秘密の扉14話
目次
あらすじ 父を倒したい
夜の王宮の庭。
「弱みに付け込んで私を呼びつけるとは。それで私にどんな注文を出す気だ。いまいましい文書が、息子の手に渡った。これから息子の顔色をうかがって政治を動かせと?」
イ・グム(英祖)はとぼけながら軽い調子で息子に言いました。
「いいえ。私は相手の弱みを握って利用する卑劣な政治など、行いません。」
イ・ソン(思悼世子)はイ・グム(英祖)に大一統会猛毅(テイルトンフェメンイ)の原本を示しすと火にくべました。イ・グム(英祖)は真剣な表情になり震え、燃える猛毅(メンイ)を見つめました。
「父上。あなたは私の政敵です。」
「政敵か。私の敵に、なりたいか。ならば燃やすべきでなかった。文書があれば一度くらいはできただろう。私の敵として立つことがな。」
イ・グム(英祖)は態度を脅迫的に変えました。
「私が望むのは政治です。戦は望みません。猛毅(メンイ)を燃やさず父上の敵になると宣言したらどうなるか。選択肢は戦のみ。戦となれば父上が殺した臣下や民と同じくらい、いえそれより多くの命を奪わなければ終えられなくなります。殺さず生かさずが政治。戦ではなく真の政治がしたいのです。」
「ふっふっふ。政治政治政治、ほざきおって。私が死ぬまでお前には政治はさせん。」
「私が怖いですか?息子に政治をさせたら父上が倒されるのが怖いから政治はさせないというのですか?今は父上の勝ちです。ですがいつまで勝ちが続くでしょうか。予測不能なのが政治で権力の動向です。」
「そうだな。かかってこい。死んでもいい覚悟でな。」
イ・グム(英祖)は右指を手前に何度も曲げてイ・ソン(思悼世子)を挑発しました。
「全力を尽くす所存です。」
イ・ソン(思悼世子)は父に頭を下げました。
日中の宣政殿(ソンンジョンジョン)。
「右副承旨(ウブスンジ)チェ・ジェゴン。都承旨(トスンジ)に任命する。」
イ・ソン(思悼世子)はチェ・ジェゴン一人を部屋に呼び事例を下ししました。
「・・・・・・。」
チェ・ジェゴンは目を丸くしていました。
「なぜ黙っておる。余との約束を忘れたか?」
「いいえ殿下。」
「都承旨として最初の仕事を与える。今から正式に親政体制に移行する。重臣を残らず集めよ。それから余(ファイヌン)の意向を世子に"はっきり"伝えよ。」
世子と重臣の謁見室時敏堂(シミンダン、世子が政務を行う殿閣)。
「今より王世子の代理聴政(テリチョンジョン、王の代わりに政務を行うこと)は終了する。王世子に与えたすべての権限も剥奪する。それゆえ政治の場であった時敏堂(シミンダン)は閉鎖する。世子は東宮殿で義務のみを果たし、軽挙妄動を控え謹慎せよ。」
都承旨チェ・ジェゴンは王命を読み上げました。
世子イ・ソン(思悼世子)は立ち上がり部屋を出ました。
世子が庭を歩いて東宮殿に帰ると嬪宮とイ・ソン(思悼世子)が待っていました。イ・ソン(思悼世子)はイ・サンを抱き上げました。
宣政殿(ソンンジョンジョン)。
イ・グム(英祖)は重臣たちを呼び集めこう言いました。
「逆賊たちによって国が混乱したためやむなく親政を敷く。親政(チンジョン)の手始めとして少論の起こした謀反について寛大な措置を下すつもりだ。」
「殿下。寛大な措置とは?」
副提学(プジェハク)ミン・ベクサンは発言しました。
「逆賊に死をもって罪を償わせることはせず家族に対して連帯責任も負わせない。」
「なりません殿下ー。謀反は死罪が当然でうs。」
老論で左議政キム・サンノは言いました。
「一族と使用人まで皆殺しにすべきです。」
老論で礼曹の長官となったのホン・ボンハンも言いました。
「完全に火を消すのです。どうかお考え直しください。」
老論で兵曹判書のホン・ゲヒも続きました。
「どうかお考え直しください。」
重臣たちが口を揃えました。
楼閣。
「今後逆賊狩りをせぬよう重臣たちを説得せよ。」
イ・グム(英祖)はキム・テクを呼び出し命じました。
「できません。」
「世子に約束したから猛毅(メンイ)を燃やしたのだ。約束を取引したから守ってもらわねば困る。」
「取引は殿下がしたことです。私は初めて聞きました。」
領中枢府事(ヨンジュンチュブサ)で老論の首領キム・テクは王に言いました。
「殺されたいのか?」
「私を殺すのは簡単ではありません。朝廷に私を殺すことに賛成する臣下は一人もいませんからね。殿下がこの手で老論の政敵少論を滅ぼしたのですよ。」
キム・テクは勝手に王の手をとり軽く叩きました。
イ・グム(英祖)はキム・テクの手を振り払いました。
「世子は猛毅(メンイ)を燃やし殿下は少論を殺した。残ったのは我ら老論だけです。それでこそ我らが選んだ王様です。名実ともに老論の君主です。心よりお喜び申し上げます殿下。」
キム・テクはイ・グム(英祖)に腰を曲げて礼を言いました。
都城の夜道。
剣契東方(コムゲトンバン)の頭目ナ・チョルチュは都城を抜け出す道を歩いていました。
少論の生き残りパク・ムンスはナ・チョルチュを待ち伏せていました。一緒に逃げようと言うナ・チョルチュ。しかしパク・ムンスは自分だけ生き残りたくないと言いました。
「すまない。私のせいで迷惑をかけた。死んで謝罪したい。」
パク・ムンスは小屋の中でナ・チョルチュの手を取りました。
「おやめください。大監の頼みで始めましたが関わり続けたのは私の意思です。真実を明かせば腐った世を少しは変えられると思ったからです。今は追われる身ですがいつか変わります。いつの日か戻ってこの無念を晴らします。」
ナ・チョルチュが言うと男の行商人の身なりをしたソ・ジダムが駆け込んで来ました。
「行かないと。」
「これでお別れだ。チョルチュや。達者でな。早く行け。早く逃げるんだ。」
パク・ムンスは二人を逃がしました。
「旦那様・・・。」
ナ・チョルチュとソ・ジダムが逃げるとパク・ムンスは捕らえられ山奥へ流罪となりました。
ある日の王の謁見の間。
尚膳キム・ジョンイクはヨンソン君パク・ムンスからの手紙を届けました。
「竹波(チュクパ)。」
手紙にはそれだけが書かれていました。
イ・グム(英祖)は号が贈られた時にパク・ムンスが言っていたことを思い出しました。
「竹波。清き波満国の君主にきっとなられるでしょう。どうか聖君におなりください。」
パク・ムンスの流刑先の家。
下男が部屋にいるパク・ムンスに声をかけるとパク・ムンスは座ったまま死んでいました。
「また一人になった。でも生き残った。尚膳。私たちはまた・・・生き残ったのだ。」
イ・グム(英祖)はパク・ムンスの手紙を蝋燭の火にくべました。
世子の部屋。
「そうか。逝ってしまわれたか。サンや。この父は・・・この苦しみに耐え、戦いに勝てるだろうか。お前には・・・今より・・・よい世を残してやりたいと思う。そんな父になれるだろうか。」
イ・ソン(思悼世子)は涙ぐみイ・サンを抱きながら嬪宮ホン氏に言いました。
三年後英祖34年1758年。
イ・ソン(思悼世子)はお忍びで水標橋を従者と歩いていました。
世子侍講院(シガンウォン)。
ホン・ゲヒは部下たちに「今日は帰ろう」と仕事を切り上げるようにほほ笑み言いました。官僚たちは本を片付け上位の者から椅子から立ち上がり始めました。
「殿下のおな~り~。」
扉が開きイ・グム(英祖)が都承旨をともない部屋に入ってきました。
「講義を行わずに帰る気か?」
イ・グム(英祖)は皆に言いました。
「邸下はどちらですか?」
チェ・ジェゴンは尋ねました。
「世子は自ら先生をお選びになるそうです。ほかの場所で受講されています。」
ホン・ゲヒは答えました。
領議政キム・テクの家。
「最近拙宅に頻繁においでですね。」
キム・テクはイ・ソン(思悼世子)に言いました。
イ・ソン(思悼世子)は将棋を打ちながら静かに微笑みました。
「ふ・・・好敵手を見つけたからな。」
「王手です邸下。」
「ふっふふ。好敵手ではなく師匠とお呼びしたいくらいだ。」
「少し腕がいいくらいで私めが師匠とは恐れ多い。」
「将棋ではなく政治の話だ。今後は大監に師事して真の政治を学びたい。構わぬだろうか。」
「なぜ私を選んだのか私目に理由をうかがってよいですか?」
「父王を倒したい。」
「父王を倒すためとおっしゃいましたが力をつけたら私も狙うおつもりでは?」
「ふ・・・ふふふ。それほどの指導を?ふふふふふ。なぜです?おじけずいたのですか。私に狙われるから教えたくないと?ふふふふ。」
「そんなまさか。」
「ならば引き受けてくれるな?私こそ先生の教えに共感して、老論の君主になるかも。」
イ・ソン(思悼世子)は不敵な笑みを浮かべるとキム・テクは指を鳴らしました。
侍講院(シガンウォン)。
イ・グム(英祖)はキム・テクが世子の師になると聞いて驚きました。
「そなたのような堅物が世子に好き放題させておくのか?まさかそなたも同意のうえか?」
「無論です。王世子が政治を学ぶには経書も大切ですが領相(ヨンサン、領議政)キム・テクのような有能な高官を訪ねて教えを請うのも重要です。」
ホン・ゲヒは答えました。
「けしからん。王世子は東宮殿での謹慎を命じた!」
「私は一歩も出るなというほど謹慎が厳格なものとは思いませんでした。私は世子様が義務を果たすためならと思い領相(ヨンサン、領議政)からの受講を認めました。」
イ・グム(英祖)は怒って廊下に出ました。
侍講院(シガンウォン)の廊下。
「三年。老論の独壇場だったがその影響は恐ろしいな。あのホン・ゲヒまで老論に染まってしまった。世子は何を考えているのだ。」
イ・グム(英祖)は都承旨チェ・ジェゴンに言いました。
「私にはわかりません。」
「わかりきっている。キム・テクと手を組んで私に歯向かうつもりだろう。」
「ここは殿下がお認めになるほうが得策かと。」
「どういう意味だ。」
「世子は15歳から5年以上政務を執られました。短い期間でしたが権力の味を覚えるのに十分です。」
「だからといって私を政敵呼ばわりしおった。」
「そこなのです。政治から国本(クッポン、世子)を遠ざけたために殿下のほうから国本(クッポン、世子)を敵に回してしまったのです。ゆえに国本(クッポン、世子)も負けじと策を巡らすのです。」
「世子を今すぐ呼び戻せ。」
キム・テクの家。
イ・ソン(思悼世子)とキム・テクが庭に出るとキム・テクの孫のキム・ムンがあいさつに現れました。
「帰ったか。成均館での勉強を放り出して何の用だ?」
キム・テクは孫に言いました。
「世子邸下と大事な約束があるのです。」
キム・ムンは嬉しそうに祖父に言いました。
「私の孫まで邸下は味方につけたのですか。」
キム・テクは笑いました。
「弟子として認めてもらうためにな。皆呼んだか?行こう。ではこれで失礼します。先生。」
イ・ソン(思悼世子)はキム・ムンを連れて都城の町に繰り出しました。
キム・テクの部屋。部屋には老論(ノロン)派の重臣が集まっていました。
「大監を師匠と仰ぎ殿下を倒す道を開く。そう世子が言ったのですか?」
左議政キム・サンノは大げさにキム・テクに言いました。
「大監はどのように答えられたのですか?」
ホン・ボンハンは面白そうに言いました。
「もちろん承諾したとも。」
キム・テクは皆に言いました。
「感謝します大監。邸下には力強い援軍でしょう。はっはっは。」
世子の義父ホン・ボンハンは笑いました。
「素直に喜べません。国本(クッポン、世子)はなかなかの策士です。どんな魂胆が隠れているやら。」
戸曹判書(ホジョパンソ)ミン・ベクサンは言いました。
「お前さん戸判。ひどいではないか。」
ホン・ボンハンは息子をなじられたような気がしました。
「ひとつも魂胆がなければつまらんだろう。真面目に政治をやるやつはどうも面白みに欠ける。」
キム・テクは皆をたしなめました。
「面白い展開にいなりそうです。朝廷から少論が一掃されて今度は今上と世子の戦いです。今上を牽制し国本(クッポン、世子)を取り込めば国を根本から変えられます。君主の権力によって臣下を操る名実ともに両班士大夫(サデブ)の国が生まれるのです。大監方は嫌だといいますまい。何としても国本(クッポン、世子)がこちらにつくよう手なずけるのです。」
ホン・ゲヒは言いました。皆は頷きました。
キム・テクは鼻で笑いました。
藁ぶきの家。(見た感じイ・ジョンソンは城外に流刑に処された感じ)
「お元気そうですね。」
少論のチョ・ジホは首領のイ・ジョンソンを訪ね一緒に酒を飲んでいました。
「世の中のことはすべて忘れてのんびりしているからな。都城からいい知らせでもあるのか?」
「もどかしい知らせばかりで言いづらいです大監。」
「悪い知らせか?」
「世子が領相(ヨンサン、領議政)キム・テクの家に通ってます。世渡りのすべを身に着けたのでは?力のある臣下と対決しても道が開けないから寝返ったのでは?」
「私だけでも世子様を守ろうとこうして生き残ったが屈辱に耐えがたい。はっはっはっはっは。」
ウンシムの妓房。
世子は両班の若者を引き連れ妓生を呼び宴を開いていました。すると勢いよく扉が開き都承旨チェ・ジェゴンが現れました。
「政治を勉強中では?」
「勉強はもう終わった。今は朝鮮の礼楽について論じていた。そうだろみんな?」
世子が言うと両班の若者たちは笑いました。
「紹介しよう。都承旨チェ・ジェゴン令監(ヨンガム、従二品と正三品への尊称)だ。彼らは将来私の支えとなってくれる老論の銘家の息子たちだ。そなたも座れ。礼楽の将来像について語ろうではないか。」
「せっかくですが私は邸下と無駄話するほど暇ではありません。」
「帰りたければ帰れ。我らは来るもの拒み去るもの追わずだ。」
「殿下がお呼びです。お戻りください。」
「朝鮮の未来の礼楽を語り合ってる途中だ。話し合いが済んだら王宮に戻るから、父上によろしく伝えてくれ。」
イ・ソン(思悼世子)は銅器で酒を飲みました。
妓房の庭。
チェ・ジェゴンは待機しているミン・ウソプに世子はしょっちゅうここに来るのか尋ねました。ミン・ウソプはその通りで世子を止めることは無理だと言いました。
妓房の部屋。
世子は邪魔が入ったと謝りました。
「おい行首(ウンシム)。楽器のうまい娘が入っただろ。呼んで弾かせて楽しませてくれ。」
「その娘は床をともにしません。楽器を弾くだけです。」
ウンシムは答えました。
「もったいぶりおって。どんな妓生か見てやる。」
キム・ムは扉をあけました。
妓生となったソ・ジダムが現れました。
妓房の個室。
世子はソ・ジダムを部屋に呼びました。
「無事だったのか?」
「私に何をお望みですか?」
「チダム・・・。」
「源氏名でお呼びください。氷愛(ピエ)・・・。真実がすべてと思っていたチダムは三年前に死にました。ほかにも死んだ者がいるようですね。民と自分の命は同等に扱うべきだ。そう熱弁された邸下もこの世にいないようです。生きていれば老論の息子と妓楼で暇をつぶす時間はないはずですから。私に何をお望みですか?お望みなら床の相手をいたします。」
ソ・ジダムは上着の紐をほどこうとしました。
「何をする・・・。」
イ・ソン(思悼世子)はチダムの手を止めました。
「済ませるなら早く済ませてください。」
ソ・ジダムはイ・ソン(思悼世子)を恨めしそうに睨みました。
「すまない・・・。日を改める。」
イ・ソン(思悼世子)は部屋を出ました。
妓房の庭。
世子とミン・ウソプとウンシムは話し合っていました。
「あの娘をここに置くのは危険なのでは?」
世子はウンシムに言いました。
「邸下が知らぬふりをしてくだされば問題ありません媽媽。」
「私に手伝えることがあれば・・・。ここに連絡をくれ。」
「わかりました。」
世子とミン・ウソプが帰るとキム・ムが現れてあの妓女(キニョ、妓生の女)は世子と窮地の仲だろうと言いました。
都城の町の一角。
黒い編み笠を被った男二人が倉庫に入り小さな戸をたたきました。人と人とが会話できるくらいの引き戸が開き、中にいる書士が返事をしました。編み笠の男は「西域討伐について皇帝の動きはどうだ」と清国に行っていたという書士に尋ねました。書士は討伐対象を拡げるおそれがあると地図と本と洋書を渡しました。男はこの本も頼むと書士に注文票を渡して帰ろうとしました。
「ところで、なぜそのような本を多くお求めで?」
「趣味だ。退屈しのぎで呼んでいる。」
イ・ソン(思悼世子)は書士に答えました。書士は嬉しそうな顔をしてナ・チョルチュに教えました。
ナ・チョルチュの家。
「逆賊の書物ともいえる鄭鑑録(チョンガムノク)と南師古秘訣(予言書)。士農工商は役割は違っても身分は平等だと記した清の明夷待訪録。西洋の書物から清の地図まで関心が多岐にわたっている。理由を聞いてみたか?」
「理由を聞いたら趣味だ。退屈しのぎに読んでいる。そう答えました。」
「趣味か。難解なうえに危険な書物を趣味で読むはずがない。我々と同じ夢を見ているのかもしれんな。この世の中を変えるという夢を。」
夜の王の謁見の間。
「いつか私が王位に就くと。だから世子の奴はキム・テクにくっついて私を倒す方法を学んでいるのであろう。キム・テクはもとより重臣の奴らをどのように負かすか考えんとな。おい都承旨。よい考えはないか。」
「ありません。三年前パク・ムンス大監ら少論の重臣を朝廷から一掃した時、殿下はこの事態を覚悟なさるべきでした。牽制する者がいなければ老論の暴走を止めることはできません。」
「私が墓穴を掘ったというのか?けしからん物言いだ。」
「王様の命令となればいつでも職を辞し都を去ります。」
「いや。その実直さが気に入った。失う物がない者のまっすぐな心だ。」
「恐れ入ります。」
「言いたいことを続けよ。」
「殿下の言動には同意できない点もありますが政治力と多くの実績は尊敬しております。殿下が正しい理念を示せば慕う者はいます。殿下がかつで掲げた尊い理念をお忘れですか?蕩平(タンピョン)策(各派閥に均等に人事を割り振る策)に込められた理念です。生き延びた少論を呼び戻して蕩平(タンピョン、不偏不党)の世論の朝廷を築き上げるべきでは?」
チェ・ジェゴンは王の目を見て言いました。
「蕩平(タンピョン)・・・蕩平(タンピョン)か・・・・。」
真夜中の王宮の一室。
世子は内官チャン・ホンギに秘密の扉を開けさせて隠し部屋に入ると昼間買った本を収納しました。部屋を囲むように書棚や引き出しが配置されており秘密の書物で溢れていました。チャン・ホンギは世子が扉の向こうに行くとすぐに屏風を立てかけて秘密の扉を隠しました。
「この部屋ができて二年になります。」
ミン・ウソプは世子に言いました。
「あの刺客のおかげだ。あの刺客にはひざまずいて礼を言いたい。刺客が東宮殿に火を放ったから改築されることになったのだ。おかげでこの書庫も作れた。王宮内で書物を隠し持つのは難しいがここは格好の隠し場所だ。」
世子は本を積み重ねました。
「鄭鑑録(チョンガムノク)と南師古秘訣(ナムサゴビギョル)は王室を否定する書物です。なぜ熱心にお読みになるのですか?」
「それが民心だからだ。いくら耳の痛い内容でも民心の本音を聴かねば。」
夜の都城。
ソ・ジダムは頭に上着を被りどこかへ出かけました。元従事官のピョン・ジョンインはその様子を見張っていました。
ナ・チョルチュの家。
ソ・ジダムはナ・チョルチュに会いました。
「世子に会った?」
「はい。」
「そうか。これからどうしたい?」
「次の段階に進みます。」
「間違えばお前の命も危ない。」
「構わず決行を。世子をこの目で見て一層決意を固めました。私がやられた以上のことを王室に仕返しできるならこの命など惜しくありません。」
復讐心に燃えるソ・ジダムに以前のような無邪気な愛らしさはありませんでした。
王の部屋。
チェ・ジェゴンは清国の使臣団が朝鮮の国境を越えたと報告しました。
世子の部屋。
イ・ソン(思悼世子)も清の使臣団がピョンヤン(平壌)を過ぎてケソン(開城)に向かっているという知らせをミン・ウソプから受けました。
清の漁船を朝鮮の水軍が攻撃したと言いがかりをつけてきたのでした。
「これは危機だ。だが大きな危機は好機でもある。臣下を便殿に集めよ。」
イ・グム(英祖)は喜びました。
便殿(宣政殿(ソンンジョンジョン))。
「これは一体どういうことだ!黄海道(ファンヘド)付近で操業していた清国の漁船に我が水軍が攻撃した!今回の攻撃は清国に対する挑発だと向こうはいきり立っている。これを口実に清国が戦をしかけてきたらどうするのだ。兵判が責任をとるのか?礼曹で情報は?そなたらは一体何をしておった!私のすることにケチをつける以外に、何もしておらぬではないか!そなたらに政治は任せておけん!都承旨。礼曹へ行って少論で使えそうな奴の経歴書を持ってこい。」
イ・グム(英祖)は釈明するホン・ゲヒとホン・ボンハンを責め立てました。老論の重臣たちは少論と聞いて顔を上げました。
「殿下。」
「この人事に反対する者は朝鮮を戦に追い込む逆賊とみなして私が首を斬ってやる。」
「少論を呼び戻せば解決するとお思いですか?」
キム・テクは発言しました。
「無能なそなたたちを補うため少論を呼ぶのだ。清の件はまた別の話だ。」
「ならば・・・。」
「この問題は国本(クッポン、世子)に解決させる!」
イ・グム(英祖)が断言すると重臣たちは皆口を半開きにしてあっけに取られました。
王の謁見の間。
イ・グム(英祖)は世子を呼びました。
「お呼びですか?」
「なぜキム・テクを師匠にしたのだ?将来王位に就くことに備えて教えを請うだけなのか?キムj・テクを利用して代理聴政(テリチョンジョン、王の代わりに政務を行うこと)の機会を得たいのか?機会を与えてやろうと考えている。もう一度尋ねよう。政治に復帰するつもりはあるのか?」
「私はあります。」
「ならば、これを解決せよ。どんな方法を使ってでも清国の使臣を説得せよ。戦を起こす名分を与えるな。朝鮮の国益を守れ。わかったな?この問題を円満に解決できれば何も言わず代理聴政(テリチョンジョン、王の代わりに政務を行うこと)を認めてやろう。だが失敗したら、世子の座を降りる覚悟をせよ。どうする。」
イ・グム(英祖)は顎で問いました。
「引き受けます。」
イ・ソン(思悼世子)は言いました。
感想
なんと世子イ・ソン(思悼世子)は大一統会猛毅(テイルトンフェメンイ)という少論が消されるほどの紙切れを燃やしてしまいました。建前では正々堂々と父に挑戦すると言っていましたがイ・ソン(思悼世子)の中に、これ以上の犠牲者は出したくないという思いと私は受け取りましたがみなさんはどう思われましたか?英祖の心にはこれっぽっちも思悼世子に対する愛情がないのでしょうか。このドラマでは冷たい父親として、狂人として英祖が描かれていますね。そしてかわいいイ・サン登場!イ・サンのためならお父ちゃんはなんだってやるぞ!?悪に染まったふりをするぞ!と思悼世子は覚悟したようですね。ミン・ウソプは思悼世子と行動をともにして秘密を守っていますからイ・ソン(思悼世子)にとってチャン・ホンギの次に頼れる臣下といえましょう。そしてソ・ジダムが妓生になって隠れて?世子と再会しました。ジダムは氷愛(ピエ)という芸名で朝鮮の伝統である「復讐心」に燃えているようですね。やだわ、ジダムちゃんだけはそんな悪い心に染まって欲しくなかったのに!ジダムも自分を汚し(あちらの文化では復讐は清く正しいことなのでしょうが)て生きています。でも妙ですね、ジダムの役割はやっぱりロリコン系のお色気担当っぽい!?まあいやらしい!あたくし、そういうところが嫌いなんですよね・・・韓ドラってすぐに自分を貶める悪キャラになって登場人物の魅力がなくなってしまうじゃないですか。最初は清い人なのに悪い出来事があって悪人になって再登場して汚い手を使って復讐することが正しいと表現するお決まりのパターン。せっかく民は平等だのと当時のアジアにはないヨーロッパの古代からある思想に希望を抱いたのに自分で自分を貶めてどーする世子もジダムちゃんも!そこはやっぱり朝鮮独特の屈曲した思考パターンだからそうなっちゃうのかな!それはそうと、嬪宮(ピングン)ホン氏を演じているパク・ウンビンさんはなんと「ホジュン」でイ・ダヒというホ・ジュンの甲斐甲斐しい妻を演じていた女性なんですよ!全然気づかなかった~。と思ったらリメイク版の「ホジュン」だったのね。パク・ムンスもなぜか座ったまま死んじゃったし、これからどーなるの!
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