秘密の扉1話
目次
あらすじ プロローグ
李氏朝鮮の第二十代国王景宗を支持する少論派と、弟(英祖)を支持する老論派の二大勢力が激しく対立していました。
景宗(キョンジョン)4年(1724年、徳川吉宗の江戸時代で景宗の最期の年)。
夜の東宮殿(トングンジョン)。
「キム内官!キム内官!キム内官!ひっ・・・ひっ・・・・ふっ・・・。」
景宗の弟で世弟(セジェ)のイ・グム(延礽君=ヨニングン)は刺客に寝込みを襲われました。中年男のイ・グムは突然自分に覆いかぶさるように倒れてきた男に声にもならない声を上げました。血しぶきを浴びたイ・グムは斬られて息絶えた男を押しのけると布団の上で身をすくめました。部屋の中には刺客を斬った黒ずくめの男(キム・テクの配下の刺客)が立っておりその刀の先から血が滴りました。イ・グムは剣先を見ると怯えました。
「邸下(チョハ)。ご無事ですか。」
赤い朝服を着た壮齢の大臣キム・テク(老論派)は都合よく現れるとイ・グムに声をかけました。
「う~・・・・。」
イ・グムは声にもならない声をあげ怯えていました。
二十年前の世弟(セジェ)イ・グム(延礽君=ヨニングン)の寝室。
「邸下(チョハ)。猛毅(メンイ、連判状)に署名してください。我らに賛同すれば王位に就けるでしょう。あらがえば邸下(チョハ)には死あるのみです。」
イ・グム(のちの英祖、延礽君で粛宗の次男)はキム・テクから「大一統猛毅(テトンイルメンイ)」という「暗君のせいで国の都は満身創痍であり救国のための方策に忠烈の士が決起し擇君(選んだ君)を擁立する決意をした・・・新君保我朝四百年宗社何事有罪摩乎。大統一憂国衷情存史之・・・」という内容の、盟約者の名前が円形に連判された連判状を見せられました。
(私の解説:景宗は老論派を敵として没落させたので老論のキム・テクにとっては悪い王であり廃さねば老論の世は来ない。ゆえに世弟であるイ・グムを脅して王位に就ける必要があった。)
イ・グムは筆を渡されると震えました。
竹波(チュクパ)。連判状の中心にこのような文字(風流名)が書き加えられました。
二十年後。英祖20年(1744年)の王の部屋。
薄暗い便殿(ピョンジョン、王と大臣が政治を行う場所)。
朝鮮国王の英祖イ・グムは帽子をかぶろうとして脱力し、玉座の前の床にだらしなく座り込みました。一人の大臣が床にひれ伏していました。
「猛毅(メンイ:맹의、連判状)が私の足かせとなっている。あの文書のせいで、党争の解消も軍役の改革も何ひとつ思うように取り掛かれん。」
英祖イ・グムは靴下を脱ぎ投げ捨てるとあぐらをかいて笑いました。
「おいムンス。猛毅(メンイ=連判状)を捜して私にくれ。つまりこれが・・・この国の政事(チョンサ)を正す、唯一の方法だ。」
イ・グム(英祖)は王座に座ると少論派(ソロンパ)のパク・ムンスに言いました。
ある日の王宮。
「猛毅(メンイ)は、承政院(スンジョンウォン)に隠されているようです。」
パク・ムンスは宮殿の廊下を走ると、宮殿の軒下にいたイ・グム(英祖)に知らせました。
薄暗い夜の承政院(スンジョンウォン、王命を管理する部署)に火が放たれました。パク・ムンスは驚愕し、キム・テクもまた驚きました。
「これで猛毅(メンイ)は承政院とともに、灰となっただろう。」
イ・グム(英祖)は尚膳とともに承政院が燃えている様子を見て喜びました。
十年後。英祖30年(1754年)の夜。
「猛毅(メンイ)が再び現れた。またこの手に連判状を取り戻せたら、猛毅(メンイ)で我が国朝鮮が再び老論派(ノロンパ)の世の中になるだろう。」
老論の領袖(りょうしゅう)キム・テクは自宅で男に命じました。
夜の喜雨亭(ヒウジョン)。
武官や官僚、学者たちは猛毅(メンイ)を捜しました。
武官や官僚、学者たちは猛毅(メンイ)を捜しました。
「猛毅(メンイ)が喜雨亭(ヒウジョン)にあるのは本当か?」
図画署(トファソ)の画員(ファウォン)シン・フンボクは壁にかけられた絵画をめくると文書「大一統猛毅(テイルトンメンイ、日本語で大一統会盟と訳されていました)」が隠されていました。
あらすじ本編 貸本
都城(トソン、朝鮮王国の主都)。
世子のイ・ソンは伴の者(親友のシン・フンボク)とお忍びで外出し、街の見取り図を拡げました。
「妓房(キバン)通り三番目の路地。こっちだ。」
世子イ・ソンは地図を折り畳むと通りに行こうとしました。
「どうかご慎重に。」
伴の若者シン・フンボク、図画署(トファソ)の画員(ファウォン)が世子(セジャ)のイ・ソンを止めました。世子が行こうとした先に兵士が巡回していました。
「なぜだ。」
「貸本の取り締まりが厳しいのです。」
「分かった。」
二人は通りに出ました。
二人は通りに出ました。
路地裏。
頭から薄水色のチョゴリ(正式にどう呼ぶのかわかりませんが、朝鮮の女性が下に履いてるスカートと似た物でした)を被った若い娘ソ・ジダム(貸本業の娘)が路地裏のくるまれた筵(むしろ)の中から竹の筒を取り出すとにっこり微笑みました。
民家。
「出ておいでー。」
ソ・ジダムは鈴を揺らして家の中に向かって呼びかけると竹の筒をぶらさげた犬が出てきました。チダムは犬に付けられた竹筒を開けると中から紙を取り出しました。チダムは店の軒先の竹筒からも「書家(ソガ)貸本」という貸出票を回収しました。
「都城の貸本業者は書画(ソガ)貸本をはじめ二十を超えます。違法なので借りるのも至難の業です。妓女(キニョ、妓生の女)から両班の女人(にょにん)まで。学童のみならず儒学者の先生までもが貸本に夢中です。」
シン・フンボクは世子イ・ソンに説明しました。「春香伝(チュニャンジョン)」も禁止されている書物のひとつでした。両班の娘は「謝氏南征記(サシナムジョンギ)」をこっそり読んでいました。生徒に学問を教えている先生も、授業中にこっそり膝の上で本を隠し読んでいました。
「や~。本を借りるのがこれほど難しいとはな。おかしいなぁ。おかしいなぁ。おかしいなぁ。(瓦が外れる音。)・・・あった!」
世子イ・ソンは画員のシン・フンボクと町のはずれをぶらついていました。すると塀の上の瓦が一枚ずれており、瓦をどけると竹の筒が隠されていました。
宮殿。
「世子邸下(セジャチョハ)が貸本を取りに行かれたって?今朝廷は緊迫した状態にある。邸下(チョハ、発音ではチョアに近い)をお止めせよと注意したはずだ。」
東宮殿(トングンジョン)の宮女(クンニョ)チェ尚宮は世子付きのチャン・ホンギ内官を叱りました。
宮殿の東屋。
「あ~。ふ~。」
「あ~。ふ~。」
英祖イ・グムは健康体操をしていました。
「均役法(キュニョクポ、軍役・税負担の平均化を図るための税法)の制定には私は反対です。」
老論のキム・テクはイ・グム(英祖)に言いました。
「養生術(ヤンセンス)の最中だ。見てわからぬか。そなたも長生きしたくば真似てみろ。」
イ・グム(英祖)は両手を広げ脚を曲げて気を操っていました。
「最期のご警告でございます。」
領議政(ヨンイジョン)のキム・テクは無気力そうに言いました。
「ひひひひひ。貴様。生意気な口を叩き折って。アイゴ~(まったく)。私が死ぬ前にその口の聞き方を直してやらんとな。」
イ・グム(英祖)は笑いました。
「殿下(チョーナー)!」
キム・テクは抗議の声を荒げました。
「意見は代理聴政(テリチョンジョン、王の代わりに政務を行うこと)に任せた。国本(クッポン=世子イ・ソン)に言え。」
イ・グム(英祖)はキム・テクに言いました。
「見張りを付けよ。突然不遜な態度を取った理由を調べるのだ。」
キム・テクが去るとイ・グム(英祖)は内官で内侍府長(ネシブサ)のキム・ソンイクにキム・テクの行動を調べるように命じました。
都城の町のはずれ。
イ・ソンは竹筒の中から「文会所(ムネソ)殺人事件」という禁書の貸出票を取り出すとまた中に戻しました。シン・フンボクは世子に早くするように言いました。
「おい!何を持っておる!」
武官がイ・ソンを指さし呼び止めました。イ・ソンは瓦を落として割ってしまいました。街では捕校(ポギョ)による禁所の摘発が行われていました。ソ・ジダムは捕校(ポギョ)の後ろからイ・ソンに手を振りました。
世子のイ・ソンは若い女が手を振る様子を見てにっこり微笑みました。
「筒よ!投げて!間抜け!」
ソ・ジダムは叫ぶとイ・ソンの手から筒を奪って塀を乗り越えて逃げました。
「待て!」
捕校(ポギョ)の一人はチダムを追いかけました。もう一人は世子をおいかけました。
ソ・チダムは逃げる途中で知り合いの妓女(キニョ、妓生の女)に捕校(ポギョ)の足止めをしてもらいました。
世子イ・ソンとシン・フンボクが街の中に入ると武官と兵士が民を虐げて暴力を振るっていました。世子イ・ソンはたまりかねて武官の背中を蹴り飛ばしました。
「邸下(チョハ)!」
シン・フンボクは世子を襲おうとした武官に抱きついて転びました。
「この野郎!」
捕校(ポギョ)はカンカンに怒りました。
「フンボク!や~!」
怒った世子イ・ソンはフンボクを襲っていた武官を蹴り飛ばして殴りました。
「なりません!なりません!お忍びがばれてしまいます。」
シン・フンボクは世子を制しました。
怒った捕校(ポギョ)は刀を抜くと、突然青い服を着た両班の男(カン・ピルチェ)が現れ捕校(ポギョ)たちを倒しました。
「なぜそち(チャネ)がここにいるのだ?」
世子は男に尋ねました。
「急ぎ王宮へお戻りください。」
世子を助けたカン・ピルチェ、東宮殿の別監(ピョルガム、世子の護衛の武官)は言いました。
カン・ピルチェは指笛を吹くと白い馬と茶色の馬が現れました。
イ・ソンは馬に乗り、カン・ピルチェはフンボクを馬の後ろに乗せて王宮に向かい走りました。その様子を英祖(ヨンジョ)が放った三人の間者が見ていました。
ソ・ジダムは家に帰ると軒下に干しているワカメが置かれた台を開けると地下に降りました。
「黄金の樽の美酒は千人の民の血。改行。」
書画貸本の地下工房では読み上げた内容を職人たちが紙に写していました。
「はい(イェー)。」
執筆している男たちは返事をしました。
「玉盤の珍味は・・・・・・。」
両班風の男はまだ本を読み始めると突然物音がしてソ・ジダムが降りて来ました。
「チダムァー。静かに入れよ。取り締まりで役人が入ってきたのかと。どこまで・・・どこまで読んだ?」
本を読んでいた男は一瞬ヒヤリとして現れたのがチダムとわかると胸をなでおろしました。
「役人から逃げてきたの。」
「本当か?チダムの汗の量を見ると捕盗庁(ポドチョン)の捕校(ポギョ)においかけられたのか。」
チダムのお父さんは言いました。
「それに、間抜けに邪魔されて大変だったの。」
チダムは言いました。
王宮。
イ・ソンは急いで王宮に戻りました。
尚膳は間者から報告を受け、そのことを英祖(ヨンジョ)に報告しました。
英祖(ヨンジョ)は激怒しました。
父の部屋の前。
イ・ソンが着替えて父の部屋の前に行くと、世子嬪(セジャビン)が待っていました。
「お忙しいようですね。」
世子嬪はイ・ソンに言いました。
「取り告げ。」
世子は咳ばらいをして言いました。
「殿下。世子邸下(チョハ)がお越しです。」
内官のチャン・ホンギは国王に言いました。
王の部屋。
「ひどい汗をかいておるな。朝から武芸の稽古をしていたのか?」
英祖(ヨンジョ)は部屋に上がったイ・ソンに言いました。
「いいえ。父上。」
イ・ソンは答えました。
「違うならば、政務に疲れているのか?だから汗をかくのか?娘よ。そなたが国本ををしっかりと気遣ってやれ。国本が健康でこそ国が安泰である。」
英祖(ヨンジョ)は世子嬪の手を取り言いました。
「肝に銘じます。」
世子嬪は答えました。
王宮の庭。
「安堵の息がよく出ますね。邸下(チョハ)が東宮殿を抜け出したことは大殿(テジョン)のご主人もご存じです。お前たちは一体何をしていたのだ。」
世子嬪は世子と従者に言いました。
「それにしてもなぜ朝から貸本を?」
チャン・ホンギは馴れ馴れしく世子に尋ねました。
「知りたいのか。教えてやろう。王宮内のすべての貸本を押収せよ。」
イ・ソンはチャン・ホンギに命じました。
「ええ!?」
チャン・ホンギは驚きました。
地下室では何冊もの禁書が作られていました。
「しっかり結べよ。」
チダムのお父さんが言うと、ソ・ジダムは父の机の前に本を置きました。
「文会所(ムネソ)殺人事件第二巻・・・。」
チダムの父は呟きました。
「今日までに写本がいるのよ。今日までにどうしても欲しいと言ったでしょ。」
チダムは父に甘えました。
「チダムや。よく聞け。最近は恋愛小説がはやっている。推理小説など誰も読まん。」
チダムの父ソ・ギュンは娘に言いました。
「人気がない?これを見て。」
チダムは父に(世子の)ハングル文字で書かれた手紙を見せました。
「氷愛居士(ピンエゴサ)殿。そなたの文才に惚れた。ぜい会いたい。犯人は鎌を持つ者だ。私がどうして犯人がわかったか推理を聞きたければ会いに来てくれ。私に会いたいと?」
「そうよお父さん(アボジ)。」
「今から?」
「写本がないと行けないわ。」
チダムは拗ねて見せました。
「これを持っていけばいい。」
「これは私が書いた原本よ。原本。世に一つしかないの。」
チダムは本を大事そうにさすりました。
「名作だ。」
ソ・ギュンは娘の写本を出してやると顎で指図しました。
「はぁ!」
チダムは本をめくって喜びました。チダムは「書家貸本」の印を本の表紙に押しました。
王宮の恵慶宮(ヘギョングンン)。
「書画貸本?民間での書物の出版は国法で禁じられているはずです。なぜ世子様のお部屋にあるのです!」
世子嬪(セジャビン、世子の正室)ホン氏は禁書を手に取り怒りました。
世子と重臣の会議室。
「貸本を許可・・・。許可なさるのですか?」
右議政(ウイジョン)で老論派のキム・サンノは口を大きく開き世子イ・ソンに言いました。
「貸本業はもとより出版も流通も許可すします。」
イ・ソンは言いました。
「なりません邸下(チューハー、本来はチョハなんでしょうが私にはチューハーと聞こえました)。」
キム・サンノは反対しました。
「なぜだ。」
「書物の出版と流通は国家だけが行い・・・。」
キム・サンノは抗議を続けました。
「チャン内官(ネグァン)。チャン内官はいるか。」
世子イ・ソンは部屋の外に向かって呼びました。
「ここにおります。」
チャン内官は扉の外から世子に言いました。
「入れ。」
チャン内官は女官たちにたくさん書物を部屋に運び入れさせました。
「邸下。これは一体何の真似ですか。」
義父のホン・ボンハンが言いました。
「王宮にあった貸本です。右相(ウサン、右議政)は出版は国家のみがすべきと言いました。しかし民間で作られた書物が王宮の奥深くまで入り込んでいます。百冊以上も見つかりました。一人三、四冊ほど回し読むそうだから王宮内の半数以上が読んでいることになります。王宮がこのようなあり様なら巷(ちまた)ではなおさら貸本であふれているはずです。それが世情です。」
世子イ・ソンは貸本を手に持ち部屋の中央を歩きながら皆に言いました。
「世情だとしたらこれまで以上に規制を強化して取り締まるべきです。」
右議政のキム・サンノは両手で強調しながら世子に言いました。
「さようです邸下。これはすべて民を惑わす悪書に過ぎません。それに・・・。」
キム・テクの隣に座っていたミン・ベクサンは言いました。
「それは間違いだ。民を惑わしているのではなく楽しみを与えています。よって良書です。」
イ・ソンは言いました。
「良書(ヤンソ)ですと?色恋沙汰がどうして良書なのですか?」
キム・サンノは反対しました。
「何だと?色恋沙汰?春香伝(チュニャンジョン)を読んだのですか?」
イ・ソンはキム・サンノに言いました。
チェ・ジェゴンは笑いをこらえました。
「邸下(チョハ)。何をおっしゃいますか・・・。」
キム・サンノはどもりました。
「はっはっは。右相(ウサン、右議政)は春香伝(チュニャンジョン)を色恋沙汰と思ったようです。私は貞節を貫く女人(にょにん)の気概を感じた。色好みで欲深く悪どい堂官(タンガン=役人)をこらしめる正しい堂官(タンガン)の姿をこの書からしかと読み取れます。はっはっは。」
イ・ソンは言いました。
「中には逆心をあおる書物もあります。」
老論派のミン・ベクサンは真面目で堅い表情で言いました。
「副提学(プジェハク)は洪吉童伝(ホン・ギルドン・ジョン)を読んだのですか?」
イ・ソンは言いました。
「洪吉童伝を書いた者は逆徒です。」
ミン・ベクサンは言いました。
「ならば、洪吉童伝を読んだ民は皆決起すると言うのですか?」
イ・ソンは言いました。
「あり得ることです。」
ミン・ベクサンは言いました。
「あり得るならこの国に問題がある。この国は小説を読んだ民が逆徒(ヨクト)になるほどすさんだ国なのか?民間(ミンガン)の出版と流通を全面的に許可する。貸本の取り締まりをすぐにやめなさい。」
世子は力を込めて言いました。
キム・テクら老論派は不快感を表しました。少論は(利用価値があると)頷きました。
チェ・ジェゴンは小さな笑みを浮かべました。
世子も「やったぞ!」という表情を浮かべました。
王宮の一角(芙蓉亭)。
「はっはっはっは!」
英祖(ヨンジョ)は池で釣りをしながら尚膳から報告を受けました。
「どうしてお笑いになるのですか?国本(世子)が民間の貸本を許可なされたのですよ?」
尚膳は言いました。
「あいつは聖君(ソングン)の真似事をしているな。はっはっはっは。フン。」
イ・グムは鼻で笑いました。
老論派(ノロンパ)の重臣たちの会議室。
「卑しい民に書の出版をお許しになるだと?」
キム・テクは静かに言いました。
「ほ~。もう万歳するしかない(世も末だ)。国王(イングム:임금)は均役法(キュニョクポ)の制定を主張し世子(セジャ)は言論統制を緩和すると言っている。」
右議政のキム・サンノは両手を挙げて不快感を表しました。
「領相大監(ヨンサンテガム)。手を打つべきです。」
副提学(プジェハク)ミン・ベクサンは言いました。
「今すぐ殿下(王様)に拝謁してください。殿下を王にしたのは我らです。我々老論派をないがしろになさるのかと泣いてお訴えください。」
キム・サンノは領議政キム・テクに頼みました。
「ふっ・・・。泣き落としなど・・・。」
キム・テクは苦笑いしました。
少論派(ソロンパ)の重臣たちの会議室。
「国本(クッポン、世子)を何としてでも支持しましょう!民間の言論統制を緩和すれば我ら少論派(ソロンパ)が長年疑問視してきた今上(クムサン、こんじょう)の王位継承の過程が明らかになり殿下と老論派が犯した罪がすべて明らかになるのです。」
若く聡明な大司諌(テサグァン)のシン・チウンは鋭い語調で言いました。
「真実を暴けば老論を牽制できますか?」
漢城府(ハンソンブ)判尹(パニュン)のチョ・ジェホは発言しました。
「今上を王座から追いやることもできる。」
左議政(チャイジョン)イ・ジョンソンは言いました。
「今上は沈む夕日ですが国本(クッポン、世子)は昇る朝日。国本(世子)が治世する世が来たら・・・。」
シン・チウンは呟(つぶや)きました。
「我ら少論(ソロン)の世の中(セサン)が来る。ふっはっはっはっは。」
左議政のイ・ジョンソンは笑いました。
「少論の世ですか。少論(ソロン)の世(セサン)に民(ペクサン)の居場所はありますか。大監(テガム)。」
本棚の間で本を読んでいたパク・ムンスは本を閉じると初めて発言しました。
「イボゲ(お前さん、よさぬか)右参賛(ウチャムチャン、パク・ムンスのこと)。」
左議政イ・ジョンソンは立っているパク・ムンスを見上げて叱りました。
「民のことはお考えですか。」
パク・ムンスは真顔で左議政に言いました。
「我らが政治を導いてこそ民の暮らしは安泰となるのです。」
チョ・ジェホは言いました。
宮殿の廊下。
少論派(ソロンパ)のパク・ムンスが部屋を出ると老論派の領袖キム・テクが話しかけてきました。
「大監(テガム)のご指導のおかげですな。まこと世子邸下の政治劇は面白いです。」
キム・テクは嫌味を込めて言いました。
「はっはは。邸下はまだお若い。」
パク・ムンスはキム・テクの意図を察知して話しかけに応じました。
「若すぎるのだ。」
「邸下の若さが怖いのですか?」
「怖くなどない。羨ましい。羨ましく思う一方で懸念もしている。いずれ(老論にとって)危険な暴君になるやもしれぬ。そう思えてなりません。」
キム・テクは言うと去りました。
世子の執務室。
「ふははははは。重臣が顔をしかめていたな。」
世子イ・ソンは右副承旨(ウブスンジ)のチェ・ジェゴンに言うと部屋に入りました。
「滅多に見られぬ光景でした。取り乱した様子を見ると実に痛快でございます。」
「いい気になってると足をすくわれますぞ!」
部屋の外から大きな声がするとパク・ムンスが部屋に入ってきました。
「そなた(チャネ)。なぜ軽はずみな事を言うのだ。」
パク・ムンスはチェ・ジェゴンを叱りました。
「大監(正ニ品以上の尊称)。叱らないでください。政治の会議での勝利を喜んでいただけです。」
イ・ソンはパク・ムンスに言いました。
「勝利ですか。」
「先生もご覧になったでしょう。」
世子は愉快そうに師匠に言いました。
「私めが政治(チョンチ)で目の当たりにしたのは舌戦に勝ち、政治に負けた愚かな国本(クッポン、世子)のお姿です。」
「どういう、意味ですか?」
「民間への出版(チュンパン)許可は実現できずに終わるでしょう。」
「ふ・・・。意外ですね。先生が老論どもの肩をもつとは。」
「老論どもとは?見下すから負けるのです。政治は言い負かすのではなく説得するのです。」
「先生(サボゥ)。とても単純(タンスン)な話です。民に小説を与えるだけですよ。」
「イェー(ええ)。あっはは。単純な事ならなぜ四百年も禁じられたのですか。なぜ父王(プワン)は許可しなかったのでしょう。本来なら父王のご意見を伺うべきでした。邸下。単純に見える問題でも四百年続く国法を改正するならば必ず父王にご相談すべきです。父王を敵にまわすことになりますぞ。」
「敵ですと?お言葉が過ぎます先生!」
イ・ソンは声を荒げました。
「邸下の御役目はあくまで代理聴政(テリチョンジョン、王の代わりに政務を行うこと)なのです。権力は行使できてもまだ君主ではありません。」
「代理聴政(テリチョンジョン)。私に権力を与えたのは他でもない父王です。だから先生が敗者と言われたこの私の民を慈しむ心こそ父王のお心なのです。」
まだ権力の恐ろしさを知らないイ・ソンはあどけなく言いました。イ・ソンは父のことを誤解していました。
芙蓉亭。
「国本のお振舞いは度が過ぎております。改めるべきでございましょう。国本は世継ぎとしてお生まれなさった方です。はじめから、揺るぎない力をお持ちです。しかし・・・。」
尚膳は英祖(ヨンジョ)に言いました。
「羨ましい限りだ。一度も脅かされたことがないとは。うん?うんっ!ゆえに怖いものなどなかろう。引きがつよい。それ!あ~。あ~。昔の私のように殺されかっけたことがないからな。」
英祖(ヨンジョ)は鯉を吊り上げると池に戻しました。。
世子イ・ソンと親友の画員シン・フンボクは世子イ・ソンの御身画(オシンファ)を描くために部屋にいました。イ・ソンは世子の服を着たシン・フンボクの龍の刺繍を描いて集中が切れると筆を投げました。
「えい!いくら考えても納得できぬ。民に小説を与えるだけなのに父上のお許しがいるとは。先生はどうしていつも複雑に考える。」
「なら単純な問題から解決しましょう。」
「単純な問題?」
「このお召し物からご解決を・・・。」
シン・フンボクは両手を広げました。
「このほうがよい。私にはこちらのほうが似合っている。」
イ・ソンはあおむけに寝転がりました。
「フンボク。」
フンボクの画員の服を着た世子イ・ンンは世子の服を着ているシン・フンボクに話しかけました。
「はい邸下。」
「おそらく私は、画員(ファウォン)になる運命だった。お前。いま呆れただろ。」
「お言葉をお慎みくださいませ。画員になりたいなどと誰かに話せば贅沢な悩みと笑われてしまいます。」
「聞きたいことがある。なあフンボク。お前の夢は何だ?お前にも夢があるだろう?」
「・・・・・・。」
「図画署(トファソ)の最高職に就く以外は?お前の夢は朝鮮一の絵師になることか?」
「いいえ。違います。」
「ならば?」
「病弱な母の薬代に事欠かぬこと。もうひとつ叶うなら婚期を迎えた妹に婚礼品をきちんと揃えて嫁に出せれば十分です。」
「ふ・・・そうか。」
イ・ソンは自分の肖像画を見下ろしました。
「取り次げ。」
嬪宮ホン氏は夫(世子)がいる部屋を訪ねました。
「誰も入れるなとのご命令でございます。」
尚宮(サングン)は答えました。
「イボゲチェ尚宮。そちは私を誰だと思っている。」
「今日邸下(チョハ)はご多忙でございました。ご昼食も召し上がらずに休んでおいでです。」
「私が邸下に会えば休息の邪魔だと言うの?」
「違いますでしょうか?」
チェ尚宮は強気に答えるとほかの内官や尚宮たちはチェ尚宮が罰せられないかと心配しました。
世子嬪(セジャビン)ホン氏は世子の許しもなく無断で部屋の扉を開けました。
世子の服を着ているシン・フンボクはふぐに土下座しました。
世子イ・ンンは自分で自分の肖像画に彩色を施していました。
「邸下。これは一体どういうこと・・・。」
「不敬だと言うのか。掟に反する?わかっている。」
「ではなぜ・・・。」
「楽しいからです。楽しもうと・・・。」
「奴と楽しいとは何と情けない!お忍びの外出と画員の真似事だけでは飽き足らずお部屋にまでこのような禁書を持ち込まれるとは!」
世子嬪本誌は貸本を袖から出して怒りました。
世子は筆を皿に投げるように置くと帽子を脱ぎました。
シン・フンボクは世子の服を着たまま部屋から逃げ出し廊下でため息をつきました。
「いくら何でも今日の嬪宮(ピングン)は目に余る。私の部屋に無断で入って粗探しをするとは。礼儀以前の問題だ。ところが・・・。」
「不敬を正すことは礼儀よりも大切です。」
世子嬪ホン氏はきつい調子で言いました。
「わかっています。今後は気をつける。下がりなさい。」
世子は立ち上がりました。
「はぐらかすのですか。男とお忍びの外出も周囲に知られ貸本も隠さず部屋に置いておくとは!邸下は軽率すぎます!」
「やめよ。」
「なぜ貸本を許可するなどとおっしゃったのですか!いったいいつまで騒動を起こすのですか・・・一体いつまで・・・。」
世子嬪は世子に厳しく詰め寄りました。
「ふははははは。」
世子は笑うとゆっくり手を三度叩きました。
「なぜお笑いになるのです?」
「嬪宮は相変わらず大した政治力だな。嬪宮は政治の場にまで刺客を送っているのですか?」
「妻が夫の言動に関心を持ってはいけませんか?」
「関心?あなた(クゲ)が関心があるのは私か?それとも龍衣(世子の地位)か?」
イ・ソンは世子嬪の袖を乱暴に掴んんで引き寄せました。
「・・・・・・。」
嬪宮は世子に図星をさされたので世子を睨みつけると黙って立ち去りました。
老論(ノロン)派の会議室。
「今竹波(チュクパ)と言ったか?」
キム・テクはミン・ベクサンの部下、チェ・イマンに言いました。
「ある画員にきかれて亡き丹巌(タナム、タンとアムを繋げた語、ミン・ジノン、粛宗の継室の兄)様から老論(ノロン)派のタナン大監か領相大監(ヨンサンテガム)らの面々のうち竹波(チュクパ)というのは誰の号なのかと。」
チェ・イマンは言いました。
「その画員の名は?」
「睿人画師(イエジンファシ)シン・フンボクという者です。」
するとキム・テクは立ち上がって部屋を出て行きました。
宮殿の門付近の石畳。
「大監!大監!領相大監(ヨンサンテガム)!なぜお帰りになるのですか!」
右議政のキム・サンノはキム・テクを引き止めました。
「今上(クムサン、国王)に訴える気がないのだ。いざというときは今上を王座から引きずり降ろせばよい。それが老論の力だ。」
キム・テクは王宮を去りました。
国王の仕事部屋。
「法に反しておろう。間違っておる。王が飲む煎じ薬は領相(ヨンサン、領議政)キム・テクが運ぶ決まりではないか。」
イ・グム(英祖)は靴下を脱ぎました。史官(サグァン)は王の言葉を黙って記録していました。
「領相(ヨンサン、領議政)キム・テクは風邪をこじらせ・・・。」
右議政のキム・サンノは釈明しました。
「瀕死の状態か?死んでしまいそうなほどひどいのだな。それで帰宅したと?それなら余も一緒に死なねばな。一人で三途の川を渡るのは退屈であろう。煎じ薬を下げよ。」
イ・グム(英祖)は医官に薬と菓子を持たせて付しているキム・サンノの前にしゃがみました。
「殿下ー。殿下ーどうかお薬を・・・。」
キム・サンノと御医(オイ=国王の主治医)のスンマンは庭に出て王の後を追いかけました。
イ・グム(英祖)は立ち止まり器を手に持つと薬持って歩きました。
「初めて見る顔だな。」
英祖(ヨンジョ)は若い内官に絡みました。
「大殿に二日前に配置されました。」
内官の若者は王に答えました。
「どうりで知らぬわけだ。名は何と申す。お前の名はなんというのだ。」
「ええ・・・?チェソンともうします。」
「年は十七ほどか?ふっ。お前の年を聞いておるのだ。」
「殿下はなぜお尋ねに。」
「若さあふれる年頃なのに疲れた顔をしておるからだ。宮仕えがつらいのか?」
「い、いいえ殿下。」
「飲みなさい。」
イ・グム(英祖)は薬を若い内官に飲むように言いました。
「殿下!何をなさいます!なりません殿下!」
キム・サンノは悲鳴を上げました。
「受け取らねば私の顔が立たぬ。ほらチェソン。」
「なりません殿下。」
チェソンは地面に平伏し断りました。(※朝鮮の文化では「殿下、私を罰してください」「お許しください」などと言うのが正解だが新人のチェソンは言い方を知らないらしい。)
「ん?どうしてもダメか?ふっふっふ。ならぬだと?なんということだ。わっはっは。大殿に仕えてたった二日の若輩者までがならぬと言いよった。君主を指導するつもりだ。」
「殿下。内官はそのようなつもりは・・・。」
キム・サンノは言い訳しました。
「黙れ!お前たちの責任だ。サンジョンスン、ユパンソ!(すみません、意味がわかりませんでした)そなたたち高官が余を見下しておる。だからこのような内官までが私に指図するのだ。」
「いいえそんなつもりはありません!」
キム・サンノは大きな声を出してしまいました。
「黙らぬか。その口に糞をぶち込まれたいのか。」
イ・グム(英祖)は左議政キム・サンノに薬をかけました。
「殿下。下品な言葉はお慎みくださいませ。史官(サグァン)が見ております。お口をお慎みください。」
キム・サンノは食い下がりました。
「乱心したと書け。乱心したから王座から降ろすべきだ。そう書かせたいのであろう。それがそなたの望みなら叶えてやろう。禅位(ソニ、譲位すること)する!」
イ・グム(英祖)は茶碗を上に放り投げると怒鳴りました。
イ・ソンは父王が禅位すると聞いて驚き父王のところへ向かいました。
「禅位だって?理由は?」
「民間の出版許可の件かと。」
弘文館修撰で南人のチェ・ジェゴンという若い官僚が答えました。
「父王がお怒りになったのか?」
世子嬪の部屋。
「禅位?それは警告です。世子の座を揺るがすぞという父王様の警告です。ご還暦を迎えられた今も旦那様(ナウリ、王を見下す言葉)は年若い女官たちを寝所に入れては次々と側室に加えています。何より昭媛(ソウォン)ムン氏が王様のお子を身ごもっています。もし王子が生まれでもすれば?」
嬪宮ホン氏は父のホン・ボンハンに言いました。
「世子様の王位継承権が脅かされます。」
「対策を立てねばなりません。対策を。」
王の寝殿の前。
世子は席藁待罪(ソッコテジェ、むしろに座り国王の許しを乞うこと)をしました。重臣たちも皆あつまり庭に平伏しました。イ・ソンは度々後ろを振り返り義父のホン・ボンハンを見つめました。
十五年前の夜の東宮殿。
イ・ソンはまだ五歳でした。幼い世子イ・ソンは父王が禅位を宣言したので席藁待罪(ソッコテジェ、土下座して床に頭を打ち付け詫びて許しを請う行為)をさせられていました。
「媽媽。東宮媽媽(トングンマーマー、世子様)。」
チェ尚宮は寝ていたイ・ソンをゆすり起こしおんぶして王の寝殿の前に連れて行き席藁待罪をさせました。
「なりません。殿下。禅位はお考え直しください。」
キム・テクら重臣たちは声を揃えて王の部屋に向かって上奏しました。
幼いイ・ソンは怖くて泣き出しました。
「え~ん。」
「泣き叫ぶのです。敷石に頭をぶつけ慟哭なさいませ。父王が考え直してくれるまで泣き叫ぶのです。」
チェ尚宮はイ・ソンに言いました。
「え~ん。」
朝になりイ・ソンは筵の上で寝ていました。
「媽媽。媽媽起きてください。父王様が禅位を宣言されたら酷暑や厳冬でも時間を考えずに筵に座ってご再考を請うのです。宣言が撤回されるまで食事も、睡眠もとってはなりません。禅位(ソニ)をお考えなおしください。」
チェ尚宮はイ・ソンに教えました。
イ・ソンは「禅位をおかんがえなおしください」と席藁待罪をさせられました。
「禅位してやろう。禅位する。」
イ・グム(英祖)は茶碗を投げ割るとキム・テクに言いました。英祖(ヨンジョ)はその後も何度も禅位運動を行いました。そのたびに世子イ・ソンは大臣らとともに「なりません。禅位をお考え直しください」と席藁待罪を行いました。世子がはしかにかかって1か月もたたぬ冬の日も、イ・ソンは席藁待罪をしていました。
「なりません。禅位(ソンニ又はソニ)はお考え直しください。」
イ・ソンは再び寝殿の前で席藁待罪をしていました。重臣たちも雪が降る中、国王に考え直すよう上奏しました。
「父上。譲位は・・・お考え直しください。」
イ・ソンの身体は冷たく凍っていました。
「なりません・・・譲位は・・・お考え直しください・・・・・・。」
雪が積もりました。チェ尚宮はイ・ソンに心を痛めました。
来る日も来る日もイ・ソンたちは席藁待罪をしました。重臣で世子の義父ホン・ボンハンだけは石に本気で頭をぶつけて血を流しました。
夜のキム・テクの家。
「シン・フンボクから連判状を奪い返せ。必要ならば殺しても構わん。」
キム・テクは簾を開けると庭に侍っている刺客に命じました。
シン・フンボクの家。
シン・フンボクは紙に滴る赤い塗料(血?)を見つめていました。シン・フンボクは図画署(トファソ)に行くと猛毅(メンイ)を捜しました。
図画署(トファソ)の書庫。
「探しものか?フンボク・・・これは何だ・・・?」
同僚の画員ホ・ジョンウンが大統一猛毅(テトンイルメンイ、連判状)を広げて震えていました。
「離せ。」
シン・フンボクは黙って猛毅(メンイ)を畳むとホ・ジョンウンの手を引き書庫から作業場に連れ出しました。
「この絵(何人かの大臣が無人の輿を担いでいる絵)は、その文書のせいだろ?だからこんなことをした。連判状を燃やそう。持ってたら殺される。いや、捕盗庁(ポドチョン)に報告しよう。それがいい。おい。その猛毅(メンイ)・・・。」
「静かにしろ。聞かれるぞ。」
シン・フンボクは同僚の口を押さえました。
「だめだ殺される。」
シン・フンボクは連判状を小さくたたみました。
「私が何とかする。今すぐ邸下(チョハ)に報告するから。誰にも言うんじゃないぞ。わかったな。」
夜の王宮。
「禅位をお取消しください。」
イ・ソンと重臣は席藁待罪を続けていました。
チャン・ホンギは部下から耳打ちされました。
王宮の門。
私服姿のシン・フンボクは世子に会いたいと内官のチャン・ホンギを呼び出しました。
「急ぎの用とはどういうことだ?」
「邸下(チョハ)にお目通りを。」
「急用だと?お前、邸下(チョハ=世子様)は禅位のご再考を訴えておいでだぞ。」
「ならば、この手紙を邸下(チョハ)に。貸本を渡すので・・・。」
「あは。イノミ(貴様)!」
夜道。
フンボクは猛毅(メンイ)を包み、木の陰に身を隠しました。(フンボクの?)屋敷の前には二人の刺客が警戒していました。
王宮。
「なりません。禅位はお考え直しくださいませ。」
イ・ソンは席藁待罪をしていました。
王の部屋。
「キム・テクは来ておりません。君主が禅位を宣言されたたのにご再考を訴えないのは逆心を抱いている証拠です。」
内官キム・ソンイクはイ・グム(英祖)に言いました。
「逆臣か。私の知るキム・テクは逆臣だろうが忠心だろうが決めたことは必ず実行する男だ。そして勝機をつかむまでは、何があろうと腹の中を見せぬ男でもある。何か切り札があるのか?」
隠れ家。
シン・フンボクは「文会所殺人事件」という貸本に猛毅(メンイ、決起の連判状)を急いで書き写していました。
王の部屋。
「猛毅(メンイ)ではないと?」
イ・グム(英祖)は尚膳(サンソン)のキム・ソンイクに尋ねました。
「私が十年前に承政院とともに焼き払いました。」
内侍府長キム・ソンイクは答えました。
「承政院に猛毅(メンイ)があるのをその目で確かめたのか?」
「いいえ・・・それは・・・。」
「どうして来ない?猛毅(メンイ)でなければ、キム・テクが強気な態度に出るはずがないのだが。」
キム・テクの家。
キム・テクはランの葉を布で拭きながら部下で刺客の男に呟きました。
「さあ。本当の戦いはこれからだ。違うか?」
キム・テクが言うと、黒い編み笠を被った男は黙って頭を下げました。
王宮。
「なりません。禅位をお考え直し下さい。」
イ・ソンは何度も謝り続けました。
夜道。
シン・フンボクは辺りを警戒しながら道を歩いていました。
王宮。
「なりません。禅位をお考え直し下さい。」
イ・ソンは何度も謝り続けました。
別の夜道。
ソ・ジダム(貸本業の娘)はのんきに夜道を走っていました。
シン・フンボクは夜道で待っていました。シン・フンボクは「文会所殺人事件」の包みを地面に落としました。
橋。
シン・フンボクは橋の中央で後ろを振り返ると包みを落としてしまいました。
イ・ソン、そして英祖(ヨンジョ)はそれぞれ振り返りました。
「最期のご警告でございます。」
領議政(ヨンイジョン)のキム・テクは無気力そうに言いました。
「ひひひひひ。貴様。生意気な口を叩き折って。アイゴ~(まったく)。私が死ぬ前にその口の聞き方を直してやらんとな。」
イ・グム(英祖)は笑いました。
「殿下(チョーナー)!」
キム・テクは抗議の声を荒げました。
「意見は代理聴政(テリチョンジョン、王の代わりに政務を行うこと)に任せた。国本(クッポン=世子イ・ソン)に言え。」
イ・グム(英祖)はキム・テクに言いました。
「見張りを付けよ。突然不遜な態度を取った理由を調べるのだ。」
キム・テクが去るとイ・グム(英祖)は内官で内侍府長(ネシブサ)のキム・ソンイクにキム・テクの行動を調べるように命じました。
都城の町のはずれ。
イ・ソンは竹筒の中から「文会所(ムネソ)殺人事件」という禁書の貸出票を取り出すとまた中に戻しました。シン・フンボクは世子に早くするように言いました。
「おい!何を持っておる!」
武官がイ・ソンを指さし呼び止めました。イ・ソンは瓦を落として割ってしまいました。街では捕校(ポギョ)による禁所の摘発が行われていました。ソ・ジダムは捕校(ポギョ)の後ろからイ・ソンに手を振りました。
世子のイ・ソンは若い女が手を振る様子を見てにっこり微笑みました。
「筒よ!投げて!間抜け!」
ソ・ジダムは叫ぶとイ・ソンの手から筒を奪って塀を乗り越えて逃げました。
「待て!」
捕校(ポギョ)の一人はチダムを追いかけました。もう一人は世子をおいかけました。
ソ・チダムは逃げる途中で知り合いの妓女(キニョ、妓生の女)に捕校(ポギョ)の足止めをしてもらいました。
世子イ・ソンとシン・フンボクが街の中に入ると武官と兵士が民を虐げて暴力を振るっていました。世子イ・ソンはたまりかねて武官の背中を蹴り飛ばしました。
「邸下(チョハ)!」
シン・フンボクは世子を襲おうとした武官に抱きついて転びました。
「この野郎!」
捕校(ポギョ)はカンカンに怒りました。
「フンボク!や~!」
怒った世子イ・ソンはフンボクを襲っていた武官を蹴り飛ばして殴りました。
「なりません!なりません!お忍びがばれてしまいます。」
シン・フンボクは世子を制しました。
怒った捕校(ポギョ)は刀を抜くと、突然青い服を着た両班の男(カン・ピルチェ)が現れ捕校(ポギョ)たちを倒しました。
「なぜそち(チャネ)がここにいるのだ?」
世子は男に尋ねました。
「急ぎ王宮へお戻りください。」
世子を助けたカン・ピルチェ、東宮殿の別監(ピョルガム、世子の護衛の武官)は言いました。
カン・ピルチェは指笛を吹くと白い馬と茶色の馬が現れました。
イ・ソンは馬に乗り、カン・ピルチェはフンボクを馬の後ろに乗せて王宮に向かい走りました。その様子を英祖(ヨンジョ)が放った三人の間者が見ていました。
「黄金の樽の美酒は千人の民の血。改行。」
書画貸本の地下工房では読み上げた内容を職人たちが紙に写していました。
「はい(イェー)。」
執筆している男たちは返事をしました。
「玉盤の珍味は・・・・・・。」
両班風の男はまだ本を読み始めると突然物音がしてソ・ジダムが降りて来ました。
「チダムァー。静かに入れよ。取り締まりで役人が入ってきたのかと。どこまで・・・どこまで読んだ?」
本を読んでいた男は一瞬ヒヤリとして現れたのがチダムとわかると胸をなでおろしました。
「役人から逃げてきたの。」
「本当か?チダムの汗の量を見ると捕盗庁(ポドチョン)の捕校(ポギョ)においかけられたのか。」
チダムのお父さんは言いました。
「それに、間抜けに邪魔されて大変だったの。」
チダムは言いました。
王宮。
イ・ソンは急いで王宮に戻りました。
尚膳は間者から報告を受け、そのことを英祖(ヨンジョ)に報告しました。
英祖(ヨンジョ)は激怒しました。
父の部屋の前。
イ・ソンが着替えて父の部屋の前に行くと、世子嬪(セジャビン)が待っていました。
「お忙しいようですね。」
世子嬪はイ・ソンに言いました。
「取り告げ。」
世子は咳ばらいをして言いました。
「殿下。世子邸下(チョハ)がお越しです。」
内官のチャン・ホンギは国王に言いました。
王の部屋。
「ひどい汗をかいておるな。朝から武芸の稽古をしていたのか?」
英祖(ヨンジョ)は部屋に上がったイ・ソンに言いました。
「いいえ。父上。」
イ・ソンは答えました。
「違うならば、政務に疲れているのか?だから汗をかくのか?娘よ。そなたが国本ををしっかりと気遣ってやれ。国本が健康でこそ国が安泰である。」
英祖(ヨンジョ)は世子嬪の手を取り言いました。
「肝に銘じます。」
世子嬪は答えました。
王宮の庭。
「安堵の息がよく出ますね。邸下(チョハ)が東宮殿を抜け出したことは大殿(テジョン)のご主人もご存じです。お前たちは一体何をしていたのだ。」
世子嬪は世子と従者に言いました。
「それにしてもなぜ朝から貸本を?」
チャン・ホンギは馴れ馴れしく世子に尋ねました。
「知りたいのか。教えてやろう。王宮内のすべての貸本を押収せよ。」
イ・ソンはチャン・ホンギに命じました。
「ええ!?」
チャン・ホンギは驚きました。
地下室では何冊もの禁書が作られていました。
「しっかり結べよ。」
チダムのお父さんが言うと、ソ・ジダムは父の机の前に本を置きました。
「文会所(ムネソ)殺人事件第二巻・・・。」
チダムの父は呟きました。
「今日までに写本がいるのよ。今日までにどうしても欲しいと言ったでしょ。」
チダムは父に甘えました。
「チダムや。よく聞け。最近は恋愛小説がはやっている。推理小説など誰も読まん。」
チダムの父ソ・ギュンは娘に言いました。
「人気がない?これを見て。」
チダムは父に(世子の)ハングル文字で書かれた手紙を見せました。
「氷愛居士(ピンエゴサ)殿。そなたの文才に惚れた。ぜい会いたい。犯人は鎌を持つ者だ。私がどうして犯人がわかったか推理を聞きたければ会いに来てくれ。私に会いたいと?」
「そうよお父さん(アボジ)。」
「今から?」
「写本がないと行けないわ。」
チダムは拗ねて見せました。
「これを持っていけばいい。」
「これは私が書いた原本よ。原本。世に一つしかないの。」
チダムは本を大事そうにさすりました。
「名作だ。」
ソ・ギュンは娘の写本を出してやると顎で指図しました。
「はぁ!」
チダムは本をめくって喜びました。チダムは「書家貸本」の印を本の表紙に押しました。
王宮の恵慶宮(ヘギョングンン)。
「書画貸本?民間での書物の出版は国法で禁じられているはずです。なぜ世子様のお部屋にあるのです!」
世子嬪(セジャビン、世子の正室)ホン氏は禁書を手に取り怒りました。
世子と重臣の会議室。
「貸本を許可・・・。許可なさるのですか?」
右議政(ウイジョン)で老論派のキム・サンノは口を大きく開き世子イ・ソンに言いました。
「貸本業はもとより出版も流通も許可すします。」
イ・ソンは言いました。
「なりません邸下(チューハー、本来はチョハなんでしょうが私にはチューハーと聞こえました)。」
キム・サンノは反対しました。
「なぜだ。」
「書物の出版と流通は国家だけが行い・・・。」
キム・サンノは抗議を続けました。
「チャン内官(ネグァン)。チャン内官はいるか。」
世子イ・ソンは部屋の外に向かって呼びました。
「ここにおります。」
チャン内官は扉の外から世子に言いました。
「入れ。」
チャン内官は女官たちにたくさん書物を部屋に運び入れさせました。
「邸下。これは一体何の真似ですか。」
義父のホン・ボンハンが言いました。
「王宮にあった貸本です。右相(ウサン、右議政)は出版は国家のみがすべきと言いました。しかし民間で作られた書物が王宮の奥深くまで入り込んでいます。百冊以上も見つかりました。一人三、四冊ほど回し読むそうだから王宮内の半数以上が読んでいることになります。王宮がこのようなあり様なら巷(ちまた)ではなおさら貸本であふれているはずです。それが世情です。」
世子イ・ソンは貸本を手に持ち部屋の中央を歩きながら皆に言いました。
「世情だとしたらこれまで以上に規制を強化して取り締まるべきです。」
右議政のキム・サンノは両手で強調しながら世子に言いました。
「さようです邸下。これはすべて民を惑わす悪書に過ぎません。それに・・・。」
キム・テクの隣に座っていたミン・ベクサンは言いました。
「それは間違いだ。民を惑わしているのではなく楽しみを与えています。よって良書です。」
イ・ソンは言いました。
「良書(ヤンソ)ですと?色恋沙汰がどうして良書なのですか?」
キム・サンノは反対しました。
「何だと?色恋沙汰?春香伝(チュニャンジョン)を読んだのですか?」
イ・ソンはキム・サンノに言いました。
チェ・ジェゴンは笑いをこらえました。
「邸下(チョハ)。何をおっしゃいますか・・・。」
キム・サンノはどもりました。
「はっはっは。右相(ウサン、右議政)は春香伝(チュニャンジョン)を色恋沙汰と思ったようです。私は貞節を貫く女人(にょにん)の気概を感じた。色好みで欲深く悪どい堂官(タンガン=役人)をこらしめる正しい堂官(タンガン)の姿をこの書からしかと読み取れます。はっはっは。」
イ・ソンは言いました。
「中には逆心をあおる書物もあります。」
老論派のミン・ベクサンは真面目で堅い表情で言いました。
「副提学(プジェハク)は洪吉童伝(ホン・ギルドン・ジョン)を読んだのですか?」
イ・ソンは言いました。
「洪吉童伝を書いた者は逆徒です。」
ミン・ベクサンは言いました。
「ならば、洪吉童伝を読んだ民は皆決起すると言うのですか?」
イ・ソンは言いました。
「あり得ることです。」
ミン・ベクサンは言いました。
「あり得るならこの国に問題がある。この国は小説を読んだ民が逆徒(ヨクト)になるほどすさんだ国なのか?民間(ミンガン)の出版と流通を全面的に許可する。貸本の取り締まりをすぐにやめなさい。」
世子は力を込めて言いました。
キム・テクら老論派は不快感を表しました。少論は(利用価値があると)頷きました。
チェ・ジェゴンは小さな笑みを浮かべました。
世子も「やったぞ!」という表情を浮かべました。
王宮の一角(芙蓉亭)。
「はっはっはっは!」
英祖(ヨンジョ)は池で釣りをしながら尚膳から報告を受けました。
「どうしてお笑いになるのですか?国本(世子)が民間の貸本を許可なされたのですよ?」
尚膳は言いました。
「あいつは聖君(ソングン)の真似事をしているな。はっはっはっは。フン。」
イ・グムは鼻で笑いました。
老論派(ノロンパ)の重臣たちの会議室。
「卑しい民に書の出版をお許しになるだと?」
キム・テクは静かに言いました。
「ほ~。もう万歳するしかない(世も末だ)。国王(イングム:임금)は均役法(キュニョクポ)の制定を主張し世子(セジャ)は言論統制を緩和すると言っている。」
右議政のキム・サンノは両手を挙げて不快感を表しました。
「領相大監(ヨンサンテガム)。手を打つべきです。」
副提学(プジェハク)ミン・ベクサンは言いました。
「今すぐ殿下(王様)に拝謁してください。殿下を王にしたのは我らです。我々老論派をないがしろになさるのかと泣いてお訴えください。」
キム・サンノは領議政キム・テクに頼みました。
「ふっ・・・。泣き落としなど・・・。」
キム・テクは苦笑いしました。
少論派(ソロンパ)の重臣たちの会議室。
「国本(クッポン、世子)を何としてでも支持しましょう!民間の言論統制を緩和すれば我ら少論派(ソロンパ)が長年疑問視してきた今上(クムサン、こんじょう)の王位継承の過程が明らかになり殿下と老論派が犯した罪がすべて明らかになるのです。」
若く聡明な大司諌(テサグァン)のシン・チウンは鋭い語調で言いました。
「真実を暴けば老論を牽制できますか?」
漢城府(ハンソンブ)判尹(パニュン)のチョ・ジェホは発言しました。
「今上を王座から追いやることもできる。」
左議政(チャイジョン)イ・ジョンソンは言いました。
「今上は沈む夕日ですが国本(クッポン、世子)は昇る朝日。国本(世子)が治世する世が来たら・・・。」
シン・チウンは呟(つぶや)きました。
「我ら少論(ソロン)の世の中(セサン)が来る。ふっはっはっはっは。」
左議政のイ・ジョンソンは笑いました。
「少論の世ですか。少論(ソロン)の世(セサン)に民(ペクサン)の居場所はありますか。大監(テガム)。」
本棚の間で本を読んでいたパク・ムンスは本を閉じると初めて発言しました。
「イボゲ(お前さん、よさぬか)右参賛(ウチャムチャン、パク・ムンスのこと)。」
左議政イ・ジョンソンは立っているパク・ムンスを見上げて叱りました。
「民のことはお考えですか。」
パク・ムンスは真顔で左議政に言いました。
「我らが政治を導いてこそ民の暮らしは安泰となるのです。」
チョ・ジェホは言いました。
宮殿の廊下。
少論派(ソロンパ)のパク・ムンスが部屋を出ると老論派の領袖キム・テクが話しかけてきました。
「大監(テガム)のご指導のおかげですな。まこと世子邸下の政治劇は面白いです。」
キム・テクは嫌味を込めて言いました。
「はっはは。邸下はまだお若い。」
パク・ムンスはキム・テクの意図を察知して話しかけに応じました。
「若すぎるのだ。」
「邸下の若さが怖いのですか?」
「怖くなどない。羨ましい。羨ましく思う一方で懸念もしている。いずれ(老論にとって)危険な暴君になるやもしれぬ。そう思えてなりません。」
キム・テクは言うと去りました。
「ふははははは。重臣が顔をしかめていたな。」
世子イ・ソンは右副承旨(ウブスンジ)のチェ・ジェゴンに言うと部屋に入りました。
「滅多に見られぬ光景でした。取り乱した様子を見ると実に痛快でございます。」
「いい気になってると足をすくわれますぞ!」
部屋の外から大きな声がするとパク・ムンスが部屋に入ってきました。
「そなた(チャネ)。なぜ軽はずみな事を言うのだ。」
パク・ムンスはチェ・ジェゴンを叱りました。
「大監(正ニ品以上の尊称)。叱らないでください。政治の会議での勝利を喜んでいただけです。」
イ・ソンはパク・ムンスに言いました。
「勝利ですか。」
「先生もご覧になったでしょう。」
世子は愉快そうに師匠に言いました。
「私めが政治(チョンチ)で目の当たりにしたのは舌戦に勝ち、政治に負けた愚かな国本(クッポン、世子)のお姿です。」
「どういう、意味ですか?」
「民間への出版(チュンパン)許可は実現できずに終わるでしょう。」
「ふ・・・。意外ですね。先生が老論どもの肩をもつとは。」
「老論どもとは?見下すから負けるのです。政治は言い負かすのではなく説得するのです。」
「先生(サボゥ)。とても単純(タンスン)な話です。民に小説を与えるだけですよ。」
「イェー(ええ)。あっはは。単純な事ならなぜ四百年も禁じられたのですか。なぜ父王(プワン)は許可しなかったのでしょう。本来なら父王のご意見を伺うべきでした。邸下。単純に見える問題でも四百年続く国法を改正するならば必ず父王にご相談すべきです。父王を敵にまわすことになりますぞ。」
「敵ですと?お言葉が過ぎます先生!」
イ・ソンは声を荒げました。
「邸下の御役目はあくまで代理聴政(テリチョンジョン、王の代わりに政務を行うこと)なのです。権力は行使できてもまだ君主ではありません。」
「代理聴政(テリチョンジョン)。私に権力を与えたのは他でもない父王です。だから先生が敗者と言われたこの私の民を慈しむ心こそ父王のお心なのです。」
まだ権力の恐ろしさを知らないイ・ソンはあどけなく言いました。イ・ソンは父のことを誤解していました。
芙蓉亭。
「国本のお振舞いは度が過ぎております。改めるべきでございましょう。国本は世継ぎとしてお生まれなさった方です。はじめから、揺るぎない力をお持ちです。しかし・・・。」
尚膳は英祖(ヨンジョ)に言いました。
「羨ましい限りだ。一度も脅かされたことがないとは。うん?うんっ!ゆえに怖いものなどなかろう。引きがつよい。それ!あ~。あ~。昔の私のように殺されかっけたことがないからな。」
英祖(ヨンジョ)は鯉を吊り上げると池に戻しました。。
世子イ・ソンと親友の画員シン・フンボクは世子イ・ソンの御身画(オシンファ)を描くために部屋にいました。イ・ソンは世子の服を着たシン・フンボクの龍の刺繍を描いて集中が切れると筆を投げました。
「えい!いくら考えても納得できぬ。民に小説を与えるだけなのに父上のお許しがいるとは。先生はどうしていつも複雑に考える。」
「なら単純な問題から解決しましょう。」
「単純な問題?」
「このお召し物からご解決を・・・。」
シン・フンボクは両手を広げました。
「このほうがよい。私にはこちらのほうが似合っている。」
イ・ソンはあおむけに寝転がりました。
「フンボク。」
フンボクの画員の服を着た世子イ・ンンは世子の服を着ているシン・フンボクに話しかけました。
「はい邸下。」
「おそらく私は、画員(ファウォン)になる運命だった。お前。いま呆れただろ。」
「お言葉をお慎みくださいませ。画員になりたいなどと誰かに話せば贅沢な悩みと笑われてしまいます。」
「聞きたいことがある。なあフンボク。お前の夢は何だ?お前にも夢があるだろう?」
「・・・・・・。」
「図画署(トファソ)の最高職に就く以外は?お前の夢は朝鮮一の絵師になることか?」
「いいえ。違います。」
「ならば?」
「病弱な母の薬代に事欠かぬこと。もうひとつ叶うなら婚期を迎えた妹に婚礼品をきちんと揃えて嫁に出せれば十分です。」
「ふ・・・そうか。」
イ・ソンは自分の肖像画を見下ろしました。
「取り次げ。」
嬪宮ホン氏は夫(世子)がいる部屋を訪ねました。
「誰も入れるなとのご命令でございます。」
尚宮(サングン)は答えました。
「イボゲチェ尚宮。そちは私を誰だと思っている。」
「今日邸下(チョハ)はご多忙でございました。ご昼食も召し上がらずに休んでおいでです。」
「私が邸下に会えば休息の邪魔だと言うの?」
「違いますでしょうか?」
チェ尚宮は強気に答えるとほかの内官や尚宮たちはチェ尚宮が罰せられないかと心配しました。
世子嬪(セジャビン)ホン氏は世子の許しもなく無断で部屋の扉を開けました。
世子の服を着ているシン・フンボクはふぐに土下座しました。
世子イ・ンンは自分で自分の肖像画に彩色を施していました。
「邸下。これは一体どういうこと・・・。」
「不敬だと言うのか。掟に反する?わかっている。」
「ではなぜ・・・。」
「楽しいからです。楽しもうと・・・。」
「奴と楽しいとは何と情けない!お忍びの外出と画員の真似事だけでは飽き足らずお部屋にまでこのような禁書を持ち込まれるとは!」
世子嬪本誌は貸本を袖から出して怒りました。
世子は筆を皿に投げるように置くと帽子を脱ぎました。
シン・フンボクは世子の服を着たまま部屋から逃げ出し廊下でため息をつきました。
「いくら何でも今日の嬪宮(ピングン)は目に余る。私の部屋に無断で入って粗探しをするとは。礼儀以前の問題だ。ところが・・・。」
「不敬を正すことは礼儀よりも大切です。」
世子嬪ホン氏はきつい調子で言いました。
「わかっています。今後は気をつける。下がりなさい。」
世子は立ち上がりました。
「はぐらかすのですか。男とお忍びの外出も周囲に知られ貸本も隠さず部屋に置いておくとは!邸下は軽率すぎます!」
「やめよ。」
「なぜ貸本を許可するなどとおっしゃったのですか!いったいいつまで騒動を起こすのですか・・・一体いつまで・・・。」
世子嬪は世子に厳しく詰め寄りました。
「ふははははは。」
世子は笑うとゆっくり手を三度叩きました。
「なぜお笑いになるのです?」
「嬪宮は相変わらず大した政治力だな。嬪宮は政治の場にまで刺客を送っているのですか?」
「妻が夫の言動に関心を持ってはいけませんか?」
「関心?あなた(クゲ)が関心があるのは私か?それとも龍衣(世子の地位)か?」
イ・ソンは世子嬪の袖を乱暴に掴んんで引き寄せました。
「・・・・・・。」
嬪宮は世子に図星をさされたので世子を睨みつけると黙って立ち去りました。
老論(ノロン)派の会議室。
「今竹波(チュクパ)と言ったか?」
キム・テクはミン・ベクサンの部下、チェ・イマンに言いました。
「ある画員にきかれて亡き丹巌(タナム、タンとアムを繋げた語、ミン・ジノン、粛宗の継室の兄)様から老論(ノロン)派のタナン大監か領相大監(ヨンサンテガム)らの面々のうち竹波(チュクパ)というのは誰の号なのかと。」
チェ・イマンは言いました。
「その画員の名は?」
「睿人画師(イエジンファシ)シン・フンボクという者です。」
するとキム・テクは立ち上がって部屋を出て行きました。
宮殿の門付近の石畳。
「大監!大監!領相大監(ヨンサンテガム)!なぜお帰りになるのですか!」
右議政のキム・サンノはキム・テクを引き止めました。
「今上(クムサン、国王)に訴える気がないのだ。いざというときは今上を王座から引きずり降ろせばよい。それが老論の力だ。」
キム・テクは王宮を去りました。
国王の仕事部屋。
「法に反しておろう。間違っておる。王が飲む煎じ薬は領相(ヨンサン、領議政)キム・テクが運ぶ決まりではないか。」
イ・グム(英祖)は靴下を脱ぎました。史官(サグァン)は王の言葉を黙って記録していました。
「領相(ヨンサン、領議政)キム・テクは風邪をこじらせ・・・。」
右議政のキム・サンノは釈明しました。
「瀕死の状態か?死んでしまいそうなほどひどいのだな。それで帰宅したと?それなら余も一緒に死なねばな。一人で三途の川を渡るのは退屈であろう。煎じ薬を下げよ。」
イ・グム(英祖)は医官に薬と菓子を持たせて付しているキム・サンノの前にしゃがみました。
「殿下ー。殿下ーどうかお薬を・・・。」
キム・サンノと御医(オイ=国王の主治医)のスンマンは庭に出て王の後を追いかけました。
イ・グム(英祖)は立ち止まり器を手に持つと薬持って歩きました。
「初めて見る顔だな。」
英祖(ヨンジョ)は若い内官に絡みました。
「大殿に二日前に配置されました。」
内官の若者は王に答えました。
「どうりで知らぬわけだ。名は何と申す。お前の名はなんというのだ。」
「ええ・・・?チェソンともうします。」
「年は十七ほどか?ふっ。お前の年を聞いておるのだ。」
「殿下はなぜお尋ねに。」
「若さあふれる年頃なのに疲れた顔をしておるからだ。宮仕えがつらいのか?」
「い、いいえ殿下。」
「飲みなさい。」
イ・グム(英祖)は薬を若い内官に飲むように言いました。
「殿下!何をなさいます!なりません殿下!」
キム・サンノは悲鳴を上げました。
「受け取らねば私の顔が立たぬ。ほらチェソン。」
「なりません殿下。」
チェソンは地面に平伏し断りました。(※朝鮮の文化では「殿下、私を罰してください」「お許しください」などと言うのが正解だが新人のチェソンは言い方を知らないらしい。)
「ん?どうしてもダメか?ふっふっふ。ならぬだと?なんということだ。わっはっは。大殿に仕えてたった二日の若輩者までがならぬと言いよった。君主を指導するつもりだ。」
「殿下。内官はそのようなつもりは・・・。」
キム・サンノは言い訳しました。
「黙れ!お前たちの責任だ。サンジョンスン、ユパンソ!(すみません、意味がわかりませんでした)そなたたち高官が余を見下しておる。だからこのような内官までが私に指図するのだ。」
「いいえそんなつもりはありません!」
キム・サンノは大きな声を出してしまいました。
「黙らぬか。その口に糞をぶち込まれたいのか。」
イ・グム(英祖)は左議政キム・サンノに薬をかけました。
「殿下。下品な言葉はお慎みくださいませ。史官(サグァン)が見ております。お口をお慎みください。」
キム・サンノは食い下がりました。
「乱心したと書け。乱心したから王座から降ろすべきだ。そう書かせたいのであろう。それがそなたの望みなら叶えてやろう。禅位(ソニ、譲位すること)する!」
イ・グム(英祖)は茶碗を上に放り投げると怒鳴りました。
イ・ソンは父王が禅位すると聞いて驚き父王のところへ向かいました。
「禅位だって?理由は?」
「民間の出版許可の件かと。」
弘文館修撰で南人のチェ・ジェゴンという若い官僚が答えました。
「父王がお怒りになったのか?」
世子嬪の部屋。
「禅位?それは警告です。世子の座を揺るがすぞという父王様の警告です。ご還暦を迎えられた今も旦那様(ナウリ、王を見下す言葉)は年若い女官たちを寝所に入れては次々と側室に加えています。何より昭媛(ソウォン)ムン氏が王様のお子を身ごもっています。もし王子が生まれでもすれば?」
嬪宮ホン氏は父のホン・ボンハンに言いました。
「世子様の王位継承権が脅かされます。」
「対策を立てねばなりません。対策を。」
王の寝殿の前。
世子は席藁待罪(ソッコテジェ、むしろに座り国王の許しを乞うこと)をしました。重臣たちも皆あつまり庭に平伏しました。イ・ソンは度々後ろを振り返り義父のホン・ボンハンを見つめました。
十五年前の夜の東宮殿。
イ・ソンはまだ五歳でした。幼い世子イ・ソンは父王が禅位を宣言したので席藁待罪(ソッコテジェ、土下座して床に頭を打ち付け詫びて許しを請う行為)をさせられていました。
「媽媽。東宮媽媽(トングンマーマー、世子様)。」
チェ尚宮は寝ていたイ・ソンをゆすり起こしおんぶして王の寝殿の前に連れて行き席藁待罪をさせました。
「なりません。殿下。禅位はお考え直しください。」
キム・テクら重臣たちは声を揃えて王の部屋に向かって上奏しました。
幼いイ・ソンは怖くて泣き出しました。
「え~ん。」
「泣き叫ぶのです。敷石に頭をぶつけ慟哭なさいませ。父王が考え直してくれるまで泣き叫ぶのです。」
チェ尚宮はイ・ソンに言いました。
「え~ん。」
朝になりイ・ソンは筵の上で寝ていました。
「媽媽。媽媽起きてください。父王様が禅位を宣言されたら酷暑や厳冬でも時間を考えずに筵に座ってご再考を請うのです。宣言が撤回されるまで食事も、睡眠もとってはなりません。禅位(ソニ)をお考えなおしください。」
チェ尚宮はイ・ソンに教えました。
イ・ソンは「禅位をおかんがえなおしください」と席藁待罪をさせられました。
「禅位してやろう。禅位する。」
イ・グム(英祖)は茶碗を投げ割るとキム・テクに言いました。英祖(ヨンジョ)はその後も何度も禅位運動を行いました。そのたびに世子イ・ソンは大臣らとともに「なりません。禅位をお考え直しください」と席藁待罪を行いました。世子がはしかにかかって1か月もたたぬ冬の日も、イ・ソンは席藁待罪をしていました。
「なりません。禅位(ソンニ又はソニ)はお考え直しください。」
イ・ソンは再び寝殿の前で席藁待罪をしていました。重臣たちも雪が降る中、国王に考え直すよう上奏しました。
「父上。譲位は・・・お考え直しください。」
イ・ソンの身体は冷たく凍っていました。
「なりません・・・譲位は・・・お考え直しください・・・・・・。」
雪が積もりました。チェ尚宮はイ・ソンに心を痛めました。
来る日も来る日もイ・ソンたちは席藁待罪をしました。重臣で世子の義父ホン・ボンハンだけは石に本気で頭をぶつけて血を流しました。
「シン・フンボクから連判状を奪い返せ。必要ならば殺しても構わん。」
キム・テクは簾を開けると庭に侍っている刺客に命じました。
シン・フンボクの家。
シン・フンボクは紙に滴る赤い塗料(血?)を見つめていました。シン・フンボクは図画署(トファソ)に行くと猛毅(メンイ)を捜しました。
図画署(トファソ)の書庫。
「探しものか?フンボク・・・これは何だ・・・?」
同僚の画員ホ・ジョンウンが大統一猛毅(テトンイルメンイ、連判状)を広げて震えていました。
「離せ。」
シン・フンボクは黙って猛毅(メンイ)を畳むとホ・ジョンウンの手を引き書庫から作業場に連れ出しました。
「この絵(何人かの大臣が無人の輿を担いでいる絵)は、その文書のせいだろ?だからこんなことをした。連判状を燃やそう。持ってたら殺される。いや、捕盗庁(ポドチョン)に報告しよう。それがいい。おい。その猛毅(メンイ)・・・。」
「静かにしろ。聞かれるぞ。」
シン・フンボクは同僚の口を押さえました。
「だめだ殺される。」
シン・フンボクは連判状を小さくたたみました。
「私が何とかする。今すぐ邸下(チョハ)に報告するから。誰にも言うんじゃないぞ。わかったな。」
夜の王宮。
「禅位をお取消しください。」
イ・ソンと重臣は席藁待罪を続けていました。
チャン・ホンギは部下から耳打ちされました。
王宮の門。
私服姿のシン・フンボクは世子に会いたいと内官のチャン・ホンギを呼び出しました。
「急ぎの用とはどういうことだ?」
「邸下(チョハ)にお目通りを。」
「急用だと?お前、邸下(チョハ=世子様)は禅位のご再考を訴えておいでだぞ。」
「ならば、この手紙を邸下(チョハ)に。貸本を渡すので・・・。」
「あは。イノミ(貴様)!」
夜道。
フンボクは猛毅(メンイ)を包み、木の陰に身を隠しました。(フンボクの?)屋敷の前には二人の刺客が警戒していました。
王宮。
「なりません。禅位はお考え直しくださいませ。」
イ・ソンは席藁待罪をしていました。
王の部屋。
「キム・テクは来ておりません。君主が禅位を宣言されたたのにご再考を訴えないのは逆心を抱いている証拠です。」
内官キム・ソンイクはイ・グム(英祖)に言いました。
「逆臣か。私の知るキム・テクは逆臣だろうが忠心だろうが決めたことは必ず実行する男だ。そして勝機をつかむまでは、何があろうと腹の中を見せぬ男でもある。何か切り札があるのか?」
隠れ家。
シン・フンボクは「文会所殺人事件」という貸本に猛毅(メンイ、決起の連判状)を急いで書き写していました。
王の部屋。
「猛毅(メンイ)ではないと?」
イ・グム(英祖)は尚膳(サンソン)のキム・ソンイクに尋ねました。
「私が十年前に承政院とともに焼き払いました。」
内侍府長キム・ソンイクは答えました。
「承政院に猛毅(メンイ)があるのをその目で確かめたのか?」
「いいえ・・・それは・・・。」
「どうして来ない?猛毅(メンイ)でなければ、キム・テクが強気な態度に出るはずがないのだが。」
キム・テクの家。
キム・テクはランの葉を布で拭きながら部下で刺客の男に呟きました。
「さあ。本当の戦いはこれからだ。違うか?」
キム・テクが言うと、黒い編み笠を被った男は黙って頭を下げました。
王宮。
「なりません。禅位をお考え直し下さい。」
イ・ソンは何度も謝り続けました。
夜道。
シン・フンボクは辺りを警戒しながら道を歩いていました。
王宮。
「なりません。禅位をお考え直し下さい。」
イ・ソンは何度も謝り続けました。
別の夜道。
ソ・ジダム(貸本業の娘)はのんきに夜道を走っていました。
シン・フンボクは夜道で待っていました。シン・フンボクは「文会所殺人事件」の包みを地面に落としました。
橋。
シン・フンボクは橋の中央で後ろを振り返ると包みを落としてしまいました。
イ・ソン、そして英祖(ヨンジョ)はそれぞれ振り返りました。
感想
秘密の扉の感想です。あらすじを説明して翻訳を韓国語の漢字に訂正するだけで何時間もかかってしまいました。しかも韓国語はわからないので音から漢字を想像して、それに該当する時代劇の漢字を捜してと。それにしてもシナリオが長い!濃い!そして誰が誰だかわからない!まったく説明なしの登場人物が何人か出てきましたので顔を見比べて調べてみました。たくさんの登場人物がいきなり秘密の扉の1話から出てきてまるで雰囲気は「根の深い木」と同じです。ハン・ソッキュも出てますし。このハン・ソッキュ演じる朝鮮の王、英祖は「根の深い木」の世宗大王と同じで「糞」という言葉を使い現代人と同じような振る舞いをして、それでいて近寄りがたい厳しさを持ち合わせていて今までの韓国ドラマの俳優さんにないキャラクターを演じられていますね。どちらかというと「糞が何とか」といった言い回しはハリウッド映画によく見られる視聴者とドラマの距離を縮めるための目的の言葉ですね。領議政のキム・テウは「逆転の女王」では窓際の課長を演じていた情けない男役のキム・チャンワンです。「奇皇后」でヨンチョルを演じていたチョン・グクファンも少論派の頭領として出ていましたね。「奇皇后」でトクマンを「チャミョンゴ」でチャチャスンなどを演じていたイ・ウォンジョンや何かと悪役ばかりのチャン・ヒョンソンは珍しく時代劇に出てますがやはり悪党のお顔ですねwチェ・ジェファンは「朝鮮ガンマン」で主人公のお付きのサンチュを演じていた俳優さんで一度見ると忘れないお顔です。「朝鮮ガンマン」でスインの父を演じていたオム・ソヒョプという俳優さんも出てましたね。「ピノキオ」のユン・ソヒョンや脇役もなかなか豪華です!「テワンセジョン」でイム・ムンを演じていたキム・ジョンハクも。「太陽を抱く月」でホ・ヨヌの少女時代を演じていたキム・ユジョンは古本屋の娘を演じているそうです。チェ・ウォニョンという「相続者たち」でチャヨンの父を演じていたイケメンおじさんチェ・ウォニョンも南人派チェ・ジェゴン役で出ているのですね。要チェック!そうそう、ハン・ソッキュは元声優さんなんですね。どうりで渋いお声をしてらっしゃる!演技もなかなかものものです。韓国ドラマ「イ・ソン」に出てきたイソンのお母さん役の人もチェ尚宮役で出てますね。世子イ・ソンの欠点
改めて再視聴してみると、1話の段階で史実の断片が描かれています。それは英祖(ヨンジョ)が何度も禅位をして世子の地位を脅かしていることです。禅位している間、世子は食べることも寝ることも休むことも許されず、雨の日も雪の日も、ひたすらむしろの上で謝るのです。ドラマの中で英祖(ヨンジョ)が何度も「禅位」を繰り返す場面があります。歴史を知ってる人は理解できると思いますが、初めてこのドラマを見る日本人にはそれが理解できません。とにかくこの禅位と席藁待罪はワンセットで行われ、謝罪する側にとっては肉体以上に精神的にきつい行為です。1話ではホン・ボンハンの頭から血が出るほど床に頭を叩きつけているのは、ホン・ボンハンと娘の命運がかかっているからです。だからホン・ボンハンは必死なのです。
そして、世子が父に政治の意見を伺わない場面です。この二つはいずれも史実として記録されています。
この記録をもとに、このドラマでは世子が父の顔色を伺わずに自分の意志でどんどん行動して事件に巻き込まれていく様子が描かれているのです。価値観が固定化された封建社会では、世子は国王を常に崇めて立てないといけません。この世子は実は幼いころから父王に虐待されて育っているのですが、このドラマの設定では「間抜け」「そういったことに無頓着」という感じがします。つまり恐れを知らぬ王子です。いわゆる「無謀」です。現代の価値観では親の言う事に従わなくても死にはしませんが(庶民の親は大抵クソなので従う必要がなく)、当時の李氏朝鮮の王宮で父母に逆らうことは死を意味していました。ちなみに史実でのイ・ソン思悼世子(サドセジャ)はこのドラマの年頃にはすっかり父に怯えていて、それは震えるほどだったそうです(脳が委縮している状態と思われます)。ですので実在のイ・ソンはこのドラマのように元気いっぱいではありません。
スタッフの見どころ
「秘密の扉」の演出はなんと「ファントム」「怪しい家政婦」の演出をなさっていた人でキム・ヒョンシクです。「ファントム」はすごくかっこよくスタイリッシュな演出でしたのでこれは期待できそうです。脚本はユン・ソンジュで「ファン・ジニ」と「テワンセジョン」を担当していた方で、台詞の知的レベルは高そうで最近始まった「イニョプの道」みたいな低能系の韓国ドラマじゃなさそうなので期待しています!ソン・ヨンジュさんは女性の脚本家さんなのですね。
1話の解説
ドラマを見ていると、映像では見逃してしまうところを言葉で書き起こしてみると、重要な事を見逃していることがわかります。1話の段階で、政局は英祖と持ちつ持たれつの関係にある老論派と、世子を支持しようという少論派が敵同士であることがわかります。少論の中でもパク・ムンスは英祖の側近かつ世子イ・ソンの師匠で、しかもパク・ムンスは政局よりも民のことを思いやる士大夫です。シン・チウンが「世子を支持しましょう!」と言い、少論の領袖(りょうしゅう)であるイ・ジョンソンが英祖を追い落とすことも可能だと言っているところから、少論にとって英祖は邪魔な存在であることがわかります。英祖もキム・テクも猛毅(メンイ)と聞くと血眼になって捜しています。英祖は猛毅(メンイ)を燃やしてしまいたい。キム・テクは猛毅(メンイ)を使って英祖を脅迫したい。そのような関係であることがわかります。猛毅(メンイ)を保管していた重要人物(当時の老論の領袖)が死去しているので隠し場所がわからないのです。そして世子の親友シン・フンボクが猛毅(メンイ)を見つけ、そのことをキム・テクに知られたところで1話は終わります。
人物相関図
再放送を記念して相関図を勝手に作ってみました。1話の段階でわかる相関図です。クリックすると大きな画像になります。
秘密の扉 人物相関図
1話の時点で朝鮮国王の英祖は老論(ノロン)派の支援を受けて即位したことがわかります。老論派は英祖の正室で王妃の貞順(チョンスン)王后(ドラマイ・サンでサンを追い詰めた人物)と世子嬪ホン氏が派閥の人間であることがわかります。このキム氏はのちに安東金氏(アンドンキムシ)となる一族です。
英祖が老論を登用した背景に、前の時代に少論が幅を利かせていたことにも理由があります。老論と少論はもとは西人(ソイン)という勢力でしたが二つに分裂しました。つまり、もとは同じ派閥でしたが、勢力が大きくなりすぎて分裂したのです。この西人(ソイン)というのは、世子の忠臣であるチェ・ジェゴンが属する南人を粛正した派閥です。チェ・ジェゴンにとっては老論も少論も敵の勢力です。
思悼世子(サドセジャ)ことイ・ソンは少論の儒者から学問を学び、少論を後ろ盾としています。少論もまた世子を利用することで次の国王になるイ・ソンに取り入る計画でいました。
老論はドラマの中では英祖の兄を謀殺し即位を図った謀反の首謀者であることが1話でわかります。キム・テクは兄の景宗がイ・グムの寝こみを刺客に襲わせたと思い込ませたか、本当にそうだったのかはわかりませんが、世弟(セジェ)のイ・グムは兄の手先に殺されそうになったと思い込んだことが1話で描かれています。老論は史実でも景宗の暗殺計画を立てており、その発覚により少論が台頭することになりました。結局のところ、景宗は暗殺されたともいわれています。景宗は聡明な人物だったそうですが父の粛宗から圧力を受け(母のチャン禧嬪が謀略の罪で賜死したこともあって)精神を病んだともいわれます。韓国ドラマ「トンイ」では英祖の王位継承を正統として描いていますが、「秘密の扉」では王位を簒奪したかのように冒頭で描かれています。
あと影が薄いのですが、1話で出てくるシン・フンボクは世子イ・ソンの大親友です。どれくらい深い友達であるかはイ・ソンとシン・フンボクの関係を歌ったOSTを聴いてみてください。
英祖が老論を登用した背景に、前の時代に少論が幅を利かせていたことにも理由があります。老論と少論はもとは西人(ソイン)という勢力でしたが二つに分裂しました。つまり、もとは同じ派閥でしたが、勢力が大きくなりすぎて分裂したのです。この西人(ソイン)というのは、世子の忠臣であるチェ・ジェゴンが属する南人を粛正した派閥です。チェ・ジェゴンにとっては老論も少論も敵の勢力です。
思悼世子(サドセジャ)ことイ・ソンは少論の儒者から学問を学び、少論を後ろ盾としています。少論もまた世子を利用することで次の国王になるイ・ソンに取り入る計画でいました。
老論はドラマの中では英祖の兄を謀殺し即位を図った謀反の首謀者であることが1話でわかります。キム・テクは兄の景宗がイ・グムの寝こみを刺客に襲わせたと思い込ませたか、本当にそうだったのかはわかりませんが、世弟(セジェ)のイ・グムは兄の手先に殺されそうになったと思い込んだことが1話で描かれています。老論は史実でも景宗の暗殺計画を立てており、その発覚により少論が台頭することになりました。結局のところ、景宗は暗殺されたともいわれています。景宗は聡明な人物だったそうですが父の粛宗から圧力を受け(母のチャン禧嬪が謀略の罪で賜死したこともあって)精神を病んだともいわれます。韓国ドラマ「トンイ」では英祖の王位継承を正統として描いていますが、「秘密の扉」では王位を簒奪したかのように冒頭で描かれています。
あと影が薄いのですが、1話で出てくるシン・フンボクは世子イ・ソンの大親友です。どれくらい深い友達であるかはイ・ソンとシン・フンボクの関係を歌ったOSTを聴いてみてください。
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