大王世宗(テワンセジョン)41話
あらすじ
太宗「集賢殿か、知恵を集める、よい名前だ。」
チョ・マルセン「政務の時間以外はほぼそこでお過ごしです。時には朝までおられることも。」
太宗「そうか王様が集めた知恵者はどのような人物だ?」
チョ・マルセン「主に新進の官僚や優秀な儒生でございます。場違いな者もおりますが。」
太宗「場違いな者だと?」
パク・ウンは集賢殿の扉をあけました。集賢殿には水色の制服を着た者たちが書物を読み漁っています。世宗もそのひとりでした。
太宗「左議政まで動員して王様が集めている知恵とは何なのだ?」
パク・ウン「対馬の情報をお集めですか?集賢殿を閉じる気ですか。対馬の情報収集は軍務です。征伐が大勢の意見です。軍務は上王様のお役目です。」
世宗「そなたが考える軍務とは何なのだ。確かに征伐を望む声は日ごとに高まっている。そして余は生活に苦しむ民に鞭打ち恥知らずな王となっている。大監、対馬を調べ敵について調べることは税について調べ民からの徴税を少しでも減らすためなのだ。その方法を見つけるためにここにいる。たとえ軍務であっても余は全精力を傾けるべきでは。」
二人のやりとりに注目していたイ・ス、キム・ジョンソたちが視線を書物に戻す。
世宗「そなたの仕事はただひとつ、余の仕事が軍務に当たるかを論ずる前に、一日も早くそなたの能力を伝授することだ。不当に利益を得た者を必ず見つけ出す。そなたの卓越した監査能力、それが貧困に苦しむ民たちの希望だ。血税を搾り取らなくても済む早道になるかもしれぬ。」
言い終わると世宗は集賢殿から出ていきました。赤に染められた柱に緑青色に塗られた窓枠、五色に彩色された廊下を歩きながらイ・スは世宗に言いました。
イ・ス「領殿事にパク・ウンを選んでよかったのでしょうか。」
世宗「有能であることは確かだ。」
イ・ス「上王様と殿下、二つの太陽が同時にあるときに才能だけで選ぶのは危険です。」
世宗は歩みを止めてイ・スを見つめました。
イ・ス「王様の行動を上王様に歪めて伝える可能性も。」
世宗「わかっている。」
イ・ス「ではなぜ・・・」
世宗「パクがいなければ集賢殿は真の価値を認めてもらえない。新たな王にへつらい後の権力を担う新進官僚の集団、そう思われたら父上と重臣らの標的になる。それを避けたいのだ。」
世宗を見つめるイ・スを置いて世宗は歩みはじめました。世宗の後には四人の内官と四人の女官が続きました。世宗は政敵となる父上王と上王の重臣たちの行動を予見していたのでした。廊下に一人残ったイ・スは目を閉じると弟子である世宗の師を超えた深い洞察に満ち足りた悦びの表情を浮かべ、君主としてではなく、ひとりの師を超えた弟子に対する眼差し向けたのでありました。イ・スにとっては世宗の君主としての成長が何よりの倖せなのでした。
重臣たちの執務室で赤い官服に身を包んだチョ・マルセンは椅子に腰かけようとした藤色の官服のパク・ウンに話しかけました。
チョ・マルセン「若造たちの相手をするのは骨が折れるでしょう、大監。」
パク・ウン「無駄なことを始めてしまった。集賢殿の領殿事(ヨンジョンサ、長)は断るべきだった。」
チョ・マルセン「権力を維持するのは大変なことです。新たな王が最も力を注がれる機関の長に選抜されたのです。」
パク・ウン「褒め言葉には聞こえぬが。」
チョ・マルセン「誤解しないでください。私はただ大監(テガム)のお力になりたいのです。集賢殿に大監のお味方を入れる必要があります。ご存知の通り今の集賢殿は王様の側近が大半を占めています。その側近らを牽制できれば大監は集賢殿の実質的な長となれます。権力を維持することができます。」
パク・ウン「私の味方であると同時にそなたの味方なら望ましいか。」
チョ・マスセン「大監は話が早くて助かります。」
パク・ウン「それで、私に誰を推薦するつもりだ。」
礼曹判書「それでも貴様は官吏か。」
シン・ジャン「礼書判書様」
礼書判書「惚れた女子への恋文ではないのだぞ。外国に送る公式文書に代押(テアプ)がなくてどうする。私が気づかなければ国の恥をさらすところだった。」
赤い服のシン・ジャンは深い青色の服を着た礼書判書に叱られていました。シン・ジャンは獣のような風貌に似合わず甘えた表情を浮かべて礼書判書に許しを乞いました。礼書判書は許す代わりに命令に従えと言いました。嬉しそうにするシン・ジャンに礼書判書は最後の指示を出しました。
礼書判書「ここに辞表をもってこい、今すぐだ!」
シン・ジャンは先ほどまで見せていた白い歯をしまい、目に涙を浮かべました。泣く泣く部屋を退出していったシン・ジャンを見つめる二人の男がいました。
そのやり取りを廊下で聞いていたパク・ウンは首を横に振り渋い表情を浮かべ呻き声を上げました。チョ・マルセンも視線を下にやり、考えをめぐらしてから去りました。パク・ウンはシン・ジャンを使えない者だと思いました。チョ・マルセンはパク・ウンはうっかり者ですが非常に役立つ男だとパク・ウンに推薦しました。シン・ジャンは成均館にいた頃は師匠から教えを請われるほど優秀だったのです。パク・ウンは帳面を開きシン・ジャンの成績を確かめましたが最下位でした。シン・ジャンは白紙の答案を出していたのでした。
チョ・マルセン「欠点よりも才能を重んじて人材を選ぶことは王様が好まれる手法です。側近はそのような者ばかりです。彼をそばにおけば本命の手下が疑われずにすみます。」
マルセンは部屋にキム・ムンを呼びました。キム・ムンは優等生でマルセンの忠実なしもべでした。
キム・ムン「お望みとあらば王様のご意思より左議政様のご意思に従います。」
パク・ウンは集賢殿で世宗を監視していました。世宗はイ・スに対馬についての情報のなさを問いました。イ・スは詳細な情報がないといいました。
対馬貞盛「まだ言わないのか。あれをどう使うのか突き止めないと。朝鮮と戦っても勝てないじゃないか。」
牢屋では明国の男が拷問されていました。
都都熊守「言え、大砲をどのように使うのか、言え。」
明学士ヨ・ジンは熊守に唾を吐きました。腹を立てた熊守がヨ・ジンを刀で斬ろうとしたら対馬貞守が熊守を殴りました。対馬貞盛はいまヨ・ジンを処刑すれば大砲の使い方がわからなくなる。処刑は朝鮮の技術が入ってからでも遅くはない。殺してしまえば熊守、お前の首が先に飛ぶぞと言いました。
宗俊「火薬を扱える者の中で抱き込める者がいるかどうかちょっと調べてくれ。」
ピョ・マンゴ「それは、ちょっと高いけど・・・」
宗俊は懐の中から赤い袋に包まれた塊をマンゴに渡しました。そしてマンゴが帰郷を望むなら地位を保証してやるといいました。マンゴは宗俊に朝鮮が半年以内に大きな軍船を完成させる報告書を受け取りました。
夜の港、倭国の忍者の装束をした者たちが水中から竹の筒で呼吸をしながら上陸しました。彼らの背後をこんこんと叩く男がいました。
忍者「何者だ!」
ユン・フェ「これではお前の命はないぞ。朝鮮語を使うな。「ナンダ」を使うと教えただろ。」
忍者「不意打ちなんて卑怯ですよ。」
ユン・フェ「イノマ(意味はわかりませんでしたが、おまえさんぐらいの意味でしょうか)、敵は襲う前に知らせてくれるのか?やり直せ。」
忍者「ヒョンガーム」
ユン・フェ「一人でもしくじったら朝まで水の中で過ごさせるぞ。」
忍者「くそったれ、やってられるか。」
ユン・フェ「悪態をつくときも日本の言葉を使わんか。」
忍者「クソッタレー、タマレ(黙れ)」
ユン・フェ「コロサレタイノカ」
イ・チョンとカン・サンインはユン・フェらの様子を見守っていました。カン・サンインは弓の練習をしている世宗のところに赴き細作(セジャク、諜報員)の育成はおやめくださいと言いました。上王の太宗に知られると誤解を招くからでした。対馬の地図がないので、世宗は民への負担を減らすため、ひとりでも多くの民を守るために上王と対立することも覚悟で情報を集めていたのでした。ユン・フェも要員が言葉を2カ月以内に習得することはできないので反対を申し出ていました。対馬に敬差官(キョンチャガン)を派遣するという世宗に礼書判書は反対しました。
上王は対馬主の側近を宮殿に呼び、拝礼をさせました。上王は彼らを言葉で脅しました。ユン・フェは対馬の使者との謁見は越権行為だと世宗にいいました。礼書判書はこのことは世宗の即位の前から決まっていたといいました。マルセンは使者を呼んだことは軍務で倭寇を罰するためで越権ではないといいました。上王は対馬の使者に倭寇を野放しすることは対馬の指図かと問いました。対馬の使者はとんでもございませんと釈明しました。
上王「朝鮮に侵入した倭寇を捕らえよ。余を父母だと言ったな?ならば孝心を見せよ。わが子を斬る苦しみは味わいたくない。約束が守られなかったときは島主の命をもらうことになるかもしれんぞ。」
対馬の使者は上王の脅しに震えていました。
太宗は宣戦布告をしたのでありました。
礼書判書のメン・サソンは怒った明国の勅使ヘ・スと話し合いをしていました。世子の任命書も渡していないのに、忠寧が国王となり明の使臣は重病のはずの上王がなぜ軍務をしているのかと詰め寄りました。このことは我が明の皇帝を愚弄している、それ以外に解釈のしようがないと言いました。明国にとっては諸国の王を任命することで国の威厳を保っているのでありました。
勅使は明の皇帝は財物よりも礼儀を重んじる方ですと礼書判書に言いました。物心両面で誠意を見せると話しやすくなるでしょうと勅使ヘ・スは賄賂を要求しました。世宗が即位してはじめての外交で王が勅使に賄賂を包ませてはいけないと世宗の義父のシム・オンはいいました。回り道でも正道を歩むべきだと。マルセンはシム・オンをけん制しました。シム・オンもマルセンに応戦しました。
世宗は太宗に明の皇帝に親書を送るといいました。真心の手紙だけで明の怒りを鎮められるかと太宗はいいました。世継ぎや王の擁立は朝鮮が自主的に決めたいと主張したいと世宗は言いました。太宗も反対はしませんでしたが勅使を説得しなければならないだろうと上王は世宗にいいました。世宗は私は勅使を説得する気がありません、なぜなら勅使もまた説得される気がないからですといいました。勅使が帰国する前に明に奏請使(チュチョンサ)を送りたいと世宗はいいました。それは勅使を無視してさらなる怒りを買うだろうという太宗。
そうならないようにすることが外交だと世宗はいいました。太宗はシム・オンを領議政に任命し明に派遣するのがよいといいました。皇帝を説得するためには王の義父シム・オンに地位を与えて明に送れば明に誠意を示せると太宗は言いました。
シム・オンと酒を交わす世宗。世宗は太宗を疑っていました。シム・オンを明に派遣することはシム・オンの命にかかわることでした。そのような危険な任務に太宗がシム・オンを推薦したことで
世宗は太宗が世宗の外戚の勢力を削ぎたいのではないかと疑っていたのです。シム・オンはそのようにしてこれまで多くの王の外戚が粛清されてきたことの大半不可避で必要なことでしたと言いました。シム・オンは上王は理由もなく刀を振るう方ではありません、粛清せざる終えなかった上王様の苦しみをご理解ください、私が権力に溺れて不正を働いて横暴になったなら殿下が刀で私を斬らねばならないといいました。「殿下、王の座とはそれほど重いのです、決して一度もそのことをお忘れないよう・・・」
領議政のユ・ジョンヒョンは上王に辞職の意を伝えました。領議政は上王から頼まれた譲位の役目は果たしたので役目は終わったといいました。しかし上王は「領議政の座を譲り義禁府の提調の座に就け。そこで逆徒を一人残らず処刑しろ。王様を意のままに操ろうとする輩や国を揺るがそうとたくらむ輩をすべて洗い出し処刑しろ。それを済ませてこそ譲位を終えたと言えるのだ。」と言いました。老賢領議政は驚きながらも上王にひれ伏しました。
新たに領議政に任命されたシム・オンは上王から賜った馬に乗り明に旅立ちました。国王の義父、領議政の行列は実に壮観で少しでも一目見ようと民たちが押し寄せました。豪華で王の行列にも劣らない派手なものとなりました。
上王「王の行列にも劣らなかっただろうな。」
息子の義父を豪華なものに仕立て上げたのは太祖の戦略なのでした。
息子の義父を豪華なものに仕立て上げたのは太祖の戦略なのでした。
ユ・ジョンヒョン「府院君の権力か、木が揺れなくても世の中が放っておくまい。」
パク・ウン「いずれ王様が木をお切りになるでしょう。」
感想
今回はとても内容の濃い回でした。権力を巡っての水面下での争いです!重要な話ばかりでしたね。ここでは主に上王派、世宗派、パク派と3つに勢力がわかれてそれぞれ牽制しあっていました。上王は世宗の派閥が目障りなのでした。左議政のパク・ウンにとっても世宗の派閥は上王と共通する敵でした。なぜなら世宗派が台頭すれば自分たちの地位が脅かされるからでありました。そして上王がユ・ジョンヒョンに命じた新たな任務「粛清」ひええーーっ。また血の嵐が吹き荒れそうな予感です。いったい上王は何をしたいのでしょうか!?世宗を守るために、世宗の側近たちを排除するとは一体どういうことなのでしょうか?頭の悪い私には理解できませんでした。放っておけば世宗派一色になりそうなほどの勢いがあったということでしょうか。もしそうなったならば朝鮮末期のように国が綻びますね。