チュノ最終回24話 -世の中を変えるために
目次
あらすじ詳細
オッポクは革命に馳せ参じるためにあのお方の処へ走りました。あのお方(左議政の部下)は兵士とともにクッポンたちを皆殺しにすると遺体の衣服で刀の血糊を拭いました。
「一人いなくなった。辺りを捜せ。」
あのお方はオ捕校(ポギョ)に言いました。
「さっさと周辺をくまなく捜せ!」
オ捕校(ポギョ)は兵士に命じました。
オッポクが現場付近に駆け付けるとあのお方と兵士が辺りを捜索していました。オッポクは岩に隠れると息も絶え絶えにクッポンが這って来ました。
「オッポク!どうした!あのお方が・・・・・・!」
オッポクはあのお方が兵士と一緒に歩いているところを見ると、クッポンを抱きかかえました。
「あのお方が・・・皆死んでしまった。それでも銃は・・・持ってきたぞ。」
クッポンはせき込みました。
「クッポン。しっかりしろ。しっかりするんだ。」
オッポクは顔を皺くちゃにしました。
「・・・・・・逃げろ。逃げて・・・チョボクと二人で暮らすんだ。恐ろしい。あいつらは・・・本当に・・・恐ろしい・・・・・・。」
クッポンは目を見開いたまま息絶えました。
「クッポン!クッポン!クッポン・・・・・・!」
月岳山(ウォラクサン)の霊峰の山賊の砦。
チャッキは家の中でテギルからの手紙を読もうとしていました。
「字は読めるのか?兄貴。」
チェ将軍は渋い表情を浮かべてチャッキに言いました。
「この頃目がかすむんだ。」
チャッキはチェ将軍に手紙を渡しました。
「テギルお兄様は何て?」
ソルファは言いました。
「チャッキ兄貴はソン・テハ夫人と子どもを連れて鳥飛山(チョビサン)へ。我々は利川(イチョン)の商人宿へと。」
チェ将軍は手紙を読みました。
「私は?私は?」
ソルファは言いました。
「急いでくれ。」
チェ将軍はソルファを無視するとチャッキに言いました。
「よしよし。なぜ俺が?」
チャッキは言いました。
「急用だから使いが来た。」
「俺に遣い走りをさせて自分たちは逃げるのか?」
「ソン・テハ夫人が誰だと思う?」
「あの部屋の子持ちの女だろ?」
「その夫人がオンニョンだ。」
「そうか。そうか。・・・そうなのかぁ?」
チャッキは首をかしげました。
「急用だから敵(かたき)と言える兄貴にまで助けを求めた。」
チェ将軍は言いました。
「親分!砦の場所がバレました。下の見張りを殺したのは訓練院(フルリョンウォン)の判官(パングァン)たちです。」
牢屋でキム・ヘウォン(オンニョン)と清の武官との話を聞いていた仲間が駆け付けてチャッキに報告しました。
「テギルめ。つけられたな。」
ファン・チョルンの家(イ・ギョンシクの家)。
「南小門(ナムソムン)跡の近くです。」
武装した5人の部下と捕盗庁(ポドチョン)の2人の武官はファン・チョルンの指示を待ちました。
「ソン・テハとイ・テギルの二人か?他には?」
ファン・チョルンは部下に言いました。
「人数はわかりません。」
「どういうことだ。」
「追撃部隊と合流部隊に同時に攻撃がありました。」
「兵力を分散させる気だ。隊を分けず一人を最後まで終え。使臣館(サシンガン)は今の配置でいけ。」
「はい!(一同)」
ファン・チョルンたちは出発しました。
早朝の山賊の砦。
「大丈夫だ。大丈夫だ。死にはせん。俺たちは負けたことはあっても逃げて捕らわれたことはない!この際だ。金剛山(クムガンサン)のようなところに根城を移そうじゃないか。景色のよい所で山賊をやれば心もきれいになる。えへへへへ。」
チャッキは村人たちに演説しました。
「すぐに引っ越すのですか?」
夫人はチャッキに尋ねました。
「俺は数日出かけるから、全員荷物をまとめて待っていろ。解散!」
チャッキが命じると人々は散らばりました。
「行こう。この借りはテギルに返してもらうから。」
チャッキはキム・ヘウォン(オンニョン)に言いました。
「あの。お願いがあるのですが。」
キム・ヘウォンは眠そうな石堅(ソッキョン)を抱きながらチャッキに言いました。
「おおそうか。そうか。そうか。そうか。」
「彼らを釈放してください。」
「奴らの?」
チャッキは並べさせたヨンゴルテ(龍骨大)を護衛する武官たちを一瞥しました。
「夫の知人のようなのです。誤解していました。」
「そうか。ちょっと待て。」
チャッキは男たちに所に言いました。
「なぜ官軍が来たと言わなかった!なぜ!なぜ!なぜ!行くぞー!」
チャッキは木の棒で肝の座った武官たちを何度も殴りました。武官たちは黙ってチャッキの怒りを受け止めました。
チャッキはヘウォンと武人たちを連れて行きました。
薄(すすき)の枯れ野。
イ・テギル(李大吉)は身を翻して矢を避けると飛び上がりテハの背後に着地しました。
ソン・テハは片膝を地面に突いて、矢を放とうとする複数の兵士を矢で射抜きました。兵士は短いうめき声をあげて地面に倒れました。
「やはり虎だ。」
テハは立ち上がりテギルに言いました。
「俺が走り回っている間にのんびり休みやがって。」
「行こう。」
テハは走りました。
「糞ったれ。」
テギルも一緒に並んで走りました。
王宮の城門前。
「下がれ。」
赤色の武官の服に着替えた“あのお方”は左議政イ・ギョンシクの行列の先頭に立ち城内に入りました。その様子を奴婢のオッポクは見ていました。
山の中。
「やあ。王宮の門はとんでもなく大きかったぞ。見ただけでしょんべんチビりそうだ。俺がなぜあんなところを襲おうという気になったんだろうな。クッポン。はあ。俺にはチョボクが必要だ。あいつが待ってるから、俺は無駄死にはしない。(こんな奴婢がいると世間に知らせることができたら、無駄死にじゃないよな?という重要な台詞がカットされてました・・・)」
オッポクは死んだクッポンを膝に乗せて話しかけました。
オッポクは二丁の銃を手に持ち王宮に向かいました。その様子を知り合いの奴婢が偶然見ていました。
王宮の城門前。
「おいお前さん。オッポク。何をしている?」
奴婢の男はオッポクの背中に向かって言いました。
オッポクは男に笑みを浮かべると銃を構え発砲しました。弾は見張りの武官に命中しました。
城内で銃声を聞いたファン・チョルンと部下はすぐに現場へ走り出しました。
オッポクはもう一人、さらにもう一人と四人の武官を殺しました。オッポクは弓兵の射撃を避けて門の中に入ると弾を込めました。
“あのお方”も兵士を連れて現場に急ぎました。
オッポクは宮殿から出てきた左議政イ・ギョンシクとその部下パク・ジョンスとチョ先生掛けて銃を撃ちました。イ・ギョンシクとパク・ジョンスはチョ先生の背後に隠れました。
「あっ・・・・・・。」(チョ先生の声)
チョ先生はオッポクに撃たれて死にました。
オッポクは撃ち終えた銃を置くともう一丁を構えました。パク・ジョンスは地面に伏せました。
「やーーーっ!あっ!」
“あのお方”はオッポクに斬りかかりました。オッポクは銃口を左議政から“あのお方”に変えて撃ちました。“あのお方”は後方に吹き飛ばされて死にました。
オッポクは再び左議政に銃を向けました。
イ・ギョンシクの表情が強張りました。
オッポクは黙って引き金を引きました。官帽(頭)が吹き飛び左議政は倒れました。
オッポクは駆け付けた兵士(おそらくあのお方の部下)に銃を取られて地面にねじ伏せられました。
ファン・チョルンは出遅れました。
オッポクが城外の方に目を見開いたまま武官に足で踏みつけられていました。同じ家に仕えていた奴婢は勇気あるオッポクが踏みつけられる様を見て悔しくなり涙目になりながら拳を握りしめました。王宮の城門が閉じられました。
薄の枯れ野を傷も癒えきらぬチェ将軍とワンソンがゆっくり歩いていました。ワンソンは急に後ろを振り返りました。ついて来ていたソルファは視線を横にそらしました。
「やあ。来いよ。早く。」
ワンソンは手招きしました。
「うん!」
ソルファは仲間に入りました。
枯れ野の別の場所。
「東に痕跡があります。」
部下はファン・チョルンに報告しました。
「行くぞ。」
ファン・チョルンは駆けだしました。黒い編み笠をかぶった5人の部下と二人の捕盗庁(ポドチョン)の武官と十数人の兵士たちも武装し後に続きました。
夜になりました。
「疲れたか?」
ソン・テハはテギルに言うと腰掛けました。
「誰が疲れただと?ふざけた質問だな。」
テギルは疲れた体を刀の鞘を杖にして起き上がりました。
「いつからか二人で走ってたな。」
「初めてじゃない。」
「並んではいなかった。」
「走り回る人生なんて本当に糞食らえだ。はっは。」
「そなたにはすまなかった。だが人の縁もすべて運命ではないか。」
「行こう。おそらく奴らは追ってきてるはずだ。」
テギルは立ち上がりました。
「友として会っていたらどうなっただろう。」
テハも立ち上がりました。
「奴婢とは友達にはならない。」
「まだ私を奴婢と思っているのか?」
「世の中にしがみついている奴は誰ででも奴婢だ。」
テギルは先に行きました。
宿屋。
「チャッキといたほうが楽だぞ。」
チェ将軍は夕飯を食べながらソルファに言いました。
「俺もそう思う。」
ワンソンも言いました。
「私はテギルお兄様がいればどこでもいいわ。」
ソルファは答えました。
「そうか。行こう。利川(イチョン)で待っていればテギル兄さんが来てくれるぞ。」
チェ将軍は優しくソルファに言いました。
「もう利川(イチョン)に着いているんじゃないの?」
「今頃は我々と同じでまだ向かっているところだろう。」
「!」
ソルファは立ち上がりました。
「どうした?」
「んあ?」
「テギルお兄様は利川(イチョン)には向かっていないわ!」
ソルファは言いました。
「どういうことだ。そこで会う約束だぞ?」
「男の約束は信じない!」
ソルファは包みを抱いて宿屋を飛び出しました。
「やあ。ソルファや!」
ワンソンは唖然としました。
キム・ヘウォン(オンニョン)はチャッキと清の武官と焚火を囲んでいました。数人の武官は辺りを見張っていました。
「ちょっと抱かせてもらっていいかな。へっへ。かわいいな。」
チャッキはヘウォンに言いました。
「本当に子ども好きなんですね。」
オンニョンは石堅(ソッキョン)をチャッキに委ねました。
「かわいいな。」
「私たちに同行してくださりありがとうございます。」
「あんたがオンニョンだからだ。捜し続けていたあいつを哀れに思っていた。そんな風に生きても人生はままにならぬ。」
「この世に運命ほど強いものはありません。」
「そうだろう。そうだろう。そうだろう。そうだろう。人は運命が配った札で勝負するしかない。」
チャッキは普段よりも真面目に言いました。
漢陽(ハニャン)の宿屋。
「実に恐ろしい騒ぎだった。奴婢が城内に侵入して居合わせた役人を次々に血祭にあげていたのだ。」
捕盗庁(ポドチョン)の捕校(ポギョ)は二人の女将に話を聞かせてやりました。女将たちは不安そうに武官の話を聞いていました。
「それでオ捕校(ポギョ)様は?」
拷問場。
「なぜたかが奴婢一人を止められなかったのだ!」
パク・ジョンスは武官の身なりをしてオ捕校(ポギョ)たちを拷問させていました。
「大監様。我々は何の関係もありません。」
みすぼらしい身なりとなったオ捕校(ポギョ)は釈明しました。
「主人を殺して逃亡中の奴婢だぞ!検問がずさんだから罪人が出歩けたのだ!」
パク・ジョンスは怒鳴りました。
「私は全般的に夜の見回りを・・・。」
「黙れ!」
宿屋。
「助かったとしても奴婢に落ちる。」
捕校(ポギョ)は女将に言いました。
女将たちは口を開けて驚きました。
「どうした?オ捕校(ポギョ)の代わり(のたかり)が私で不満か?」
「そんなことはありません。」
「滅相にございません。」
パン画伯も笑顔で言いました。
夜が明けました。
キム・ヘウォン(オンニョン)と石堅とテハの部下たちはチャッキの導きで山を歩いていました。
テギルとテハも一緒に山を歩いていました。
「明日だな。川上から船を使え。」
テギルはテハに言いました。
「安城(アンソン)川を下れば海に出る。」
テハはテギルに言いました。
「安城川のソルゲ岩の船着き場で乗り換えられるぞ。」
「近いといっても江華(カンファ)までは船路だからな。」
「朝までに安城川に到着しろ。」
「細部まで見落としがないな。多くを教わった。」
「跪いて感謝すべきだな。俺がいろいろ教えてやった。」
テギルが言うとテハは微笑しました。そこにテハの部下が現れました。
「将軍。お連れしました。」
部下の後ろから石堅(ソッキョン)世孫を抱いたキム・ヘウォン(オンニョン)が姿を見せました。
「たいへんだったでしょう。」
テハは口元がほころびヘウォンへと近づきました。テギルは顔をそむけました。
「ご無事でしたか?」
ヘウォン(オンニョン)が言うとテハはオンニョンの垂れた髪を指で拭いました。
テギルは振り向くと、妻らしくはにかむオンニョンがかわいくなり微笑みました。
「おーい。チャッキ兄貴〜久しぶりだな。」
テギルは両手を拡げました。
「テ〜ギル〜〜。ははははははは。」
チャッキも両手を拡げました。
二人は拳をぶつけ合って挨拶しました。
「手間賃をよこせと言いたいのか?酷い兄貴だぜ。」
「兄貴に遣い走りをさせるとは無礼な奴だ。」
「ちょうどいい。ついでに世間を見て回ればよいだろう。ははっ。」
「ご苦労でした。」
テハはチャッキの傍に来て言いました。
「ご苦労?言葉が足りないな。」
「感謝を伝えきれず残念です。」
「残念?言葉が短い奴は命も短いぞ。」
チャッキはテハの胸を小突きました。
「忠告として受け取ろう。もう行かねば。一緒に行かないか?」
テハは腕組みしているテギルに言いました。
「俺がなぜ?」
「(オンニョンが)安全な場所にたどり着くのを見届けなくていいのか?見届けて欲しい。これ以上お前に負い目を感じたくなんだ。」
「難しく考えるな。このクソみたいな人生を適当に生きろよ。」
「安城川だ。来ると信じているぞ。」
テハはテギルに言うとキム・ヘウォン(オンニョン)と石堅と部下を連れて行きました。
テギルとチャッキはテハたちと別れて山を歩いていました。
「テギル。山で一緒に暮らそう。世の中とぶつかっても早死にするだけだぞ。」
チャッキは四人の子分を引き連れ、テギルに話しかけました。
「この前死んだ実の兄が笑ってる夢を見た。どうしてかな。」
「世の中のこともオンニョンのことも忘れて俺について来い。人をうらやむこともない。気楽な暮らしだぞ。」
雪が降ってきました。
「はははっ。物は言いようだな。世の中から逃げてるだけだろ。逃げたところでどれだけ生きていける?」
「俺は世の中を避けてるのではない。汚くて嫌になるから避けてるんだ。」
「いずれにせよ行くべき道に進まないとな。」
「そうだろう。そうだろう。そうだろう。そうだろう。」
「おいチャッキ兄貴。せいぜい長生きしろよ。ん?じゃあな!」
テギルはチャッキの腹を殴って駆けだしました。
「困った奴だな。世の中がいいものならお前を誘うものか。」
安城川。
テギルは再びテハとヘウォンたちを見守りに現れました。オンニョンはテギルに微笑みました。
チョボクは銃を手に持ち砦に現れました。
砦の付近。
「チャッキお兄様!テギルお兄さまはどこへ行ったの?利川(イチョン)へ?」
砦に戻る途中のチャッキにソルファが追いつきました。
「いや。安城川だ。」
「ありがとうお兄様!」
ソルファは駆けだしテギルを追いかけました。
「言葉が短い奴が多いな。」
深い霧が立ち込める安城川の上流。
「安城と長湖院(チャンホウォン)方面に行った痕跡がありました。」
部下はファン・チョルンに報告しました。
「合流してまた二手に分かれただと?」
「そのようです。」
「十四歳の娘を連れ出すと噂が流れたな。今日は何日だ。」
「十三日です。」
「第一部隊は長湖院(チャンホウォン)へ先回りしろ。第二部隊は安城川へ向かえ!」
ファン・チョルンは兵士に命令を下しました。
「はいっ!」
両班の家。
「テギルは来ないの?」
夫人はワンソンを連れて来たチェ将軍に言いました。
「別々に来た。」
チェ将軍は言いました。
「おかしいわね。残金を払うと言ったのに。いつも後回しにするの。代わりにそなたたちが七百両払ってくれる?」
「俺だって兄貴に金を預けてるんだよ!」
ワンソンは機嫌が悪くなりました。
「テギルの取引をそなたが仲介したのか?」
「どれどれ。畑二百両は支払い済みね。その隣のチェ将軍の家も済んでるわ。ワンソンの家も完済よ。テギルの家と商人宿の分はまだ残ってるわ。」
夫人が言うとワンソンは夫人から証文を取りました。
「これは一体?俺たちの家って?」
「テギルがすべて揃えてくれたんだ。家を買い土地を買い皆で一緒に住むために。オンニョンもな。」
「俺だけ蚊帳の外かよ!」
ワンソンは感激して泣きました。
「お前に金をやれば全部使うだろ。」
「そんなことねぇよ!」
「何でも二人で決めるなんて仲間なのに冷たいじゃねぇか!」
チェ将軍は優しく微笑みました。
夜。テギルとテハとキム・ヘウォン(オンニョン)たちは焚火を囲んで休みました。
「この前クンノム、いや。キム・ソンファンに会った。」
テギルは言いました。
「お兄様に?」
「今となっては互いに恩も恨みもない。」
「無事なんですか?」
「妹が幸せになることを願っている。そうお前の兄貴は言っていた。」
「若様・・・。」
「その呼び方はやめろ。もうお前の若様(トリョンニ)じゃない。」
「(ここまで来てくれて感謝します。どうしても感謝してると伝えたかったです。)では何と呼べばいいですか?」
「呼ぶ必要はない。俺はな。俺は・・・。お前が恋しくて、捜していたわけじゃない。ただ逃げた使用人を、追ってただけだ。」
テギルの瞳が揺れました。
「分かっています。」
「はははははは!分かってたのか。先に行って船を調達する。伝えろ。お前の夫にな。」
テギルは立ち上がりました。石堅を抱いていたテハが戻りました。
「何か話でも?」
「先に行って舟を見つけておくと。」
「それだけか?」
「ええ。もう・・・・・・一人にしないでください。」
オンニョンの瞳も揺れていました。
テハは優しくオンニョンを見守りました。
「はっはっはっはっはっは。はっはっはっはっは。」
テギルは夜空を見上げました。
翌日、テハとヘウォン(オンニョン)の一行は安城川を下っていました。
「囲めーーー!!!」
兵士たちが襲い掛かってきました。
龍骨大(ヨンゴルテ)の護衛武士が斬られて亡くなりました。
「やーーーーっ!」
テハは石堅(ソッキョン)をヘウォンに預けると敵を立て続けに六人ほど倒しました。
「くっ・・・・・・!」
テハの腰に刀が刺さりました。テハは背後にいた兵を倒しました。
すぐにファン・チョルンと部下がテハに襲い掛かりました。凶刃がオンニョンの右肩に刺さりました。テハはオンニョンを襲った兵士を倒しました。オンニョンは河原に崩れ落ちました。
テギルは船着き場で待っていました。テギルは待っていても来ない一行に嫌な予感がして走り出しました。桟橋にはオンニョンのために買った桃色の絹の靴が置かれていました。
「なぜか私を殺すと言っていたのに、威勢がいいな。」
ファン・チョルンはテハに言いました。深手を負ったテハとヘウォンと石堅だけが生き残りファン・チョルンの味方は三人だけになりました。
「何がお前を変えてしまったのだ。」
テハはファン・チョルンに言いました。
「質問か?」
「違う。哀れみだ。」
「お前の哀れみなどいらん!」
ファン・チョルンは部下とともにテハに襲い掛かりました。テハはまた傷を負いました。
「やあーーーーーーーっ!」
テギルが助けに入り、ファン・チョルンの部下を殴り倒しました。テギルとテハはファン・チョルンに刀を叩きつけました。ファン・チョルンは二人の刀を押し返しました。
「しつこい奴だ。」
「言っただろ。貴様が死ぬ場に俺がいると。」
「これが、最後の戦いだ。」
テハもファン・チョルンに言いました。ファン・チョルンの部下はまた起き上がりテギルとテハに襲い掛かりました。テギルは傷を負いました。テハも腹を斬られました。ヘウォンは幼い石堅(ソッキョン)に殺し合いの場を見せないように袖で隠しました。テギルがファン・チョルンの腹を切るとファン・チョルンは再びテハの腹を斬りました。テギルも傷を負い間合いを取ると、刀を構え直しました。
「早く行け。」
テギルはテハに言いました。
「そうはいかん。」
「俺が何のためにここまで来たと思う?お前の夫人と子どもを死なせるつもりか?お前は幸せに暮らせばいい。」
テギルはいつもの短剣とは異なる長い刀を操りファン・チョルンを狙いました。
「ああっ!」
テハの腹にファン・チョルンの部下の刀が刺さりました。テハは敵の刀を握ると苦悶の声を上げました。
「旦那さ・・・。あふうっ・・・。」
ヘウォンは小さな悲鳴を上げると夫のもとに這い寄りました。
「くうっ・・・。」
テハは苦悶の表情を浮かべました。テギルはテハを襲った敵を斬りました。
テハは地面に転がりもがき苦しみました。
「はぁ。はぁ。」
ソルファが山を走っていると兵士がソルファを通り越して走って行きました。ソルファも走り出しました。
「あなた(サバンニ)!あなた!」
ヘウォンはテハを抱きました。テハはもう起き上がれませんでした。
「連れていけ。」
「と・・・トリョンニ。」
「生き延びて幸せに暮らせ。そうすれば俺らみたいな奴は世の中に現れない。」
「ああ〜っ。」
テギルが言うとオンニョンは声をあげて泣き出しました。
「オンニョンや〜。生き延びろよ〜。お前が生きていれば・・・俺も生きられる。早く行けーーーーー!」
テギルはぶっきらぼうに言いオンニョンを見つめて微笑むと敵と戦い始めました。
ヘウォンは泣きながらテハを支えて石堅を連れて歩き出しました。
テギルは時間を稼ぐため、ファン・チョルンといつまでも戦っていました。
「(若様(トリョンニ)。また若様を置いて行かねばなりません。私を許さないでください。申し訳ありません。若様(トリョンニ)。本当にすみません。)」
オンニョンは崖の上からファン・チョルンと戦っているテギルに心で言いました。
「あーーーーっ!」
テギルはファン・チョルンの刀を受け止めました。
テギルはファン・チョルンの脚を斬ると、ファン・チョルンもテギルを斬りました。ファン・チョルンは激情が湧いて耐え切れずに黒い編み笠を脱ぎ捨てました。
「ここまで・・・ここまでする理由は何だ。」
「あいつに、あいつに命を助けられたことがある。」
「ただそれだけか?」
「変えてくれるんだ。このクソみたいな世の中をなーーーーーー!!!」
テギルは力を振り絞りファン・チョルンに斬りかかりましたが余力が残っているファン・チョルンはテギルの刀をはじき飛ばしました。テギルは背中から転ぶと立ち上がり素手でファン・チョルンに殴りかかりました。
「お前まで・・・お前まで私をみじめにするのか。」
「世の中を恨んでも・・・・・・人は・・・恨むもんじゃない。・・・・・・かっこいいだろ?」
テギルは一瞬笑うとファン・チョルンに突進し、ファン・チョルンを岩に押し倒して素手で何度も殴りました。ファン・チョルンは膝でテギルの腹を蹴りました。ファン・チョルンは口から血を吐いて呼吸しました。テギルは後方に倒れ力を使い果たしました。
「やーーーーーーっ!」
捕盗庁(ポドチョン)の兵士たちが大勢駆け寄ってきました。
テギルは刀を支えによろめきながら立ち上がりました。
「俺らみたいな奴がいないだけで、もっと住みやすい世の中になるだろう。」
テギルは左手で刀を肩に担ぐとファン・チョルンに言いました。もう一刀を持つテギルの右手が震えていました。
「うあーーーーーー!」
テギルは最後の振り絞りました。
「(オンニョンや、オンニョンや、幸せに生きるんだぞ。お前の夫と、そしてお前の子どもと一緒に。時が流れてもう一度会えたら、どんな人生だったか聞かせてくれ。俺のオンニョン。俺の、愛する人よ。)」
テギルは兵士に向かって駆けだしました。
「ソン・テハはどうなりましたか?」
「・・・・・・。」
テギルとの死闘で心に大きな衝撃を受けたファン・チョルンは部下の問いに即答できませんでした。
「追えーーーーー!」
駆け付けた武官がファン・チョルンに言いました。
「もうよい。私が勝った。」
ファン・チョルンは立ち上がりました。
「死にましたか?」
武官はファン・チョルンに言いました。
「すべて終わった。帰るぞ。」
ファン・チョルンは刀を捨てました。
オンニョンはテハの腕を支えて船着き場に向かっていました。
「夫人・・・。」
テハは口から血を吐き地面に崩れ落ちました。
「話してはなりません。」
「夫人・・・・・・。私に・・・従って・・・くれないか?」
「ええ。」
「清国には・・・・・・行きません。」
「わかりました。」
オンニョンは涙を流しながらテハを支えようとしました。テハはもう立ち上がれませんでした。
「ああ・・・・・・この地に・・・・・・借りが多すぎて・・・ここを・・・離れられません。」
テハも涙を流しました。
「あなたのお考えに・・・・・・感謝します。」
「ありがとう・・・夫人(プイン)。今の言葉に感謝する。傷は・・・すぐ治る。治ったら、いい世の中を作らねば・・・・・・ヘウォン、オンニョン、二つ名で生きなくてもいい世の中を。」
テハは再び立ち上がると龍骨大(ヨンゴルテ)から貰った刀を杖に歩き出しました。オンニョンはテハを支え、石堅(ソッキョン)は自分の足で歩き出しました。
テギルは刀で自分を支え、血まみれで岩場に腰掛けていました。
「来たわよお兄様。」
ソルファはテギルに言いました。
「よくしゃべる、よくしゃべる、おチビさんが来たな。なぜ追って来た。」
テギルはソルファに言いました。
「お兄様。私と一緒に帰ろう。私が炊事も、洗濯も何でもしてあげるわ。お兄様に服も作ったのよ。見て。これがお兄様の名前よ。読み書きもできるようになったの。漢字も覚えたの。私を連れていても、恥ずかしくないわ。」
ソルファは涙を流し下手な大吉という刺繍を見せました。
「お前ってやつは・・・ぐはっ・・・酷い腕前だ。」
テギルは口から血を吐きました。
「愛が何だというの。この世には、女も男も、大勢いるのに。」
ソルファが言うと、テギルはソルファに手を伸ばそうとしましたがソルファの姿が見えず宙を掴みました。ソルファはテギルの手を握ると自分の頬に当てました。
「すまないな。ソルファや。俺は愚かな奴だから、お前を分かってやれなかった。泣くんじゃない。まるで、俺が死ぬみたいだろ。」
「分かった。泣かない。泣かない。」
「こんな気持ちのいい日に、こんな気持ちのいい日には・・・歌でも・・・歌でも・・・歌ってくれないか?」
テギルは涙を流し震える声で言いました。
「どんな歌が聞きたい?民謡にしようか?それとも流行の歌がいい?」
テギルは力尽きソルファの膝に倒れました。
「・・・・・・。何が聞きたいの〜?」
ソルファは泣きました。
「私を見て〜♪私を見てごらん〜♪私を見てごらん〜♪真冬の花を、見るように〜♪うっとりと〜、私を見てよ・・・・・・(嗚咽)。」
夜のイ・ギョンシクの家。
「ああああああ〜。」
ファン・チョルンは家に帰り妻の部屋に入ると震える血だらけの手で夫人の手を握り、夫人の膝で泣きました。妻もファン・チョルンの気持ちを察して一緒に泣きました。
ソルファは河原にテギルを葬り墓に縫った衣を覆い、愛おしそうに墓に抱き着いて泣きました。
翌1649年の夏、仁祖は在位27年で世を去り世子の鳳林大君(ポンニムテグン)が王位に就き孝宗(ヒョジョン)となりました。孝宗6年の1655年を最後に逃亡した奴婢を追う推奴(チュノ)は廃止されました。その翌年、石堅(ソッキョン)は配流を解かれました。
夕方の山の頂。
「ウンシル。太陽は誰の物だと思う?」
チョボクはオッポクの形見の銃を片手にウンシルと夕日を眺めていました。
「誰の物なの?」
「私たちの物よ。」
「どうして?」
「私たちは、何も持ったことがないから。」
* * *
川辺。
テギルは太陽を射る真似をしました。
完。
実は完全版ではその後、チェ将軍とワンソンが幸せそうに畑を耕すシーンがあります。
推奴(チュノ)最終回の感想
推奴(チュノ)の全話を見終えました。最終回は本当に内容が濃いドラマでした。もう感動して涙出ちゃいました。まさかそう来るとは!私はテギルだけじゃなくファン・チョルンは死ぬと思ってたんですよ。テハも、あの様子だとやはり船着き場に行く前に死んでしまったのではないかと思います。でもドラマでは、はっきりとテハが死ぬ場面を描かなかった。テハは朝鮮への愛国心と忠誠を示し、韓国の人々を感動させました(多分)。史実では石堅(ソッキョン)王子は清には行っていないので、ドラマの話ではオンニョンが石堅をしばらく守ったのかな?と思います。その辺は何も描かれていなかったけど。
いったいどこから感想を書きましょうか。
続きは別の記事で書きますね。
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