王と妃 第139話 王妃の決定
あらすじ
ヒョン・ソッキュは成宗に大臣らと話し中殿を決めるべきだと上奏しました。
成宗は母に中殿選びは任せると言いました。
イム・サホンは自宅の前でユン・ギギョン夫人と会いました。イム・サホンの父とユン・ギギョンの父は同じ派閥の上司と部下という間柄でした。ユン・ギギョン夫人シン氏はどうか助けてくださいとイム・サホンに泣きつきました。シン氏は「家の中を探してみたけど蜂蜜しかなくて。つまらぬものですけどお受け取りください」とイム・サホンに渡しました。イム・サホンは父を呼んでくると言いましたがシン氏は帰りました。
イム・サホンは父にユン・ギギョン夫人が力になってほしいと言っていたと伝えました。
サホンは父イム・ウォンジュンは内需司(ネスサ)の職を紹介してかわいがっていたではないかとユン淑儀を助けるよう言いました。イム・ウォンジュンは朝廷の意見が分かれていることが問題だと言いました。
「父上。ユン・ギギョンの家は有力な親戚もなくきわめて貧乏です。今力になれば大きな恩を売れます。もし中殿なら・・・。」
イム・サホンはユン淑儀の後ろ盾になれば富貴栄華を得られると耳打ちしました。
イム・ウォンジュンとイム・サホンはユン淑儀の後ろ盾になることを受け入れました。
ユン淑儀はみすぼらしいつぎはぎだらけの庶民の姿で仁粋大妃を出迎えました。仁粋大妃は無言で輿に乗ると「帰るぞ」と言い去りました。
「大妃様には無言でいるのが一番よ。」
ユン淑儀は心配する女官に言いました。
仁粋大妃は月山大君夫人に言いました。
「話す気になれなくて。粗末な服を着て頭を下げている姿が憂いに満ちて哀れですまなく思ったけど芝居をしているだけではとも思うしユン淑儀の取柄はただひとつだけよ。家族を調べたら兄は士官できるほど優秀ではなかった。大したことのない一族だから外戚がのさばることはない。」
「ならばためらわれる理由は何でしょう?」
「人の心のうちはわからぬゆえ中殿をおいそれと決められぬ。」
仁粋大妃は配下のチェ尚宮にユン淑儀をどう思うと尋ねました。チェ尚宮は怖くて本当のことは言えないと黙っていました。
「それが中殿の座よ。一度就いたら威厳と権力を得られる。選び間違えたら取返しがつかぬ。」
ユン・ピルサンはキム・ジルに領議政チョン・チャンソンも味方になってくれたことに感謝を述べました。チョン・チャンソンは成宗に一番身分の高いユン・ホの娘のユン淑儀がふさわしく貧しいユン淑儀が中殿になれば庶民が王のお世話をするのと変わりないと言いました。
「おなかの子が王子なら世継ぎだ。母上の好まぬ娘を冊立することはできぬ。言いたいことはわかる。母上に頭が上がらぬ王と言いたいのだろう。だがその通りだから気にするな。」
成宗は開き直って言いました。
「聞いていたか。なんということだ。」
チョン・チャンソンは外で控えていたソン・ヒョッキュにこぼすと立ち去りました。
「母上ほど優れた女性がいるか?いるはずがない。名家の出身で四書三経に精通し十年先を見通す洞察力までお持ちだ。困難に遭うたびに豪胆になり威厳と勇気もお持ちだ。だからこそ世祖大王も私の母上には一目置いていたそうだ。誰が中殿になっても母上には物足りぬだろう。」
成宗はソン・ヒョッキュとイム・サフンに言いました。
仁粋大妃の部屋。
「賢い中殿はいりません。賢かったら義母の上に立とうとするはずです。懿敬世子が王になっていたら私は平凡に暮らせていました。私は平凡に生きていたはずです。そんなものです。義母とともに楽に暮らしていたのです。」
仁粋大妃はハン・チヒョンに言うと世祖大王の功臣がまだ栄華を極めようとのさばっていると怒りました。
「上党君(サンダングン、ハン・ミョンフェ)が服従するふりをして皆おとなしくなっていますが実は己の利益を守ることしか頭にないはずです。財産を半分渡せと言えば王位を退けとぬかす連中です。泰平の世ですって?彼らの利益が守られている間だけです。主上が彼らに不利なことをすれば一変します。賢い中殿を迎える?彼らには私が目障りなのです。私を抑える気とは。あっはっはっは。あっはっはっは。」
チョン・チャンソンは今度は大王大妃貞熹王后ユン氏[慈聖大王大妃(チャソンテワンテビ)]にすり寄っていました。大王大妃は中殿(王妃)は仁粋大妃が選ぶのが道理だと言い王大妃と一緒にお茶をすすっていました。
「領相(ヨンサン、領議政)大監。ゆっくりお茶を楽しみましょう。」
「睿宗もむやみな争いは避けよとおっしゃいました。おいしいお茶ですね。」
王大妃は言いました。
「年のせいかお茶がおいしいわ。」
夜になり仁粋大妃は成宗の部屋を訪ねました。
「チョン貴人が気に入ったわ。」
「では彼女にしましょう。」
「ユン淑儀も同じです。もしおなかの子が王子だったら殿下にとって長男です。ゆえにユン淑儀を王妃にします。ご下命ください。子を産む前に中殿にしましょう。周りがうるさすぎます。重臣に王族の結婚に口出しされたくありません。私は決めました。」
翌日の便殿。
成宗は重臣たちの前で話しました。
「大妃の懿旨(ウィジ)私は中殿冊立を勧められたためそれに従うことにした。」
仁粋大妃の懿旨(ウィジ)が読み上げられました。
「王妃の座が長らく空いていたため私は王族の一員となり国母となる者を決めようと思う。淑儀ユン氏は主上の寵愛を受けており私も好ましく思っている。ユン氏は粗末な服を着て質素倹約に努め物事には誠意をもって取り組みゆえに大事を任せるに値しよう。」
「お祝い申し上げます。」
恭恵王后 韓氏 以来不在だった中殿の冊立が決まりました。淑儀ユン氏は貧しく家柄もよくなく権勢をふるうおそれがなかった点が仁粋大妃の都合によかったのである。
成宗は重臣たちと宴を開きました。孝寧大君は舞を披露しました。大妃殿でも大妃たちはユン王妃を部屋に呼んで儀式を行いました。部屋に入れないチョン貴人はユン淑儀を憎みました。
「孫が中殿を迎えたのです。明日死んでも悔いはないわ。」
大王大妃は言いました。
訓示。
仁粋大妃は月山大君夫人を従えユン王妃に訓示を行っていました。
「世間の人は私をきつい人だというけれど私も本意ではなかったの。若くして夫を亡くして以来泣いている余裕はなかったわ。心を強くもって生きなければ二人の王子を守れなかったの。従順は美徳よ。私が正面から世間と立ち向かってきたと思う?私は立ち向かわずに世間と運命に従ってきた。だから今の私があるの。草を見なさい。人に踏みにじられても知らぬ間に身を起こし風に揺れている。堂々とした松の木は強風で倒れるけど草は強風が過ぎるともとの姿に戻るわ。わが子や。逆らうのは簡単でも従うのは難しいわ。怒りは外に表すのは簡単でも心に収めるのは難しいわ。何事にも耐えて慎重に行動しなさい。」
「ご安心くださいお義母様。お義母様の言葉を心に刻み付けておきます。私は・・・」
仁粋大妃と月山大君夫人の顔色が変わりました。
「私は!言いたいことを胸に秘めて生きてきた。わが子よ。妬んではならぬ。国王は庶民の夫とは違う。独占欲は持たぬことです。中殿というのは寂しいものなのよ。」
「では・・・。」
「何か言いたいことがあるの?話があるなら言いなさい。」
「・・・・・・。」
仁粋大妃は言葉を理解したユン王妃に挑戦的に微笑みました。
「まっぴらよ。冗談じゃない。」
ユン王妃は仁粋大妃に従いませんでした。その様子を見て月山大君夫人はユン王妃に念押ししましたがユン王妃は軽く返事をしました。
夜道。
ユン王妃は急に吐き気をもよおしました。
仁粋大妃は涙を流していました。
すると風が吹きました。
ユン王妃は大妃殿を見下ろして笑いました。
「従うことはできません。殿下はあなたの息子ではなく私の夫です。私に殿下を渡してもらいます。まだ息子の世話を焼くつもりですか?従えません。もちろんですとも。あっはっはっはっは。」
感想
また少し面白くなってきましたね。仁粋大妃の天下も長くは続かないということなのでしょう。仁粋大妃はどの程度の賢さだったのでしょうね。当時の女性の水準や女性に与えられる情報が限られていたという条件からは賢かったのかもしれませんが、成宗の妻たちがずいぶんと大暴れしていますから、いったいどんなに後宮が荒れていたのか、それをまとめる力をほんとうに仁粋大妃が持っていたのかは矛盾がありますね。幽霊とか呪いといったものが実在するものとして信じられいた時代ですから程度が低かったのでしょうね・・・。