王と妃 110話 世祖の睿宗への譲位
あらすじ
夜。粋嬪ハン氏は自宅の門前で世祖の王命が来ないことに涙ぐんでいました。
「なぜ使いが来ないの・・・。」
夜明け前の宮殿。
内官に背負われ寝所に戻り横になった世祖。
「殿下。なぜそんなに急いで旅立とうとなさるのですか。」
ハン・ミョンフェは寝所の前庭で地面に崩れて泣きました。
「父上が見えた。父上が怒りに満ちた顔をして立っていた。」
床に横になった世祖は王妃(貞熹王后)に言いました。王妃は涙を流しました。
「殿下が過去に謀反を起こした皆を斜面するように言われた。」
海陽大君は亀城君に言いました。
「いう通りになさい。殿下のご意思ですから。」
王妃は亀城君に言いました。
「癸酉靖難の謀反人はいいとしてもほかの謀反は鎮圧されて日が浅すぎます。ソン・サンムンらを慕う学士らは密会を開くなど不安な要素は残っています。ですので彼らを許すのは・・・。」
領議政の亀城君は反対しました。
「いう通りにせよ。私は父王である世宗と約束したのだ。私が生きている間にしたことは死ぬ前にすべて自ら清算するとな。だからいう通りにするのだ。」
世祖は亀城君に命じました。
亀城君は寝所の前にいるハン・ミョンフェに世祖の赦免を伝えました。
「反逆者の身内が赦免されたら功臣たちは困るでしょうな。」
「殿下。ご回復をお祈りいたします。」
ハン・ミョンフェは地面にひれ伏し泣きました。
「上党君(サンダングン、ハン・ミョンフェ)も屋敷にお戻りください。」
政丞の会議室。
「ご英断です。領議政様。功臣たちの出入りを防ぐのが何よりです。」
ク・ジャグァンは亀城君に言いました。
「心配いらぬ。兵権は我々のものだ。功臣たちは手出しできん。」
兵曹判書のナム・イは言いました。
「上党君を甘く見てはいけません。」
ク・ジャグァンはナム・イに言いました。
「ただのおいぼれだ。」
ホン・ユンソンとチョン・チャンソン、ホン・ダルソンは世祖の顧命を聞こうとハン・ミョンフェに騒ぎ立てました。
「殿下は私にこうおっしゃった。胸倉をつかんでもお前をあの世に道連れにするとな。」
ハン・ミョンフェは仲間たちに言いました。
世祖14年9月16日。
謀反の罪で処刑された反逆者の親族が全員赦免されました。これは過去の敵との和解の証であり王の死が近づいていることを匂わす行為でもありました。
ハン・チヒョンが粋嬪ハン氏の家を訪ねると月山君と乽山君は朝服に着替えていました。なぜかと訊くハン・チヒョンに乽山君はいつでも世祖の見舞いに行けるようにと答えました。ハン・チヒョンはいつまで待っても世祖に呼ばれない粋嬪ハン氏にあきらめるように言いました。粋嬪ハン氏は決してあきらめませんでした。
「お義父様はそんな方ではありません。何かの間違いです。」
世祖は薬を飲みたくないと言いました。
「重湯だけでもお召し上がりください。」
「何もいらぬといっておるのに。水一滴たりとも口にする気はない。」
世祖は横になりました。
「そんな聞き分けのないことを。」
「私はきれいさっぱり死ぬのだ。涙など流すな。私はまだ死んではおらん。」
王妃は泣きました。
「世子よ。今からする話をよく聞け。私が死んでも私の墓には石室などは作らぬようにせよ。一日も早く腐らなくてはならん。亡骸がなかなか腐らずに残っていたらたとえ外からは墓の中が見えぬとしても私の姿は醜いであろう。夫人。私が一滴の水すら飲まずに死のうとしているのはそういう理由からだ。私はきれいさっぱりと消え去りたいのだ。夫人。よく覚えておくように。私の墓に石室などは作らんでくれ。一日も早く亡骸を腐らせて消え去るためにも必ず約束を守るのだぞ。わかってくれるな夫人。」
「粋嬪を呼びましょうか。かわいがっていた乽山君が来れば重湯を召し上がっていただけるでしょう。」
王妃は世祖に言いました。
「皆部屋から出ていくのだ。そなたたちは出て行ってくれ。そして礼曹判書を呼んでくれ。」
世祖は言いました。
乽山君はハン・チヒョンに粋嬪を呼ぶように頼みました。
「母上の流している血の涙をどうかお忘れなく。」
世祖は礼曹判書イム・ウォンジュンを呼びました。
「なぜそのように震えておる。世子に王位を譲るだけではないか。早く玉璽をもってこい。」
「殿下。王命をお取り下げください。」
チョン内官たちは言いました。
「誰かが死んだわけでもあるまいしなぜそなたたちは泣いておる。息子に王位を譲ると言っているだけではないか。」
海陽大君は「親不孝者になれというのか。ご存命中に譲位を受けるわけにはいかない。」と玉璽を世祖に持っていくことを拒否しました。
ホン・ユンソンとホン・ダルソンとチョン・チャンソンたちは譲位を阻止しようと立ち上がりました。シン・スクチュとハン・ミョンフェは命が惜しければ黙っているようにと言いました。
ホン・ユンソンが寝所の前に行くと寝所の前には海陽大君(世子)と重臣たぎが「譲位なさるという王命をお取り下げください」と合唱していました。ホン・ユンソンもそれに加わりました。
「外で声をあげているのはホン・ユンソンではないか。あの者の声はなんと大きいのだろう。」
世祖はチョン内官に世子を通すように命じました。世子は一歩も動かないと言いましたが亀城君の説得で内官に支えられて世祖の部屋に連れてこられました。
海陽大君は世祖の寝所に入りました。
「まだ私の気持ちを分かってくれぬのか。本当は功臣たちを制圧したのちにそなたに王座を渡したかった。でも功臣たちへの情もありできなかった。しかし私が生きている限りは誰も不届きな考えなど抱かぬだろう。」
「父上。父上私は。」
「ただちに礼服に着替えよ。即位式を行うのだ。皆の者何をしている。世子を礼服に着替えさせよ。」
世子は紺色の礼服に着替えました。
粋嬪ハン氏はいつまでも待っていました。
世子が王に即位する儀式が決まるとチョン・チャンソンとホン・ユンソンは率先して千歳を唱えました。
即位式。百官たちは全員が集まり世子の海陽大君は王に即位しました。
海陽大君が寿康宮において即位式を行いました。実録によると王が宦官に礼服を用意させ自ら世子に授けて即位させました。父を崇めて太上王(テサンワン)と呼び母を崇めて王太妃(ワンテビ)と呼びました。これが朝鮮王朝第八代目の睿宗でした。
昭訓ハン氏の家。
「王命です。昭訓ハン氏は上王様の王命をお受け取りください。」
身重の昭訓ハン氏は上王の命令により王妃に冊立されました。実録によるとハン氏はこのとき臨月を迎えており父ハン・ベンニュンの屋敷に身を寄せていました。そのため宮殿から護衛兵が来て屋敷を厳重に警備しました。こうして世祖の退位後に大妃になろうとした粋嬪ハン氏の野望は砕け散りました。
夜になりました。
「大妃様の決定です。なんて非情な仕打ちなんでしょう。」
桂陽君婦人は粋嬪ハン氏を慰めました。
「なぜ殿下は私を呼ばないのでしょう。そのことで頭がいっぱいになり涙も出ませんでした。捨てられたのでしょうか。殿下は私だけでなく月山君と乽山君もお捨てになられたのでしょうか。いえ違います。殿下は私を見るだけで涙を流していましたもの。乽山君に微笑みかける殿下のお姿は私の目に焼き付いています。世間が私のことをあざ笑う声がします。大妃になろうとした夢が散ったのですから。捨てられた王族とみなし誰も私や月山君と乽山君に関心を払わなくなるでしょう。そのような辱めを受けて生きるくらいならいっそ月山君と乽山君と一緒に死のうと思いました。でも死は安易な考えです。生きることのほうが難しいのです。生きてあなたの息子が王になる姿を見たいのです。ですが夢を実現させる道が見えないのです。いくら周りを見渡しても真っ暗な夜道ばかりです。呪いでもかけますか?昭訓ハン氏の産む子など死んでしまえと仏さまに祈りますか?たとえ罰として私に雷が落ちようとも息子が王になれるのなら私はどうなろうともかまいません。お教えください。道はどこにあるのですか。どこに行けば道は開けると?明るい未来へと続く道はどこにあるのですか?」
粋嬪ハン氏は懿敬世子の位牌の前で夫に語り掛けました。乽山君は庭で母を待っていました。
王の寝所。
「粋嬪はどうしているのだ。」
世祖はチョン内官に言いました。
「粋嬪様は月山君と乽山君に朝服を着替えさせ殿下の呼び出しを待っておられます。」
チョン内官は答えました。
「そうであろうな。」
「お呼びしましょうか?粋嬪媽媽をお呼びしましょうか?」
「ここまでの縁だったのだ。粋嬪は欲が深すぎた。」
粋嬪ハン氏は輿に乗りハン・ミョンフェの家に行きました。
「伝言を頼みます。私はまだ夢を捨てていないと。」
粋嬪ハン氏は会おうとはしないハン・ミョンフェに伝言を残して帰りました。
「粋嬪様は大したお方だな。はっはっはっは。」
ハン・ミョンフェは笑いました。
世祖は夢を見ていました。
「待ってくれ。もうこれ以上は歩けん。」
世祖は叢の中を歩いていました。
「叔父上。早くこちらへ。あの丘を越えればすぐです。」
端宗は世祖を手招きしました。
「行こう。待て。置いていくな。待て。私を置いていかんでくれ。ホンウィよ。どこにいる。一緒に行こうと言ってるではないか。」
「うわあああん。ここから出してください。叔父上。ここはあまりに寒くてつらい。叔父上。お願いです。出してください。叔父上。どうか出してください。」
墓の中から端宗は世祖を呼びました。
「こんな山の中で眠っていたのか。待っておれ。この私がすぐに助けてやる。もう少しの辛抱だ。私がそなたを助けてやる。」
感想
最後のシーン(笑)端宗が体を半分地面の盛り上がった墓の中に埋められてもがきながら世祖に助けを懇願している場面に思わず笑ってしまいました。撮影してると面白かったんじゃないかなぁと思います。粋嬪ハン氏のセリフもとても長かったですね。これで睿宗が長生きだったら粋嬪ハン氏が大妃になることはあり得なかったのですが・・・運命が粋嬪ハン氏の味方をするんですね。