王と妃 102話 勢力を強める反乱軍
あらすじ
世祖の寝所。世祖(首陽大君)は王妃と世子イ・ファン(海陽大君)と昭訓ハン氏と過ごしていました。
「そなたを世子妃にしないのは世子妃として不適格だからではない。」
「恐れ入ります殿下。」
「恐れ入ります殿下。」
昭訓ハン氏は世祖に頭を下げました。
「今北方で乱が起き大勢が死にゆく中宮中で慶事を行うことはできないのだ。」
「ならばハン昭訓を世子妃になさってください。そう約束してくだされば私たちも安心して待てます。」
王妃ユン氏は世祖に言いました。
「なぜわかってくれぬのだ。嫁の前で面目をつぶすのか。」
「嫁ですって?」
世祖は咳払いをしました。
「ハン昭訓を正室とお認めになっておられるのですか。」
「もうよさぬか。」
宮殿の粋嬪ハン氏の部屋。
「昭訓が世子妃になればその息子が王位を継ぐことになります。絶対に阻まねば。まずは上党君を救います。」
粋嬪ハン氏は従兄のハン・チヒョンに言いました。
「罪人は救えません媽媽。粋嬪様。謀反人を助ければ共謀者とみなされます。媽媽は絶対に関与なさってはなりません。」
「なおさら助けねば。」
「媽媽。」
「乽山君はどうなりますか。ハン・ミョンフェの娘婿なのよ。乽山君も逆賊にされかねません。」
「それは考えすぎでしょう。」
「イ・シエの上疏をご存じでしょう。ハン・ミョンフェが咸吉道都節制使(トチョルチェサ、地方の軍営を指揮する官職)と共謀し、北方の兵を動かしたと書かれてあります。まさに謀反でしょう。殿下を廃位し新たな王を立てようとしています。まさに謀反です。では誰を王に押し立てようとしたと思いますか。乽山君でしょう。ハン・ミョンフェとシン・スクチュの謀反が事実ならば乽山君を王にするつもりだったのです。」
「そこまでは考えが及びませんでした。」
「月山君と乽山君は世継ぎです。嬪宮がいない今、世孫は月山君と乽山君の二人だけなのです。ですがハン昭訓が嬪宮になれば事情は変わります。」
「まさか中殿媽媽はそこまでは考えておらぬはずです。」
「どうでしょうね。」
「若くして亡くした粋嬪が不憫ではないのか。」
世祖部屋でひとり怒鳴りました。
王妃ユン氏の部屋。
「媽媽。この機会を逃してはなりません。この機会にハン・ミョンフェとシン・スクチュの息の根を止めるのです。昭訓様を嬪宮にするとの王命を取り付けなければなりません。」
法師のキム・スオンは王妃に助言しました。
粋嬪ハン氏の部屋。
「ハン・ミョンフェとシン・スクチュが外部と連絡をとる恐れがあるため殿下は二人を関雎殿に移し王族に監視させております。そればかりではなく承政院の承旨らに夜回りをさせています。媽媽。殿下がふたりを移したのは殺すためでは?」
ハン・チヒョンは粋嬪ハン氏に言いました。
「お兄様は一を知って二は知らぬものなのですね。関雎殿は宮中にあります。義禁府に比べてはるかに待遇がよいのです。」
「それもそうですね。」
ハン・ミョンフェとシン・スクチュがかけられた嫌疑は謀反でした。関雎殿に閉じ込められた二人は足かせも首枷もはめられず特別な待遇でした。
ハン・ミョンフェとシン・スクチュは同じ部屋にいました。
「もしかして仮病だったのか?」
シン・スクチュはハン・ミョンフェに言いました。ハン・ミョンフェは胸の発疹を見せました。
「それほどひどいとは知らず疑ってすまぬ。」
「無理はない。私が仮病を使ったと皆も思っていることだろう。」
粋嬪ハン氏は宮殿の神殿に行きました。
「泣いておられるのは殿下なの?」
「シン・ミョンが戦死したそうです。」
「高霊君(コリョングン、シン・スクチュ)大監の御子息が?」
「さようでございます媽媽。」
内官は粋嬪ハン氏に言いました。
「どうしてシン・ミョンは死んだのだ。」
世祖は泣きました。
都承旨のユン・ピルサンはシン・ミョンの死の状況を世祖に報告しました。
「シン・ミョンは私が殺したも同然だ。スクチュに合わせる顔がない。」
世祖は布で顔を拭きました。
「どうすればいいのだ。高霊君(コリョングン、シン・スクチュ)には知らせたのか。」
「いいえ。」
「どうして高霊君に知らせぬのだ。」
「おそれながらシン・スクチュは罪人です。罪人に情報を教えることは国法に反します。申訳ござません。」
「知らせなさい。息子の戦死を彼に教えてやれ。」
「それが王命ならば伝えてまいります。」
ユン・ピルサンは部屋を出ました。
「これは粋嬪媽媽ではありませぬか。」
「ご苦労だったわね。都承旨。」
都承旨のユン・ピルサンが関雎殿に行くと銀川君は門を通しませんでした。ユン・ピルサンはこれは王命であるというと銀川君はユン・ピルサンを関雎殿に通しました。
粋嬪ハン氏は世祖に会いました。粋嬪ハン氏は上党君(サンダングン、ハン・ミョンフェ)と高霊君は謀反を企む人ではないので放免してくださいと頼みました。
「イ・シエを捕らえ真相を究明するまでは・・・・・・。謀反をたくらんでおらぬとしても・・・・・・。」
「殿下。乽山君まで殺すつもりですか。」
「なぜ私が孫を殺さねばならぬのだ。」
「上党君の謀反に利用されるからです。殿下。上党君と高霊君はどうするのですか。殿下も彼の奥方の死を悲しまれたではありませんか。今度は息子を亡くされたのです。高霊君はさぞかしむねんでしょうね。濡れ衣まで着せられて。」
「濡れ衣だと!」
「おとうさま。私は夫を亡くしました。そのうえおとうさまは孫まで失ってもよいのですか。」
「ああ・・・・・・。」
「夫にも先立たれたのに、息子まで失うことになれば・・・・・・。」
粋嬪ハン氏は泣きました。
都承旨はシン・ミョンの死をシン・スクチュに伝えました。
「むしろよかったのだ・・・・・・。」
「それ以外に殿下からのお言葉は?」
「それ以外にお言葉はありませんでした。」
「殿下は冷酷なお方だ。」
「女人が政に参加するなんてもってのほか。罪人の助命を請うなどあるまじきことです。以前と同じように宮殿への出入りを一切禁じます。今すぐ月山君と乽山君を連れて帰りなさい。」
王妃は粋嬪ハン氏に言いました。
「愚かなことをしました。私はただ乽山君のことが心配で・・・・・・。」
「乽山君のどこが心配なの。なぜ黙っているの。」
「母上。上党君の謀反が事実なら乽山君にも累が及ぶのでそれを案じておられるのです。」
海陽大君が母に言いました。
「余計な心配よ。私が孫に累は及ぼさないわ。」
海陽大君は粋嬪ハン氏を追いかけて「お気を悪くなさらないように」といいました。粋嬪は悲しそうに目を潤ませて海陽大君を一瞥すると宮中を去りました。
粋嬪ハン氏は月山君と乽山君を輿に乗せて宮中の外の屋敷に帰りました。
「粋嬪が孫たちを連れて屋敷に帰っただと?」
世祖の耳にも知らせが入りました。
「さぞ胸を痛めているだろう。」
「殿下。まことに申し訳にくいことですが、亀城君がシン・ミョンの遺体と都に戻られたそうで。」
「それで?」
「あの・・・高霊君にご子息の遺体とご対面を・・・・・・。」
「そうするとシン・スクチュを放免せざるを得なくなる。」
桂陽君夫人とハン・チヒョンはすぐに粋嬪ハン氏の家に駆けつけました。
「殿下は乽山君のことまで考えて上党君を殺さぬはずです。」
「男たるもの死をおそれてはならぬのだ。それが王命なら従うしかあるまい。」
まだ子供の乽山君は心配する妻に心のうちを話していました。それを粋嬪ハン氏は盗み聞いていました。
「息子の死に立ち会わせるべきではないか!」
ハン・ミョンフェは愚痴をこぼしていました。
「ミョンフェよ。そなたは血も涙もない男と思っていた。」
シン・スクチュは笑いました。
イ・シエの乱は咸吉道全域に広がりました。反乱軍が日増しに勢力を強めても軍の総帥亀城君はなかなか兵を動かそうとしませんでした。
「都統使大監。いつ反撃なさるのですか。」
「反乱軍と民の区別がつかぬので実に頭が痛い。イ・シエが流言を広めている。咸吉道の民が王に虐殺されると広め民心を乱しているのだ。まずは民心を安心させねば。もう少し待て。時期が来たら反乱軍を撃退する。」
「都統使大監。何を恐れているのですか。攻撃しましょう。」
「近く王命が届くはず。王命が届いたら進撃しよう。」
夜の思政殿に重臣たちは呼び出されました。ホン・ユンソンはハン・ミョンフェとシン・スクチュを処分するのだと皆に言いました。
「私が自ら指揮を執る!」
世祖はイ・シエの乱の鎮圧を指揮すると言いました。綾城君や左議政のチェ・ハンは反対しました。
「私が咸吉道に出陣する。皆も準備せよ。」
孝寧大君やホン・ユンソン、ホン・ダルソンは何も言いませんでした。
「戦時体制を敷くよう各部署に命じろ。六曹は私が直接指示する。」
世祖は都承旨に命じました。
「まったくまともとは思えませんよ。一握りに過ぎぬ敵の盗伐にわざわざ殿下が遠征なさるとは。まったく理解に苦しむ。」
右議政ホン・ユンソンは世祖がいなくなると皆に本音をぶつけました。
果たして世祖の狙いは何なのか。
「ジャグァンを呼んでまいれ。」
世祖はチョン内官に命じました。
「入れ。」
「私めが殿下と対座するなどとんでもないことでございます。」
「そなたは私の息子同然です入りなさい。」
「私には官職がありませんので本来殿下に拝謁できません。」
「都承旨はいるか。呼んでまいれ。」
チョン内官は都承旨を呼びました。
「おはいりください都承旨様。」
「入る必要はない。ユ・ジャグァンを兼司僕(キョムサボク、王の精鋭新衛兵)に任命する。」
「おそれながら殿下・・・ユは庶子でございますゆえ。」
「扉を閉めよ。王命は以上だ。さっさと扉を閉めよ。」
「はい殿下。」
「これでよかろう。」
「官職を与えたから中に入りなさい。」
ユ・ジャグァンは遠慮しつつ世祖の部屋に入り拝礼しました。
「ご厚情に感謝いたします。」
「私が生きてきた中で直に官職を請われたのは初めてだ。庶子の身で官職を求めたそなたの気概を買った。言う通りにしたぞ。そなたのさうkに従い遠征をおこなうといった。」
「これからが肝心でございます。君主が軍権を失えば操り人形と化します。」
世祖は大きく頷きました。
「そろそろ退庁なさっては?お宅までお供いたします。」
都承旨は孝寧大君に言いました。
「そなたが先に帰りなさい。私は殿下に会ってから帰る。」
「兄上、兄上、殿下は功臣を排除するつもりですよ。功臣から軍権を奪うおつもりです。」
ホン・ユンソンはホン・ダルソンに言いました。
ハン・チヒョンはハン・ミョンフェとシン・スクチュに状況を報告していました。
シン・スクチュはそんなに戦況が悪いのかと世祖の部屋に向かって「殿下ー」と泣きました。
部屋を出たハン・チヒョンは笑いました。
「そなたと私は殺されてしまうかもな。」
ハン・ミョンフェはシン・スクチュに言いました。
孝寧大君は康寧殿の世祖の部屋に行きました。
「お酒を用意しましょうか?なぜ何もおっしゃらないのですか。」
世祖は孝寧大君に言いました。
「そんなにひどいのか?掻いてやろうか?」
シン・スクチュはハン・ミョンフェの背中を書きました。
「このあたりか?」
「もうちょっと下だ。」
「横だ。」
「ここだな?気持ちいいか?」
「権力とはむなしいものだな。」
「のんきにそなたの背中を掻く私はどうなる。笑いごとではないだろうミョンフェよ。」
ハン・ミョンフェとシン・スクチュは自嘲しました。
「殿下はハン・ミョンフェを殺すおつもりですか?殿下が軍の指揮権を集約なさるのはそのためですか?殿下。ハン・ミョンフェとシン・スクチュは重臣です。」
孝寧大君は世祖に言いました。
「もっと早く殺すべきだった。」
「ハン・ミョンフェは私が死ぬのを待っておる。ハン・ミョンフェを殺さぬ限りこの国は前途多難だろう。世子は二十歳前です。ハン・ミョンフェに対抗するにはまだまだ未熟です。だから中殿が口を挟むのだろう。中殿の心配もわからなくもない。ハン・ミョンフェは貪欲極まりない人物です。たかが松都の宮直だったハン・ミョンフェが領議政まで上り詰めたのです。非凡な才能です。その気になれば何でもできるでしょう。私が死ねば彼の転嫁です。自分の気に入らなければ王をも挿げ替えられます。」
世祖はふらつきました。
「殿下。」
「少しめまいがしただけだ。」
「殿下。ハン・ミョンフェとシン・スクチュを殺してはなりません。お二人のおかげで王になれたのです。殿下が即位なさったことは避けられぬ運命だったと私は思います。安平大君の死も錦城大君の死も仕方なかったと信じています。ましてや魯山君の死はなおさらです。大勢殺戮してきたのにまた重ねるのですか。」
「殺戮とおっしゃいましたね!叔父上!今殺戮とおっしゃったでしょう!」
世祖は逆上しました。
粋嬪ハン氏は懿敬世子の「欲望と疑心を捨てよ」という言葉を思い出していました。
「私が我が子を王位に就かせます。私が我が子を王位に就かせます。絶対に就かせて見せます。」
感想
まーた悪党のお仲間同士殺そうとしているわ!そんな風にしか見えません、このドラマ。粋嬪ハン氏とハン・ミョンフェは海陽大君を殺したいだろうし、亀城君とユ・ジャグァンはハン・ミョンフェとシン・スクチュを殺したいだろうし、かつてはお仲間だったような人たちがさらなる欲望を手にするために殺意をみなぎらせています。なんと愚かなことなのでしょう(笑)このドラマの面白いところは端宗とまだ罪を犯してない乽山君以外は皆悪党だということです。端宗も長生きしていたら悪に染まったかもしれません。