チュノ23話 -左議政の狙い
目次
あらすじ詳細
夜の漢陽(ハニャン)の都。テギルとテハは昭顕世子(ソヒョンセジャ)の弟、鳳林大君(ポンニムテグン)と会った後にファン・チョルンに襲われました。二人は二手に分かれた後に追っ手を倒して合流しました。
「ついて来い。」
テハはテギルの背後にいた敵を倒すとテギルに言いました。
「嫌なこった。」
テギルもテハの後ろにいた敵を倒しました。
「何だと?」
「俺が言っただろ。逃げる奴を追う者は隠れるのもうまいと。天は二物を与えるのさ。俺について来い。」
テギルはテハを導きました。
「他の者は?援軍の兵はどうした!」
ファン・チョルンは部下に怒鳴りました。
捕盗庁(ポドチョン)の武官と兵士は奴婢の襲撃に遭った宣恵庁(ソネチョン)の応援に行っていました。
「急いで負傷者を運べ!」
「もし逃がしたら軍律で裁くぞ。私は使臣館(サシングァン)へ行く。援軍を見つけて隊を分けろ。」
ファン・チョルンは部下に命じました。部下はファン・チョルンに刀を差しだしました。
「世子の罠か?」
テギルは民家に隠れながら兵士が行く様子を見送りました。
「罠ならもっと兵が来るはずだ。それに射手もいない。
テハは答えました。
「違うとでも?」
「そうだ。」
「狼を避けて虎穴に入ったな。」
「どういうことだ。」
「罠でもないのに居所を知られた。お前はファン・チョルンに読まれている。」
「・・・・・・!」
「行くぞ。」
ファン・チョルンは使臣館に着きましたがテハはいませんでした。
「どうかあたしのチェ将軍をお守りください。あたしのチェ将軍を無事にここへ帰してください。あたしのチェ将軍を・・・あ〜っ。」
チェ将軍を愛する宿屋の女将は小さな祠に向かって祈りました。
女将の背後にテギルが現れ口を塞ぎました。
「女将。や〜テギルだ。会いたかった。おとなしくしろよ。手を離すからな。」
「なぜここに戻ってきたの?」
「緊張するなよ。俺たちの仲だろ?」
「どうやってここまで来たの?オ捕校(ポギョ)が血眼になって捜してるわ。ソルファもね。」
「チェ将軍なら飯を食ってクソをこいてる。安心しろ。」
「アイゴ〜。ほっ・・・心配でたまらなかったの。今どこにいるの?」
「なぜだ。居場所がわかれば行くのか?」
「当然よ。千里の道でも必ず行くわ。」
「それよりまずはメシを頼む。」
「それで、どうしてこんなことになったの?もしかして火事もあなたの仕業?」
「どうして俺が火をつけるんだ。」
「じゃあ誰が?」
「腹が減っている。早くメシをくれ。」
「わかったわ。」
「二杯な。」
「十二杯でも出してあげるわ。待ってて。」
女将は厨房へ行きました。
「もしや、漢陽(ハニャン)に他にも協力者がいるのか?」
テハは障子の裏に隠れてテギルに言いました。
「漢陽(ハニャン)には推奴(チュノ)師を助けるもの好きがいる。恨まれてるしそこらじゅう敵だらけだ。」
「ならば宣恵庁(ソネチョン)の火事は我々とは関係ないのだな?」
「野次馬でもあるまいし気にするな。」
「信用できる女か?」
「クソ役人よりはマシだ。人情だけは厚い。」
「役人を悪く言うな。」
「これだけやられてもわからないのか?」
「世の中には正直な両班も高潔な役人もいる。すべてを貶すのはよくない。」
「あんた、ザリガニはカニの味方か?」
「お前も元両班だっただろ?」
「そんな時もあったな。だが街で同じメシを食い同じ家に住むようになって庶民になった。両班を作るのは族譜じゃない。あの服だ。両班の服を着ていると偉く見える。それが世の中の真理だ。」
「真理を悟るために戦い続けたことはあるか?戦ってもどうにもならず受け入れてこそ真理だ。」
「嫌な生き方だな。奴婢なのにお前は理屈っぽい。」
テギルが言うとテハは微笑しました。
オッポクとあのお方は闇夜に紛れ山の中を歩いていました。
「どうしてそんな顔をするのですか兄貴?」
若く端正な顔立ちのあのお方はオッポクに言いました。
「今まで両班を殺してきたが、知り合いを殺したのは初めてだ。」
「勝利に犠牲はつきものです。ギユンという男も死にました。」
「えっ?」
「私が殺しました。」
「・・・・・・。」
「兄貴たちの金をくすねてました。」
「やっぱりか。手癖の悪さは直らなかったか。」
「我々は味方も殺さねばなりません。それに耐えてこそ我々の世の中をつくることができます。」
「我々の世の中になったら、両班を奴隷にしたら今と同じでは?」
「両班とそれ以外の区別のない世の中は決して存在しません。力を持つ者は持たない者を必ず搾取します。今度は我々がその力を持つのです兄貴。」
「力を持っても奴隷にしないほうがいい。制度というものを変えるとか何とかして・・・。」
「人は制度を変えるが制度は人を変えません。」
「ああ・・・ええ。きっとそうなんでしょうね。私にはわからないが・・・。」
オッポクは言葉に詰まりこれ以上考えることができませんでした。そこにクッポンたちが楽しそうに現れました。
「おーい。オッポク。あはははは。」
「兄さんたちどうしましたか?」
あのお方はクッポンたちに言いました。
「旦那。大騒ぎになってますよ。捕校(ポギョ)どもが厳戒態勢で警備をはじめました。ははははは。」
「山で夜を明かし食事の時までに戻って来てください。」
「俺たちは山どころか川の底で寝ても平気です。」
クッポンは上機嫌でした。
「もちろんです。人が志を立てたら水中でも火を燃やせます。」
あのお方は言いました。
「さすが学のあるお方はおっしゃる事が違いますね。」
クッポンは関心しました。
「では後ほど会いましょう。」
「あの。危険な時なのに山を下りるのですか?」
オッポクは言いました。
「もう我々の世ですから心配はいりません。では。」
あのお方は微笑むと飄々と闇に消えました。クッポンたちは頭を下げて見送りました。
「いやぁ。あのお方は輝いてるな。まぶしすぎる。」
あのお方は街に戻りました。
「おい貴様。耳に杭でも刺さってるのか?卑しい身なりをしてその態度は何だ?」
オ捕校(ポギョ)とその部下はあのお方を見つけると因縁をつけ始めました。
あのお方は刀を抜くと捕校(ポギョ)が持っていた警棒を一太刀で切りました。
「ひえっ。」
部下は思わず声をあげました。
「捕校(ポギョ)の分際で威勢がいいな。」
「何だと貴様?」
「ネイノン!私を誰だと思うのか?」
「貴様をだれだと・・・・・存じあげません。」
オ捕校(ポギョ)は態度を変えました。
「私を知らぬと?」
「ええ。どなたか知らずに申し訳ありません。ご挨拶しろ。」
「見回りがずさんだから宣恵庁(ソネチョン)が襲われた。」
「え?」
「ああ。はい。そこは我々の管轄外で。」
「言い訳は聞きたくない。」
「はい・・・。」
「明日になったら皆殺してやる。さがれ。」
「はい。」
オ捕校(ポギョ)と部下はあのお方に頭を下げました。
あのお方は堂々と街を歩いて行きました。
妓楼。
両班の衣に着替えたあのお方はイ・ギョンシクに拝礼しました。
「お元気でしたか?」
「はっはっは。面倒な仕事をご苦労だったな。」
「見返りがあればこそです。」
「もちろんだ。」
イ・ギョンシクは二人の妓女(キニョ、妓生の女)を下がらせました。
「都が騒がしいから成功したようだな。」
イ・ギョンシクはあのお方に酒を注ぎました。
「宣恵庁(ソネチョン)の蔵を三つ全焼させました。」
「ふっふっふ。そうか。武勇伝を聞かせてくれ。」
「奴婢を四十頭ほど集めました。全国に数千の同志がいると言ったら希望を持ったようです。新しい世が来るかのように喜んでいました。」
「卑しい者どもは小さな希望を持たせればついてくるものだ。」
「両班奴婢の区別のない世の中がくると。」
「ふっ。それは困るな。希望で終わればよいが信念になるのはよくない。」
「掌隷院(チャンネウォン)も急いだほうがよさそうです。」
「朝廷の状況を見て決めよう。」
「早く終えたいです。私は不平は言いませんが私は奴婢どもを兄貴と呼んでます。」
「はっはっは。奴婢どもを兄貴だと?はっはっは。」
使臣館。
ヨンゴルテはテハに場所と出発日わかるようにと部下に命じました。
「敵陣にいる間者に合図すればいい。噂は千里を走るという。清に女を送ると大げさな噂を流せ。」
宿屋。
「寝ておけ。見張りは後で交代しよう。」
テハはテギルに言いました。
「清国へ行くのか?」
「ああ。」
「どうやって?」
「使節団の船に乗る。」
「ふざけたことを言うな。頼めば乗せてくれると思うな。」
「乗るように言われた。」
「ならば日時の約束を?」
「使臣から連絡が来る。」
「お前の居場所がないのにどうやって?」
「兵法の知識はあるか?」
「何が言いたい。」
「戦争したことはあるまい。戦場では人の限界を超えることがよくある。連絡を取る方法などいくらでもあるのだ。」
「お前の言葉が本当ならいいがな。」
日中の朝廷。大臣たちの部屋。
イ・ギョンシクは臣下たちを部屋に集めました。
「お前たちは何をしていた!奴婢がいたとなれば反乱が起きるかもしれん。民心をひきつけ城内に潜んだ逆賊をあぶりださねばならぬ。大々的な戸籍の整理を殿下にご提案する。これほど深刻な事態は犯人を捕らえただけでは実現しない。今は国にとって大事な時期だ!重臣たちも依存はないと信じるぞ。」
「はい。承知いたしました。」
臣下たちはイ・ギョンシクに忠誠を誓いました。
便殿。
「主導者が奴婢とは限らぬ。」
仁祖は大臣たちに言いました。
「両班への襲撃も奴婢の仕業と存じます。」
イ・ギョンシクは仁祖に言いました。
「推定だけで大規模な推奴(チュノ)や戸籍の整理はできぬ。無理に事を行えば国力を消費し民の不満が高まるとは思わぬのか。」
「殿下。国の将来の大事のためです。戸籍を整理し労役を逃れた流民を捕らえれば、その数は十万近くになります。彼らを北方の築城現場に送るのです。一気に集めれば管理も容易になり、清国との戦争の準備も整います。」
「左相(チャサン、左議政)の言う通りだ。」
「ご理解いただき感謝申し上げます。」
「だが今は実行できぬ。左相(チャサン、左議政)の言う通り反乱の兆しが見えたら検討しよう。」
「私めの言葉にお耳を傾けてくださり感激の極みにございます。」
ファン・チョルンは集結しなかった捕盗庁(ポドチョン)の兵士を何度も殴りました。
「なぜ援護に駆け付けなかった?」
「有事の際は官庁の警備が最優先です。」
「命令違反は認めるのだな?」
「将軍。申し訳ありません。」
兵士は気を失いました。
「戦時であれば斬首刑だぞ。使臣館の警備を徹底し城内の監視を強化せよ!わかったな?」
「はい。」
兵士たちは声を揃えました。
「お母上様がお越しです。」
部下はファン・チョルンに報告しました。
ファン・チョルンの母はせき込んでいました。ファン・チョルンの母は両班にしてはみすぼらしい薄汚い服を着ていました。
「なぜここへ来られたのですか?」
「我が子や。何かついているわ。心配で会いに来たの。漢陽(ハニャン)で騒ぎが起こったと聞いて。」
「心配無用です。」
「近頃実家にもよらないのね。多忙で忙しいようだけど。これを見て。サクラソウよ。冬には滅多に咲かないのに見つけたの。寒さに耐えて咲いた花だから煎じて飲めば万病に効くはずよ。お前と嫁に一株ずつ持ってきたの。煎じて飲みなさい。体にいいし子にも・・・。」
「母上。」
ファン・チョルンはきつく言うと、冷たくなった母の手を握りました。
「花なんか探して歩くから風をひくんだ。」
ファン・チョルンは目に涙を溜めました。
「だけど、とても珍しい物だから売ってないのよ。」
「私はもう、行かないと。薬を飲んで部屋で暖かく過ごしてください。部下に送らせます。」
ファン・チョルンが言うと母は寂しそうに溜息をつくと帰る支度をはじめました。
チョボクは主人にきれいな服に着替えさせられました。
「牛は牛舎に入れたか?」
「はいナウリ。仔牛二頭を小屋に入れておきました。」
相手方の使用人は言いました。
「今日からお仕えしますノップセでございます。」
ノップセはおじぎをしました。
「そうかそうか。城内に憂患があり男手が不足している。まさに地獄に仏ではないか。では女を連れていけ。」
主人は命じると部屋に入りました。
「行きなさい。きっといい家よ。」
同僚の女はチョボクに言いました。
「がんばって暮らすけど、私は嫁にならないわ。」
チョボクは元主人の家を後にしました。チョボクはオッポクを待ちましたがオッポクは現れませんでした。
テギルは女将からおむすびを貰うと世の中の様子を訪ねました。女将は14の娘を千か二千人清に連れて行くと噂を教えました。テギルは女将を下がらせました。
「チェ将軍に結婚するよう言ってやる。心配するな。」
「そんなことまで頼んでないのに。」
「もう下がれ。」
「わかった♪」
「それで。どういう意味だ?」
テギルは障子の裏に隠れているテハにおむすびを渡すと言いました。
「14の娘を船に乗せると言ったな?」
「千か二千という話は?」
「曖昧な言葉は省略するんだ。期日は14日で船ということは・・・。」
「黄海(ファンヘ)だな。」
「わかった。江華島(カンファド)だ。港から乗れないから行くには江華島が一番早い。だが14日まで3日しかない。」
「3日で王孫を迎えに行き江華島へ抜けると?」
「馬で走れば・・・。」
「城内を出るまでに捕まる。」
「方法は・・・。」
「チャッキに連れて行ってもらう。」
「間者はいるのか?」
「女将に伝言を頼む。龍仁(ヨンイン)付近で会って江華に抜ければ間に合う。」
テギルはチェ将軍の好物の茹で卵を口に入れました。
女将は行商人に手紙を預けると読んでもらいました。
「子どもは龍仁の鳥飛山に連れてきてほしい。チェ氏らは利川(イチョン)の三差路の商人宿へ行け。それだけです。」
商人は手紙を読みました。
オッポクは奴婢の仕事に励んでいました。オッポクはチョボクがいないことに気が付きました。
「あの。静かですね。」
「いつもと同じよ。」
「チョボクはいないの?」
「知らないの?嫁いだわ。」
使用人の女は膳を運んで行きました。
「あの。嫁いだって!?」
オッポクは女を追いかけました。
「声が大きいわよ。ご主人様に聞かれるわ。」
「チョボクはどこに嫁いだんだ?」
「お前声が大きいぞ。」
主人を守っている新入りのノップセはオッポクの腕を掴みました。
「チョボクはどこへ行ったんだよ!」
オッポクは女を揺さぶりました。女は膳をひっくり返しました。
「ネイノン!なぜ大声を出す!」
主人が部屋から出てきました。
「ナウリ!どうしてチョボクを嫁がせたんです!」
「こやつめ。何をしている!すぐに連れていけ!」
「勝手に嫁がせるな!俺らは獣じゃない!」
「貴様ー!」
「わーー!人を売るなんてお前は何様だ!」
オッポクは叫びました。
「そやつを縛り付けて死ぬまで水を与えるなーー!」
「はいナウリ。」
ノップセはオッポクを棒で殴りました。
チョボクは橋を渡っていました。チョボクが振り返ってもオッポクは来ませんでした。
「今夜掌隷院(チャンネウォン)を襲うのですか?」
クッポンたちはあのお方から掌隷院(チャンネウォン)を襲撃するように指示を受けました。
「はい。一か所では物足りない。今夜二百人が合流します。掌隷院(チャンネウォン)に一気にに襲い掛かれば官軍など簡単に潰せます。敵が不安な間に我々の力を見せつけるのです。皆が寝てから抜け出し亥の刻に実行します。」
あのお方が言うとクッポンたちはやる気を見せました。
オッポクは家の裏に連れていかれました。
「俺が頼んで放免してもらう。とりあえず縛られてろ。手を出すんだ。」
同僚の使用人はオッポクに言いました。
「おじさん。パンチャクを連れて逃げてくれ。あの主人を殺したのは私だ。」
オッポクは二人を殴ると鎌を取り主人の部屋に入りました。
「貴様。ここを何だと思っておる!」
食事中の両班は後ろにのけぞりました。
「お前、人を何だと思ってる!」
「誰かおらぬか!」
「なぜ勝手に人を売り買いする?チョボクはどこだ!」
「いいいいイノミ(貴様)は私の恩を忘れたか?傍若無人で横行闊歩などと無縁の主人だぞ!」
「何だと?」
「あああ蟻にも忠誠心があるのになぜこんな野蛮なことをするのだ!」
「この野郎!」
「どっどっどっどうしてこんなことを?忍の字を百回刻めば殺人を免れると言う。」
「わかるように言え!」
「たったったっ助けてくれ!チョボクは南山(ナムサン)のファン先達(ソンダル)の家だ。」
両班の男は手を合わせました。
「やーーーーーーーーっ!」
オッポクは鎌を振り上げました。
オッポクが主人の家を出るとクッポンが待ち合わせの時刻を教えました。
「教えてくれ。逃げた奴婢の集落はどこにある?」
「なぜそなたが?」
「早く教えろ!」
「月岳山(ウォラクサン)の霊峰かな。」
夜の月岳山(ウォラクサン)。
「空の天♪土地の地♪」
ソルファは文字を歌にして覚えていました。
「なぜ文字を習いたいの?」
オンニョンはソルファに言いました。
「おねえさんは読み書きができるでしょ?言葉づかいも丁寧で物静かだし。」
「変わろうと思わなくてもいいわ。十分かわいいし。」
「それに人からよくバカにされるし漢字が読めればバカにされないと思う。」
「勉強の合間に奚琴(へグム)を教えてくれるかしら?」
「本気なの?」
「ええ。」
「だけど人に教えるほど偉くないわ。」
「人は誰でも教えられるし、誰でも教えてもらえるわ。」
宿屋。
テギルは地図を出し作戦を立てましたがテハにことごとく欠点を見破られました。
「ここは視界が開けているから通ろう。」
「官軍に阻まれたら?」
「こっちに逃げれば囲まれない。」
「いくらでも陣形を張れる地形だ。」
「清国に逃げなくても隠れる場所はあるだろ?」
「生きるために逃げるが隠れて生きはしない。」
「どういう意味だ。」
「お前は世を恨んだことは?」
「恨まない奴がいるか。」
「それが原因だ。」
「ここは路地も多いが隠れやすい。お前はここへ。私は射手を抑える。」
「虎で狼をおびき寄せるつもりか?」
「お前が虎だといいがな。」
テハは言うと扉を開けて外に出ました。テギルも後に続きました。
街では捕校(ポギョ)たちが隊列を組んでテハを捜していました。
「お前を信じるぞ。」
テハは言いました。
「好きにしろ。」
テギルは先に行きました。
ファン先達(ソンダル)の家。
「チョボクーー!チョボクー!どこにいる?チョボクいるのか?」
オッポクは庭から部屋に向かって叫びました。
チョボクはオッポクの声を聴くと嬉しくなり布団の上に座っているファン先達(ソンダル)の部屋から出て行きました。
「夜中に何を騒いでる!」
使用人の男たちが出てきました。
「騒いだら殺すぞ!」
オッポクは男を石で殴り銃を構えました。
「チョボクー。早く来い!」
「おじさん!」
チョボクはオッポクに抱き着きました。
「何をしていたんだ。早く逃げればいいのに。」
「逃げたらおじさんの居場所がわからなくなるでしょ?」
チョボクが言うと使用人の男がチョボクを襲おうとしました。
オッポクは男を撃つとチョボクを連れて逃げました。
山賊の砦の牢屋。
ヨンゴルテの部下はオンニョンを呼びました。
「時間がない。縄をほどいてくれ。」
「子どもを奪おうとしたのに解放しろと?」
「ソン将軍を追っている者がここの見張りを殺したのだ。ファン・チョルンが追っている。王孫の居場所はもう知られている。」
「どういうこと?訓練院(フルリョンウォン)の判官(パングァン)がここを知っていると?」
「我々は清国の使臣団を護衛する武官だ。ソン将軍と王孫様を密にお守りしている。」
男の話を聞くと見張りの山賊はチャッキに知らせに走りました。
テハは兵士から弓を奪いました。テギルは兵に囲まれました。
山の中。
「もう行け。月岳山(ウォラクサン)の霊峰に逃亡した奴婢の集落がある。」
オッポクはチョボクに言いました。
「おじさんは?」
「俺は戦いに。」
「私も行く。」
「お前はダメだ。俺について来てどうする。チョボク。ご主人様は俺が殺した。お前を売った罪は償わせた。もう行け。」
オッポクが言うとチョボクは涙ぐみました。
「掌隷院(チャンネウォン)に行くの?」
「時間だ。急がないと。」
都城の中。
テギルは兵士の注目を集めながら戦いました。テハは屋根の上から兵士に矢を放ちました。
掌隷院(チャンネウォン)の前。
「さあ始めましょう。」
あのお方はクッポンたちに言いました。
「まだオッポクが来てませんよ?」
「二百人の援軍もまだです。」
「城内が物騒だから応援は難しいが早く済ませろと命令があります。」
あのお方は言いました。
「命令とは?」
「私が仕えている主人でうs。」
「どういうことです。その人も奴婢ですか?」
「くっくっくっく。」
「なぜ笑うんです?変ですよ?」
「おいおいおい。臭いんだよ。近寄るな。」
「へ?」
「始めるぞ。合図をだす。銃を。」
あのお方は銃を掴むと宣恵庁(ソネチョン)に向かって発砲しました。
「何をするんです?私たちだけでどうするんです?」
「臭いではないか!」
あのお方はケノムを斬り殺しました。
すぐに兵士が集まってきました。
「なぜこんなことをするんですか?」
「愚か者の奴婢どもは扱いやすいからだ。」
あのお方は言いました。
「俺たちを騙したんですか?やーーーーっ!」
クッポンは刀を抜いてあのお方に向かいました。あのお方はクッポンを刺し殺しました。奴婢たちは抵抗しましたが、あのお方と兵士に皆殺しにされました。
「ご主人様を殺したらおじさんも帰れない。」
チョボクは泣きました。
「チョボク。俺たち、逃げて二人で暮らそうか?それでいいか?誰も知らないところで二人で。」
オッポクも泣きました。
「いいえ。世の中は誰が変えるの?おじさんも戦わなきゃ。」
「礼を言う。そう言ってくれて。チョボク。お前は俺より賢い。ひとりでたどりつけるさ。誰かに襲われたらこれで撃つんだぞ。」
「おじさんは?」
「すぐに行くよ。お前をひとりにするものか。」
瀕死のクッポンは這っていました。
「俺は、行くよ。」
オッポクは涙を拭いました。
「気を付けてね。」
チョボクが言うとオッポクはチョボクの涙を拭ってやりました。
オッポクは振り返ると戻って来てチョボクに口づけをしました。
感想
なんと!あのお方は実は左議政イ・ギョンシクの部下だったんですね。そういえば、前に妓楼にこの人出てましたたっけ?そんな気がしますがはっきり覚えていません。あのお方のご容貌はオーランド・ブルーム演じる「ロード・オブ・ザ・リング」のレゴラスに似てますね!しかしあのお方も演技がうまいですね。「お前臭いんだよ!」と、まるで日本の小中学生や高校生のいじめっ子が使う同じ言葉遣いなのでしょうか!?なんだか両班というのはいじめっ子のような人間の集まりみたいに描写されていましたね。でもテハはドラマの中で決してそうじゃないと言っていましたが・・・まっすぐなまま生きられる人ってどうやって生きていたのでしょうね。謎です。
クッポンたちは騙され、私も騙されてショックです!そう来たか!やはりこのドラマは面白い。詐欺師じゃなくても人は誰でも詐欺師になれるということを教えてくれてます。クッポンは死ぬのでしょうか?生き残ってほしいですが、オッポクも未来の見通しなんて何も無い状況でどうなるのかまったく想像もできません。
ただわかるのは、生きるか、死ぬかしか結末が無いことです。
「愛してる」という言葉がなくてもオッポクとチョボクの心は通じ合いました。チョボクのほうがはじめから積極的で、オッポクが戸惑いながらもチョボクを受け入れたという感じでしょうか。チョボクは心が強い女性ということがドラマの話から伺えます。それに対してオッポクはダメですね。勇気を出して殺しもするけど、臆病さも同居していて神経症気味です。そんな情けない精神状態のオッポクを愛せるチョボクは、強い女性だと思います。チョボクはオッポクの何を魅力的に思ったのでしょうか。他の奴婢と比べて正直なところでしょうか。オッポクがおどおどしているのは奴婢という身分で虐げられているせいであることを抜きにすると、勇敢で銃の腕前が強い男ということになるかもしれませんね。
テギルは、今のテギルは自分のためではなく完全にオンニョンのために行動しています。テギルが自分のためにしたことといえば、チャッキを利用して自分を鍛えることと、子分という名の親友を得たことでした。テギルはテハの志が遂げられるだろうとは思ってはいないでしょう。それでもテハを助けてしまうテギルは何なのでしょうね。悪ぶらないと悪人を欺いて生きてはいけない世の中で、悪の仮面を身に着けて、逃亡した奴婢を捕まえるお仕事。わけがわかりませんね。
次回は最終回です。きっとハッピーエンドは無いのでしょうけど、続きが楽しみです。
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