王と妃 第137話 権力を独占する仁粋大妃
あらすじ
行き詰ったハン・ミョンフェは仁粋大妃に許しを乞いました。
「大妃媽媽。私の謝罪をお受入ください。」
「明日は太陽が西から昇りそうだわ。あっはっは。」
「ようやく私は己の愚かさに気づいたのです。どうすれば許されるか私にはわかりませぬのでこうやって宮殿に上がりました。大妃媽媽。どうか私の無礼を水に流してください。」
ハン・ミョンフェは土下座しました。
「それだけ謝れば十分です。ですが天下の上党君(サンダングン、ハン・ミョンフェ)が私に謝罪したなど誰が信じるでしょう。それだけ謝れば十分です。下がりなさい。」
「私の身内に内需司(ネスサ)で働く者がいます。その者が言うには王室の国庫は空だとか。そして急に何ま物入りになったときは地方の役所まで使いを送り物資を調達するとか。」
「その話は私も知っています。世間知らずな女が権力を握り続けたので金使いが荒く出費がかさんだのです。大王大妃だけでなく王大妃もそうです。使いたい放題でしたから当然でしょう。だから殿下に朝廷の綱紀を正せと言っているのです。」
「大王大妃様は浪費などなさってません。それなのに財政が苦しくなり申し訳ない限りです。」
ハンミョンフェは袖の下から書類を取り出しました。
「世祖が楊州(ヤンジュ)の地をくださったのですがもとはファンボ・インの土地でした。肥沃で作柄もよく皆が欲しがりましたが私は手放さずに持っていました。媽媽。この土地をお受け取りください。大妃媽媽。」
「・・・・・・。実に図々しくて厚顔無恥で腹の読めない方ですこと。私が大監なら悔しくて我慢できません。それなのに平然としていられるとは。いいでしょう。私の負けです。」
「このおいぼれをお許しくださるのですか。」
「あっはっはっは。あっはっはっは。あっはっはっは。あっはっはっは。あっは・・・はぁ。感謝します。その土地は私が頂きます。上党君(サンダングン、ハン・ミョンフェ)大監の気持ちが変わる前にね。お義父様は王になられる前によく上党君大監の話をしてくれました。漢の将軍韓信は無頼漢の股をくぐり屈辱に耐えた。ハンミョンフェに大業を成すには同様にしろと言われた。だから私は腰を低くしているのだと。上党君大監。殿下に力添えを。殿下が名実ともに強い君主として国を治めるには勲旧派を抑えつけねばなりません。おだてることも必要でしょう。夫を亡くし屋敷に住みながら私は世の中とは何かを学びました。お義父様は多くの者を殺し王になりましたがその果実は周りの奪われました。功臣は忠誠を誓いつつ裏では自らの富と栄誉をむさぼっていたのです。違いますか?お義父さまは立派な功績を残しました。経国大典というこの国の法典を作りました。軍役を平等にし科田を廃しました。それなのに死後数年のうちにそれらの功績も水の泡です。こうなった原因は何だと?無理な即位のせいです。私はそう考えます。お義父様は誤った方法で即位したのでその王座を守るため功臣に振り回されたのです。功臣は絶えず見返りを要求しました。謀反の原因を作って起き命がけで戦うふりをして褒美を要求してきたのです。国中が功臣であふれ返った。功臣。功臣。功臣。その都度王室の財宝が功臣の手に渡りました。気の毒なのはお義父さまです。苦しんだのはお義父様一人。ご自分を悪鬼とまで言っていました。一人で罪をかぶって逝ったのです。一人でも苦しんだ功臣がいましたか?キム・ジョンソやファンボ・インを殺したのに?安平大君と錦城大君もです。集賢殿の士大夫と魯山君もです。」
「媽媽。なんて恐ろしいことをおっしゃるのです。キム・ジョンソとファンボ・インらは大逆者だから殺されたのです。今大妃様が仰せになったことは殿下の正当性も否定することです。」
「責任転嫁ですか。」
「私は昔も今も変わりなく世祖が王位につけたのは天の思し召しだったと思っています。」
「上党君は世祖の弱みに付け込み私腹を肥やした。違いますか?ではお忘れなく。殿下はそうはいきません。れっきとした世祖大王の孫であり世宗の曽孫です。太祖から始まった朝鮮王朝の正当な君主なのです。見くびらないで。殿下を軽視してはなりません。息子は世宗大王に匹敵する聖君になるのです。」
インステビはハンミョンフェに言うと横を向きました。
「私は・・・これで・・・失礼します。」
ハンミョンフェは仁粋大妃にひれ伏しました。
インステビはハンミョンフェが去った後に扉のほうを睨みました。
ハン・ミョンフェは家に帰ると力尽きたように座りました。
「大監。仁粋大妃様は何と?」
ハン・ミョンフェは首を抑えて震えました。
「実に恐ろしいお方だ。」
仁粋大妃の部屋。
「まだ足りぬ。」
仁粋大妃はハンミョンフェの土地の権利書一枚だけでは不満でした。
ハン・チヒョンはもう許してあげましょうと言いました。
キム・ジルは義父のチョン・チャンソンにハン・ミョンフェがインステビに降伏したと教えました。チョン・チャンソンは笑いました。
「これを機にユ・ジャグァンを倒さねばほかの者がユ・ジャグァンに陥れられてしまう。」
チョン・チャンソンはユ・ジャグァンを救おうというジャグァンの仲間に言いました。
成宗はユン・ゲギョムにユ・ジャグァンとイ・スッカムの言葉のどちらが正しいか尋ねました。ハン・ミョンフェは辞職したので二人を開放せよと成宗は言いました。民から不正に土地を奪ったキム・スオンとチョも不問にすると言いました。
ソン・ヒョッキュは大司憲ユン・ゲギョムは正しいことを言っていたのになぜ罪を不問にするのかといいました。
成宗は黙っているように命じました。
大王大妃の部屋。
「一夜にして殿下が考えを変えユ・ジャグァンを許すと言ったそうです。」
ユン・サフンは言いました。
「大王大妃様。この御恩は一生忘れません。」
キム・スオンは言いました。
「私のせいではないわ。チョ・ドゥンニムを罰したくないので大妃が手をまわしたのでしょう。」
大王大妃は言いました。
仁粋大妃はチョ・ドゥンニムを呼び民から財を奪った分を返還し恨みを買わぬよう命じました。
「今回が最後よ。肝に銘じておきなさい。」
「はい媽媽。拝礼いたします。」
仁粋大妃は肝を冷やしているチョ・ドゥンニムを見て笑いました。
「見ていろ。私を告発してただで済むと思うなよ。」
巴山君(パサングン)チョ・ドゥンニムは見張りの兵に八つ当たりして殴る蹴るの暴力を働き大妃殿を後にしました。周りの武官は見て見ぬふりをしました。
成宗の部屋。
仁粋大妃が訪ねてきました。
「ですが全員を救う必要はありません。キム・スオンとチョ・ドゥンニムは不問にするとしてユ・ジャグァンとイ・スッカムは責任を問わねば。ユ・ジャグァンの上書で上党君が辞職したのです。上党君の体面も考えるべきです。主上。政治とは駆け引きです。主上のやり方は性急すぎます。受け入れると見せて突き放し突き放すと見せて譲歩するのが政治なのです。私はユ・ジャグァンを救う気はありませんでした。ユ・ジャグァンは野生の動物と同じです。満腹だと狩りをしなくなるのです。ユ・ジャグァンを突き放してください。ユ・ジャグァンはそうするほど忠誠を尽くします。」
ハン・チヒョンの家。
ハン・チヒョンはユ・ジャグァンに責任を取るように言いました。
「獄中生活も忠誠の一種だ。耐えれば望むものを下さるだろう。」
ユ・ジャグァンは失うものはないので仁粋大妃のために牢獄に入ると言いました。
便殿。
成宗はユ・ジャグァンとイ・スッカムを罷免すると言いました。
ハン・ミョンフェを失脚させるためのユ・ジャグァンの上疏はユ・ジャグァン自身も没落させてしまった。だが朝廷を操ろうという仁粋大妃の望みは叶った。こうして世祖以来続いたハン・ミョンフェの時代も幕を下ろしたのである。
月山君夫人は宮殿に上がるため身なりを整えていました。月山君はひとりで行くが良いと夫人に言いました。
大王大妃の部屋。
貞熹王后ユン氏と王大妃と仁粋大妃と孝寧大君は茶会を開いていました。
仁粋大妃は「実は王妃は心の中で決まっておりまして・・・」と言いました。
仁粋大妃を月山君夫人が尋ねてきました。
「ユン・ギギョンの娘はどうかしら。おなかも大きくなったことだし。ひとつだけ難点が。人徳が足りない。そのうえ相も・・・。」
「貧しい士大夫の娘だから得を積む余裕がなかったのでしょう。」
月山君夫人は微笑みました。
「最初からユン淑儀の印象が悪かったせいで私が過小評価しているのかも。」
仁粋大妃は月山君夫人を連れて輿に乗りユン淑儀に会いに行きました。
ユン淑儀の部屋の中からうめき声が聞こえてきました。
「ユン淑儀様が腹痛で苦しんでおられて・・・。」
尚宮は言いました。
「部屋に来ます。声を大きくしてください。」
側近の女官はユン淑儀に言いました。ユン淑儀は苦しんでいるふりをしました。
「医者には見せたの?なぜ見せないの?」
「恐れながら媽媽。病気ではありません。媽媽。あまりに常軌を逸しており私の口から言えません。私を殺してください。」
ユン淑儀は仁粋大妃に言うと内人(女官)はチョン貴人の呪いのせいだと針の刺さった藁人形を取り出しました。
「一体誰がこんなことを!」
仁粋大妃は怒りました。
内官や女官たちは宮殿中を調べました。
成宗もこのことを聞きつけました。
「もっとあるはずよ。隅々まで探しなさい!王の子を呪うなんて!はっはっはっは」
仁粋大妃は憤怒しました。
オム貴人は仁粋大妃が激怒しているとチョン貴人に言いました。チョン貴人は私たちは無関係とシラを切るようオム貴人に命じました。
ユン淑儀の母シン氏も憤りました。
「ネイノン!(おのれ)呪いをかけた女はきっと死罪よ!」
仁粋大妃はユン淑儀を見ました。ユン淑儀は「オモニ」と涙を流して仁粋大妃に言いました。
感想
前半は朝廷の権力の争い、後半は女命婦(ネミョンブ)の権力争いという構図でしたね。生前の世祖は功臣に国庫が尽きるほどの土地を分け与えてしまいました。国庫が尽きたのは性格には貞熹王后ユン氏のせいではなく欲深い功臣と世祖の判断のせいでしょうね。仁粋大妃が誰を倒そうが相手はみんな悪いやつというところが仁粋大妃の政治の特徴です。それに対し世祖とハンミョンフェら功臣や摂政時の成宗と貞熹王后ユン氏は罪なき人もたくさん殺してますから仁粋大妃の有能さはほかと比べて質が異なるように見えます。仁粋大妃はドラマ中では月山君夫人にとても優しくして気に入っているかのようですね。本来ならかわいい成宗の敵の嫁に当たるのですが、本音はどうだったのでしょうか。