朱蒙(チュモン)42話
あらすじ
帯素(テソ)王子はヨンポ王子の前にトチとその手下を連れてこさせました。
「お助けください。私はヨンポ王子に脅されてやったのです。」
トチはテソ王子に命乞いをしましたが、テソはトチを殺してしまいました。
テソ王子はヨンポ王子を殺そうとしましたが、王妃はお願いだからやめてとヨンポをかばいました。
「ただちに牢にぶちこめー!」
テソ王子は部下に命じると、ヨンポ王子は兵士に連れて行かれました。
朱蒙(チュモン)王子はその様子を黙って見ていました。
テソ王子は酒を飲み、チュモンを呼びました。
「今度のことで大きな借りができたな。」
「では罪をおかしたヨンポ兄上ですが、命だけはお助けください。」
「以前からヨンポは災いの種であった。あいつの過ちのせいで私がどれほど苦労してきたかお前にはわかるまい。今までは大目に見ていたが今回だけは我慢ならない。絶対に許すことはできない。」
テソ王子は酒をあおりました。
「玄菟(ヒョント)城からお前を長安に連れて行く使者がもうすぐ到着する。命の恩人であるお前を長安に行かせてすまないと思うが仕方がないことゆえお前も支度を早く整えておけ。お前が早く戻れるよう私も努力するつもりだ。そしてお前に約束したことはすべて必ず守る。」
金蛙(クムワ)王は柳花(ユファ)姫を侍らせ酒を飲んでいました。
「ユファ。父と子の絆や道理さえも揺るがしてしまう権力だとわかっていながらわが子らが権力をめぐって骨肉の争いをするとは。すべては私のせいだ。テソが私を追い出したのは、あの子たちがあれほど権力に固執するようになったのは、すべて私のせいだ。はっはっはっはっは。」
ヨンポ王子は牢屋に入れられていました。王妃は息子の様子を見に来ました。
「ヨンポ。」
「母上。」
「テソを襲うなどとお前は何を考えていたのです。」
「兄上にどうかお伝えください。どんなことでも従いますから命だけはお助けくださいと。母上、助けてください母上。」
「ヨンポ・・・・・・。」
桂婁。ソソノは書簡を読んでいました。召西奴(ソソノ)はチュモンが長安に行く前にイエソヤと結婚するかもしれないことを思い出していました。サヨンが部屋に入ってきました。
「扶余の密偵から知らせが届きました。ヨンポ王子がトチにテソ王子を殺させようと失敗して投獄されたそうです。なんと襲われたテソ王子様を助けたのはチュモン王子様だったのです。」
「本当にチュモン王子がテソ王子を助けたの?」
「助ける理由があったからです。ヨンポ王子の陰謀で、刺客は桂婁の甲冑を着ていたのです。暗殺を桂婁の仕業にされてはいけないとチュモン王子様はテソ王子を救ったのです。」
「ソソノ。」
優台(ウテ)行首が佇むソソノのところに来ました。
「あなたの言った通り、ヨン・チェヨンは妙な動きをしている。ソンヤンの密偵をしている可能性がある。」
「あの兵士たちは?」
ヨンタバルの妹ヨン・チェヨンはサヨンに尋ねました。
「ソンヤンを殺すための刺客です。」
サヨンは答えました。
ヨンタバルの妹は侍女を呼びソンヤンの密偵に書簡を渡しました。すると優台(ウテ)がすぐに密偵を倒し書簡を見つけました。女官は怯えました。
「お助けください。」
「助けてやるから怖がらずともよい。私がいいというまではヨン・チェヨン行首のもとへ戻ってはならぬ。わかったな。」
「はい。」
ヨン・チェヨンの書簡はソソノに渡されました。
「これからどうするのだ?」
優台(ウテ)はソソノに聞きました。
「このことは知られないようにして。特に父には。」
「よしわかった。」
ソソノはヨン・チェヨンの部屋に行きチェヨンがしたためた密書を見せました。
「私、私は、お前が無茶をして桂婁が危機に陥るのを防ごうとしただけ。」
「私は君長として敵と通じたおばさまを処罰することができます。ですが今回は見逃しましょう。おばさまのためではなくお父様のためにするのです。今度したら決して見逃したりしませんから。」
ヨン・チェヨンの部屋を出たソソノは腹を抑えて苦しみました。
サヨンはソソノを部屋に連れて行くように部下に命じました。
サヨンはヨミウルを呼びました。
「急にお倒れになったのですが、原因がわかりません。」
ヨミウルはヨンタバルに「おめでとうございます、ソソノ君長はご懐妊でございます」と言いました。
ケピルは喜びました。サヨンはウテにおめでとうといいました。
ウテはソソノの手を握りました。
「ソソノ。」
扶余の城。
ナロはチュモンに使者が来たので出発の準備を願いました。
チュモンはマリとヒョッポとオイを部屋に呼びました。
「ついに、お前たちとも別れる時が来た。」
「王子様、何をおっしゃるのです。俺たちは王子様の行くところについてきます。」
「そうです。マリの言う通りです。どこへでもお供します。」
「俺はまだ理解もできないけど、俺は王子様に従います。」
マリとヒョッポとオイは言いました。
「私は主君だというのに務めを果たせなかった。苦労ばかりかけて申し訳ない。」
「王子様は町のゴロツキだった俺たちに、新しい人生をくれました。」
「王子様、俺は王子様と出会わなければタムル軍の意味も知らずに死んだでしょう。王子様、どうか俺たちをお傍にいさせてくれ。」
チュモンはモパルモとムソンに別れの挨拶に行きました。
「王子様、どうしても行かないとならんのですか。」
チュモンとマリとヒョッポとオイとモパルモとムソンは酒を酌み交わしました。
「私も王子様についてまいります。」
モパルモはチュモンに言いました。
「親方。どんな人間にも試練は訪れる。その時期をどう耐えるかによっていずれ試練を乗り切れるか耐えられるか、ダメになるか。この試練は私と親方を強くしてくれる。剣は何度でも打ち直せるが親方なしでは私は大業を成しえなくなる。だから何としても生き延びてくれ。」
「私の命は王子様にお預けしました。私は私の命の主である王子様が戻ってこられる日を待ち望んでいます。」
モパルモはチュモンに忠誠を誓いました。
「マリとヒョッポとオイよ。俺の杯を受けろ。王子様にちゃんとお仕えしろ。王子様に何かあればそのときはお前を殺してやるからな。」
モパルモは三人に言いました。
柳花(ユファ)姫はチュモンを呼びました。
ユファ姫は漢に行く前にイエソヤと祝言をあげなさいと言いました。
「イエソヤはお前を助けたために天涯孤独の身となった。私が面倒を見るつもりでしたが私ではあの子の孤独を癒してやることはできません。これからは当分漢で暮らすのですから、イエソヤがいれば力にもなり慰めにもなるでしょう。イエソヤなら、お前の妻として見劣りもしないはず。承知しておくれ。」
チュモンは自分の道を歩き始めたソソノのことを思い出していました。
イエソヤは城下町で品物を侍女と一緒に見ていました。ファンベク族の族長はイエソヤを誘拐しました。この話はすぐにマリを通じてチュモンの耳に入りました。チュモンはマリとヒョッポとオイを連れて馬を駆りました。
チュモンはイエソヤを縄で縛り連行しているファンベク族の族長に追いつきました。チュモンは矢を二本つがえて兵士に射りました。チュモンたちは戦闘になり、イエソヤを救出しました。族長たちは逃げていきました。
「お嬢様。ソルタクが扶余にいたとは予想外でした。私の不注意を許してください。」
「いいえ私こそお許しください。」
イエソヤは切なそうに涙を流しました。
夜になりました。チュモンはイエソヤの部屋を訪ねました。
「お嬢様。チュモンです。お座りください。」
二人は椅子に腰かけました。
「もうすぐ長安へお行きになるそうですね。私のことならご心配なく。」
「もし許されるなら、お嬢様を妻とし、一緒に行きたいと思っています。」
「身に余る光栄なお言葉でございます。でも私には王子様にふさわしくありません。今までご配慮いただいただけで十分でございます。これ以上王子様の荷物になりたくありません。」
「お嬢様は私の命の恩人です。この恩は一生かけても返せないのに荷物などとはとんでもない。お嬢様と出会う前、桂婁の君長のソソノ様と深い縁がありました。でも私たちの縁は守りとおせませんでした。心の中から今もソソノ様を消せずにおりませんが、すれ違った縁、忘れるように努力します。」
チュモンはイエソヤに求婚しました。
金蛙(クムワ)王はプドゥクプルを呼びました。
「久しぶりだな。私をわざと避けているのか?」
「どうしても王様に合わせる顔がなかったのでございます。王様。私がテソ王子が摂政の座につかれることを支持しました。その判断は正しかったと思うものの王様を裏切ったことは許されない罪だと思っています。」
「かつて、わたしの忠臣であったテサジャにひとつ頼みがある。私の不徳により恥辱を味わったが、息子が骨肉の争いをするのはやめさせたい。テサジャよ、ヨンポの命を助けてくれ。テソは誰のいうことにも耳を傾けないが、テサジャなら方策を見つけ出せるはずだ。」
プドゥクプルは王妃に会いに行きました。
「実の弟だろうと斬首の刑に処さなければなりませんが、ヨンポ王子様をお助けする方法がひとつだけあります。ヨンポ王子様をチュモン王子様のかわりとして漢に送るのです。それが殿下の権威を守りながらヨンポ王子様をお救いできる唯一の方法です。この件で動けるのは王妃様おひとりだけです。殿下は涙で説得すれば必ず折れてくださいます。」
プドゥクプルは王妃にテソ王子の説得を頼みました。
プドゥクプルから策を得た王妃はテソ王子に会いました。テソ王子は生かしておけばまた同じことをたくらむだろうと母に言いました。母はテソ王子の前で膝をつき息子に懇願しました。
ナロは牢屋からヨンポ王子を出しテソ王子の前に連れて行きました。
「兄上、お許しください。どうか命だけはお助けを。」
「情けないやつだ。無謀なことをしておきながら命乞いをするとは。いっそ毅然と殺せと言ってみろ。」
「私が悪うございました。」
「お前は浅はかで情けない奴だが母上のご心痛に免じて命だけは助けてやろう。」
「これから兄上のためにだけ生きてまいります。」
「命を助けてもらうかわりに漢の長安へ行ってもらうぞ。」
「兄上。」
「どうした。嫌か。嫌なら嫌で構わぬ。その首はねてくれる。」
「わかりました。漢へまいります。」
「これでよかったのだ。」
金蛙(クムワ)王はユファ姫に言いました。
テソ王子はチュモンを呼びました。
「お前なら信頼でいる。信頼の証として、お前に扶余の軍の指揮を任せる。お前の結婚式も周辺の国々や部族の長を招いて盛大にやるとしよう。チュモン、私の道腕となりこれから扶余を導いていこうではないか。
感想
いよいよチュモンとイエソヤが一緒になりそうですね。私は貴族の娘の最初に出てきた巫女のあの子が妃になるのかなー?とはじめは思ったのですが、予想が外れてしまいました。あのプヨンはオイと再会するというパターンが予想できますね。テソ王子やヨンポ王子は自分に都合のいいときだけチュモンに優しくして兄らしく振舞っていましたね。テソ王子はチュモンに総大将を任せると言い、殺したがっていたわりにあっさりとチュモンに頼りましたね。チュモンに軍の総大将を任せるなんて、世継ぎ争いの熾烈な時代にはありえない破格の待遇です。普通ならテソの立場だったらチュモンを大将にすれば軍がテソに反旗を翻して謀反が起きるのが世の常なんですが。