そして誰もいなくなったのあらすじネタバレ感想
アガサ・クリスティー原作のテレビ朝日のサスペンスドラマ「そして誰もいなくなった」が2017年3月25日・26日の21時から放送されました。このドラマは先日がんで亡くなられた渡瀬恒彦さんの最後の出演作ということで注目を集めました。前編と後編の二部作で合計4時間のサスペンスドラマです。あらすじの概要
物語は兵隊島という東京都の太平洋の孤島の洋館で起きました。10名の過去を持つ登場人物が次々に殺されていき、最後に誰もいなくなったというストーリーです。この事件の捜査には沢村一樹演じる警視庁の何とかという警部(名前が覚えられなかった!けど後で調べたら相国寺竜也)が部下を引き連れて捜査しトントン拍子で犯人を見つけてしまった!というだけの探偵役は何のひねりも葛藤も感情もない(わけではないだろうが達観しすぎて感情的になる理由がないだけと悟っている)超賢い警部という設定で犯人捜しよりも登場人物が次々と殺されていくという場面の描写にほとんどの時間が割かれているドラマでした。
主人公がいないドラマ
このドラマは主人公といえるような主人公はいませんでした。視聴率稼ぎのために仲間由紀恵さんが主人公に近い演出がされており、その他はそれほどフォーカスされていませんでした。沢村一樹も役づくりに力が入っていたんですが、あくまで物語の小道具というような位置づけであり(原作がそうなのかもしれません)、いつもの甘いマスクは封印した演技で新たなキャラを演じています。
恐怖心を煽る演出とスピーディーな展開
「そして誰もいなくなった」は放送時間に対し内容が詰め込み過ぎられていてアガサ・クリスティーのストーリーが入りきらなかったような印象を受けました。無人島で人が何人も殺されるという密室の舞台自体が恐怖を煽る装置となっており、わけがわからないうちに人が死んで、電気が切られて、夜に勝ってに窓が開いて・・と定番の展開にもかかわらず、これが一人で観ていると怖い!!!「沢村さーん、早くたっけて~!」みたいに思うも救いがないあらすじで、最後の一言「犯罪に芸術はない」と警部が言ったことが救いであるような、ないような、締めくくりといった感じでした。登場人物も多すぎて名前が涼子だけしか覚えられなかったです。他は俳優名でしか登場人物の名前を覚えられなかったです!
あらすじの詳細
なぜか兵隊島に招待された8人と執事夫妻の2人はホイホイと無人島に集まりました。職業は元刑事に元判事に元水泳選手に元傭兵(笑)に、元ボクサーに医師と往年の名女優と、え~っと・・・誰だっけwああ、津川雅彦演じる政治家のお爺さん。この人たちは自らの欲望を満たすため過去に法で裁かれない殺人を犯していて、それを犯人がお前は悪だから死刑だと処刑していくのです。
元傭兵は自分の戦地での妻との娘マリアと生き残るために5人の味方を見捨てて逃走した過去がありました。元刑事は被告に不利な証言をしました。元水泳選手は恋人の息子にすべての遺産がわたると知り少年を溺れさせました。執事夫妻は雇い主の女性の介護が嫌なのかはわかりませんが、殺めていました。元判事は気に入らない被告に私情で死刑を下していました。名女優はレイプされた女性を騙して堕胎させ死に追い込みました。議員は妻が秘書と不倫をしていたため・・・それが許せませんでした。元ボクサーは道すがらの男を殴って殺してしまいました。この辺りの詳細は短く描かれていたので実は筆者もよくわかりません><;。あまり興味深い設定じゃなくてチラリとしか映ってなくて、しかも醜い悪意がイマイチ強調されてなかったので演出不足ではないかと感じました。
善人の仮面が剥がされていくが・・・
10人にはそれぞれ悪の側面があり過去に人を殺していました。しかしドラマの最初のほうでは「助けようと思ったけど仕方なかった」という言い訳をして皆善人面をしています。この辺は強調されずに描かれていたのである意味制作側が悪の本質と善の仮面についてもスルーしていた節があるので評価は下がるかもしれませんが、アガサ・クリスティーが最も描きたかった場所は人間が善の仮面をかぶり悪(欲望を満たすため他者の死を望むこと)を隠している本質ではないかと思います。
感想
私は犯人がすぐにわかってしまうも、怖いなりに最後まで観ていました。なぜ犯人が最初にわかったかというと、この10人の素性を知りうる立場というのは彼以外にいないのですよ。例えば執事が他人の過去を知り得るかというと、それは職業や財力からいって無理です。つまりはそういうことなんです。テレビなので描けることは限られていても、感情的な交流がもっと描かれていてもよかったのではないかとちょっぴり残念に思います。恐怖の演出や遺作の演出に主眼を置いて心は置き去りにされてしまったような感じです。原作者はおそらくもっと登場人物を憎んでいたはずです。アガサさんの言いたいことが尊重されていないところはイマイチかも。
犯人は定番の人物
原作のほうでは既に犯人がネットでバレバレなので、このページでも隠す必要はないと思うので書きますが。いわゆる犯人はサイコパスという精神異常者でした。殺人への欲求を満たすためにその職業に就いて、死ぬ前にやってみたかったと、やり逃げしたのです。犯人は非常にくだらない人間ですが、現実世界の日本でも「いる」から余計に怖いと思います。
髷(まげ)と裃)の謎
判事が髷(まげ)と裃(かみしも)を着用して死んでいた謎について。私は原作を知らないのでシンボルの解釈は適当ですが、江戸時代の武士の装束、しかも礼装ということで志村けんかと一瞬思いましたがw自己顕示欲が強いという設定ですから自分が犯人(断罪者であり処刑人)であるというメッセージなのでしょうね。賢い犯人にしては単純すぎる解釈でしょうか?あるいは最後くらい犯人役をやりたかったという渡瀬恒彦さんの意思を暗示していたのか。
渡瀬恒彦さんについて
渡瀬恒彦さんはタクシードライバーの推理日誌やおみやさん、警視庁物のサスペンスドラマに多数出演されており2017年の3月14日に永眠なさいました。私はというより家族が渡瀬恒彦さんがドラマに出ていると再放送でも初演でも必ず見るというほどのファン(というよりはサスペンスドラマのファン)だったので私もよく出演作を観ていました。印象に残っている作品は「おみやさん」と「タクシードライバーの推理日誌」です。役作りはしてないみたいでどちらも同じキャラにしか見えませんでしたが、キャラを観ているというよりは俳優渡瀬恒彦さんを観ているような感じでした。のんびりとした口調と、年を重ねた脂ぎった男臭さというか、柔和な雰囲気に隠れている鋭い観察眼、などが印象でした。自分を抑えた紳士で優しい演技とメヂカラ(本質を見抜きたいという観察力)がとっても魅力的だったと思います。もう渡瀬さんの新作が見られないと思うと寂しい気持ちです。