王と妃 101話 功臣の投獄とシン・ミョン死す
あらすじ
「私は業を背負って生まれた。だかさ騒動が絶えぬのだ。そうだ。私は悪鬼だ。千年の眠りからよみがえった悪鬼なのだ。」
世祖は粋嬪ハン氏が見ている前で騒ぎ立てて泣きました。
「殿下。」
内官は世祖に声をかけました。
「ミョンフェとスクチュに裏切られたら私は誰を信じればよいのだ。これが私の運命だとは。苦楽をともにしてきた忠臣まで殺さねばならぬのか。」
「下がりなさい。殿下の介抱は私がするわ。介抱は私がするわ。」
粋嬪ハン氏は内官を外に出しました。
「殿下・・・・・・。」
世祖は二人の内官に手を振り退出の合図をしました。そのときの世祖の目は正気でした。
「何でしょうか。」
内官が世宗に言うと粋嬪はそれを制止しました。
「私が介抱すると言ったではありませんか。」
内官たちは出ていきました。
「中殿媽媽に報告を。粋嬪様が殿下を介抱なさっている。」
世祖の寝所を出たチョン内官たちは尚宮に王妃に知らせに行くよう命じました。
「規則に外れるのでは?」
「とにかくお伝えください。」
粋嬪ハン氏は世祖の机の前に座りました。
世祖は赤子のようにぐったりして泣いていました。
王妃の部屋。
「それほど飲みすぎたの?」
王妃は尚宮に尋ねました。
「殿下おひとりで歩けぬよど酔っておいででございました。媽媽。媽媽が東温突(トオンドル)にお行きになるべきではありませんか。ご子息の妻である粋嬪様が介抱なさるのは宮中の規則から考えても好ましくありません。」
「殿下が泥酔なさるとは思えぬ。飲みすぎても正体不明になる方ではない。下がりなさい。粋嬪に呼ばれたら東温突に行って介抱すればよい。
「ハン・ミョンフェを助けてくれと頼みに行ったのでしょう。」
世祖の寝所。
「私は飲みすぎたらしい。」
世祖は起き上がりました。
「殿下は常に威厳を保っておられます。その殿下が正体をなくされたので内官らの目をはばかり一時下がらせました。」
「奴らが私を見下すというのか。」
「今は強いお姿を見せるべきでございます。イ・シエが北方で乱を起こし上党君(サンダングン、ハン・ミョンフェ)と高霊君(コリョングン、シン・スクチュ)が謀反を疑われています。このような時に殿下が思い悩み醜態をさらけ出したなら民が不安に思うことでしょう。お気を強くお持ちください。」
「ハン・ミョンフェの命乞いに来たのではないのか?」
「媽媽。私は誠に身勝手な女ですがこんな時にハン・ミョンフェの命乞いなどいたしません。」
「うーん。」
世祖は鼻をかみました。
「ミョンフェは発疹ができて寝込んでいるとは。今まで元気だったのに急に伝染病にかかっただと?シン・スクチュは毅然としている。息子も義禁府に連れていかれシン・ミョンも召し捕えるが文句も言わずに牢獄にいるではないか。シン・スクチュは本当に高潔な人間だ。卑劣なハン・ミョンフェなど足元にもおよばぬ。」
「ならばハン・ミョンフェを捕えてください。私もハン・ミョンフェは仮病を使っていると思います。」
「死にそうに見せかけるはずだ。伝染病で死にかけた功臣を情け容赦なく投獄したと皆王の私を悪く言うに違いない。だからハン・ミョンフェは仮病を使ったのだ。卑怯な人間だ。私はハン・ミョンフェが卑怯な人間だと知りながら登用してしまった。」
「殿下。ハン・ミョンフェとシン・スクチュを尋問なさるおつもりですか。」
「尋問して何が悪いのだ!」
「ハン・ミョンフェとシン・スクチュは殿下の功臣でございます。人に笑われます。」
「笑われるだと?」
「ハン・ミョンフェとシン・スクチュを殺すなら静かに殺すべきです。」
「そなたは何が言いたいのだ。」
「殿下。私は月山君と乽山君を助けてくださいと殿下にお願いしました。月山君と乽山君は王の孫故に王位継承争いに巻き込まれかねません。魯山君は復位を夢見ていたと思いますか?政権の掌握を狙った輩が謀反の名分に魯山君の復位を名分に利用したのです。それゆえ月山君と乽山君を助けてくれと殿下に頼んだのです。殿下は若い世子様の将来を案じておられますが今世子様が王になったらどうなると思いますか。老練な功臣たちがキム・ジョンソやファンボ・インがしたように国政を牛耳り王を圧倒しようとするはずです。」
「なのにハン・ミョンフェを領議政にしろといったのか。」
「私に欲があったからです。ハン・ミョンフェの娘を乽山君に嫁がせたのもハン・ミョンフェを領議政にしたのもそのためでした。」
「私がそのことに気付いていないとでも?」
「殿下を欺くつもりはございません。むしろ殿下がご存じだったからこそ堂々とお願いできたのでございます。殿下。殿下は世子様に王位を譲る前に功臣たちを殺すおつもりでしょう。そうなったら月山君と乽山君はどうなりますか。いつか世子様の側近たちが月山君と乽山君を殺すでしょう。おそとうさま。それはおとうさまも知っておいででしょう。王妃様もハン・ミョンフェもシン・スクチュもそれは予測していることです。もちろんおとうさまのお気持ちはわかります。月山君と乽山君を哀れに思っておいでのこともわかっています。だからこそハン・ミョンフェを領議政にしてくださったはずです。」
「娘よ。何度も繰り返し考えてみた。私は強固な王権を世子に譲ってやりたいが、それにはどうしたらよいだろうとな。幾度となく考えたがこれしかなかった。老練な功臣がいたら世子の明日は保証できぬだろう。」
「世子様を案じておられますが、月山君と乽山君はどうなってもよいのですか。」
「私が約束しよう。月山君と乽山君に誰も手出しをさせぬ。」
「ならば、乽山君を世孫(セソン)にしてください。ハン昭訓(ソフン)は正妻ではないので息子は庶子です。世孫にはなれません。」
「世子はまだ十九歳だぞ。再び世子妃を迎え世継ぎを儲けるだろう。」
「懿敬世子をお忘れですか。乽山君が生まれたときに夫は懿敬世子として東宮にいました。殿下は世継ぎが生まれたと乽山君に言ったではありませんか。世継ぎなのは今も変わりません。懿敬世子が生きていたら海陽大君は世子になれませんでした。海陽大君の次は乽山君が王になるのが道理では?」
「やめなさい!そんな道理が通るものか!」
「だったら月山君と乽山君を殺してください。どうせ長生きできないのだから。」
「何と言った。よくもそんな暴言が吐けるな!私に孫を殺せというのか!この不届き者め。不憫に思って願いを叶えてやったのに!私が魯山君を処刑したのは・・・・・・うう・・・・・・・ハン・ミョンフェを殺さずにおけばよいのか?ハン・ミョンフェとシン・スクチュを生かしておけばそなたは安心していられるのか?娘よ。」
粋嬪ハン氏は世祖の前で泣きました。
粋嬪ハン氏は世祖の寝所から出てきました。粋嬪はけろりとして従兄のハン・チヒョンに意地悪く笑いました。
懿敬世子の部屋。乽山君は眠らずに母を待っていました。
「母上のお命が危ういのに寝てなどいられません。」
「なぜわかったの。」
「そのくらいのことは察しがつきます。母上。泣かないでください。私は死をおそれていません。」
「ここへ来なさい。」
粋嬪ハン氏は乽山君を抱きしめました。
「大したものだわ。その気概があれば何でも成し遂げられる。本当に偉いわ。」
ハン・ミョンフェの家。
「よく私の家に入れたな。」
「こう見えても左副承旨ですから。」
ハン・チヒョンはハン・ミョンフェに会い粋嬪は上党君の命を何としても救うだろうと言いました。ハン・ミョンフェはこのご恩は何としても返すと言いました。
世祖の寝所。世祖はチョン内官に話しました。
「殿下。」
「シン・スクチュと誥命謝恩使として明へ行った。ある日、酒を飲んでいたとき、私はそれとなくキム・ジョンソの粛清を行うとほのめかした。シン・スクチュはしばらく私の顔をみつめたが、立ち上がり私に拝礼した。私は嬉しくてスクチュは私の志をわかってくれたと言った。彼は歴史というのは現実の積み重ねだがその向かうべきところは理想の世界だと言った。苦しんだろうな。シン・スクチュはまじめな学者だ。そんな人間が節操をまげて現実に従うことにしたのだ。シン・スクチュは世間から権力に目がくらんだとそしられることはわかっていた。今日の宿直の承旨は誰だ。」
「都承旨です。」
「呼べ。」
世祖は都承旨を呼びました。
ユン・ピルサンは急いで参内しました。
「殿下。」
「シン・スクチュに会って来い。義禁府に行ってシン・スクチュの様子を見てこい。シン・スクチュが義禁府で苦労している。だから無事であるか知りたいのだ!」
世祖は察しの悪いユン・ピルサンに大声で頼みました。
世祖は酒を飲みました。
「粋嬪の言う通りだ。功臣を投獄するなど笑いものだ。まずはシン・スクチュから放免せねば。」
ユン・ピルサンは牢屋に行きました。
「おつらいですか。」
「何とか耐えられる。そこにいる者が夜中に枷をゆるめてくれた。おかげで楽になった。」
「あまりにもお気の毒だったので。」
見張りの役人はユン・ピルサンに言いました。
「それでよかったのです。」
ユン・ピルサンは役人に言いました。
「なぜこんな夜更けに義禁府に来たのかね?」
「殿下からシン大監が無事でおられるか見てこいとおおせえつかりました。」
「本当に殿下が罪人を案じてくださったのか。」
「はい。高霊君大監。」
「殿下、誠にありがとうございます。」
シン・スクチュは泣いて拝礼しようとしましたが首枷がありうまく拝礼できませんでした。
寝所。
「シン・スクチュは何と言ったのだ。」
世祖は都承旨のユン・ピルサンに尋ねました。
「殿下に罪人の身を案じていただき恐縮だと言っておりました。」
ユン・ピルサンは世祖にありのまま見てきたことを報告しました。
「罪人だと。罪人といったのか。」
「はい殿下。」
「私を恨んでいなかったか。」
「もちろん恨んでおりませんでした。」
「ハン・ミョンフェは仮病をつかいシン・スクチュは罪人といった。私はスクチュに申し訳ないことをした。」
「殿下のお心遣いに感謝し拝礼しておりました。」
「そうだろう。スクチュならそうするだろう。義禁府のチェジョに命じてシン・スクチュの枷を緩めてやれ。何をしているのだ。早くシン・スクチュの枷を緩めてやれ。」
「恐れながら殿下。義禁府の提調(チェジョ)と郎官(ナングァン)が夜間の高霊君の枷を緩めておりました。」
「夜間は、枷を緩めておったのか。」
「そうぞご心配なきよう。」
「けしからん!なんということだ!大逆罪人の枷を勝手に緩めおって。シン・スクチュの枷を緩めた者を全員捕まえろーーー!!!」
世祖は泣いたかと思うと怒鳴りました。
シン・スクチュの枷を緩めた役人が捕まりました。
王は宣伝官(ソンジョングァン、王を護衛したり王命を伝達する武官)に兵を動かすよう命じ義禁府の提調のキム・ギルトン、イ・ハムジャン、スン・ニ、郎官のナム・ヨンシンらを連行させました。そして自ら尋問しました。
「シン・スクチュは重罪を犯したゆえ大臣でありながら枷を嵌められた!それなのにお前たちはシン・スクチュの枷をゆるめてやった。先のことを考えてシン・スクチュにおもねり得をしようと考えたからだー!」
「殿下ー。私たちは法を承知しておりますが枷がきつく一口の水も飲めなかったのでございます。愚行をおかしました。大罪人でもないのに水も飲ませなかったらお咎めがあるのではと恐ろしくなったのです。」
「大罪人ではないだと?ネイノン。シン・スクチュは大罪を犯したのだ!」
「私は浅はかなため市に値する罪を犯しましたー。」
「死んだくらいでは償えぬ大罪だー!」
世祖は提調たちを指さし寝所に帰りました。
思いがけないことが起きました。シン・スクチュに同情し涙まで流した王がシン・スクチュの枷を緩めた義禁府の提調と郎官をむち打ちの刑にした。義禁府のナム・ヨンシンは特に罪が重いとされ、死刑になったあと遺体をさらされました。世祖が何を考えているのか推測しがたい出来事だった。
粋嬪ハン氏の部屋。
「本当にどういうことかわかりません。」
ハン・チヒョンは言いました。
「昔の人は東に声を出して西を討つと言いました。ハン・ミョンフェが標的なのでしょう。」
粋嬪ハン氏は従兄に言いました。
世祖の部屋。
「書け。シム・フェを領議政に任命する。領議政ファン・スシンが死んだゆえシム・フェはその後任だ!チェ・ハンを左議政に任命する。右議政には・・・・・・ホン・ユンソンを右議政に任命する。」
「ホン・ユンソンを右議政にですか。」
「耳が遠くなったのか。ホン・ユンソンを右議政に任命する。」
世祖は都承旨に言いました。
ホン・ユンソンはむっくりと寝床から起き上がり庭に出ました。庭には王命を預かった内官たちがいました。
「これぞ寝耳に幸運の水だな。」
ヨン・ユンソンは寝間着のまま踊りました。
世祖はハン・ミョンフェを排除するために綿密に計画を立てていました。
ヒャンイはハン・ミョンフェが死ぬときは一緒に死ぬといいました。
「私ホン・ユンソン。殿下に忠誠を誓います。」
新しい政丞たちは世祖に拝礼しました。
「義禁府の提調と郎官がシン・スクチュの枷を緩めた。これは王である私を侮っている証拠だ。」
「さようでございます殿下。殿下は彼らを皆処刑すべきです。」
ホン・ユンソンは何の迷いもなく世祖に言いました。
「シン・スクチュは投獄したがハン・ミョンフェは家にいる。これをどう思うか意見を述べてみよ。」
「あ・・・あの・・・・。」
領議政は答えられませんでした。
「右相(ウサン、右議政)が述べてみよ。」
「い・・・。」
「これが正しいことか?」
「あ・・・違います。」
「誰もハン・ミョンフェを投獄しろと進言せぬ。そればかりか処罰を求める声もない。これは謀反だ。王の私よりシン・スクチュとハン・ミョンフェを恐れているのだ。これで私が王といえるのか。」
領議政と左議政は真相を究明してから罪に問いましょうと言いました。
「ハン・ミョンフェを投獄すべきです。殿下。今すぐ義禁府にハン・ミョンフェを投獄すべきでございます。」
ホン・ユンソンは最大の妥協点を言いました。
「ハン・ミョンフェとシン・スクチュをクァンジョジョン(関雎殿)に幽閉し銀川君(ウンチョングン)イ・チャンに見張らせる!!」
世祖は大声で怒鳴りました。それはとても病気とは思えない姿でした。
ハン・ミョンフェの仮病は世祖に見破られ幽閉されました。
咸吉道。
「兄上!ハン・ミョンフェとシン・スクチュが投獄されました。」
「首陽も運の尽きだな。我々は戦わずして首陽の首を手に入れられるぞ。はっはっは。首陽の左右の腕を切り落とすことができた。次は亀城君のイ・ジュンと観察使のシン・ミョンが戦い自滅するだろう!シン・ミョンはシン・スクチュの息子だ。私が殺さなくても首陽の討伐軍が殺すだろう!遠からず我々の天下が来るだろう。飲むがよい!」
イ・スエは言い部下に酒と食事をふるまいました。部下たちは声をあげて喜びました。
「今すぐ引き返してください。咸興府の武人らが観察使様を殺す気です。都統使の亀城君様も観察使様を捕えよとの王命を受けたそうです。」
シン・ミョンの部下は報告しました。
「亀城君が私を?」
「シン・ミョン様はシン・スクチュのご子息なので逆徒とみなされたのかもしれません。大監は身を隠していてください。」
「行くあてなどない。イ・シエを殺すまで疑いは晴れぬだろう。咸興府に行くぞ!」
シン・ミョンは剣を抜きました。シン・ミョンは城門で戦いましたが胸に弓を受けて死にました。
シン・ミョンが戦死しました。彼は若い官僚でシン・スクチュの息子でした。そして亀城君イ・ジュンとともに世祖に寵愛されていました。
「シン・ミョンが、戦死した。信じられん。」
亀城君イ・ジュンは言いました。
「むしろ好都合かもしれません。殿下はハン・ミョンフェら功臣をこの機会に排除なさいます。都統使様はまずはイ・シエを排除したのちに功臣たちを殺してください。」
部下は亀城君に言いました。
「朝廷に絶え間なく騒ぎが起きるのは嬪宮がいないからです。」
王妃は世祖に言いました。
「イ・シエが乱を起こしたのだ。」
「だから急がねばなりません。」
「嬪宮の話などしてる場合ではない。」
世祖は話をはぐらかしました。
感想
世祖はまさに頭がおかしいのではないかと思うほどですが、これはすべて世祖が臣下たちの前で偽りの自分を作って演技しているのですね。そうやって臣下がどのように反応するかを調べて作戦を決めているのです。王様はうそつきだという童話がありましたね、まさにそれです。欲深い貴族たちを相手にするには人をだますほかありません。それに対し粋嬪も嘘を世祖に見せて世祖を翻弄しています。しかし世祖は粋嬪の本心を今話で知り気持は懿敬世子の息子に傾いています。海陽大君の長男は女官の息子(のちの英祖みたいな立場)ですから身分が低く気に入らないようです。世祖は本当はハン氏がかわいくて仕方がないけどハン・ミョンフェは大嫌いで死んでほしいそう思っているようですね、ドラマの演出では。「王女の男」ではこの乱にキム・スンユがでてきてシン・ミョンは上党君と世祖の兵に殺されるのですね。