秘密の扉23話
目次
あらすじ 暴かれた書斎(ソジェ)
世子は温泉に療養に行かずにミン・ウソプとともに雪の積もる山岳を馬で走っていました。
英祖はホン・ゲヒから世子が湯治へ行く行列の輿の中におらず逆徒を救いに行ったと報告を受けました。
王の謁見の間。
「世子は逆徒を救いに行ったのでは?」
兵曹判書ホン・ゲヒはイ・グム(英祖)に言いました。
「何を根拠にそのようなことを言う。」
英祖は言いました。
「国本(クッポン、世子)のことはホン・ボンハンから得ました。」
「ホン・ボンハンはどこにいる?」
「殿下と朝鮮朝臣に知られる前に国本(クッポン、世子)が育てた逆賊を消すつもりです。」
「・・・・・・・。」
英祖も尚膳キム・ジョンイクも固まって震えました。
平安道(ピョンアンド)の監営(カミョン)。
「まだ逆徒の居場所がわからぬだと?」
ホン・ボンハンは監司(カムサ)のチョン・フィリョンに怒鳴りました。
「昼夜を問わず逆徒を捜索していますゆえ・・・。」
「西三峰(ソサムボン)に絞って捜索しよう。そこで怪しい動きがあったのではありませんか?」
ホン・ボンハンは怒りと焦りで震えました。
「わかりました。」
王宮。
チョ・ジェホとチャン・ホンギは縄で縛られました。
「世子が、関西に書斎(ソジェ)を作ったのか?世子が自らの手で平民と賤民、逆徒の子孫まで集めて育成しているそうだな。謀反を起こす気か。」
英祖は二人に言いました。
「書斎(ソジェ)の目的は謀反ではありません。」
チョ・ジェホは答えました。
「違うなら何の目的で書斎(ソジェ)にそんな奴らを集めて何をしているのだ。」
「人材を育てています。」
「逆心を抱いた人材を育てて何をするつもりだ。」
「殿下。国本(クッポン、世子)のお志を誤解なさってはなりませ・・・。」
「黙らぬか!世子は逆賊を集めて危ない橋を渡ったのだ。それを知りながらなぜ止めなかった。仇討ちか?世子を抱き込み死んだ少論の者の仇を討とうとしたのか?」
「ちがいます殿下。」
「話は終わりだ!今すぐこやつらを投獄せよ!」
英祖は言い終わると姿を消しました。
「禁府都事(クンブトサ)。」
チョ・ジェホはしばし待つように頼みチェ尚宮とソ・ジダムの前に行きました。
「関西に関わったのは私とチャン内官だけ、そういう事にしろ。」
「しかし大監。」
「大事になるのは間違いない。皆殺しにされるやもしれぬ。関係者を最小限にし一人でも生き延びて、邸下をお助けせねばならん。」
老論の会議室。
「チョ・ジェホが投獄された?あとは世子を捕らえるだけですな。」
領議政キム・サンノはホン・ゲヒに言いました。
「すぐに兵を率いて関西へ行き国本(クッポン、世子)と逆徒もろとも捕らえれば片が付きます。」
ホン・ゲヒは答えました。
「ならばすぐに殿下に進言しろ。」
キム・サンノは言いました。
「殿下は全貌が明らかになるまで待てと仰せです。」
ホン・ゲヒは言いました。
「ああ、それは困る。急がねば逃げられてしまう。」
キム・サンノは大きな声で言いました。府院君キム・ハングは黙って二人の会話を聞いていました。
東宮殿。
「邸下はどうして関西に行かれたのだ。」
都承旨チェ・ジェゴンはチェ尚宮とソ・ジダムに言いました。
「邸下は大監に書斎(ソジェ)の件は知らなかったことにせよとおっしゃいました。」
「どういう意味だ?」
「わかりませぬか。」
チェ尚宮とソ・ジダムは部屋に上がりました。
東宮殿の世子の部屋。
「見つかると困る書物が多すぎます。」
ソ・ジダムは本を片付けながらチェ尚宮に言いました。
「これだけでも隠してあとは祈るしかない。」
チェ尚宮は扉の外に二つの風呂敷に包んだ本を投げました。尚宮は風呂敷の包みを拾って隠しました。
東宮殿の廊下。
「尚膳がこちらにどのような御用ですか。」
チェ尚宮はキム・ジョンイクに言いました。
「調べよ。」
尚膳は武官に命じました。
嬪宮の部屋。
「私の部屋に隠してよかったのかしら?」
嬪宮ホン氏は包みを前に尚宮に言いました。
東宮殿の廊下。
「何も見つかりません。」
武官はキム・ソンイクに言いました。
「そんなはずは!」
キム・ソンイクはチェ尚宮を見ました。
「尚膳旦那様、尚膳旦那様、怪しい通路を発見しました。」
どこかから武官の声がしました。
秘密の扉の前。
尚膳は世子の隠し部屋を王に報告しました。
秘密の部屋。
「ここは何をするための部屋だ。どうしてこんな部屋を作った。私の質問に答えろ。」
英祖はチェ尚宮に言いました。
「静かに書物を読み研究をなさる場所が要ると。」
チェ尚宮は答えました。
「父親を裏切り国を潰す研究か!」
英祖は怒鳴りました。
「いいえ違います殿下。」
「違うなら!こんな怪しげな危険な書物をなぜ集めた。こんな書物を読み何をしておったのだ!」
夜の王の謁見の間。
「官軍を率いて関西へ行け。そこで書斎(ソジェ)の実態を調べ世子を捕まえて来い。」
英祖はホン・ゲヒを部屋に呼びました。
「身命を賭して王命を遂行したします!」
ホン・ゲヒはやる気いっぱいに頭を下げました。
平安道(ピョンアンド)の書斎(ソジェ)。
ホン・ボンハンとチョン・フィリャン率いる赤い服を着た武官たちが書斎(ソジェ)に到着しました。
「ここに何の用ですか。」
ミン・べクサンは二人を出迎えました。
「大監がなぜここに?」
ホン・ボンハンは不思議そうにしました。
「学びの場である書斎(ソジェ)に乱入するとは何事ですか。」
ミン・ベクサンは言いました。
「なるほど。大監は首謀者だな。」
「お前さん失敬だぞ府院君!」
「者ども!逆徒を捕らえよ!」
ホン・ボンハンが命じました。
「はい!」
兵士がミン・ベクサンを引っ張りました。
「師匠!師匠!」
弟子の民たちは動揺しました。
「すぐに部隊を呼べ。」
ナ・チョルチュはピョン・ジョンインに命じました。
「やめよ!」
世子の声がして皆は動きを止めました。
「なぜ邸下が・・・。」
ホン・ボンハンは戸惑いました。
「ここで何をしているのですか!」
イ・ソン(思悼世子)はホン・ボンハンに言いました。
「邸下はお控えください。」
ホン・ボンハンは懇願しました。
「監司(カムサ)はいるか。」
イ・ソン(思悼世子)はチョン・フィリャンを呼びました。
「はい邸下。」
「すぐに討伐を中止し兵を引き上げよ。」
「しかし邸下。こいつらは逆徒でございます。」
「では私も逆徒だと?」
「邸下。そんなつもりは。」
「私が書斎(ソジェ)を作ったのだ。」
「邸下・・・。」
ホン・ボンハンはチャン・フィリョンと顔を見合わせました。
「私はこの国朝鮮の王世子だ。その私が逆徒を育てると思うか?話にならぬではないか。すぐに兵を引き上げるのだ。」
「わかりました。行くぞ!」
チャン・フィリョンは兵士を連れて帰りました。
「はい!」
「邸下。邸下。」
ホン・ボンハンは世子の後を追いました。
「私を助けるためですか。私を助けるためならほかの者は皆殺しにしてもよいと思ったのですか?」
イ・ソン(思悼世子)は足を止めてホン・ボンハンに声を震わせて言いました。
「いいえと言ってほしいですか?」
「私にその問に答えろというのですか?」
「なぜ邸下は問題ばかり起こすのですか。」
「どうして書斎(ソジェ)を知ったのだ。」
「東宮殿の地下書庫を世子嬪様が・・・。我々の嬪宮媽媽はいつも邸下の心配をなさっています。心休まる時がないのです。」
「義父上と嬪宮以外に書斎(ソジェ)について知っている者は誰ですか?」
「なぜお聞きになるのですか。」
「何者かが私のこの触書を東宮殿に投げ入れたのだ。」
世子は当初を見せました。ホン・ボンハンは触書を読みました。
「つまり関西まで来て触書を入手した者がいると?邸下のお作りになった書斎(ソジェ)を知り私はもみ消そうと動きましたが何者かがその情報を得たのかもしれません。邸下に罠を仕掛けたのです。つまりこれは、老論の策略です。ですが推測通り老論の罠だったら邸下が関西へ来てよかったのかもしれません。」
「どういうことですか?」
「邸下が逆徒を討てとすぐにご命令になるのです。」
「義父上!」
「今回ばかりは邸下に譲れません。言う通りにしていただかねば地位を守れません。」
「民を殺して得る権力に何の価値があるというのです!」
「では、世孫媽媽と嬪宮媽媽がどうなっても構わぬというのですか!」
「書斎(ソジェ)は私が何とかする。」
「しかし邸下!!」
「静かに事を進めるゆえ・・・。」
「もう逆徒を殺すしかないのですー!」
「おやめください義父上。もう説得に応じるつもりはありません。」
「・・・・・・。後悔なさいますよ。人情にとらわれ私の忠告を聞かなかったことを、死ぬほど後悔する日が、来るでしょう。」
ホン・ボンハンは立ち去りました。
世子はうっすらと目に涙を浮かべました。
書斎(ソジェ)。
「老論に書斎(ソジェ)の情報が漏れたようだ。」
イ・ソン(思悼世子)はミン・ベクサンとナ・チョルチュとピョン・ジョンインに言いました。
「大きな騒ぎとなるでしょう。」
ミン・ベクサンは言いました。
「私は都城に戻り解決に努める。だが万一に備えて、書斎(ソジェ)の者を避難させてほしい。すまない。難しい頼み事ばかりして。」
イ・ソン(思悼世子)は言いました。
「いいえ。何とかしましょう。」
ナ・チョルチュは言いました。
「頼んだぞ。」
イ・ソン(思悼世子)は言いました。
「私も、都城へ戻りましょうか。殿下に一部始終をご説明し・・・。」
ミン・ベクサンは言いました。
「いや。私が父上に説明する。」
イ・ソン(思悼世子)は言いました。
「邸下をお守りしろ。」
ミン・ベクサンは息子に言いました。
「はい。父上。」
ミン・ウソプは父に言いました。
「今度会うときまでどうか無事でいてくれ。後を頼む。」
イ・ソン(思悼世子)は皆に言いました。
平安道(ピョンアンド)の監営(カミョン)。
ホン・ゲヒが到着しました。
「それで、討伐をやめたのか!」
ホン・ゲヒはチョン・フィリャンに怒鳴りました。
「邸下のご命令なので逆らえません。」
「すぐに書斎(ソジェ)に案内しろ!」
書斎(ソジェ)。
「お急ぎを。タルソンがご案内します。」
ナ・チョルチュはミン・ベクサンと門下生に言いました。
「チョルチュ旦那様、たいへんです。兵判が官軍を率いて討伐にやってきます。」
ピョン・ジョンインは報告しました。
「ホン・ゲヒが自ら?」
ミン・ベクサンは驚きました。
「部隊を呼べ。」
ナ・チョルチュはピョン・ジョンインに命じました。
「部隊だと?」
ミン・ベクサンはさらに驚きました。ピョン・ジョンイは笛を吹きました。
書斎(ソジェ)へと向かう道。
「何の音だ。すぐに調べろ。」
ホン・ゲヒは笛の根を聞きました。
すると弓矢が飛んできました。
「奇襲だ!散らばれ!」
ホン・ゲヒは軍隊に命じました。
ミン・ベクサンたちは雪の積もる山道を歩いていると弓矢が飛んできてチャン・ドンギがミン・ベクサンをかばって弓を受けました。
夜になりました。
「代わります。」
「ドンギは私が連れていく。そなたは・・・・。」
ミン・ベクサンは交代しようとするナ・チョルチュに言いました。
「俺はもうダメです。俺を置いて、早く逃げてください。」
チャン・ドンギは息絶えようとしていました。
「そんなことを言わずに立て。必ず助かる。」
ミン・ベクサンは瀕死のチャン・ドンギを励ましました。
「師匠は、嘘が上手になりましたね。」
「愚か者め。」
「師匠。俺たちは、何か・・・悪いことをしたのでしょうか。俺たちは、かなわぬ夢を、見てたのでしょうか。はあ・・・はあ・・・はあ・・・・・・・・・・。」
ミン・ベクサンの手を繋いでいたチャン・ドンギの手から力が抜けました。
王の謁見の間。
イ・ソン(思悼世子)は英祖の前に現れました。
「長旅から戻り、疲れているだろうに、何のために来たのだ。」
「お話しがございます。」
「ひとつだけ聞く。書斎(ソジェ)というのは平民や賤民、逆徒の子孫が集まる場所だそうだな。ソンお前が作ったのか?」
「そうです。」
「そうかわかった。下がって休め。」
「しかし。」
「私は、何も聞くことはない。」
英祖は王座の階段を下りました。
「父上。」
「なあ我々が言葉を交わして何になる?何も変わらんだろう。いくら話し合ってもお前は考えを断ち切れぬし私の思いも変わらぬ。尚膳。尚膳はいるか。」
「はい殿下。」
キム・ジョンイクが入ってきました。
「すぐに住まいを喜煕宮(キョンヒグン)へ移せ。」
「喜煕宮(キョンヒグン)とはどうして?」
キム・ジョンイクは王に言いました。
「考えたいことがある。ここは塀のすぐ無効に世子の息遣いが聞こえる。ここにいては、冷静に考えられそうにない。」
雪の降る日中の王宮の楼閣。
「この年まで、生き残ってしまったことが、恨めしい。こんなことなら、ソンの考えを知る前に死にたかった。早くに死ねていたら、どんなによかったか。」
英祖は尚膳に言いました。
ある日の王の部屋。
「そこだ。そこがよい。肩を揉むのがうまくなったな。もうよい。」
英祖は嬉しそうに自分の肩を揉んでいるイ・サンに言いました。嬪宮ホン氏は静かに見守っていました。
「いいえおじいさま。」
「いいから座りなさい。」
「おじいさま。どうしても喜煕宮(キョンヒグン)へ行くのですか?」
「なぜ聞く。」
「近ければすぐにおじいさまにお会いできます。肩を揉んで差し上げたり経書を教えていただけます。」
「今回も、お前の母上に頼まれて来たのだな?」
「母上のご心配も本心ですが、おじいさまの近くにいたいというのも私の本心です。」
イ・サンは聡明さを見せました。
「・・・。」
英祖はイ・サンの手を握りました。
「おじいさま。」
「そなたは少し外で待っててくれ。私は、お前のお母さんに話がある。よし。」
イ・サンは立ち上がると祖父に礼をして退室しました。
「子を利用して悪あがきするな。あがいて得られるものは、何もない。」
英祖は嬪宮に言いました。
「お義父様・・・。」
「帰れ。」
嬪宮ホン氏は気を落として王の寝殿の階段を降りました。
イ・サンは心配そうに母を見ました。
すると貞純王后キム氏が現れました。
「突然宮殿をお移しになると聞き心配で来ました。どういうことですか。世子はあまりに無分別です。嬪宮と世孫が苦労ばかりしているではありませんか。」
貞純王后キム氏は嬪宮ホン氏に言うとイ・サンの手を握りました。
「強くならなければなりませんよ。何が起こっても勇気を失わないで世孫。」
「はい。おばあさま。」
イ・サンはいつもより暗い表情で祖母に答えました。
王妃の部屋。
「はっはっはっは。あとは男子をお産みになれば安泰ですな。何しろ世子が瀕死の状態です。はっはっは。」
キム・サンノは王妃に言いました。
「そうです。そうですとも。はっはっはっは。」
府院君キム・ハングも喜びました。
王妃も満足そうに微笑みました。
夕方の東宮殿の庭。
「父上!」
イ・サンは父のもとに駆け寄りました。
「キム尚宮。世孫を部屋の中に連れて行って。」
嬪宮ホン氏は尚宮に命じました。
「はい媽媽。」
イ・サンは心配そうに振り返りました。
「母上・・・。」
「早く部屋に入りなさい。」
嬪宮が言うとイ・サンは父に礼をして部屋に入りました。
「邸下はすぐにお帰りいただけませんか。世孫にどのような合わせるお顔があるというのですか。子を顧みない父親に、一緒に過ごす資格はありません!ゆえに帰ってください、すぐに!」
嬪宮ホン氏はサンのために世子に見切りを付けていました。
イ・サンの部屋。
イ・ソン(思悼世子)は部屋に入るとイ・サンが勉強していました。
「父上。」
「ああ。」
「分別ある行動とはどのようなものですか。父上は、とても慎重なお方です。父上は私に対して温かく接してくださるのに、どうして世の皆は・・・。」
イ・サンは深い悲しみに本を見つめながら泣き出しました。
「すまないサンよ。すまない父親だ。世の期待に答える生き方が私にできぬせいだ。わが子を傷つけてしまう父親ですまない。」
イ・ソン(思悼世子)はサンを抱きしめ謝りました。
日中の平安道(ピョンアンド)監営(カミョン)の執務室。
「世子が書いた手紙だ。証拠を掴んだぞ。世子が関西で逆徒を育てていた証拠が。」
鎧を着たホン・ゲヒは文書を読み喜びました。
義禁府(ウィグムブ)の牢獄。
イ・ソン(思悼世子)はチョ・ジェホに会いに来ました。
「大監・・・。」
「邸下。殿下が激怒しておられるのになぜおいでになられたのですか。」
チョ・ジェホは世子に向かって正座したまま言いました。
「逆徒をかばいに来られたのか。」
罪人を連行してきたホン・ゲヒは世子に言いました。
「そなたたちは・・・。どういうことだ。説明しろ。書斎(ソジェ)に何をしたのだ。」
世子は門下生が縛られていることに気づきました。書斎(ソジェ)の門下生は世子に頭を下げました。
「邸下がお育てになった逆徒を捕らえました。」
「逆徒だと?」
「危険な思想を抱き兵士まで養成して立派な逆徒ではありませんか。」
「兵士の養成だと?」
「邸下の、お手元金が使われていました。何をしている、すぐに罪人を牢に入れよ。」
ホン・ゲヒは部下に命じました。
「はい!」
ホン・ゲヒは兵士に門下生を投獄させて去りました。
「何があったのだ。」
イ・ソン(思悼世子)は縛られているイ・ダルソンに尋ねました。
「官軍が、書斎(ソジェ)に攻めてきて・・・。」
「他の者はどうなったのだ!」
世子は声を荒げました。チャン・ホンギは牢の格子を掴み身を乗り出しました。
「ほとんどが死に・・・。」
「死んだって誰がです?私を知ってるでしょう?チャン・ドンギ。私の弟のチャン・ドンギを知ってるでしょう?弟のことじゃないですよね?無事ですよね?」
チャン・ホンギはイ・ダルソンに言いました。
「くっ・・・。あっ・・・・・・。」
イ・ダルソンは泣きました。
「邸下。邸下どうかわたしを。邸下。どうかわたしをここから出してください。ドンギを助けに行かないと邸下。ドンギを助けに行かせてください。お願いですからここから出して・・・・。」
チャン・ドンギは泣きました。
イ・ソン(思悼世子)とミン・ウソプは悲痛な面持ちで黙っていました。
イ・グム(英祖)の部屋。
「兵が、書斎(ソジェ)で兵が、養成された?しかも世子が送った金で?」
イ・グム(英祖)は上疏文を読みました。
「世子がナ団長に送った書状です。」
尚膳は文書を見せました。
「ナ団長?」
イ・グム(英祖)は文書をくしゃくしゃに握りました。
「殿下の暗殺計画の首謀者かと思います。」
キム・ジョンイクは答えました。
「う~ん。世子は、どこにいる。すぐに連れて来い。」
「はい殿下。」
キム・ジョンイクは世子を呼びに行きました。
イ・グム(英祖)は経机をひっくり返しました。
王宮の一角、弓の練習場。
イ・グム(英祖)は弓を射っていました。イ・ソン(思悼世子)は現れました。
「お話しがあります。」
イ・ソン(思悼世子)は静かに父に言いました。
「その前に私の問題に答えろ。ナ団長を?お前はナ団長を知っているな?」
イ・グム(英祖)は怒りながら弓を放ちました。
「知っています。」
「この国の、君主である私を、この国の君主を暗殺しようとしたのか?早く答えろ。」
「おそらく、そう思います。」
「いっ。」
イ・グム(英祖)は息子に矢を向けました。
「そんな奴に、お前が金を渡したのか?お前は、貴様はそれでも私の息子か?なぜだ。どうしてそんな輩を集めた。国に不満を持つ者を集めると、逆徒になることを知らなかったのか?」
イ・グム(英祖)は右手でイ・ソン(思悼世子)の首を絞めました。
「逆徒でなく民です。民だから集まるのです。君主の声はいくら小さくても世の中に響きます。しかし民の声はいくら大きくても世の中に響きません。だからこそ集まるのです。皆が集まり世の中に声を上げなければ誰も耳を貸してくれぬからです。私は、彼らの声に耳を傾けただけです。」
「それで、それでお前は何を得られたのだ。お前が送った手元金で奴らは兵士を養成し謀反を企てた。」
「生きるための防御は反逆ではありません。官軍が攻めてきたから武器を取っただけです。」
「武器があること自体が問題なのだ。軍隊は、民が勝手に作れるものではない!君主の軍隊は私の国を守るためのものだが、民が勝手に作った軍隊は、王室と朝廷を攻撃するためのものだ!貴様、なぜそれがわからぬ。」
「だから民の声を聴くのです。民の怒りの根底にあるものを、王は聞いて知るべきです。民のかわりに寄り添って考え、かわりに希望を与えれば、民は進んで武器を捨てるからです。」
「どこまでも純粋な奴め。いつまでそんな妄想にとらわれているのだ。妄想より目の前の現実を見ろ。現実はどうなっている?その純粋さが仇となり逆徒に手元金が渡り、軍隊が養成された!挙句の果てに、そいつらが王室に刃向かったのだぞ。よいか、聞け。このソンの手、国本(クッポン、世子)ソンの手で自ら逆徒を育てたのだ。そして世の中の明るみに出てしまった!その罪を、私は軽く受け止めることはできぬ。内禁衛将(ネグミジャン)!今すぐ世子を東宮殿に幽閉しろ。」
王の部屋。
「幽閉ですと。甘すぎます。お手元金で軍隊を養成したのですぞ!目的は決まってます。武力で殿下を倒すことです!この国の平民のための朝鮮を作るために。」
領議政キム・サンノは老論の重臣を何人も率いて英祖に直訴しました。
「そうです殿下。国本(クッポン、世子)は逆賊を育てた張本人です。」
ホン・ゲヒも世子を追撃しました。
ホン・ボンハンは渋い表情で話を聞いていました。
「逆徒を育てたのに世子を幽閉にとどめろとは甘すぎると思いませんか?」
キム・サンノは言いました。
「そうでございます。殿下。謀反は死罪に問うべきです。」
府院君キム・ハングがとどめを刺しました。
「やめろ!!!!!」
イ・グム(英祖)は狭い部屋で老論の重臣たちに向かって叫びました。
「殿下。」
ホン・ゲヒは英祖の罵声を非難しました。
「そなたたちの望みは何だ。余に、余に一体何をしろというのだ。」
英祖は吠えました。
「逆徒の裁き方をお知りでないのですか!?」
キム・サンノはとぼけたように大きな声で言いました。
「殿下はすでにご存じのはずです。逆徒どもの裁き方を。殿下がいつも逆徒を処罰する方法で行えばよいのです。」
ホン・ゲヒは言いました。
平安道(ピョンアンド)の山中。
「まず、命を落とした同志に黙とうを。」
ナ・チョルチュは武装させた兵士に言いました。剣を携えた黒装束の数十名の刺客たちはしばらく目を閉じました。
「関西と都の同志たちに連絡を出せ。我ら鳴砂団(ミョンサダン)は都に進撃し今上を殺し、新しい世の中を、新しい世の中を開く。」
ナ・チョルチュは皆に命じました。
王宮の一角。
英祖はチェ・ジェゴンを待っていました。
「お呼びでしょうか。」
しばらくしてチェ・ジェゴンが現れました。
「世子が兵士を、養成したと思うか?兵士を養成して、私を殺し、王座を奪えると思うか?」
「たぶん、殿下は答えをご存知でしょう。」
「なぜ余がわが子の心を知っていると言える。余があの子の父親だからか?息子を信じろと?この問題が他の事なら息子を信じた。しかし今回は王座がかかっている。権力を奪うか奪われるかの問題だ。人は権力を手に入れるためなら自分の親兄弟だろうがわが子だろうが切り捨てられるのだ。余は。余は身に染みて知っている。」
秘密の部屋。
イ・ソン(思悼世子)は傷ついた様子で部屋を見まわ涙を浮かべました。様々な本が片付けられぬまま散らばっていました。イ・ソン(思悼世子)は「天主教義」などの本を手に取りました。
「そのような雑書は、読むべきではなかった。隠れて読まなければならないような書物に興味を持ったのが間違いだ。民を大切に思う、その気持ちは分かる。それが、この国朝鮮の秩序を乱さぬ程度なら問題にならなかった。お前も、地位を失わずに済んだ。ソンよ。世継ぎの地位から降りよ。進んで廃位を決め都城から離れろ。」
英祖が現れイ・ソン(思悼世子)に言いました。
「それはできません。私は自分の罪が何かわからぬからです。私に逆徒の烙印を押して民を苦しめた者たち、奴らを相手に最後まで戦います。」
イ・ソン(思悼世子)は父をまっすぐ見つめて言いました。
感想
いよいよ明日は最終回!?ミン・ベクサンはすっかりいい人になってしまいましたね。まるで「朝鮮ガンマン」みたいな温和な役柄です。あの俳優さんオム・ソヒョプは現代劇で悪役だったりろくでなしのイメージが強いのですがw英祖の役どころも微妙ですね、前半では思悼世子を敵対視して死んでもいいみたいに狂気じみて演じていたはずが、終盤では父親らしく振舞ったり人が変わったかのようですね。嬪宮ホン氏とホン・ボンハンが世子を守るために選んだ王妃、貞純王后キム氏が嬪宮と世孫に牙をむき始めました。ホン氏の人選は後で思えばイ・ソンを滅ぼす方向に行ってますから間違っていましたね。人間らしさや優しさや愛、そういったものを捨ててでも守りたい理由はただ一つ、自分の欲望を叶えるために人は残虐な生き物となり同種を殺してしまう地球で最も残酷で凶悪な生き物だとこの「秘密の扉」というドラマを見ると思ってしまいます。それに抗って来た人々も少なくはないのですが、暴力の前には無力で時代が進めば進むほど己の欲望のために大儀名分を利用して大量の人々が日々殺されている現代の世界になってしまいましたね。昔の人々は現代の人間の姿、戦争や暴力や無謀な行動により殺されたり一生苦しむ被害を受ける数多の人々を見てどう思うでしょうか。私がドラマを見て朝鮮時代を作者の意図通りにろくでもない世の中だと思っているように、昔の人々も今の世をろくでもない人々がいる世の中だと思ってるかもしれませんね・・・。
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