王と妃 105話 病床の粋嬪ハン氏(インス大妃)
あらすじ
桂陽君夫人が粋嬪ハン氏に心配して会うとハン氏は起き上がっていつもの通り上座に腰かけ「私は病気なの」と姉に言いました。
世祖は粋嬪ハン氏が意識を失つて重篤で目が覚めぬという知らせを受けました。
粋嬪ハン氏は重病であることを演出するために桂陽君夫人のいる実家に輿に乗って帰りました。
「死にかけていると伝えなさい。まだわからないの?私が死にかけていると殿下が聞けば中殿媽媽もさぞかし心を痛めるわ。こうお伝えしなさい。桂陽君夫人の家に行ったら粋嬪は青白く息苦しそうにしていた。どこがお悪いのですかと尋ねたら悔しい思い出胸が張り裂けそうと。そしてこう付け加えて。胸の怒りを抑えきれず気の病になったと。そのまま伝えなさい。仮病だと思われるでしょうね。王妃様ならきっと疑う。でも殿下なら信じてくださるでしょう。」
粋嬪ハン氏はイム尚宮に言った通りに世祖と王妃に報告するよう命じました。
世祖と王妃のいる部屋にイム尚宮は報告に来ました。
「粋嬪媽媽の病状は奇妙でして・・・申訳ありません殿下。桂陽君様宅へ伺いましたら粋嬪様は座っておいででした。・・・私は粋嬪様にどこがお悪いのかお尋ねしました。・・・・・・粋嬪様は黙っておられましたが桂陽君夫人様によると粋嬪様は普段は元気だが突然息が詰まり気を失うと。怒りを抑えられず気を病んだそうで。気の病というのは私と医者の推測で詳しくはわかりません。申訳ありません。」
「気の病ですって?」
王妃は言いました。
「なんということをいうのだ。粋嬪はそのように狭量ではない。父親のおらぬ息子たちを心配するあまりに・・・・・・。」
世祖は王妃に怒りました。
「大妃になりたいと言ったそうです。再度言いましょうか。その意味がお分かりですか。怒りが抑えられぬのは私のほうです。」
「怒りの病と聞いて王妃様のお顔が真っ青になったそうです。いい気味です。嫁をいびってきたのです。内心気が咎めたはずです。どうですか?よく思いつきましたね。怒りの病だなんて。あっははははは。うっふふふふふ。」
桂陽君夫人は妹に言うと粋嬪ハン氏はにやりと笑いました。
「尚膳そなたも知っていたのか。粋嬪ハン氏が大妃になりたいと言ったのだぞ。」
世祖はチョン内官に言いました。
王妃は世祖に言ってしまったことを後悔していました。
「到底許しがたい。」
世祖は言いました。
「今回はやりすぎです。今からでもお屋敷にお戻りください。」
ハン・チヒョンは粋嬪ハン氏に言いました。
「殿下のお見舞いを受けてから帰るわ。」
「王妃様が殿下にあのことをお話しになりました。」
「あのこととは?お話しください。」
「媽媽が大妃になりたいとおっしゃったことです。中殿媽媽がなぜお知りになったのか知りたいくらいです。」
「殿下はなんと言ったのですか?」
「無言で王妃様の部屋をお出になられました。
「殿下の逆鱗に触れたでしょう。いわば謀反ではありませんか。謀反ですとも。世子様を下して私の息子を王にしなければ大妃になれぬのですから。」
「殿下のお怒りを知りつつ?」
「きっと来るはず。お義父様はきっと来られます。そうですとも。仮病の嫁をこらしめるためにやってくるわ。」
ユ・ジャグァンは通りがかった亀城君に耳打ちをしました。
「誠に粋嬪がそう言ったと?したたかな粋嬪がついに墓穴を掘ったな。」
「粋嬪の言葉とはとても思えません。父上。お怒りをお鎮めください。きっと義姉上を陥れようとだれかが・・・。」
海陽大君は粋嬪をかばいました。
世祖は桂陽君夫人の家に行くと怒りました。
王妃は先回りして粋嬪に世祖の訪問を知らせ仮病のふりをするように命じました。
世祖は平服に着替えて従者を多数伴い馬で粋嬪の家に向かいました。亀城君と海陽大君も一緒について行きました。
王妃の内官が王の来訪を告げると粋嬪ハン氏は狙いが当たったとヒャンイに言いました。ヒャンイは粋嬪の言いつけ通り毒をもってきました。
「一口だけにしてください。間違って飲むと命はないと医者が言いました。」
粋嬪ハン氏は毒を全部飲み干しました。
「媽媽。大丈夫ですか。」
「殿下のおなりだ。門を開けよー。」
桂陽君夫人は世祖を出迎えました。
「こんな夜更けに何の御用でしょうか。」
「粋嬪に会いに来た。死にかけていると聞いてな。」
「媽媽。お気を確かに。どうか目を開けて。媽媽。誰かおらぬか。粋嬪様がたいへんなのよ。」
ヒャンイは意識を失った粋嬪を抱き叫びました。
イム尚宮は引っ立てられてしばりつけられ尻を何度も叩かれました。
粋嬪が危篤だという情報が王妃のもとに届きました。
「南無観世音菩薩。」
「一杯食わされたな。」
亀城君は仲間に言いました。
「気の毒な粋嬪を陥れようとは。懿敬世子が死んだのだから大妃になるほかあるまい。昭訓は正室ではない。側室が生んだ子を王にするわけにはいかない。チョン内官。どうすればよいのだ。どうすれば私は安らかに死ねるのだ。」
世祖は泣きました。
都承旨は世祖を迎えに行きました。
「王が宮殿を空けて一泊されるなどあってはならんことだ。」
「アガ(わが子よ)。気が付いたか!」
世祖は粋嬪が目覚めると喜びました。
「おとうさま・・・。」
「助かったか!助かったのだな。起きる出ない。横になっていなさい。心配したぞ。返さねば。懿敬世子が作った借りを返さねばならぬ。」
翌日の便殿。
ホン・ユンソンは亀城君が領議政になるなど認められない、何としても阻止しなければと怒りました。
王妃は嫁を疑ったことを反省していました。亀城君は王妃に絶対にハン昭訓を嬪宮にするまでは粋嬪に譲ってはならないと助言しました。
朝鮮王朝実録には、粋嬪は病気が重くなり桂陽君夫人の家に療養に行き王が家に見舞いに出向いたと記されています。寡婦になった嫁を君主が見舞うことは極めて異例のことでした。
世祖と孝寧大君は茶と菓子で雑談しているところに高霊君(コリョングン、シン・スクチュ)が呼ばれました。
「シン・ミョンのことは残念だったな。」
世祖はシン・ミョンの葬儀に香典を贈りシン・スクチュに茶と菓子を指すように従者に命じました。
「このようなことは可能か。」
「何のことでしょう。」
「世子に嫡子がおらねば世子の甥を世孫することは可能か?」
世祖はシン・スクチュに尋ねました。
「王室の決まりやしきたりに詳しい者はそなたを置いてほかにおらぬであろう。」
「何を探りに来たのか聞いておる。」
ハン・ミョンフェの家にユ・ジャグァンが尋ねてきました。
「粋嬪様はハン大監より一枚上手ですね。私を粋嬪様に紹介してくれませんか。」
「危険の大きい賭けだな。」
「賭け事をするなら危険を冒しても一発逆転を狙うものなのです。私は粋嬪様に賭けたいのでございます。」
「大したお方ですね。」
「のし上がるためですもの。」
粋嬪ハン氏はハン・チヒョンに言いました。
感想
いよいよですね。ひとつの時代がまた終わろうとしています。世祖の時代もあと僅かです。インス大妃は大した人物ですね。残酷な世祖やハン・ミョンフェですら利用してしまうのですから。そして咸吉道への差別、王様の出身地でありながらこれは酷いですね。自分の出自である部族を憎むなんてどうかしています。いえ。人間とはそういうものなのでしょう。ルーツを忘れ、出身地を憎む。その程度が愚かな人間の姿というものなのでしょう。しかしいくらインス大妃が悪党だからといって王妃ユン氏に視聴者は味方したいかというとそうではないでしょう。海陽大君はのちに王となり大粛清をしてそのときに亀城君のライバルであるナム・イという若者を前々から憎んでおり殺していますので、世祖から権力を受けついたからといって世の中がよくなったということはないようです。