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グレイテストショーマン(2017年の米国映画)の視聴感想 偽善をめぐる論評を中心に主人公バーナムを分析


The グレイテストショーマン(映画)

グレイテストショーマン 映画 2017年作

グレイテストショーマンは、2017年作のハリウッド映画です。ミュージカル形式の映画で、貧しい少年が愛する女性を養うためにアメリカンドリームに挑戦してサーカス事業を成功させます。主人公P.T.バーナムの役をヒュージャックマンが演じてます。監督はマイケル・グレイシーです。上映時間は105分です。ここでは完全にあらすじをネタバレしますので、まだ見ていない人はお戻りください。


感想

私は普段映画館に行かず、ハリウッド映画も年に1本観るかどうかの人間です。映画オタクではないので専門的な意見は述べられません。

久々に英語のドラマを観ました。

この作品はものすごく頭をフル回転させて作りこまれていることがわかります。脚本もなかなかのハイレベルであれこれ計算されており、古典をベースに、モデルとなった年代から変わらぬ現代の社会問題をテーマとしたラブストーリーになっています。

貧乏な少年バーナムは仕えていた富豪の娘チャリティと恋に落ちました。バーナムは屋敷を追い出され、盗みや日雇いの仕事で日々を食つないでいました。そんなバーナムは郵便配達員の荷物に手紙を忍ばせ、チャリティに手紙を書いて心を繋ぎ止めます。お嬢様ことチャリティの父は娘が幸せになれないと思い、結婚に反対しています。

大人になりタイピストの仕事を得てアパートを借りたバーナムはチャリティを妻に迎え、二人の娘をもうけました。チャリティの父は娘が貧乏暮らしに耐えられずに「いつか家に戻って来る」と断言しました。しかしチャリティはバーナムと我が子がいるだけで他には何もいらないと言っています。チャリティが望んでいることは愛する家族の健康と幸せだけです。ある日、バーナムは会社を解雇され、妻と娘を養うために「見世物の事業」をはじめます。そして「珍しい人々(マイノリティー)」を集めてショーを開くのでした。

珍しい人というのは、いわゆる被差別者で、社会的抑圧されている人たちのことです。


このドラマではアメリカの上流階級と労働階級とマイノリティーが登場します。上流階級は「気取り屋(世間体が第一)」と表現されていて、クラシックコンサートや演劇が「本物のショー」であると思っています。上流階級のトップはイギリスの女王陛下です。

主人公のバーナムはイギリスの女王と会見し、同じく女王に謁見しているオペラ歌手と契約を結びます。劇団が女王陛下に認められて、オペラ歌手をショーに呼んだことで箔が付いたため、上流階級がショーを見に来るようになりました。そのためバーナムは上流階級の機嫌をとるため大金持ちをパーティーでもてなさないといけなくなりました。ところが、バーナムは上流階級のパーティー会場に団員が入ることを拒否します(ここでThis is meが流れます)。
バーナムはオペラ歌手や上流階級との仲を深めて行きますが・・・・それに反して劇団の経営はうまくいかず財を食い尽くしてしまいました。とうとうオペラ歌手が魔性の本性を現しバーナムを誘惑するまでになりました。バーナムが受け入れなかったところ、その女性歌手は当てつけにスキャンダルを作って去りました(要するに偽善者で、この女性はイメージ向上のためだけにチャリティーをしていた悪人という役回りです)。

バーナムの愛と平行してサーカスの後継者のフィリップの恋も逆ロミオとジュリエットで進んでいきます。

終盤で黒人(のギャング)が「俺のシマで儲けやがって」と因縁をつけてきたため乱闘になり、劇場の建物が燃えてしまいました。いわゆるマイノリティーとしての特権をめぐる争いで、底辺で憐みと施しを受けるためのシマ争いです。


数々のトラブルを経てバーナムは家族同然の団員がお金よりも大事であることを思い知りました。バーナムたちはテントひとつから再出発してフィリップをサーカスの跡継ぎにするところで映画は終わります。

このドラマでは上流階級だけが本物と思い込んでいる「高級芸術」を否定しています。

お金持ちの慈善事業は「偽善」だとキッパリ言ってます。なぜなら本当に慈愛あふれる人ならば、とんでもない額の報酬を受け取ったり、お金を貯めこむことはしないからです。

「お金」より「家族」が大事だと主張しています。

「差別」「貧富の差」には「夢」に向かって邁進することや「夢を見ること」で「夢の中ではどんな人にもなれ、どんなものも手に入り・・・。」と夢見る幸福について述べています。

髭症の女性をマイノリティーの代表としたのは、おそらくは他のマイノリティーよりも酷い軽蔑を受けるからでしょう・・・。小人症の人や犬男という人も出て来ました。身よりのない人や、肥満症、アジア人やオリエントの人などなど、いわゆるアメリカ社会から差別されているであろう人々がサーカスの団員になってます。この時代背景では日本人も、マイノリティーに含まれていると思います。

そんな団員が芸を披露すると観客は無邪気に喜ぶのです。

日常では差別をしているくせに、サーカスでは笑って楽しむのです。

団員も舞台で輝いています。


サーカスの舞台というのは「嘘」で観客が「本物のに笑顔になる」と主人公のバーナムが言い切ってます。笑顔だけは本物だと。バーナムはユダヤ人の傍観者に「あんた、最後に笑ったのはいつだ?」と尋ねます。このセリフには上流階級の人は心から笑うことがなく、自分をよく見せるために作り笑いをして策を練り、嘘のコミュニケーションを取るくだらなさに対する皮肉が込められています。その証拠にオペラ歌手は「虚しいの」と繰り返し歌っています!自分を財物や名声で着飾る虚妄に取りつかれていればそりゃ人生虚しいでしょうね。高尚な遊びに力が入るのも当然でしょう。

この映画が主張したかったのは、この辺りだと思います。

ちょうど中盤で強いストレスを観客に与えるという演出がなされます。

最後は視聴者に希望を与え、スッキリして終わりという演出でした。

感想としては、確かによい勉強になりました。この映画を観た後は、ちょっくらぼーっと情報処理してまして(笑)映画の演出の意図などを頭の中で整理して考えました。一晩すると、この映画で伝えたかったことは「夢・愛・家族・世間体を気にしないことがお金より大事である」というシンプルなメッセージであると確信しました。

単純なメッセージであるにもかかわらず、私たちはいずれの重要なキーワードを実生活で実践して実現できているかというと、ほとんどの人は実現していないと思います。

特に、世間体については、歪んだコミュニケーション、つまり嘘の会話の元凶で、笑いが途絶え、心が病む原因です。ほどほどならまだしも、一生隠し通し続けなければならない悪行なんかをすると、ずっと嘘の会話を続けなければなりません。世間体に関しては、恥じない生き方をしていれば、気にすることなどないでしょう。


批判点もないわけではありません。主人公がビジネスでの成功と家庭円満という幸せを手に入れて大満足の終わりを見せてはおりますが、主人公と準主人公のイケメン美男子は美女と結婚して幸せになっています。これはこの映画の差別は偏見に立ち向かうという姿(美徳)と相反しています。ドラマの中には醜女(しこめ)や醜男(ぶおとこ)が数多く登場しているにもかかわらず、愛する相手は美しくて身体的にも傷がなさそうな美女です。人間の本性として美男子、美少女と結婚したいという願望は、見た目に病気のある人とは結婚したくないという本能でもあり差別そのものでもあります。確かに主人公の妻、準主人公の恋人は心の美しい女性ですが・・・。それに対しオペラ歌手が心の醜い女性であることや、ユダヤ人のお爺さんが金に汚い醜い人間であると、対比として表現されています。つまるところは、主人公と準主人公にも差別心があり、そのことについては無視(スルー)しているところが汚点といえましょう。主人公もお城のような家が買えるほどの、お金を儲けるために劇団を運営しているわけですから、決して世の中の人を諭したりする目的ではありません。つまるところ、主人公の側ですら、差別と偏見という呪縛から逃れられないことが意図せずしてか、しっかり現れています。おそらくは、そこが映画の評論家の評判が悪かった、違和感を感じたポイントではないかと思います。

もうひとつの批判点として動物を奴隷としていることが挙げられます。ゾウやライオンのショーは動物好きには楽しいかもしれませんが、動物を心から愛している人や、世の中を冷静に俯瞰できる人にはそれが虐待であることがわかります。要するにバーナムがやっていることは、上流階級が「上と下という人間を作って下の人間を奴隷としている」ことと同じで「動物を、人間と動物に区別して動物を奴隷としている」のです。これは生命を尊ぶという美徳どころか、精神構造は主人公サイドが嫌悪している上流階級のそれと何ら違いがないのです。

三点目はバーナムと団員との人間関係が「家族」であるという表現には疑問が湧きました。ビジネスである以上は、団員に高い給料を払うわけにはいかず、どこまでいっても団員は奴隷的身分です。そして団員それぞれに対してはスポットライトを当てられることがまったくありませんでしたので、この映画をマイノリティーの救済と解釈するには無理があります。事実、団員への給料については触れられることはなく、オペラ歌手の報酬の高さと、バーナムとフィリップの報酬は50%ずつと言っているところに偽善を感じます。そんな団員が「私たちは家族よ」と言うには無理があるんじゃないかと思います。もし本当にそんな風に思っていたとすれば、それこそ奴隷の心理からくる主従関係を維持したいための嘘であると言わざるを得ません。もしもバーナムが団員を家族として思っているならフィリップと二人きりで報酬を山分けをするはずがありません。要するにバーナムとフィリップは上流階級と何ら変わりのない思考の持ち主だということです。

結論としては、お金持ちが醜い心で不幸であるという主張があるからといって、主人公側がヒーローであると言えないはずなのに、あたかもヒーローであるかのように描かれているところに違和感を感じるのです。

ほとんどの大衆は主人公サイドに立って観るでしょうし、お金持ちの人はお金持ちの側になって観るのかもしれません。


映画ですから主張できることには限りがあります。ひとつの善を訴えれば、当然その逆のことを否定していかないといけませんけど、主人公にも悪が潜んでいるのにケロリとしているところを見ると、内省がさほど見られません。アメリカやヨーロッパの人は日本人よりも自己肯定感が高いといいますが、裏を返せば自分にも悪があると反省をしないということです。

確かに視聴者で映画の収益を支えている「大衆の立場」にしてみれば他の立場のことは眼中にはないのかもしれません。だからこそ高い評判を得たこの映画。しかし角度を変えてみると、この映画は「労働階級のための映画」であり、決してマイノリティーの生き方に対して励ましたり解決策を提示しているわけではありません。おそらくは、社会の片隅に追いやられている人が見れば、何の希望も湧いてこないのではないかと思います。動物さんの立場であったら・・・絶望したことでしょう。労働者の自己主張や自己肯定をするために、上流階級は皆悪役というのも、平和的な見解ではありません。結局のところ、大衆迎合的な意図で作られていて、本当に差別されている人をこの映画が擁護しているかというと、そうではないと思います。病気の人が家に隠されて世の中に存在しなかったことになっているよりは、スポットライトを浴びたほうが幸せという演出はまさに「夢」を実現した人々の姿であることも、映画的事実でしょうが、モデルとなったサーカスでの団員の扱いがどうだったかというと・・・やはり奴隷的な立場、珍しい見世物というだけだったのではないかと思います。映画では愉しそうでしたけどね・・・。
この映画の「ショーのノリ」そのものは楽しいものでした。This is meがヒットするのも頷けます。日本人の価値観ではThis is meは和とは正反対のことなので、お金持ちや差別する側の人を敵とするにはちょっと無理がありますが・・・。西ヨーロッパ系統の価値観では「戦って人間らしく生きる権利を得る」という発想であるのに対し、日本的な発想では、うまく上の人に言って従者になってかわいがって、ある程度人間らしく生きられる権利を賜る・・・という感じですかね。

現実は世知辛いですね。

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