秘密の扉22話
目次
あらすじ 世孫の冊封
夜の王宮の敦寧府(トニョンブ)判事(パンサ)チョ・ジェホと都承旨チェ・ジェゴンのいる部屋。
「書斎(ソジェ)とは一体どういうことだ。平民から逆賊の子孫まで、科挙の受験資格のない者に勉学の場を与えただと?」
イ・ジョンソンにかわり少論の首領となったチョ・ジェホは机を叩いて怒りました。
「そうです。」
チェ・ジェゴンは静かに言いました。
「一体、世子邸下は何をお考えなのだ。破滅するまでお進みになるというのか!」
「これは破滅しないための実験です。」
「実験だと?」
夜更けの老論のミン・べクサンの家。
「書斎(ソジェ)とは一種の実験だ。平民に科挙を受けさせ合格者に官職を与えると本当に我が国朝鮮が混乱に陥るのか、父王と老論の主張通りに国が亡びることになるのか、いいや、よりよい朝鮮を作るための契機となるのか確かめたいのだ。」
世子イ・ソン(思悼世子)はミン・べクサンに言いました。
「もうお帰りください。」
「大監。」
「今夜邸下がなさった書斎(ソジェ)の話は聞かなかったことにします。」
チョ・ジェホの家。
チョ・ジェホは庭で考えていました。
夜の王宮のチョ・ジェホとチェ・ジェゴンの会話の回想。
「それでそなたはどうするつもりだ。そなた邸下に賛同するのか!」
チョ・ジェホはチェ・ジェゴンに尋ねました。
「賛同はしません。私は確信が持てずにいるのです。」
「それで?」
「私は邸下を見守りたいのです。十年後、朝鮮はどんな姿に?三十年後、いいや、百年後はどうなっている?」
「お前さん・・・。」
「今、正しいと思うことが将来でも正しいとは限りません。常に疑いの目を持ち悩み続ける役人でいたいのです。主君の実験を検証を見守りもせず我を通す生き方は、したくありません。しかと主君を見て判断したいのです。その結果、主君が間違いだとわかれば真摯に論じ正せばよいのです。我々にはそれができると思いますが、大監はどうお考えですか。」
チェ・ジェゴンはチョ・ジェホに自分の考えを述べました。
「・・・・・・。」
チョ・ジェホは首を横に振りました。
チョ・ジェホの家の庭。
「はぁ・・・・・・。主君を正すか・・・。」
チョ・ジェホはため息をつきました。
日中の王宮の庭。
「私をお呼びですか?」
チェ・ジェゴンはチョ・ジェホのもとに現れました。
「私は役人としての自分を信じることにした。」
「大監。」
「まずは世孫(セソン)の冊封問題からだ。そのあとで書斎(ソジェ)での実験が無事に終えられる方法を模索しよう。」
宣政殿(ソンンジョンジョン)。
王と重臣たちが集まり政治が行われていました。
「敦寧府(トンニョンブ)判事(パンサ)。なぜ重臣を集めたか説明せよ。」(敦寧府(トンニョンブ)の副長官、従一品)
イ・グム(英祖)はチョ・ジェホに命じました。
「敦寧府(トンニョンブ)の判事(パンサ)として世孫の冊封を急ぐ必要があると感じたからです。」
チョ・ジェホが答えるとホン・ボンハンが顔を上げました。
「世孫の冊封だと?」
イ・グム(英祖)はつぶやきました。
「なりません!」
領議政キム・サンノは大きな声で反対しました。
「まだ早いです。」
兵曹判書ホン・ゲヒも拒絶しました。
「元孫(ウォンソン)様はもう九歳ですから、元服と婚姻を急がねばなりません。問題がない限り、王世子のご嫡男を世孫に冊封すべきです。」
チョ・ジェホは言いました。
「王世子の、王世子の行い次第です。なぜ邸下が科挙で騒ぎを起こしたのかすべての民が知っております。士農工商が崩れ危機に陥った朝鮮、それが邸下の望む未来では?邸下は今すぐ考えを改める気がありますか?」
ホン・ゲヒが言うと皆は静まりました。
イ・グム(英祖)はホン・ゲヒの発言に不安を覚えました。
「もう済んだ話です。邸下は平民の合格を取り消されました!」
チョ・ジェホはイ・ソン(思悼世子)の味方をしました。
「取り消されたなら、私どもにはっきりとお示しください。身分秩序の崩壊は絶対に行わないと文書でご署名ください。」
キム・サンノはイ・ソン(思悼世子)に言いました。
「貴様ら何をほざいておる!文書に署名だと?王になる者に対し念書を書かせる気か!何のためだ。その文書で何を企む気だ!」
イ・グム(英祖)は怒りました。
「殿下。私は・・・。」
ホン・ゲヒが言いかけました。
「下がれ!」
イ・グム(英祖)は怒号を浴びせました。
「しかし殿下・・・。」
キム・サンノは抗議しました。
「黙れ!さっさと下がれ。」
「・・・・・・。」
イ・グム(英祖)の部屋。
「老論の奴らめ。文書への署名を迫るとは。老論に網を張ったな?」
部屋に帰ったイ・グム(英祖)は内侍府長と話をしていました。
「はい殿下。」
尚膳キム・ジョンイクは答えました。
「かかった獲物の中から、いずれかを使わねば。」
「わかりました。準備いたします。」
嬪宮ホン氏の部屋。
「媽媽が邸下をご説得ください。もし老論の念書に署名すれば・・・。」
世子の義父ホン・ボンハンは嬪宮ホン氏(恵慶(ヘギョン)宮)に言いました。
「あり得ぬことです。」
「あり得ぬとは?」
「もうすぐ王になられる方が臣下に迫られて署名をするとは。」
「王になれぬよりましです!!」
「・・・・・・。」
貞順王后(チョンスンワンフ)キム氏の部屋。
「殿下がおいでにならなければ、殿下がおいでになるよう仕向けねばなりません。」
キム・サンノは王妃に取り入っていました。
「領相(ヨンサン、領議政)大監にまで話したのですか?」
王妃は父キム・ハングに言いました。
「お話を聴いてみましょう。」
キム・ハングは娘に言いました。
「殿下は王妃の特権だけを享受せよとおっしゃいましたか?王妃の特権を享受するには男子を産まねばなりません。そのお子が世子を追い出し我が国の次期君主になってこそ、王妃の権利を行使することができるのです。」
キム・サンノは王妃キム氏に言いました。
夜のミン・ベクサンの家。
「誰かおらぬかー。私だー。」
酔っぱらったイ・ソン(思悼世子)は門を叩きました。下男は門を開けて世子を入れました。
「邸下。こんな夜更けに何の御用ですか?」
ミン・ベクサンは庭で世子を迎えました。
「そなたと共に、私は一杯飲みたくてな。」
「もうすでに酔っておられます。」
「たぁ~。酒まで断るのか?」
イ・ソン(思悼世子)は勝手にミン・ベクサンの縁側に座りました。
「もう、白旗をあげようか。均(キュン)。公平な世の中など絵空事だと。父王と重臣が望む通りの答えを、言おうかと思う。」
「邸下・・・。」
「私がそのように答えれば、イ・ジョンソン大監や大監(ミン・ベクサン)のような臣下まで、もう失わずに済む。何よりも父王と世子嬪の息子サンまで、私の周りの人は皆安堵するだろう。もう降参してもよい。白旗をあげても誰も文句は言えぬだろう。そうだろ?」
「そうでしょう。」
「そうだが、それなのに、私は決められぬ。民が私を見る熱い眼差しが、忘れられない。民に期待を抱かせた責任は重大だ。素知らぬ顔などとうていできぬ。大監。いや。怖いのだ。私が民の期待を裏切れば、民の熱意は怒りに変わる。そうしたら、怒れる民が武器を手に取り蜂起するのではないかと、不安でならぬのだ。鎮圧すれば済む話か?父王のように武力で民を統制することは、権力者であれば当然のことだろう。だが私は自信がない。父王を説得する自信も。民を武力で統制する自信もないのだ。」
イ・ソン(思悼世子)はつらそうにミン・ベクサンに語りました。
「邸下・・・。」
「だから私は失格者だ。父王に政治を任されたが、政治を、私は政治をする資格がないのだろうか。」
「いいえ。それは違います。このように、このように考えてみてはどうでしょう邸下。意見が対立し葛藤が生じる場、それを何としてでも仲裁する場、それこそが政治のあるべき姿だと。私はそう考えています。」
ミン・ベクサンは目に涙を浮かべてイ・ソン(思悼世子)に言いました。
(女性の歌が流れる。)
英祖の部屋。
「河川工事のための予算を、一体何に使った?」
イ・グム(英祖)は兵曹判書ホン・ゲヒを部屋に呼びました。
「夏に洪水が起きれば莫大な予算が必要です。そのために残金を合理的に管理しました。私の懐には入れてません。」
ホン・ゲヒは答えました。
「管理か。高利貸しをそう呼ぶのか。ふっふっふっふ。金を借りた者の借用書にはそうは書いてなかったぞ。」
「貸主として我々朝鮮と書くわけにはいきません。」
「朝鮮でなく老論だろう。儲けた金の大半を老論の資金にしたそうだな。余が気づかぬと思うか。」
イ・グム(英祖)は茶を飲みました。
「政治には金が必要です。殿下ならよくご存じでしょう。」
ホン・ゲヒは金を着服したことを認めました。
「ああ、よく知ってるとも。」
「なら、老論の資金は国のためとご存知でしょう。」
「いや。知らんな。そいつは老論の屁理屈だ。この文書からは読み取れぬ。余は、この文書をもとにそちを処罰する。」
「私の長年の忠誠に処罰で報いるとおっしゃるのですか。」
「そんな忠誠は必要ない。ああ、別の忠誠を尽くすなら、なかったことにしてやる。」
「別の忠誠といいますと?」
「世孫の冊封だ。」
「殿下。」
「断るなら国の金で金貸しをしたろくでなしの判書。これが貴様の最後の官職名となる。」
「・・・・・・。しばし考える時間をいただけませんか?」
「貴様は考える必要ない。冊封を主導しろ。長くは待たんぞ。」
ミン・ベクサンの家。
「関西の、書斎(ソジェ)に行ってくれるか?」
世子イ・ソン(思悼世子)はミン・ベクサンに頼みました。
「書斎(ソジェ)を指導するのがよいか、またすぐに廃止を提案すべきか、それを現地で考えます。」
ミン・ベクサンは世子に言いました。
「臣下の意見に耳を傾けるのは君主の務めだ。」
「ならば、準備は済ませました。今日にでも都城を発ちます。老論は世孫の冊封に反対しているようですね。書斎(ソジェ)のことは何も気にせず私にお任せください。怪しまれる言動は慎んで老論の疑念を払拭するのです。そうすれば無事に世孫も冊封できるゆえ、邸下のお立場も揺るぎのないものになります。どうか肝に銘じておいてください。」
王室の財政を管理する内需司(ネスサ)。
「近頃、東宮殿のお手元金の動きはどうだ?」
ホン・ゲヒは官僚に尋ねました。
「大きな支出はありません。」
「不審な動きがあればすぐに報告せよ。」
「はい。大監。」
ホン・ゲヒは役人に金を渡しました。尚宮は二人のやり取りを東宮殿のチェ尚宮に報告しました。
東宮殿の世子の部屋。
「問題だと?」
イ・ソン(思悼世子)はチェ尚宮に聞き返しました。
「東宮殿のお手元金の動きを探る者がいます。」
チェ尚宮は答えました。
西三峰(ソサムボン)、関西(クァンソ)の書斎(ソジェ)。
ミン・ベクサンとチャン・ドンギは書斎(ソジェ)に到着しました。
「ようこそお越しくださいました大監。」
鳴砂団(ミョンサダン)の頭目ナ・チョルチュと子分のピョン・ジョンインが大監を出迎えました。
「そなたもここにいたのか。」
ミン・ベクサンは元老論の従事官ピョン・ジョンインに言いました。
「成り行きです。」
ピョン・ジョンインは答えました。
「まずは一回りして様子をご覧になっては?」
「わかった。そうしよう。」
ミン・ベクサンは言いました。
「邸下からのお手紙です。」
チャン・ホンギの弟チャン・ドンギは封書をナ・チョルチュに渡しました。
「まずは師匠を案内しろ。」
ナ・チョルチュはチャン・ドンギに言いました。
「はいご案内します。」
ナ・チョルチュの部屋。
「邸下は何と?」
ピョン・ジョンインは手紙を読み終えたナ・チョルチュに尋ねました。
「邸下は来月の三日にミン・ウソプを通じて平壌に金を送るそうだ。」
内需司(ネスサ)。
「東宮殿がまた金を引き出したのか?」
ホン・ゲヒは役人に言いました。
老論の首領キム・サンノの家。
ホン・ゲヒはキム・ハングを連れて来ていました。
「私は何をすればよいのです?」
貞純王后キム氏の父キム・ハングは言いました。
「関西に行ってください。」
ホン・ゲヒは言いました。
「何故関西に行くのだ?」
「世孫の冊封を防ぐためです。」
キム・サンノは言いました。
「うまくいけば世子も廃せます。ミン・ウソプを尾行してください。必ずや不審な者と接触するはずです。その瞬間を押さえてください。」
ホン・ゲヒはキム・ハングに言いました。
王宮の王の部屋。
「お返事を言いに参りました。」
ホン・ゲヒはすがすがしい表情でイ・グム(英祖)に言いました。
「待ちくたびれたぞ。それで、どう考えたのだ。」
「世孫の冊封を私は主導しません。」
「はるほどな、そう答えたか。そうしたらそちは官服を脱ぐことになるぞ。」
「私が官服を脱ぐより国本(クッポン、世子)が降りるのが先になるかもしれません。ならば世孫の冊封もなかったことになります。」
「ふ・・・どういうことだ。貴様ら、また何か企んでおるな。」
「企んでいるのは私どもでなく東宮殿でございます。」
「東宮殿だと?」
「東宮殿はここ数か月間、関西に金を送っています。その金は何に使ったと思いますか?危険な輩の手に渡ったかもしれません。」
「危険な輩だと?」
「殿下の暗殺未遂事件があった夜に、急いで都城を離れた輩がいました。関西のナ商団です。私は国本(クッポン、世子)と繋がっている可能性が高いと思います。」
「ふ・・・ひひひひひひへへへへへ。そちは何が言いたいのだ。国本(クッポン、世子)が、私の息子が、私の暗殺を計画中の奴らと通じていると?」
「今ミン・ウソプが国本(クッポン、世子)のお手元金を関西に運んでいます。府院君キム・ハング殿に尾行してもらいました。今日中に誰の手に金が渡るのか、わかります。」
夜の平安道の平安。
ミン・ウソプと従者は屋敷に入りました。キム・ハングたちは後をつけていました。
王の部屋。
「何か、御用でしょうか。」
世子自分を呼びつけた英祖に言いました。
「東宮殿の手元金を関西に送っているそうだな。」
英祖は息子に言いました。
「・・・・・・。」
平安(ピョンアン)の屋敷。
ミン・ウソプは部屋の扉を開けました。
「待て!誰かと思ったら宣伝官(ソンジョングァン)ではないか。」
武官の服を着たキム・ハングは言いました。
「府院君はなぜ平安(ピョンアン)にいらっしゃるのですか?」
ミン・ベクサンの息子、ミン・ウソプは言いました。
「はっはっは。それはそなたが金を渡す危険な輩を、捕らえるために来たに決まってる。すぐに罪人を捕らえよ。」
府院君が命じると部屋の中で立っていた男を武官が取り囲みました。
「無礼者め!一体どういうつもりだ!」
藤色の高貴な服を着た男が府院君に怒鳴りました。
「失礼しました監司(カムサ、道の長官)。誤解があったようです。」
ミン・ウソプは騒ぎを謝りました。
「監司(カムサ)だと?」
キム・ハングは言いました。
「この地の監司(カムサ)、チョン・フィリャン令監(ヨンガム、従二品と正三品への尊称)です。」
ミン・ウソプは上司を紹介しました。
「本当に監司(カムサ)か?」
キム・ハングは言いました。
王の部屋。
「私は平安道(ピョンアンド)にいる監司(カムサ)に送金しました。」
イ・ソン(思悼世子)は父王に答えました。
「平安(ピョンアン)の監司(カムサ)になぜ送ったのだ。」
「昨年から飢饉により国中で死者が出ています。特に関西の被害が甚大です。しかし国庫の予算に限りがあるため東宮殿の手元金から捻出しました。」
「・・・・・・事実か?」
「すぐに監司(カムサ)を呼んで確かめれば本当かどうかわかります。」
世子は答えるも英祖は疑いの目で息子を見ました。
平安道(ピョンアンド)の屋敷。
「ならば、なぜ隠れて金を運んだのですか。」
屋敷の縁側に座るチョン・フィリャンに府院君キム・ハングは質問しました。
「邸下のご命令です。東宮殿のお手元金を関西のみに送ったと事実が知られたら他の地方からねたまれます。ゆえに邸下は金の出所を隠すよう指示されたのです。」
チョン・フィリャンは答えるとキム・ハングは頷いて納得しました。
「ふふっ。私の勘違いだったようだ。」
キム・ハングは帰りました。
平安道(ピョンアンド)の屋敷の一室。
ミン・ウソプは部屋の中に手紙を差し込みました。ピョン・ジョンインは紙切れを受け取るとナ・チョルチュに見せました。
「何と書いてありますか?」
「今回は金を送れないそうだ。老論にばれた。他の方法を考えると。」
次の日の王宮の英祖の部屋。
「東宮殿の主が送った金を平安道(ピョンアンド)の監司(カムサ)は受け取ったか?使い道は飢饉の救済だそうだが。」
英祖はホン・ゲヒと平安道(ピョンアンド)の監司(カムサ)チョン・フィリャンを部屋に呼んで言いました。
「おっしゃる通りでございます殿下。」
チョン・フィリャンは答えました。
「わかった。そちは下がれ。」
英祖が言うとチョン・フィリャンは退室しました。
「けしからん奴め。貴様、国本(クッポン、世子)を陥れようとするとは、許さんぞ。これは罷免でなく死罪に処しても足りぬ。だが余は、挽回する機会をお前に与える。そなたは賢い故、余が何を望んでいるかわかるはずだ。」
英祖はホン・ゲヒに言いました。ホン・ゲヒは身動きせず固まっていました。
王宮の老論の部屋。
「これは東宮殿の罠です。」
ホン・ゲヒは部屋に入るとキム・サンノに言いました。
「だが証明する手立てがない。一体誰だ。東宮殿の用意周到さは世子一人の仕業ではない。」
キム・サンノの鈍い頭では理解できませんでした。
「平安道(ピョンアンド)の監司(カムサ)チョン・フィリャンは少論の一人です。これで察しがつくのでは?」
チョ・ジェホの家。
「礼を言うぞ。よくやった。」
チョ・ジェホはチョン・フィリャンに感謝しました。
「我々少論のためなら協力は惜しみません。各方面から調達した資金があり文書はうまく処理できます。」
チョン・フィリャンは答えました。
「礼を言う大監。」
「それで大監。邸下は関西で何をしておられるのですか。なぜお手元金を関西に流しておられるのですか?」
「そなたにはそのうち話す。これからも協力を頼むことがありそうだ。」
王宮の宣政殿(ソンンジョンジョン)。
王と重臣たちは集まりました。
「殿下。元孫(ウォンソン)媽媽は元服を行う年齢です。そろそろ世孫に冊封してはいかがでしょうか。」
ホン・ゲヒは言いました。
「領相(ヨンサン、領議政)。どう思う。」
英祖はキム・サンノに言いました。
「私も同じ意見でございます。」
キム・サンノは答えました。
「そなたら朝臣が口を揃えて元孫(ウォンソン)の世孫への冊封を勧めるゆえ、意見に従うことにする。」
英祖は言いました。
「す~ぐにまんがかうにだちょーなー(一同)。」
王宮の楼閣。
「お前は、老論の東宮殿の疑いの目に気づいていたはずだ。だからあえて宣伝官を向かわせたのだろう?違うか?」
イ・グム(英祖)は息子に言いました。
「老論からの疑いを晴らすためです。」
イ・ソン(思悼世子)は父に言いました。
「政治の腕を上げたな。見事だぞ。臣下との駆け引きも見事だ。だが心を隠す方法を覚えろ。臣下には絶対に本心を悟られてはならぬ。特に結論の出ておらぬあやふやな考えは臣下に知られぬようにせよ。さもないと・・・。」
英祖は息子に優しく言いました。
「臣下に隙を突かれるのですね。私は、最近の経験からそれを悟りました。私はできる限り慎重な姿勢で政治に臨みます。どうかご心配しないでください。」
イ・ソン(思悼世子)が言うとイ・グム(英祖)は頷いて笑い、世子の肩を叩きました。
英祖とイ・グム(英祖)はしばし景色を眺めていました。
二年後。
英祖三十八年(1762年)の東宮殿。
何人もの医官たちが東宮殿に駆けつけました。
「邸下のご様子は?」
医官はチェ尚宮に言いました。
「ひどい高熱でございます。」
チェ尚宮は答えました。判書内人(ポンソナイイン)ソ・ジダムは女官と一緒に庭で控えて立っていました。
医官たちは寝殿の中に入りました。
世子の寝所。
「ひどい腫物のため熱が下がらないのでございます。公務はほどほどにしてお休みになるべきだと何度も申し上げたはずです。」
御医は世子の背中に包帯を巻いて手当をしました。
「・・・・・・。」
王の部屋。
「そんなに重症なのか?」
英祖は御医に言いました。
「煎じ薬が効かぬほどでございます。」
御医は答えました。
「そんなに悪化するまでそなたらは何をしていた!」
英祖は苛立ったように経卓を指で小突きました。
「私めは何度も申し上げたのですが・・・。」
「聞く耳を持たなかったのか。」
「そうでございます。」
「ならどうやって治すのだ。」
「湯治がよろしいかと。温泉には治療効果がありますし、しばし公務から離れられます。」
「温泉か。温泉・・・。」
世子の部屋。
嬪宮ホン氏は世子を見舞いに来ると世子は部屋にいませんでした。
秘密の扉の前。
「調べ物がある。」
世子イ・ソン(思悼世子)は寝間着姿を羽織ったままチャン・ホンギと扉の前に来ました。その様子を嬪宮ホン氏は隠れて見ていました。
「私がやりますよぉ。」
東宮殿内官のチャン・ホンギは言いました。
「お前だと時間がかかる。ここで待て。」
世子が言うとチャン・ホンギは屏風を開けて秘密の扉を開きました。
イ・ソン(思悼世子)は扉の中に入ると嬪宮ホン氏は驚きました。
世子の部屋。
嬪宮ホン氏は部屋で世子をずっと待っていました。
「嬪宮が何の用だ?」
戻ってきたイ・ソン(思悼世子)は嬪宮ホン氏に言いました。嬪宮ホン氏は立ち上がり世子のほうを向きました。
「お加減が悪いのにどうして書物を読まれるのですか?」
「今夜中に読みたいのだ。」
「なりません。お休みください。」
「具合はよくなった。ゆえにもう下がってくれ。」
「私が入るのは邸下が床に入るのを見届けてからです。」
「嬪宮。」
「邸下のお体は一人だけの者ではありません。」
「心配いらぬ。腫物のせいで熱が出ただけだ。わかった。言う通りにしよう。」
イ・ソン(思悼世子)は布団の中に入り目を閉じました。嬪宮はイ・ソン(思悼世子)をしばらく見つめていました。イ・ソン(思悼世子)が寝たと思った嬪宮は静かに部屋を出て秘密の部屋に行きました。
秘密の部屋。
嬪宮ホン氏は「関西書斎(ソジェ)日記」という書を手に取り読みました。
「書斎(ソジェ)?」
日中の嬪宮の部屋。
嬪宮は「関西書斎(ソジェ)日記」をホン・ボンハンに見せました。
「邸下が書斎(ソジェ)とかいうふざけたものをお作りになった・・・!これは事実ですか!」
ホン・ボンハンは日誌を読んで驚きました。
「どうしたら、よいのでしょう。」
娘は父に言いました。
「邸下と殿下に知られる前に私が書斎(ソジェ)を潰さねば。」
「邸下が同意すると思いますか?」
「もちろん同意なさるはずがない。」
「何をお考えですか?」
「邸下の説得は無理です。説得を試みて私が知った事実が漏れたら邸下や世孫だけでなく媽媽や我々ホン氏一族まで破滅します。幸い邸下は湯治に行かれます。その間に始末しましょう。」
嬪宮ホン氏とホン・ボンハンの会話を別監が盗み聞きしてホン・ゲヒに伝えました。
老論の会議室。
「世子を追い出す名分ができたのか?」
キム・サンノはホン・ゲヒから話を聴いて喜びました。
「二年前、世孫の件で一杯食わされて以来、私は世子と世子嬪、その側近チョ・ジェホ、チェ・ジェゴンに至るまで細かい網を張り巡らせておいたのです。そこに大物がかかりました。」
ホン・ゲヒは得意げに言いました。
「大物?」
「ホン・ボンハンを張れば尻尾を出すでしょう。」
数日後、平安道(ピョンアンド)の平安(ピョンアン)の監営(カミョン)。
ホン・ボンハンの乗った馬が到着しました。剣契西方(コムゲソバン)の頭目フクピョはホン・ボンハンの到着を確認して部下に指示を出しました。
監営(カミョン)の部屋。
ホン・ボンハンはチョン・フィリャンに文書を見せました。
「平民や賤民、逆徒の子孫まで・・・。書斎(ソジェ)に集まって何をしているのですか?」
チョン・フィリャンは驚きました。
「それは明白です。謀反を企んでいるのです。謀反が行われる前に討伐せねば。もし反乱が起きたら前兆を見逃したとして監司(カムサ)も責任を負わされるのでしょうな。」
ホン・ボンハンはチョン・フィリャンを脅しました。
「・・・・・・。」
平安道(ピョンアンド)、平安(ピョンアン)の市場にお触れが張られました。
「逆賊チャン・ドンギ、イ・ダルソン。逆賊を見たら通報するように。」
武官はピョン・ジョンインにも手配書を配りました。
書斎(ソジェ)。
「一体どういうことだ。平壌の監営(カミョン)がどうして書斎(ソジェ)の人員まで把握しているのだ。」
ミン・ベクサンはナ・チョルチュとピョン・ジョンインに言いました。
「情報が漏れたようです。一体どこから漏れたのやら。」
ナ・チョルチュは言いました。
「早く邸下にも知らせたほうがよいのでは?」
ピョン・ジョンインは言いました。
夜の世子の部屋。
世子が読書をしていると石が投げ込まれました。
「邸下。」
すぐにチャン・ホンギが現れました。
イ・ソン(思悼世子)は石にくっついていた手紙をっ読みました。
「平安(ピョンアン)道の監司(カムサ)が書斎(ソジェ)を討伐するだと?どうなっているのだ!」
世子は匿名の手紙を読んで震えました。
チョ・ジェホの家。
「官印です。これは平安(ピョンアン)監司(カムサ)の官印です。」
チョ・ジェホは文書を見てイ・ソン(思悼世子)に言いました。
「書斎(ソジェ)の存在をどうして知り討伐を決めたのだろう。」
世子はつぶやきました。
「すぐに調べます。」
「いや。私が関西へ行こう。」
「邸下!」
「幸いにも明日は湯治へ行く日だ。」
「今何をお考えで?」
「東宮殿の宮女やそなたの助けがあれば内密に関西へ行けるだろう。」
「チョン・フィリャンに連絡して詳しい情報を調べてから・・・。」
「手遅れになるかもしれません。」
「手紙の送り主もわからぬのですぞ。罠かもしれません。」
「調査に時間を費やすたびに書斎(ソジェ)が討伐されたら、取り返しのつかないことになります。何としてでも関西へ行きます。それが問題解決への近道なのだ。」
「本当に、そこまでする価値があるのですか?」
「書斎(ソジェ)にいる者たちの生死がかかっているのだ。」
世子の湯治の行列。
ホン・ゲヒは馬に乗り兵を引き連れ世子の行列を止めました。
「兵判が何の用ですか?」
馬に乗っているチョ・ジェホはホン・ゲヒに言いました。
「世子様をお見送りに来たのです。」
ホン・ゲヒは答えると馬を降りました。ソ・ジダムは不安になりました。
「取り次げ。」
ホン・ゲヒは輿の横にいるチャン・ホンギに言いました。
「邸下はお休みでございます。」
チャン・ホンギは言いました。
「直ちに取り次げ!」
ホン・ゲヒは怒りました。
チョ・ジェホは馬から降りました。
「兵判。私が兵判の伝言を伝えます。邸下は高熱のため聞こえないようで・・・。」
チョ・ジェホは釈明しました。
「中にいないのでは?」
「兵判!」
「者ども、すぐに中を確かめよ!」
ホン・ゲヒは叫びました。
「はい。」
数十人の武官たちは剣を抜いて行列に向けました。
「あ・・・大監。」
チャン・ホンギは言葉が見つかりませんでした。
「無礼者め!手を離さんか!何の真似だ!」
チョ・ジェホは両手を広げてホン・ゲヒの前に立ちはだかりましたが兵士に押しのけられました。
「きゃ~。」
女官たちは怖くなり悲鳴を上げました。
兵士は勝手に世子の輿を調べ扉を開けました。輿の中には誰もいませんでした。
王の謁見の間。
「世子が温泉へ行かなかっただと?一体どこへ行ったのだ?」
英祖はホン・ゲヒに言いました。
「おそらく関西かと。自らの手でお育てになった逆徒を救うためではありませんか。」
世子とミン・ウソプは雪の積もる山道を馬を走らせていました。
感想
世子様大ピンチ!いつもなら輿の中にクールな世子がいて、ホン・ゲヒに一泡吹かせるはずなのに!?せっかくイ・グム(英祖)がイ・ソン(思悼世子)をかばったのに老論の激しい殺意に世子は殺されてしまうのでしょうか。キム・サンノとホン・ゲヒは貞順王后(チョンスンワンフ)に嫡男を生ませて王権を操縦する魂胆なのですね。朝鮮では刀がないと政治が行えないのは貴族のほうが王の権力を上回ってしまうという悲しい現実があったからのようです。高麗時代も、その昔も、ずーっとそうだったようで王が武人である場合を除いてこんな調子だったのかもwそしてソ・ジダムちゃんはすっかりおとなしくなっているようですが、ラストに存在をアピールするのでしょうか。チェ・ジェゴンは王の側近としての信頼を高めているようですね。チェ・ジェゴンの演技での役どころは物語を客観的に見守る第三者の目のようです。ミン・ベクサンとミン・ウソプも家門が滅ぼされるかどうかの大ピンチです。血で血を洗う朝鮮王朝、なんと残酷なのでしょう、ドラマも史実も。韓ドラでおなじみのイ・サンは何とか世孫に冊封されたようですね。イ・サンの立場もまた崖っぷちのようです。
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