秘密の扉12話
目次
あらすじ 親政再会と均役法(キニョクポ)
世子は王の宮殿に向かって兵士をともない歩いていました。
「悲壮な表情をしておる。父に刃を向ける勢いだな。」
領中枢府事(ヨンジュンチュブサ)という有名無実の官職を与えられたキム・テクは世子の様子を注視していました。
「世子に竹波(チュクパ)の正体を教えてよかったのですか?」
副提学(プジェハク)ミン・べクサンはキム・テクに言いました。
「借りを返した。今上には忠告となる。一蓮托生を思い知るだろう。」
英祖は庭に出ようとしていました。
「おお。来たか。ソンや。外出の支度をしなさい。お前と一緒に行きたいところがある。」
英祖の母、淑嬪チェ・ドンイの墓。
「母上。来ました。クムです。今日は、息子を連れて来ましたぞ。私の息子です。母上にひと目見せたいとずっと思っていました。」
英祖は高麗芝で覆われた母の墓を撫でました。
「母上の手は荒れていた。父王の寵愛を受ける前は下女だった。王宮で水くみや雑用を引き受ける女。それが下女だ。私はそんな母上を恥じていた。下女という出自も嫌だったし下女のままでもよいがわざわざ私を生んで母子ともどもさげすまれる道を選んだ。すべてが嫌だった。ある日だった。母上の荒れた手で初めて叩かれた。叩かれた私より、母上のほうが悲しそうに泣いておられた。でも私は心を改めず、母上を悲しませることばかりしていた。祝言を挙げ王宮を出るとなった時、私の心は晴れ晴れとして実にすがすがしい気持ちだった。王宮になど二度と戻るものか。唾を吐いて王宮を出た。それなのにな、嫌だったその王宮へ戻るしかなくなった。次期国王に指名されてな。世弟(セジェ)。王の弟が国の未来を託されたのだ。私の母は兄上の母を死に追いやったというのにな。その世弟(セジェ)の座がどれほど地獄のような座かお前にはわかるまい。下女の息子が王になるとは笑える話だ。常に少論に見下されていた。そのうえ私を王にしたのは兄上と対立する老論だからな。ねたまれた。ついには刺客まで送り込まれた。王の座がほしくて王宮に転がり込んだ恥知らず。死ぬがいい。私はな。生き残るために、王になるしかなかったのだ。私は・・・いい王になりたかった。私は民に一日三度腹いっぱい食べさせたかった。均役法(キュニョクポ)だけは民に公布したかった。だがいまだに党争は続き私は両者の仲裁に追われる日々だ。いたずらに時を過ごすうちに年老いてしまった。私に残された時はあといくらくらいだろう。均役法(キュニョクポ)の完成は、見られるだろうか。」
「何を悲観されておられるのです。父上はやり遂げられます。いいえ。均役法(キュニョクポ)の完成後も立派な業績を数多く残されるでしょう。」
「そう言ってくれるか?この父は励まされたようだ。ソンや。均役法(キュニョクポ)が完成して公布されるまで、私自身の手で政治を動かしたいのだ。お前は私のそばに立ち父を支えてくれぬか。」
「・・・・・・。父上のご命令に異論などございません。仰せの通りにいたします。私は父上のおそばで誠心誠意お手伝いします。」
「礼を言うぞ。」
イ・グム(英祖)はイ・ソン(思悼世子)を抱きしめました。
王の謁見場。
「尚膳。重臣に知らせよ。明日から親政をする。会議から質疑応答までここ宣政殿(ソンンジョンジョン)で行う。」
少論の会議室。
「均役法(キュニョクポ)のためとはいえ急に代理聴政(テリチョンジョン、王のかわりに政務を執ること)をやめるのは異例だ。」
イ・ジョンソンは仲間に言いました。
「今上が権力を取り戻す理由は明らかです。脅威をお感じなのです。」
大司諌(テサグァン)のチン・チウンは言いました。
「まさか世子が王位継承に問題があるのに気付いたからでは?」
漢城府判尹(パニュン)チョ・ジェホは言いました。
右参賛(ウチャムチャン)パク・ムンスは黙って聞いていました。
嬪宮は世子に王世子にふさわしくない言動を慎まないと世子を排除しようという動きがでるかもと「サンの母として」お願いしていました。
「邸下の座が揺らげばサン(イ・サン)の立場も危うくなるのです。」
チェ・ジェゴンは全権を失ったのに竹波(チュクパ)の正体を知っていることに気付かれたらどうすると世子を心配しました。世子イ・ソン(思悼世子)は父が祖母の墓で語ってくれたことに偽りはなかったと言いました。
「父上が生涯をかけ願った夢。それは自ら均役法(キュニョクポ)を制定し発布することだ。もし私が世子でなく父上と同じ世弟(セジェ)の立場なら署名を拒めただろうか。しばし判断を保留したい。父上の手で均役法(キュニョクポ)を完成させるまで時間を差し上げたいのだ。」
王の私室。
「人事で相談がある。お前が領相(ヨンサン、領議政)を罷免したから後任を選ぶのに相談がある。キム・サンノ(右議政)、イ・ジョンソン(左議政)、ホン・ボンハン、チョ・ジェホ(漢城府判尹)。私はこの四人の中から選びたい。」
英祖はイ・ソン(思悼世子)に言いました。
「均役法(キュニョクポ)を考慮すると右議政キム・サンノが最適かと。経済分野に秀でております。」
「あいつは器が小さすぎる。私はイ・ジョンソンが適任かと思う。どうした。頼りないか?」
「いいえ父上。」
「ではイ・ジョンソンで決定だ。今回は少論から選ぶのがよいだろう。」
「もちろんです父上。」
「次は左議政の選任を考えようか。お前も経歴書を読め。なぜ私の顔ばかり見る。おかしな奴だ。」
英祖は笑いました。世子イ・ソン(思悼世子)は父が誇らしいように思えて微笑みました。
王の便殿。
「左議政イ・ジョンソンを領議政に。右議政キム・サンノンを左議政。漢城府判尹(パニュン)チョ・ジェホを右議政にする。余の決定を受け入れてくれ。」
イ・グム(英祖)は王命を述べました。
「すぐにまんがかうないにだ。」
「右参賛(ウチャムチャン)パク・ムンスを戸曹判書にする。兵曹判書ホン・ゲヒとともに均役法(キニョクポ)の邁進に協力せよ。」
「すぐにまんがかうにだ。(仰せの通りにいたします。)」
王の謁見場。
英祖は戸曹判書(ホジョパンソ)のパク・ムンスに均役法(キュニョクポ)の税をどうするか尋ねました。パク・ムンスは一律絹一疋のまま通すのですと王に助言しました。ホン・ゲヒは民が両班と同じ負担で反発していると言いました。
「では民を集めよ。私から直接民に呼びかける。」
「父上・・・。」
イ・グム(英祖)は父の決定に驚きました。
王宮の庭に民が呼ばれました。
「大儀であった。聞きたいことがあれば国本(クッポン、世子)に聞いてみよ。」
イ・グム(英祖)は民に言いました。民は納税で軍役を免れるので喜びました。イ・グム(英祖)は民の肩を叩いて慰めました。
世子の執務室。
「承政院の記録以外に資料がないか調べよ。犯罪を立証するには猛毅(メンイ)の原本。本人の手で書かれた原本が必要だ。キム・テク、ミン・べクサン、キム・サンノ、彼らが持っている可能性もある。キム・テクが持っている可能性が高い。ミン・ウソプは?想えばミン・ウソプの境遇は私と似ているな。」
イ・ソン(思悼世子)は猛毅(メンイ)の原本を捜すようチェ・ジェゴンに命じました。チェ・ジェゴンはミン・ウソプは捜査に協力するかもしれないと言いました。
夜のキム・テクの家。
「息子を出仕させ様子を探るのだ。」
キム・テクはミン・べクサンに命じました。
キム・テクは元左捕盗庁の従事官ミン・ウソプを呼び酒を飲ませました。
「割った竹か。世の人はお前をそう呼ぶらしいな。」
「知りません。」
「まっすぐなだけではつまらんぞ。たまには曲げろ。」
「参考にします。」
「世の原則や義理なんぞより要領が世渡りに重要だ。この国誰のものだと思う?」
「民のものだと思います。」
「なら民を守るのは誰だ。われら両班、士大夫だ。諸外国からの侵略戦争を思い返してみろ。お前は武官だから知ってるだろ。この国の王はどうした?」
「退避。」
「そうだ。王はいち早く逃げた。両班が民の面倒を見て王権を抑制せねばこの国は立ち行かなくなる。夜が明けたらそなたはすぐに翊守司(イギサ、世子の護衛を担当する官庁)へ行け。両班家士大夫の代表として世子様を監視しろ。」
キム・テクはミン・ウソプに父は次の老論の党首だと言い家に帰しました。
キム・テクは職人を呼び猛毅(メンイ)を儀軌(ウィグェ)の背表紙の中に隠しました。
日中の世子の執務室。
チェ・ジェゴンはミン・ウソプを連れて来ました。
世子はウソプの手を取り喜びました。
「頼んだぞ。」
「尽力いたします。」
王宮の門。
「法案はお考え直しください。野蛮人の国と化すでしょう。暴君となるでしょう。我らの直訴を退けるのは暴君でる証です!」
地方などから来た両班家士大夫が王宮の門前で座り込みをしていました。
「こやつらが死ぬか余が先に死ぬかとことん勝負してやろう!こやつらめ!」
英祖は怒りで倒れました。
「今日の事は忘れぬぞ!平民と平等などとあり得ぬと言ったな。その私欲に満ちた主張は覚えておいてやろう。」
イ・ソン(思悼世子)は士大夫をにらみました。士大夫らは意味がわからずぽかんとしていました。
世子は父に部屋で休むよう説得しました。
「父王は、私が背負う。」
イ・ソンは英祖を背負って宮殿の中に帰りました。
老論の集会場。
「ご苦労だった。これで今上も折れるだろう。」
キム・テクは王を圧迫した配下の者たちを労いました。
王の寝所。
「あの内容では厳しそうだ。そうだろう?両班どもを全員敵に回したらそれこそ国がまわらなくなってしまう・・・。ホン・ゲヒとパク・ムンスはどこにいる?呼んでくれ。寝ている場合ではない。尚膳。早く読んでくれ。」
心配するイ・ソン(思悼世子)をよそにイ・グム(英祖)は会議を開きました。
王と官僚の会議。
「平民に貸した軍布2疋は重過ぎる。半分に減らす。王室の所有地にも税金を課すことにする。それで不足分を補え。ほかにも財源を確保して報告するように。」
「仰せの通りにいたします。」
貸本屋の地下室。
シン・チウンはソ・ギュンを訪ねていました。
「久しぶりだな。戊辰年(1728年)に別れて以来だ。」
「あれから二十六年になります。」
「生き延びるのはつらいか?」
「ふ・・・令監(よんがむ)はどうです?」
「お前と私が同志を見捨てて逃げていなければどうなっていたか。」
「過ぎたことです。忘れましょう。」
「誰も逃げずに最後まで戦ったなら、あの時、世の中を正せたのではと最近よく考えるのだ。」
「私は忘れました。楽しく暮らしています。」
「私も同じだった。忘れよう。いくら努力しても世の中はよくならんとな。だが私たちがすべて忘れたせいで世の中が悪くなっていたとしたら?」
シン・チウンは一冊の本を机に投げました。
「チョン・スギョム回顧録。画員チョン・スギョムの回顧録では?」
「その通りだ。」
「事実ですか?景宗大王様の殺害を企んだ文書。猛毅(メンイ)が実在し喜雨亭(ヒウジョン)に隠された?」
「その猛毅(メンイ)のせいで何人もの犠牲者が出たのだ。お前の娘が真相を明かした殺人事件。それも猛毅(メンイ)がらみだろう。」
「もう帰ってください。」
「この問題を放っておけない。少なくとも民にはこの事実を知らせるべきだ。君主がどんな人物なのか民に知らせる必要がある。」
「知ってどうなるというのです。戊申年の挙兵は失敗に終わったのに今更誰も立ち上がりません。酒の席での話のネタになるのがせいぜいでしょう。」
「それは真心ではないな?」
「お帰りください。」
「この本は置いていくぞ。我々が何もしなければ次の世代が苦しむ。権力のためなら君主すら殺す。そんな者どもがはびこる世の中で娘に生きてほしいのか?」
貸本屋の地上階。
「シン・フンボク殺人事件が何と絡んでいるって?」
ソ・ジダムは剣契(コムゲ)トンバの頭目ナ・チョルチュに言うと地下に聞き耳を立てました。
王の私室。
イ・ソン(思悼世子)は父の介抱をしていました。
イ・グム(英祖)は均役法(キニョクポ)を頑張っているのにみじめだろうと息子に言いました。
「均。大事にします。父上は民は均しいと教えてくださいました。均。もし私がこの国朝鮮の君主になれば均(キュン)、この一字を統治の理念にします。よりよい朝鮮の国造りに尽力します。」
「礼を言うぞ。ソンは王にふさわしい者になった。そうか。」
英祖はイ・ソン(思悼世子)を抱きしめました。イ・ソン(思悼世子)は悲しそうな目で部屋を出ました。
「尚膳。もしソンの奴が私が猛毅(メンイ)に署名したと知ったら私が竹波(チュクパ)と知ったらどう思うだろうか。私の言葉はすべて偽りと思い前言を撤回して私を罵るだろうか。そんな日が来ないか心配だ。ソンの奴に私が竹波(チュクパ)と知られる日が永遠に来ないといいが・・・。」
貸本屋の地下室。
ソ・ギュンは紙にチョン・スギョム回顧録を書き写し出版しました。
シン・チウンはチョ・ジェホにチョン・スギョム回顧録の写本を見せました。
「配流中のユン・ジら地方の少論から連絡が来ています。近々挙兵するようです。もう引き下がれません。王位継承の不正義を明かし首謀者を処罰するまでこの戦いややめられないのです。」
ソ・ジダムが都城の町を歩いていると、チョン・スギョム回顧録が市中に出回っていました。
王宮の少論派の会議室。
「どうなっている!説明しろ!」
パク・ムンスはチョン・スギョム回顧録の写本を机に叩きつけました。
剣契東方(コムゲトンバン)の砦。
「内容は本当かしら。」
少女ソ・ジダムはチョン・スギョム回顧録の写本を机に置いて悩みました。
「お前には見せまいと親父さんは気遣っていたがばれてしまったか。読んだことは親父さんに内緒だぞ。」
ナ・チョルチュはチダムに言いました。
「これが事実なら邸下はおつらいでしょう。不安でたまらないと思う。」
キム・テクの家。
キム・テクは剣契西方(コムゲソバン)の頭目からソ・ギュンがチョン・スギョム回顧録を出版したと報告を受けました。
「これで世子廃位の名目ができたわけか。」
世子の執務室。
「妻が呼んでました。巷では大騒ぎです。」
チェ・ジェゴンは世子にチョン・スギョム回顧録の写本を見せました。
宮中では女官や内官たちがチョン・スギョム回顧録の写本を隠し持っていたことで捕らえられていました。
王の謁見場。
「捕らえた者は全員殺せ。今すぐに都城中を調べよ。この本を出版し一字でも読んだ者は全員殺すのだ。」
英祖は尚膳に命じました。
「なりません。本を読んだ者を殺してはなりません!」
世子が部屋に現れました。
「王室を侮辱したのだぞ!」
「この内容が偽りで、侮辱が目的で書かれた物だとしても本を読んだというだけで殺すのは間違いです。父上。命令をお取り下げください。」
「尚膳。女官を斬ってしまえ!」
「だめだ!女官を斬るなら最初に血を流すのはそなただ!」
イ・ソン(思悼世子)は尚膳に言いました。
「ソンの話は無視してすぐに女官を殺せ!」
「なぜです!この本を恐れる理由は何ですか?この本の内容が事実だからですか?お答えください。」
「じ・・・事実と言ったな!何を根拠にそんなことを!」
「竹波(チュクパ)・・・三十年前、先王様を殺してでも権力欲した大一統会猛毅(テイルトンフェメンイ)。父上の号、竹波(チュクパ)が・・・父上がご署名されたのですか?」
イ・ソン(思悼世子)が言うと尚膳は震えました。
「お前という奴は・・・!許さんぞ!」
イ・グム(英祖)は息子を指さし震えながら立ち上がりました。
英祖は笑いました。世子イ・ソン(思悼世子)は父が誇らしいように思えて微笑みました。
王の便殿。
「左議政イ・ジョンソンを領議政に。右議政キム・サンノンを左議政。漢城府判尹(パニュン)チョ・ジェホを右議政にする。余の決定を受け入れてくれ。」
イ・グム(英祖)は王命を述べました。
「すぐにまんがかうないにだ。」
「右参賛(ウチャムチャン)パク・ムンスを戸曹判書にする。兵曹判書ホン・ゲヒとともに均役法(キニョクポ)の邁進に協力せよ。」
「すぐにまんがかうにだ。(仰せの通りにいたします。)」
王の謁見場。
英祖は戸曹判書(ホジョパンソ)のパク・ムンスに均役法(キュニョクポ)の税をどうするか尋ねました。パク・ムンスは一律絹一疋のまま通すのですと王に助言しました。ホン・ゲヒは民が両班と同じ負担で反発していると言いました。
「では民を集めよ。私から直接民に呼びかける。」
「父上・・・。」
イ・グム(英祖)は父の決定に驚きました。
王宮の庭に民が呼ばれました。
「大儀であった。聞きたいことがあれば国本(クッポン、世子)に聞いてみよ。」
イ・グム(英祖)は民に言いました。民は納税で軍役を免れるので喜びました。イ・グム(英祖)は民の肩を叩いて慰めました。
世子の執務室。
「承政院の記録以外に資料がないか調べよ。犯罪を立証するには猛毅(メンイ)の原本。本人の手で書かれた原本が必要だ。キム・テク、ミン・べクサン、キム・サンノ、彼らが持っている可能性もある。キム・テクが持っている可能性が高い。ミン・ウソプは?想えばミン・ウソプの境遇は私と似ているな。」
イ・ソン(思悼世子)は猛毅(メンイ)の原本を捜すようチェ・ジェゴンに命じました。チェ・ジェゴンはミン・ウソプは捜査に協力するかもしれないと言いました。
夜のキム・テクの家。
「息子を出仕させ様子を探るのだ。」
キム・テクはミン・べクサンに命じました。
キム・テクは元左捕盗庁の従事官ミン・ウソプを呼び酒を飲ませました。
「割った竹か。世の人はお前をそう呼ぶらしいな。」
「知りません。」
「まっすぐなだけではつまらんぞ。たまには曲げろ。」
「参考にします。」
「世の原則や義理なんぞより要領が世渡りに重要だ。この国誰のものだと思う?」
「民のものだと思います。」
「なら民を守るのは誰だ。われら両班、士大夫だ。諸外国からの侵略戦争を思い返してみろ。お前は武官だから知ってるだろ。この国の王はどうした?」
「退避。」
「そうだ。王はいち早く逃げた。両班が民の面倒を見て王権を抑制せねばこの国は立ち行かなくなる。夜が明けたらそなたはすぐに翊守司(イギサ、世子の護衛を担当する官庁)へ行け。両班家士大夫の代表として世子様を監視しろ。」
キム・テクはミン・ウソプに父は次の老論の党首だと言い家に帰しました。
キム・テクは職人を呼び猛毅(メンイ)を儀軌(ウィグェ)の背表紙の中に隠しました。
日中の世子の執務室。
チェ・ジェゴンはミン・ウソプを連れて来ました。
世子はウソプの手を取り喜びました。
「頼んだぞ。」
「尽力いたします。」
王宮の門。
「法案はお考え直しください。野蛮人の国と化すでしょう。暴君となるでしょう。我らの直訴を退けるのは暴君でる証です!」
地方などから来た両班家士大夫が王宮の門前で座り込みをしていました。
「こやつらが死ぬか余が先に死ぬかとことん勝負してやろう!こやつらめ!」
英祖は怒りで倒れました。
「今日の事は忘れぬぞ!平民と平等などとあり得ぬと言ったな。その私欲に満ちた主張は覚えておいてやろう。」
イ・ソン(思悼世子)は士大夫をにらみました。士大夫らは意味がわからずぽかんとしていました。
世子は父に部屋で休むよう説得しました。
「父王は、私が背負う。」
イ・ソンは英祖を背負って宮殿の中に帰りました。
老論の集会場。
「ご苦労だった。これで今上も折れるだろう。」
キム・テクは王を圧迫した配下の者たちを労いました。
王の寝所。
「あの内容では厳しそうだ。そうだろう?両班どもを全員敵に回したらそれこそ国がまわらなくなってしまう・・・。ホン・ゲヒとパク・ムンスはどこにいる?呼んでくれ。寝ている場合ではない。尚膳。早く読んでくれ。」
心配するイ・ソン(思悼世子)をよそにイ・グム(英祖)は会議を開きました。
王と官僚の会議。
「平民に貸した軍布2疋は重過ぎる。半分に減らす。王室の所有地にも税金を課すことにする。それで不足分を補え。ほかにも財源を確保して報告するように。」
「仰せの通りにいたします。」
貸本屋の地下室。
シン・チウンはソ・ギュンを訪ねていました。
「久しぶりだな。戊辰年(1728年)に別れて以来だ。」
「あれから二十六年になります。」
「生き延びるのはつらいか?」
「ふ・・・令監(よんがむ)はどうです?」
「お前と私が同志を見捨てて逃げていなければどうなっていたか。」
「過ぎたことです。忘れましょう。」
「誰も逃げずに最後まで戦ったなら、あの時、世の中を正せたのではと最近よく考えるのだ。」
「私は忘れました。楽しく暮らしています。」
「私も同じだった。忘れよう。いくら努力しても世の中はよくならんとな。だが私たちがすべて忘れたせいで世の中が悪くなっていたとしたら?」
シン・チウンは一冊の本を机に投げました。
「チョン・スギョム回顧録。画員チョン・スギョムの回顧録では?」
「その通りだ。」
「事実ですか?景宗大王様の殺害を企んだ文書。猛毅(メンイ)が実在し喜雨亭(ヒウジョン)に隠された?」
「その猛毅(メンイ)のせいで何人もの犠牲者が出たのだ。お前の娘が真相を明かした殺人事件。それも猛毅(メンイ)がらみだろう。」
「もう帰ってください。」
「この問題を放っておけない。少なくとも民にはこの事実を知らせるべきだ。君主がどんな人物なのか民に知らせる必要がある。」
「知ってどうなるというのです。戊申年の挙兵は失敗に終わったのに今更誰も立ち上がりません。酒の席での話のネタになるのがせいぜいでしょう。」
「それは真心ではないな?」
「お帰りください。」
「この本は置いていくぞ。我々が何もしなければ次の世代が苦しむ。権力のためなら君主すら殺す。そんな者どもがはびこる世の中で娘に生きてほしいのか?」
貸本屋の地上階。
「シン・フンボク殺人事件が何と絡んでいるって?」
ソ・ジダムは剣契(コムゲ)トンバの頭目ナ・チョルチュに言うと地下に聞き耳を立てました。
王の私室。
イ・ソン(思悼世子)は父の介抱をしていました。
イ・グム(英祖)は均役法(キニョクポ)を頑張っているのにみじめだろうと息子に言いました。
「均。大事にします。父上は民は均しいと教えてくださいました。均。もし私がこの国朝鮮の君主になれば均(キュン)、この一字を統治の理念にします。よりよい朝鮮の国造りに尽力します。」
「礼を言うぞ。ソンは王にふさわしい者になった。そうか。」
英祖はイ・ソン(思悼世子)を抱きしめました。イ・ソン(思悼世子)は悲しそうな目で部屋を出ました。
「尚膳。もしソンの奴が私が猛毅(メンイ)に署名したと知ったら私が竹波(チュクパ)と知ったらどう思うだろうか。私の言葉はすべて偽りと思い前言を撤回して私を罵るだろうか。そんな日が来ないか心配だ。ソンの奴に私が竹波(チュクパ)と知られる日が永遠に来ないといいが・・・。」
貸本屋の地下室。
ソ・ギュンは紙にチョン・スギョム回顧録を書き写し出版しました。
シン・チウンはチョ・ジェホにチョン・スギョム回顧録の写本を見せました。
「配流中のユン・ジら地方の少論から連絡が来ています。近々挙兵するようです。もう引き下がれません。王位継承の不正義を明かし首謀者を処罰するまでこの戦いややめられないのです。」
ソ・ジダムが都城の町を歩いていると、チョン・スギョム回顧録が市中に出回っていました。
王宮の少論派の会議室。
「どうなっている!説明しろ!」
パク・ムンスはチョン・スギョム回顧録の写本を机に叩きつけました。
剣契東方(コムゲトンバン)の砦。
「内容は本当かしら。」
少女ソ・ジダムはチョン・スギョム回顧録の写本を机に置いて悩みました。
「お前には見せまいと親父さんは気遣っていたがばれてしまったか。読んだことは親父さんに内緒だぞ。」
ナ・チョルチュはチダムに言いました。
「これが事実なら邸下はおつらいでしょう。不安でたまらないと思う。」
キム・テクの家。
キム・テクは剣契西方(コムゲソバン)の頭目からソ・ギュンがチョン・スギョム回顧録を出版したと報告を受けました。
「これで世子廃位の名目ができたわけか。」
世子の執務室。
「妻が呼んでました。巷では大騒ぎです。」
チェ・ジェゴンは世子にチョン・スギョム回顧録の写本を見せました。
宮中では女官や内官たちがチョン・スギョム回顧録の写本を隠し持っていたことで捕らえられていました。
王の謁見場。
「捕らえた者は全員殺せ。今すぐに都城中を調べよ。この本を出版し一字でも読んだ者は全員殺すのだ。」
英祖は尚膳に命じました。
「なりません。本を読んだ者を殺してはなりません!」
世子が部屋に現れました。
「王室を侮辱したのだぞ!」
「この内容が偽りで、侮辱が目的で書かれた物だとしても本を読んだというだけで殺すのは間違いです。父上。命令をお取り下げください。」
「尚膳。女官を斬ってしまえ!」
「だめだ!女官を斬るなら最初に血を流すのはそなただ!」
イ・ソン(思悼世子)は尚膳に言いました。
「ソンの話は無視してすぐに女官を殺せ!」
「なぜです!この本を恐れる理由は何ですか?この本の内容が事実だからですか?お答えください。」
「じ・・・事実と言ったな!何を根拠にそんなことを!」
「竹波(チュクパ)・・・三十年前、先王様を殺してでも権力欲した大一統会猛毅(テイルトンフェメンイ)。父上の号、竹波(チュクパ)が・・・父上がご署名されたのですか?」
イ・ソン(思悼世子)が言うと尚膳は震えました。
「お前という奴は・・・!許さんぞ!」
イ・グム(英祖)は息子を指さし震えながら立ち上がりました。
感想
まさに手に汗握る展開になってきました!「秘密の扉」はあと28話もあるのにこんなに盛り上がってどうするのでしょう。それとも、ラストで世子が英祖に言ったことはまた夢の中の空想だったのでしょうか。英祖は猛毅(メンイ)におびえながら、キム・テクの脅迫におびえながら、息子のイ・ソン(思悼世子)に知られてしまうことを恐れながら、恐れれば恐れるほど暴君になるパターンですね。イ・ジョンソンが領議政になり政権の行方は少論に移るのでしょうか。均役法(キュニョクポ)の制定をめぐって少し調べてみると、ホン・ゲヒ(洪啓禧)は実在した人物で英祖に重陽され儒学者で破門された人物のようで何冊か本を書いていたようですね。ホン・ゲヒは日本にも朝鮮通信使として来訪していたようです。ドラマ「秘密の扉」でのホン・ゲヒはどう見ても儒学者には見えませんけど。しかし英祖の時代に活躍したホン・ゲヒも、孫はイ・サンの暗殺を企てたそうですから先祖のホン・ゲヒも逆賊とされたようです。当時の朝鮮がどれだけ腐っていた均役法(キュニョクポ)をちょっと調べるだけでわかるような気がします。今の韓国やその北のお国の方が李氏朝鮮をよく思っていなかったようなことはニュースで時折伝わってきますね。よほど朝鮮の良民以下の人々は苦しんで飢えていたのでしょうね。
関連記事
- 秘密の扉 全話あらすじと感想一覧
- 秘密の扉 1話 あらすじと感想 貸本
- 秘密の扉 2話 あらすじと感想 御井(オジョン)の死体
- 秘密の扉 3話 あらすじと感想 再捜査
- 秘密の扉 4話 あらすじと感想 残された血文字
- 秘密の扉 5話 あらすじと感想 偽造職人を追え
- 秘密の扉 6話 あらすじと感想 フンボクの画帳
- 秘密の扉 7話 あらすじと感想 班次図(パンチャド)の印
- 秘密の扉 8話 あらすじと感想 裏の顔
- 秘密の扉 9話 あらすじと感想 殺人の濡れ衣
- 秘密の扉 10話 あらすじと感想 哀しき父子
- 秘密の扉 11話 あらすじと感想 竹波(チュクパ)の正体
- 秘密の扉 12話 あらすじと感想 親政再開と均役法(キュニョクポ)
- 秘密の扉 13話 あらすじと感想 血の粛清
- 秘密の扉 14話 あらすじと感想 父を倒したい
- 秘密の扉 15話 あらすじと感想 仕組まれた罠
- 秘密の扉 16話 あらすじと感想 失脚
- 秘密の扉 17話 あらすじと感想 世子の挑戦
- 秘密の扉 18話 あらすじと感想 民との約束
- 秘密の扉 19話 あらすじと感想 地位など要らぬ
- 秘密の扉 20話 あらすじと感想 王妃選びの儀
- 秘密の扉 21話 あらすじと感想 暗殺計画
- 秘密の扉 22話 あらすじと感想 世孫(セソン)の冊封
- 秘密の扉 23話 あらすじと感想 暴かれた書斎(ソジェ)
- 秘密の扉 24話 あらすじと感想 夢を託して
- 秘密の扉 日本語吹き替え声優一覧
- 仮面の王イ・ソンの次は秘密の扉がNHK BSプレミアムでスタート!