするうえでの弱点だとチクリとやり返してしまいます。モンナス博士は真平王がすすんでソンファ公主を嫁に出すぞという言葉を待っているかのようにも思えますね。まだ最終回まで四回あります。貧乏になったサテッキルは一族の身分を回復するのか、それともチャンに返り討ちにやって破滅してしまうのか、そして貴族たちの腐敗を一掃できるのか、問題はそこですね。もしもソンファ公主が小悪魔じゃなくてチャンのよき理解者だったとしたら、違う展開があったかもしれませんね。