秘密の扉11話
目次
あらすじ 竹波の正体
ソ・ジダムは王の謁見場にひれ伏していました。
そこにはイ・グム(英祖)と世子イ・ソン、世子嬪ハン氏がいました。
「画員(ファウォン)シン・フンボクの名誉を回復しその家族は自由の身にします。無念に死んだホ・ジョンウンの家族にも相応の保証をいたします。」
尚膳キム・ソンイクは言いました。
「本当ですか?」
ソ・ジダムの表情が明るくなりました。
「ふ・・・このような措置ができたのはお前が勇気と知恵を出し余(ふゎぁい)に協力してくれたおかげだ。ゆえに褒美を遣わす。何か望みがあれば言いなさい。」
イ・グム(英祖)はチダムを指さし頷きながら言いました。
「おお。そうか。女官にしてもいいな。ソンや。お前はどう思う。この娘が気に入ったらお前の側室にでも迎えるか?」
イ・グム(英祖)が言うと嬪宮の表情が固まりました。
「いいえ父上。」
「お前の好みではないか?」
「私が未熟なせいで今いる家族でさえ十分ねぎらってやれずに苦しく思ってます。ですから側室には迎えられません。」
「しまった。ふふ。私としたことが嬪宮の気持ちを察してやれなかった。気分を悪くしてしまったな。」
英祖は笑いました。
「いいえお義父様。王室の繁栄が国の繁栄の礎ですから当然のことです。」
嬪宮ホン氏は言いました。
「やはり嬪宮はよく心得ておる。あ?王室の繁栄のために子供が多くなくては困る。息子が数人いれば競わせることもできる。どの息子に国を治める力があるのか力量を比べられるではないか。」
「しかし父上。」
「わかった。わかった。こればかりは邸下の気持ち次第だ。なかったことにする。おい尚膳。娘に褒美を与えてやれ。でないと褒美といえんからな。世子は捜査の真似事などせず政治に専念するがよい。」
ソ・ジダムは世子イ・ソン(思悼世子)にチェ・ジェゴンの家に送られました。ソ・ギュンは世子の健康を願いました。イ・ソンはチダムによい本を書くように言いました。
紅葉した森の中。
ナ・チョルチュはキム・ムの最期のことを思い出していました。
「手加減した理由は何だ?友だからか?」
「友ではなく朝鮮一の剣客だから手を残した。」
ハ・チョルチュは思いを断ち切るために剣をふるいました。
そこに世子イ・ソン(思悼世子)が現れました。
「何のご用ですか?」
「先生・・・パク大監に雇われたと聞いた。」
「思いが通じたのでしょうか。私も邸下にお会いしたく思っていました。煙管に入っていた文書の行方を知りたいですか?」
「教えてくれるのか?」
「私がパク・ムンス大監に渡しました。ですが今はお持ちでないはずです。もし大監がお持ちなら邸下も私もここにはいないでしょう。」
「なぜ私に打ち明けてくれるのだ?」
「誰かが正すべきだからです。民の命が紙切れよりも軽く身分が低い者は虫けら以下だ。そんな汚れきった世の中を誰が正すのです?」
夕方の王宮の庭。
イ・ソン(思悼世子)は弓の練習をしていました。
パク・ムンスはイ・ソン(思悼世子)に辞職上疏。を提出しました。
イ・ソン(思悼世子)はチャン・ホンギに人払いを命じると辞職上疏を破り捨てました。
「これでは償いになりません先生。」
「では何を?」
「文書を私にください。ナ・チョルチュがあなたに渡したはず。私を救うための切り札に?文書をキム・テクに渡して取引したのですか?」
「申訳ありません。」
「なぜですか?なぜなのだなぜ!私は先生にご心配なくと言ったはずだ!私は真実を知りたい、正義のために真相を暴いてほしいと言ったはず。なぜ文書のことを伏せたのですか。その文書は、猛毅(メンイ)だから。君主交代の決起文だからですか?」
「邸下がなぜをれを!誰に聞いたのですか。」
「先生は私にこう言いましたね。真相を知りたいなら私さえ信じてはなりません。私はその教えに従いました。猛毅(メンイ)を手に入れてみせます。先生はこの戦いで私の馬になってもらいます。」
「なりません。」
「なぜだ。先生がこの戦いで傷つくのが怖いからですか?」
「いいえ。私は構いませんが邸下が傷つかれることが怖いのです。邸下に勝ち目はありません。まずは力を養い・・・。」
「先生は何を恐れているのですか。私と同じ理由ですか?君主を替えるための猛毅(メンイ)に父王が関わったのかきいているのです。先生が黙り込むのはいつも嘘をつきたくない時です。」
キム・テクの家。
キム・テクはミン・べクサンに猛毅(メンイ)を見せて「この文書は辛丑年に書いた。君主を替える決意をし王世弟(セジェ)を王にした」と言いました。ミン・べクサンは猛毅(メンイ)を隠さねばならないといいました。キム・テクは「今上の足元に埋めるつもりだ」とミン・べクサンに言いました。
夜の王宮の世子の執務室。
「甲辰年に何があったのだ・・・。」
イ・ソン(思悼世子)はつぶやきました。
「父王様が即位されました。」
チェ尚宮(チミルサングン)は答えました。
「甲辰年に悪い出来事でも?」
「・・・・・・先大王様がお亡くなりになりましたのは女官にとって最も悲しい出来事です。」
「三十年も前の話を聞いてなぜうろたえるのだろうか。」
「邸下。三十年前のことはお気になさらないでください。そのことはお考えになりませぬよう。いいえ。甲辰年の話はもう二度とおっしゃらないでください。」
「ますます怪しい。甲辰年に父王の身に何が?」
「お忘れください。」
「何があったと聞いておる!」
「私めはこれ以上はお答えできません。」
「今の返答で十分だ。あとは自分で調べる。」
世子は部屋を出ました。
承政院(スンジョンウォン)の書庫。
「邸下がこのようなところに何の御用ですか。」
少論で大司諌(テサグァン)のシン・チウンはイ・ソン(思悼世子)に頭を下げました。
「調べものがある。気にするな。仕事を続けよ。・・・甲辰年の承政院日記をくれ。」
世子はチャン・ホンギを伴い現れました。
「甲辰年の承政院日記はございません。十年前の火災で燃えてしまい復元できておりません。」
官僚のひとりが答えました。シン・チウンと老論と思われる下級の官吏は聞き耳を立てました。
「記録が燃えたのか?」
「そのようです。」
王の謁見の間。
イ・グム(英祖)は震えていました。
「甲辰年?なぜ甲辰年の記録を探しておる。イノミ。何か知ったのか?」
「邸下をしっかり監視いたします。」
尚膳キム・ソンイクは答えました。
「ああ。そうしてくれ。」
「十年前(英祖二十年1744年)の火災も猛毅(メンイ)と関係あるのか?甲辰年の記録を消すために何者かが承政院に火を放ったのか?十年前のあの日に。」
世子イ・ソン(思悼世子)は十年前を思い出していました。
「四百年間積み重ねた歴史の記録が燃えてしまった!」
英祖は当時混乱して泣き崩れていました。
「父王の涙。記録が燃えて悲しむ父王の純真な涙だった。あの時の涙の真意は?あの涙こそが事件とは無関係という証拠ではないのか?」
イ・ソン(思悼世子)の執務室。
イ・ソン(思悼世子)は書物を読んでいました。
「老論の書物を揃えました。竹波(チュクパ)を調べているのですか?老論の中でたった一人だけ竹波の正体が不明です。邸下。もう一度お伺いします。彼らが署名したあの文書は何ですか?」
チェ・ジェゴンは本を持ってきました。
「約束してくれ。私は必ずや真実を究明する。恐ろしい結果であっても。私と共に、最後まで突き進んでくれるか?」
「・・・・・・。文書を、見せてください。」
チェ・ジェゴンは膝をつきました。
イ・ソン(思悼世子)は猛毅(メンイ)の写しを渡しました。
「そなたはどう考える?父王は猛毅(メンイ)をご存じだろうか。竹波は、父王なのか?違うだろ?」
領議政キム・テクの執務室。
二人の会話を承政院にいた下級官僚が盗み聞きしてキム・テクに報告しました。
「世子が竹波(チュクパ)を調べている?」
「そのようです。」
日中の世子と臣下の会議室。
世子イ・ソン(思悼世子)は何人もの官僚から講義を受けていました。
「夕方の講義の主題は何ですか?」
世子は官僚に尋ねました。
「論語の為政編です。邸下。」
官僚の一人が答えました。
「いや。今日は大学衍義(だいがくえんぎ)を学ぶとしよう。よく帝王学の書と評され世を治めるための理が書いてある。世の中を平和なものにするために重要なのは自分の行いをただし家庭を整えてこそだ。しかしながら家庭を整えず子供を監督できぬ父親が、朝廷に紛れていたら?そのような不届き者に政治を任せられようか。」
世子は官僚たちに言いました。チェ・ジェゴンは世子の話を聞いて興味が沸きました。
世子の執務室。
「子供を監督できぬ不届き者とは誰ですか?キム・テクを倒すおつもりで?」
チェ・ジェゴンは書物をめくっている世子に尋ねました。
「探りを入れただけだ。」
「どうしても殿下のお心をお探りに?引き返す気は、ないのですか?開けてはならぬ扉かも。」
世子はチェ・ジェゴンの問いには答えずに執務室を出て行きました。しばらくしてパク・ムンスが勢いよく扉を開けて入ってきました。
「子供を監督できぬ不届き者だと?」
パク・ムンスはチェ・ジェゴンに言いました。
「左様です。」
「邸下がキム・テクを倒すと?」
「そのようです。」
「平然と答えたな。早く邸下をお止めしろ!」
「お断りします。」
「なぜ!」
パク・ムンスがきつく問うとチェ・ジェゴンは本を机に叩きつけました。
「私とて、この手でキム・テクを殺したいくらいです!民を天と崇めずとも自分の命と同等と思え。この尊い志を貫くため邸下(世子様)のもとでここまで来ました。しかし、下手人は殺され例の文書は行方不明。肝心の黒幕は無傷のまま!腹立たしくてなりません!!邸下ななおさらでしょう。」
チェ・ジェゴンは怒りを表明しました。
「だから邸下を負け戦に送り出すのか!」
「負けるとは限りません。」
「そなたも世子邸下も今は互角に戦えない。」
「既に、矢は放たれました大監。」
「キム・テク以上に手ごわい敵が待っているぞ!」
「わかっています。」
「それなのに、世子邸下を止めないだと?」
「私は大監とは違います。」
少論の首領イ・ジョンソンの家。
「国本(クッポン、世子)が領相(ヨンサン、領議政)を攻撃したのは事実か?」
イ・ジョンソンは聞き返しました。
「世子師(セジャシ)書筵官(ソヨングァン)から聞いた話です。」
シン・チウンは答えました。
「名分は何だ?」
「キム・ム(キム・テクの庶子で殺人鬼)の問題でしょう。庶子とはいえ殺人鬼ゆえあの者のせいで国本(クッポン、世子)は投獄されたのです。」
漢城府判尹(パニュン)チョ・ジェホは答えました。
「本来ならキム・テクは自ら退くべきであろう。」
イ・ジョンソンは言いました。
「国本(クッポン、世子)がどこで何を聞いたのか、甲辰年の出来事を調べています。」
シン・チウンは言いました。
「世子は・・・猛毅(メンイ)をご存じなのでは?」
チョ・ジェホはつぶやきました。
「我らも領相(ヨンサン、領議政)キム・テク排斥の後押しをしましょう。甲辰年以前にも企てられた彼らの悪事を世子様にぶちまけるのです。」
シン・チウンは言いました。
若手官僚たちと中堅官僚の会議室。
「世子様は領相(ヨンサン、領議政)大監を倒すおつもりです。令監(ヨンガム、従二品と正三品への尊称)。我々はどうすれば?」
「悩む必要はなかろう。」
シン・チウンが部屋に入ってきました。
「大司諌(テサグァン)様が何の御用ですか?」
官僚たちは全員立ち上がりました。
「私も協力しよう。世子侍講院(シガンウォン)は東宮殿(世子様)と一心同体。邸下と共に領相(ヨンサン、領議政)キム・テクをを弾劾するのだ。後のことは、我々司諫院(サガノン、サガンウォンを繋げた言い方)に任せろ。」
イ・グム(英祖)の側室ムン氏の部屋。
「領相(ヨンサン、領議政)が私の部屋に何の用ですか?」
英祖の側室昭媛(ソウォン)ムン氏はキム・テクに言いました。
「お生まれになる王子様に忠誠を誓うためです。」
「忠誠ですって?」
「必ずや王子様をお産みください。この国朝鮮の第二十二代国王になられるでしょう。」
「人に聞かれます。世子様を差し置いてこの子を王にだなんて。」
昭媛(ソウォン)ムン氏は喜び大きくなったおなかをさすりました。
「賢い鳥は止まり木を選びますが賢い臣下はよい君主を選んで王に仕えるといいます。臣下の心得とは正しい選択をすることです。私は正しい君主を選び忠誠を誓いたいのです。」
「そうなればうれしいですね。大監を頼りにしてますよ。」
王宮の庭。
「邸下と協力して領相(ヨンサン、領議政)キム・テクを倒してください。」
嬪宮ホン氏は父ホン・ボンハンに頼みました。
「ずるがしこい男ゆえ返り討ちに遭うやもしれぬ。」
ホン・ボンハンは娘と孫と世子の将来の心配をしました。
「だから父上が必要なのです。領相(ヨンサン、領議政)は昭媛(ソウォン)ムン氏を訪ねました。何を意味するかわかるでしょう。世継ぎの座を揺るがすキム・テクが手を回す前にお父さまは急いで同志を募ってください。」
「そなたが頼りだ。司憲府が加勢すれば領相(ヨンサン、領議政)キム・テクを失脚させられる。言官(オングァン)の役目は真実を忌憚なく述べることだ。」
ホン・ボンハンは部下の司憲府の官僚に頼みました。官僚たちは弾劾の文上疏(じょうそ)を執筆しました。
世子は弓の練習をしているとキム・テクが現れました。キム・テクは世子が自分を弾劾しようとしている話は本当か、なぜ自分をとがめるのかと尋ねました。
「もっと楽に政治を行いたいと思いませんか?手を取り合うほうが楽です。」
キム・テクは和合を求めてきました。
「どんなにつらかろうと大監とは手を組みません。」
「私に勝てるとお思いで?」
「それは戦えばわかるだろう。」
兵曹判書の執務室。
ホン・ゲヒのところにホン・ボンハンが現れました。
「司諫院に加えて大司憲も領相(ヨンサン、領議政)の弾劾に加わったとか。」
「聞きました。」
「仕事一徹に見えて早耳だな。そなたは今後の展開をどう見る?」
「司憲府はすぐに黙るでしょう。司諫院(サガノン)の長は少論派のシン・チウンが首長ですが司憲府は老論(ノロン)派が中核を占めています。」
ホン・ゲヒは同様した様子もなく言いました。
「司憲府を動かせるのは領相(ヨンサン、領議政)キム・テクだけではない。若い下級官吏は党派よりも名分を一番に重んじる。今回は名分が明らかだ。」
「大監は弾劾に賛成なさるのですか?」
「大監はどうだ?大監は均役法(キュニョクポ)に賛成していたそうだな。キム・テクが阻めば実現不可能だ。」
ホン・ボンハンはホン・ゲヒに取引を持ちかけました。
「府院君がお力添えくださると?」
「私でなく邸下が味方してくださいます。」
「私は騒動に加勢できません。」
「無論それでも構わぬ。だが領相(ヨンサン、領議政)には従わぬようにしてくれ。本来の兵判のように中立ならそれでいい。」
世子と臣下の会議室。
イ・ソン(思悼世子)はチェ・ジェゴンと二人きりで仕事をしていました。
「批答(ピダム)は出さぬと言え。私は領相(ヨンサン、領議政)キム・テクを罷免しない。」
「邸下。なりません。言官(オングァン)を退けるのは独裁者の所業です。許されません。」
「どんな手を使ってでも領相(ヨンサン、領議政)キム・テクを守る。言官(オングァン)にわからせるつもりだ。」
「燕山君のような暴君以外に言官(オングァン)を退けた王は過去にいません。」
「暴君か。老論も少論も立ち上がるだろうな。言官(オングァン)の名分として十分だろう。」
「なんだと?邸下が換言を退けた?邸下も領相(ヨンサン、領議政)キム・テクの道徳性を疑っておいでです。それなのになぜ?」
シン・チウンは官僚を集めてチェ・ジェゴンに詰め寄りました。チェ・ジェゴンはキム・テクを弾劾する言官(オングァン)を全員罷免するつもりだといいました。
「暴君になりたいなら仕方あるまい。我々は最後まで戦う。」
シン・チウンは言官(オングァン)を連れて引き上げました。
「領相(ヨンサン、領議政)キム・テクを罷免すべきです!換言を退けるのは暴君のすることです。統治を学ぶべき王子様にあるまじき行為。どうか批答(ピダム)ください。」
シン・チウンは官僚たちを引き連れて宮殿の庭で座り込みをしました。
老論の会議室。
右議政キム・サンノは司諫院だけでなく弘文館(ホンムンガン)の役人まで座り込んでいるとミン・べクサンに何とかしろ、それともお前もやつらと一緒に座り込みをするか?と怒りました。
キム・テクは喧嘩をはじめたキム・サンノとミン・べクサンを叱りました。
「そなたは何をしている。手勢すら官吏できんのか!」
「言官(オングァン)にとって自尊心は命です。彼らを止める名分がない。」
「もうやめんか。頭痛がする。」
王の謁見場。
「今回ばかりは私に手を貸してください。私が倒れれば次は殿下の番です。権力争いで刃を向けられたら生きるか死ぬかの戦いです。邸下を国本(クッポン、世子)の座から降ろすのです。」
キム・テクはイ・グム(英祖)に頼みました。
イ・グム(英祖)は耳をほじりながら聞いていました。
シン・チウンら官僚の座り込みは夜も続きました。
「命をかけてお諫め申し上げます!」
シン・チウンは一歩も退きませんでした。
「そこまで言うなら父王に伺って批答(ピダム)を得よう。」
世子はシン・チウンに言いました。
世子はイ・ソン(思悼世子)と謁見しました。パク・ムンスはチェ・ジェゴンに世子が王を試すのか尋ねやめるように言いました。
世子イ・ソン(思悼世子)は領相(ヨンサン、領議政)キム・テクの罷免は自分だけで決められぬと父王に言いました。
「領相(ヨンサン、領議政)キム・テクは甲辰年(カプチンニョン)に・・・父上が王になられた時から最も頼れる臣下では?」
「それだけか?」
「ほかに理由が必要ですか?」
「領議政として臣下の一人にすぎぬ。完璧な臣下ではなく必要な臣下を使う。それが私の政治だ。」
「ならば批答(ピダム)にはどう返事をしていいですか?領議政キム・テクを罷免してもいいですか?」
「領相(ヨンサン、領議政)キム・テク必要か?領議政の座から降ろせ。だが官職は残せ。実権の無い名誉職を与えろ。裏方に回せ。」
「諫官にはどういいますか?」
「キム・テクは老論の党首で政治への影響力は絶大だ。キム・テクを敵に回すことはお前のためにならん。どんなに性悪な奴でも臣下をむやみに切りして手はならん。必要なら死神とも手を結ぶ。それが政治だ。」
チェ・ジェゴンは批答(ピダム)を述べました。
キム・テクは領中枢府事(ヨンジュンチュブサ)に任命されました。
キム・テクは笑いました。
「今回は私の負けです邸下。この敗北は胸に深く刻み決して忘れません。この借りは必ず返します。借りを作るのは大嫌いなので。」
キム・テクは世子に言いました。
「期待しているぞ大監。」
世子は寝所に向かいました。キム・テクは内心では激しく激怒していました。
チェ・ジェゴンはイ・ソン(思悼世子)を労いました。
夜の王宮の庭。
「清き波、満ちる国と言うが世子が竹波を調べている。猛毅(メンイ)を見てなければ調べるとは思えないが、そなたが見せたのか?慎重な大監パク・ムンスが見せるわけがない。どこかに写本が転がっているのだろう。」
イ・グム(英祖)はパク・ムンスに言いました。
「一波が万波を呼ぶのは時間の問題です。」
「今最も深刻なのが何か知ってるか?世子がこの私を試したという事実だ。猛毅(メンイ)を見たとしても原本ではなく写本だ。なのに父王を陥れようとする者が作った怪文書だ。息子ならそう考えるのがふつうだろう。しかし世子はこの私を疑いおった。さらにあろうことかキム・テクの弾劾を口実に私を試したのだ。試されたなら、答えをやらんとな。おいムンス。余は暴君に見えるか?邪魔する者には暴君らしく振る舞う。しかし私を慕う民たちには聖君になってやろう。ふっふっふっふ。」
「今世子は喜雨亭(ヒウジョン)にいる。狙いを外すな。」
キム・テクは部下に命じました。
喜雨亭(ヒウジョン)に矢文が投げ込まれました。
「竹波。図の中にあって図にない者。絵の中にあって描かれていない者。そんな。私は竹波の正体がわかる。」
イ・ソン(思悼世子)は書庫に行き儀軌(ウィグェ)を調べました。
「この国の君主は、私の父だ。」
尚膳キム・ソンイクは言いました。
「本当ですか?」
ソ・ジダムの表情が明るくなりました。
「ふ・・・このような措置ができたのはお前が勇気と知恵を出し余(ふゎぁい)に協力してくれたおかげだ。ゆえに褒美を遣わす。何か望みがあれば言いなさい。」
イ・グム(英祖)はチダムを指さし頷きながら言いました。
「おお。そうか。女官にしてもいいな。ソンや。お前はどう思う。この娘が気に入ったらお前の側室にでも迎えるか?」
イ・グム(英祖)が言うと嬪宮の表情が固まりました。
「いいえ父上。」
「お前の好みではないか?」
「私が未熟なせいで今いる家族でさえ十分ねぎらってやれずに苦しく思ってます。ですから側室には迎えられません。」
「しまった。ふふ。私としたことが嬪宮の気持ちを察してやれなかった。気分を悪くしてしまったな。」
英祖は笑いました。
「いいえお義父様。王室の繁栄が国の繁栄の礎ですから当然のことです。」
嬪宮ホン氏は言いました。
「やはり嬪宮はよく心得ておる。あ?王室の繁栄のために子供が多くなくては困る。息子が数人いれば競わせることもできる。どの息子に国を治める力があるのか力量を比べられるではないか。」
「しかし父上。」
「わかった。わかった。こればかりは邸下の気持ち次第だ。なかったことにする。おい尚膳。娘に褒美を与えてやれ。でないと褒美といえんからな。世子は捜査の真似事などせず政治に専念するがよい。」
ソ・ジダムは世子イ・ソン(思悼世子)にチェ・ジェゴンの家に送られました。ソ・ギュンは世子の健康を願いました。イ・ソンはチダムによい本を書くように言いました。
紅葉した森の中。
ナ・チョルチュはキム・ムの最期のことを思い出していました。
「手加減した理由は何だ?友だからか?」
「友ではなく朝鮮一の剣客だから手を残した。」
ハ・チョルチュは思いを断ち切るために剣をふるいました。
そこに世子イ・ソン(思悼世子)が現れました。
「何のご用ですか?」
「先生・・・パク大監に雇われたと聞いた。」
「思いが通じたのでしょうか。私も邸下にお会いしたく思っていました。煙管に入っていた文書の行方を知りたいですか?」
「教えてくれるのか?」
「私がパク・ムンス大監に渡しました。ですが今はお持ちでないはずです。もし大監がお持ちなら邸下も私もここにはいないでしょう。」
「なぜ私に打ち明けてくれるのだ?」
「誰かが正すべきだからです。民の命が紙切れよりも軽く身分が低い者は虫けら以下だ。そんな汚れきった世の中を誰が正すのです?」
夕方の王宮の庭。
イ・ソン(思悼世子)は弓の練習をしていました。
パク・ムンスはイ・ソン(思悼世子)に辞職上疏。を提出しました。
イ・ソン(思悼世子)はチャン・ホンギに人払いを命じると辞職上疏を破り捨てました。
「これでは償いになりません先生。」
「では何を?」
「文書を私にください。ナ・チョルチュがあなたに渡したはず。私を救うための切り札に?文書をキム・テクに渡して取引したのですか?」
「申訳ありません。」
「なぜですか?なぜなのだなぜ!私は先生にご心配なくと言ったはずだ!私は真実を知りたい、正義のために真相を暴いてほしいと言ったはず。なぜ文書のことを伏せたのですか。その文書は、猛毅(メンイ)だから。君主交代の決起文だからですか?」
「邸下がなぜをれを!誰に聞いたのですか。」
「先生は私にこう言いましたね。真相を知りたいなら私さえ信じてはなりません。私はその教えに従いました。猛毅(メンイ)を手に入れてみせます。先生はこの戦いで私の馬になってもらいます。」
「なりません。」
「なぜだ。先生がこの戦いで傷つくのが怖いからですか?」
「いいえ。私は構いませんが邸下が傷つかれることが怖いのです。邸下に勝ち目はありません。まずは力を養い・・・。」
「先生は何を恐れているのですか。私と同じ理由ですか?君主を替えるための猛毅(メンイ)に父王が関わったのかきいているのです。先生が黙り込むのはいつも嘘をつきたくない時です。」
キム・テクの家。
キム・テクはミン・べクサンに猛毅(メンイ)を見せて「この文書は辛丑年に書いた。君主を替える決意をし王世弟(セジェ)を王にした」と言いました。ミン・べクサンは猛毅(メンイ)を隠さねばならないといいました。キム・テクは「今上の足元に埋めるつもりだ」とミン・べクサンに言いました。
夜の王宮の世子の執務室。
「甲辰年に何があったのだ・・・。」
イ・ソン(思悼世子)はつぶやきました。
「父王様が即位されました。」
チェ尚宮(チミルサングン)は答えました。
「甲辰年に悪い出来事でも?」
「・・・・・・先大王様がお亡くなりになりましたのは女官にとって最も悲しい出来事です。」
「三十年も前の話を聞いてなぜうろたえるのだろうか。」
「邸下。三十年前のことはお気になさらないでください。そのことはお考えになりませぬよう。いいえ。甲辰年の話はもう二度とおっしゃらないでください。」
「ますます怪しい。甲辰年に父王の身に何が?」
「お忘れください。」
「何があったと聞いておる!」
「私めはこれ以上はお答えできません。」
「今の返答で十分だ。あとは自分で調べる。」
世子は部屋を出ました。
承政院(スンジョンウォン)の書庫。
「邸下がこのようなところに何の御用ですか。」
少論で大司諌(テサグァン)のシン・チウンはイ・ソン(思悼世子)に頭を下げました。
「調べものがある。気にするな。仕事を続けよ。・・・甲辰年の承政院日記をくれ。」
世子はチャン・ホンギを伴い現れました。
「甲辰年の承政院日記はございません。十年前の火災で燃えてしまい復元できておりません。」
官僚のひとりが答えました。シン・チウンと老論と思われる下級の官吏は聞き耳を立てました。
「記録が燃えたのか?」
「そのようです。」
王の謁見の間。
イ・グム(英祖)は震えていました。
「甲辰年?なぜ甲辰年の記録を探しておる。イノミ。何か知ったのか?」
「邸下をしっかり監視いたします。」
尚膳キム・ソンイクは答えました。
「ああ。そうしてくれ。」
「十年前(英祖二十年1744年)の火災も猛毅(メンイ)と関係あるのか?甲辰年の記録を消すために何者かが承政院に火を放ったのか?十年前のあの日に。」
世子イ・ソン(思悼世子)は十年前を思い出していました。
「四百年間積み重ねた歴史の記録が燃えてしまった!」
英祖は当時混乱して泣き崩れていました。
「父王の涙。記録が燃えて悲しむ父王の純真な涙だった。あの時の涙の真意は?あの涙こそが事件とは無関係という証拠ではないのか?」
イ・ソン(思悼世子)の執務室。
イ・ソン(思悼世子)は書物を読んでいました。
「老論の書物を揃えました。竹波(チュクパ)を調べているのですか?老論の中でたった一人だけ竹波の正体が不明です。邸下。もう一度お伺いします。彼らが署名したあの文書は何ですか?」
チェ・ジェゴンは本を持ってきました。
「約束してくれ。私は必ずや真実を究明する。恐ろしい結果であっても。私と共に、最後まで突き進んでくれるか?」
「・・・・・・。文書を、見せてください。」
チェ・ジェゴンは膝をつきました。
イ・ソン(思悼世子)は猛毅(メンイ)の写しを渡しました。
「そなたはどう考える?父王は猛毅(メンイ)をご存じだろうか。竹波は、父王なのか?違うだろ?」
領議政キム・テクの執務室。
二人の会話を承政院にいた下級官僚が盗み聞きしてキム・テクに報告しました。
「世子が竹波(チュクパ)を調べている?」
「そのようです。」
世子イ・ソン(思悼世子)は何人もの官僚から講義を受けていました。
「夕方の講義の主題は何ですか?」
世子は官僚に尋ねました。
「論語の為政編です。邸下。」
官僚の一人が答えました。
「いや。今日は大学衍義(だいがくえんぎ)を学ぶとしよう。よく帝王学の書と評され世を治めるための理が書いてある。世の中を平和なものにするために重要なのは自分の行いをただし家庭を整えてこそだ。しかしながら家庭を整えず子供を監督できぬ父親が、朝廷に紛れていたら?そのような不届き者に政治を任せられようか。」
世子は官僚たちに言いました。チェ・ジェゴンは世子の話を聞いて興味が沸きました。
世子の執務室。
「子供を監督できぬ不届き者とは誰ですか?キム・テクを倒すおつもりで?」
チェ・ジェゴンは書物をめくっている世子に尋ねました。
「探りを入れただけだ。」
「どうしても殿下のお心をお探りに?引き返す気は、ないのですか?開けてはならぬ扉かも。」
世子はチェ・ジェゴンの問いには答えずに執務室を出て行きました。しばらくしてパク・ムンスが勢いよく扉を開けて入ってきました。
「子供を監督できぬ不届き者だと?」
パク・ムンスはチェ・ジェゴンに言いました。
「左様です。」
「邸下がキム・テクを倒すと?」
「そのようです。」
「平然と答えたな。早く邸下をお止めしろ!」
「お断りします。」
「なぜ!」
パク・ムンスがきつく問うとチェ・ジェゴンは本を机に叩きつけました。
「私とて、この手でキム・テクを殺したいくらいです!民を天と崇めずとも自分の命と同等と思え。この尊い志を貫くため邸下(世子様)のもとでここまで来ました。しかし、下手人は殺され例の文書は行方不明。肝心の黒幕は無傷のまま!腹立たしくてなりません!!邸下ななおさらでしょう。」
チェ・ジェゴンは怒りを表明しました。
「だから邸下を負け戦に送り出すのか!」
「負けるとは限りません。」
「そなたも世子邸下も今は互角に戦えない。」
「既に、矢は放たれました大監。」
「キム・テク以上に手ごわい敵が待っているぞ!」
「わかっています。」
「それなのに、世子邸下を止めないだと?」
「私は大監とは違います。」
少論の首領イ・ジョンソンの家。
「国本(クッポン、世子)が領相(ヨンサン、領議政)を攻撃したのは事実か?」
イ・ジョンソンは聞き返しました。
「世子師(セジャシ)書筵官(ソヨングァン)から聞いた話です。」
シン・チウンは答えました。
「名分は何だ?」
「キム・ム(キム・テクの庶子で殺人鬼)の問題でしょう。庶子とはいえ殺人鬼ゆえあの者のせいで国本(クッポン、世子)は投獄されたのです。」
漢城府判尹(パニュン)チョ・ジェホは答えました。
「本来ならキム・テクは自ら退くべきであろう。」
イ・ジョンソンは言いました。
「国本(クッポン、世子)がどこで何を聞いたのか、甲辰年の出来事を調べています。」
シン・チウンは言いました。
「世子は・・・猛毅(メンイ)をご存じなのでは?」
チョ・ジェホはつぶやきました。
「我らも領相(ヨンサン、領議政)キム・テク排斥の後押しをしましょう。甲辰年以前にも企てられた彼らの悪事を世子様にぶちまけるのです。」
シン・チウンは言いました。
若手官僚たちと中堅官僚の会議室。
「世子様は領相(ヨンサン、領議政)大監を倒すおつもりです。令監(ヨンガム、従二品と正三品への尊称)。我々はどうすれば?」
「悩む必要はなかろう。」
シン・チウンが部屋に入ってきました。
「大司諌(テサグァン)様が何の御用ですか?」
官僚たちは全員立ち上がりました。
「私も協力しよう。世子侍講院(シガンウォン)は東宮殿(世子様)と一心同体。邸下と共に領相(ヨンサン、領議政)キム・テクをを弾劾するのだ。後のことは、我々司諫院(サガノン、サガンウォンを繋げた言い方)に任せろ。」
イ・グム(英祖)の側室ムン氏の部屋。
「領相(ヨンサン、領議政)が私の部屋に何の用ですか?」
英祖の側室昭媛(ソウォン)ムン氏はキム・テクに言いました。
「お生まれになる王子様に忠誠を誓うためです。」
「忠誠ですって?」
「必ずや王子様をお産みください。この国朝鮮の第二十二代国王になられるでしょう。」
「人に聞かれます。世子様を差し置いてこの子を王にだなんて。」
昭媛(ソウォン)ムン氏は喜び大きくなったおなかをさすりました。
「賢い鳥は止まり木を選びますが賢い臣下はよい君主を選んで王に仕えるといいます。臣下の心得とは正しい選択をすることです。私は正しい君主を選び忠誠を誓いたいのです。」
「そうなればうれしいですね。大監を頼りにしてますよ。」
王宮の庭。
「邸下と協力して領相(ヨンサン、領議政)キム・テクを倒してください。」
嬪宮ホン氏は父ホン・ボンハンに頼みました。
「ずるがしこい男ゆえ返り討ちに遭うやもしれぬ。」
ホン・ボンハンは娘と孫と世子の将来の心配をしました。
「だから父上が必要なのです。領相(ヨンサン、領議政)は昭媛(ソウォン)ムン氏を訪ねました。何を意味するかわかるでしょう。世継ぎの座を揺るがすキム・テクが手を回す前にお父さまは急いで同志を募ってください。」
「そなたが頼りだ。司憲府が加勢すれば領相(ヨンサン、領議政)キム・テクを失脚させられる。言官(オングァン)の役目は真実を忌憚なく述べることだ。」
ホン・ボンハンは部下の司憲府の官僚に頼みました。官僚たちは弾劾の文上疏(じょうそ)を執筆しました。
世子は弓の練習をしているとキム・テクが現れました。キム・テクは世子が自分を弾劾しようとしている話は本当か、なぜ自分をとがめるのかと尋ねました。
「もっと楽に政治を行いたいと思いませんか?手を取り合うほうが楽です。」
キム・テクは和合を求めてきました。
「どんなにつらかろうと大監とは手を組みません。」
「私に勝てるとお思いで?」
「それは戦えばわかるだろう。」
兵曹判書の執務室。
ホン・ゲヒのところにホン・ボンハンが現れました。
「司諫院に加えて大司憲も領相(ヨンサン、領議政)の弾劾に加わったとか。」
「聞きました。」
「仕事一徹に見えて早耳だな。そなたは今後の展開をどう見る?」
「司憲府はすぐに黙るでしょう。司諫院(サガノン)の長は少論派のシン・チウンが首長ですが司憲府は老論(ノロン)派が中核を占めています。」
ホン・ゲヒは同様した様子もなく言いました。
「司憲府を動かせるのは領相(ヨンサン、領議政)キム・テクだけではない。若い下級官吏は党派よりも名分を一番に重んじる。今回は名分が明らかだ。」
「大監は弾劾に賛成なさるのですか?」
「大監はどうだ?大監は均役法(キュニョクポ)に賛成していたそうだな。キム・テクが阻めば実現不可能だ。」
ホン・ボンハンはホン・ゲヒに取引を持ちかけました。
「府院君がお力添えくださると?」
「私でなく邸下が味方してくださいます。」
「私は騒動に加勢できません。」
「無論それでも構わぬ。だが領相(ヨンサン、領議政)には従わぬようにしてくれ。本来の兵判のように中立ならそれでいい。」
世子と臣下の会議室。
イ・ソン(思悼世子)はチェ・ジェゴンと二人きりで仕事をしていました。
「批答(ピダム)は出さぬと言え。私は領相(ヨンサン、領議政)キム・テクを罷免しない。」
「邸下。なりません。言官(オングァン)を退けるのは独裁者の所業です。許されません。」
「どんな手を使ってでも領相(ヨンサン、領議政)キム・テクを守る。言官(オングァン)にわからせるつもりだ。」
「燕山君のような暴君以外に言官(オングァン)を退けた王は過去にいません。」
「暴君か。老論も少論も立ち上がるだろうな。言官(オングァン)の名分として十分だろう。」
「なんだと?邸下が換言を退けた?邸下も領相(ヨンサン、領議政)キム・テクの道徳性を疑っておいでです。それなのになぜ?」
シン・チウンは官僚を集めてチェ・ジェゴンに詰め寄りました。チェ・ジェゴンはキム・テクを弾劾する言官(オングァン)を全員罷免するつもりだといいました。
「暴君になりたいなら仕方あるまい。我々は最後まで戦う。」
シン・チウンは言官(オングァン)を連れて引き上げました。
「領相(ヨンサン、領議政)キム・テクを罷免すべきです!換言を退けるのは暴君のすることです。統治を学ぶべき王子様にあるまじき行為。どうか批答(ピダム)ください。」
シン・チウンは官僚たちを引き連れて宮殿の庭で座り込みをしました。
老論の会議室。
右議政キム・サンノは司諫院だけでなく弘文館(ホンムンガン)の役人まで座り込んでいるとミン・べクサンに何とかしろ、それともお前もやつらと一緒に座り込みをするか?と怒りました。
キム・テクは喧嘩をはじめたキム・サンノとミン・べクサンを叱りました。
「そなたは何をしている。手勢すら官吏できんのか!」
「言官(オングァン)にとって自尊心は命です。彼らを止める名分がない。」
「もうやめんか。頭痛がする。」
王の謁見場。
「今回ばかりは私に手を貸してください。私が倒れれば次は殿下の番です。権力争いで刃を向けられたら生きるか死ぬかの戦いです。邸下を国本(クッポン、世子)の座から降ろすのです。」
キム・テクはイ・グム(英祖)に頼みました。
イ・グム(英祖)は耳をほじりながら聞いていました。
シン・チウンら官僚の座り込みは夜も続きました。
「命をかけてお諫め申し上げます!」
シン・チウンは一歩も退きませんでした。
「そこまで言うなら父王に伺って批答(ピダム)を得よう。」
世子はシン・チウンに言いました。
世子はイ・ソン(思悼世子)と謁見しました。パク・ムンスはチェ・ジェゴンに世子が王を試すのか尋ねやめるように言いました。
世子イ・ソン(思悼世子)は領相(ヨンサン、領議政)キム・テクの罷免は自分だけで決められぬと父王に言いました。
「領相(ヨンサン、領議政)キム・テクは甲辰年(カプチンニョン)に・・・父上が王になられた時から最も頼れる臣下では?」
「それだけか?」
「ほかに理由が必要ですか?」
「領議政として臣下の一人にすぎぬ。完璧な臣下ではなく必要な臣下を使う。それが私の政治だ。」
「ならば批答(ピダム)にはどう返事をしていいですか?領議政キム・テクを罷免してもいいですか?」
「領相(ヨンサン、領議政)キム・テク必要か?領議政の座から降ろせ。だが官職は残せ。実権の無い名誉職を与えろ。裏方に回せ。」
「諫官にはどういいますか?」
「キム・テクは老論の党首で政治への影響力は絶大だ。キム・テクを敵に回すことはお前のためにならん。どんなに性悪な奴でも臣下をむやみに切りして手はならん。必要なら死神とも手を結ぶ。それが政治だ。」
チェ・ジェゴンは批答(ピダム)を述べました。
キム・テクは領中枢府事(ヨンジュンチュブサ)に任命されました。
キム・テクは笑いました。
「今回は私の負けです邸下。この敗北は胸に深く刻み決して忘れません。この借りは必ず返します。借りを作るのは大嫌いなので。」
キム・テクは世子に言いました。
「期待しているぞ大監。」
世子は寝所に向かいました。キム・テクは内心では激しく激怒していました。
チェ・ジェゴンはイ・ソン(思悼世子)を労いました。
夜の王宮の庭。
「清き波、満ちる国と言うが世子が竹波を調べている。猛毅(メンイ)を見てなければ調べるとは思えないが、そなたが見せたのか?慎重な大監パク・ムンスが見せるわけがない。どこかに写本が転がっているのだろう。」
イ・グム(英祖)はパク・ムンスに言いました。
「一波が万波を呼ぶのは時間の問題です。」
「今最も深刻なのが何か知ってるか?世子がこの私を試したという事実だ。猛毅(メンイ)を見たとしても原本ではなく写本だ。なのに父王を陥れようとする者が作った怪文書だ。息子ならそう考えるのがふつうだろう。しかし世子はこの私を疑いおった。さらにあろうことかキム・テクの弾劾を口実に私を試したのだ。試されたなら、答えをやらんとな。おいムンス。余は暴君に見えるか?邪魔する者には暴君らしく振る舞う。しかし私を慕う民たちには聖君になってやろう。ふっふっふっふ。」
「今世子は喜雨亭(ヒウジョン)にいる。狙いを外すな。」
キム・テクは部下に命じました。
喜雨亭(ヒウジョン)に矢文が投げ込まれました。
「竹波。図の中にあって図にない者。絵の中にあって描かれていない者。そんな。私は竹波の正体がわかる。」
イ・ソン(思悼世子)は書庫に行き儀軌(ウィグェ)を調べました。
「この国の君主は、私の父だ。」
感想
うーん。犯人がわかってるのに犯人にまでたどり着けないもどかしさは物語のつまらなさと裏腹できわどいですね。ソ・ジダムが若い女性である意味もあまり感じないし(お色気担当ってとこかしら)、作家ならオバサンにしたほうが説得力があるのになwそしてチェ・ジェゴン、あのイケメンマンは今回から死と隣り合わせの秘密を知ってしまうことになりました。世子と命運をともにして死ぬつもりなのかチェ・ジェゴン?それとも後で世子を裏切るのでしょうか?ホン・ボンハンと嬪宮(ピングン)ホン氏は世子の味方につきましたね。朝鮮王国では政治は命がけ!どうして政治に命をかけなければならいのでしょうかね。今の価値観では朝鮮の官僚たちは悪いことをするために命をかけてるようにしか見えません。昔の人はこのようにしたらみんながもっと豊かに生きられるという発想すらなかったのでしょうね。今だってネパールなんかは腐敗がひどくて官僚が国民のために働いてなくて民主化しても腐敗が酷い状況らしいです。大地震からほとんどまったく復興していないネパール、世界から集まった募金はどこにいったのでしょうね。被災者地震に小さくても家を建てられるお金を渡したほうが復興も早いと思うんだけど、どうして大災害の時ってお金が被災者の幸福に関係のないところに集まってしまうのでしょうね。察するに、そういうことなんだとおもいますね、万人のために行動することで権力者も豊かになれるということがわからない人たちのいる時代、朝鮮もそういう時代だったのでしょうね。どんな政治体制でも腐敗が国を亡ぼすことは歴史的事実ですね。
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