王と妃 108話 世祖倒れる
あらすじ
康寧殿(カンニョンジョン)。
世祖は孫たちと部屋で過ごしている最中に倒れました。
粋嬪ハン氏は含元殿(王の寝所の北西の神殿)に行きました。
王妃は内官に世祖の様子を尋ね御医は何をしていたのだと怒りました。
「今度ばかりは危ない気がするわ。」
亀城君は王妃に峠は越えたと伝えました。
世祖は都承旨を呼ぶようにチョン内官に命じました。
粋嬪ハン氏はイム尚宮を呼び事態を乗り切れた礼を言い体をいたわりました。イム尚宮はなんでもお命じくださいと袖で涙を拭きました。
世祖は都承旨を呼び王命を書き留めさせました。
「亀城君イ・ジュンを・・・はあ・・・・・・。領議政に任命する。」
亀城君は臨灜大君の息子でこのとき二十八歳でした。
ホン・ユンソンはこんな人事は認められないと亀城君を青二才といい悪口を上党君(サンダングン、ハン・ミョンフェ)と高霊君(コリョングン、シン・スクチュ)の前で言いふらしました。
臨灜大君は世祖に会い息子は未熟者で領議政の器ではないので命令を取り消してくださいと頼みました。
「私の生きている兄弟はそなただけだ。信頼できる者がほかにはおらぬ。今すぐ議政府へ行き政務を行いなさい。」
世祖は部屋の外で控えている亀城君に命じました。臨灜大君は亀城君が無事ではいられぬと元老からの攻撃を心配していました。
「もっと早くに功臣を排除すべきだった。だがもう勝手な真似はさせぬ。世子は嫡流だ。今後は誰にも大きな顔はさせぬ。」
「私の息子こそ嫡流です。乽山君こそが嫡流です。」
粋嬪ハン氏は知らせに来た従兄のハン・チヒョンに言いました。
世祖は孝寧大君の邸宅に移ると言いました。粋嬪ハン氏は内官の制止も聞かずに康寧殿に入ろうとしました。しかし兵士は粋嬪ハン氏に剣を向けました。
「粋嬪が来ていると?」
「さようでございます。別監(ピョルガム)が制止を。」
粋嬪ハン氏は康寧殿の前に座り込み殿下に申し上げたいことがあると言いました。
「今日母はここで死ぬ覚悟よ。今会わなければ二度と殿下に会えない気がするわ。」
粋嬪ハン氏は月山君と乽山君にも席藁待罪(ソッコテジェ)をするように言いました。
僧侶のキム・スオンは王妃に粋嬪を追い払うべきだと言いました。王妃はそれはできないわと言いました。
「粋嬪を恨むでないぞ。たとえ粋嬪に恨まれてもな。」
世祖は海陽大君に言いました。
夜になっても粋嬪ハン氏と二人の息子は寝所の前で座り込んで世祖への目通りを待っていました。
ハン・チヒョンはハン・ミョンフェの家を訪ねて亀城君が領議政になるのを阻止しなければならないと言いました。ハン・チヒョンは粋嬪が一人で戦っておられると同情していました。
誰の目にも粋嬪ハン氏の行動は度を越しているように見えました。
世祖は王妃に今から孝寧大君邸に移ると言いました。
夜。世祖は康寧殿の外に出て粋嬪を見ました。世祖は何も言わずに寝殿を後にしました。粋嬪ハン氏は涙を流しましたが世祖は無視して輿に乗り王妃とともに宮殿を出ました。
王と王妃が孝寧大君イ・ボの屋敷に移りました。世子は王の輿に付き添い観察使イ・フンの家に泊まりました。南所衛将(ナムソウィジャン)は兵を率いて昌徳宮(チャンドックン)に入り東所衛将(トンソウィジャン)は永川君(ヨンチョングン)イ・ジョンと行護軍(ヘゴグン)キム・スンの家に入りました。西所衛将(ソソウィジャン)は景福宮に入り内禁衛将(ネグミジャン)は原川君(ウォンチョングン)イ・ウィの家に入りました。兵曹(ピョンジョ)と都摠府(トチョンブ)は宝城君(ポソングン)イ・ハプの家に入りました。
ユ・ジャグァンはホン・ユンソンに世子(海陽大君)は大君庁で政治を行うと言いました。ホン・ユンソンは殿下から直接王命を聞くまで従えぬと言いました。ホン・ユンソンが「イノミ」と声を荒げると兵士が出てホン・ユンソンとホン・ダルソンを取り囲みました。
「今日から世子様が国政を執り行われます。重要な事案は世子様が殿下にお伺いを立て裁可を得ます。それ以外は世子様が裁可なさいます。よくお聞きください。殿下はご不在です。ご回復され宮殿に戻られるまでその地位を問わず官僚は皆登庁し世子様を補佐してください。理由が何であれ登庁せぬ者は王命により罰します。」
亀城君はホン・ユンソンに言いました。海陽大君は黙ってそれを聞いていました。
ハン・チヒョンは世子が権力を掌握したと粋嬪ハン氏に知らせました。
「約束を取り付けてみせます。何があろうと殿下に謁見し約束を取り付けます。乽山君を世孫にするまで死なれては困ります。」
粋嬪ハン氏は言いました。
「世孫になれるとお思いですか媽媽。」
「だから命をかけているのです。死ぬ覚悟で殿下に謁見を請うているのです。」
世祖は眠りに就くまで孝寧大君は見守っていました。
「あんなにご健康だった殿下がこんなにやせ細ってしまわれるとは。まことに波乱万丈の人生を送ってこられましたね殿下。」
孝寧大君が言うとチョン内官は涙ぐみました。
「私の父は温和な人だったけど優しい言葉ひとつかけてくれなかったわ。でもお義父様は違った。父とは全然違ったわ。親子の情というものを私は義父から教わったわ。そのせいか父が亡くなったときは涙ひとつ出てこなかった。でもお病気のお義父様のお顔を見ると胸が張り裂けそうなほどいたんだわ。」
粋嬪ハン氏はイム尚宮に言いました。
「殿下も媽媽をわが子同然に思っておられます。」
イム尚宮は粋嬪ハン氏の機嫌をとりました。
「世子は呪われるがいい。天が私にこたえてくれているわ。天が私の心の叫びを聞いているのよ。」
雷が鳴りました。
粋嬪ハン氏は康寧殿に行きました。
「康寧殿は君主の住むところです。懿敬世子と私が住むはずの場所なのです。死ぬ前に約束してください。一言でよいのです。乽山君を世孫にすると息を引き取る前に言ってください。殿下。」
粋嬪は大きな声で寝殿に向かって言うと泣き叫びました。
海陽大君は政治を始めました。海陽大君の執務を亀城君とユ・ジャグァンが支えました。
「訪ねてくる者がひとりもいないなんて。」
粋嬪ハン氏の姉は悪口を言いました。
粋嬪ハン氏は風邪をひいて寝込みヒャンイが介抱していました。
元老たちは孝寧大君の家に集まりました。
「殿下。昨夜は一睡もできませんでした。」
蓬原君チョン・チャンソンは言いました。ク・チグァンも来ていました。
「またそなたたちに会えてうれしいぞ。」
河東君チョン・インジは「私のような者が生き長らえ殿下はさぞご不快な思いでしょう」と言いました。
「チョン大監。よくぞ言ってくれた。」
世祖は笑いました。
「今日そなたたちを呼び出したのは私の墓について相談するつもりだ。」
「殿下。生前墓のことでしょうか。」
シン・スクチュは泣きました。
「涙を流す出ない。墓の話をしただけなのにどうして涙を流すのだ。拭きなさい。はっはっはっは。」
ハン・ミョンフェも部屋に来ていました。